「相姦の鎖」

第九章  メビウスの淫らな鎖輪  


 一人の男が伊勢内病院に続く坂を徒歩で登っていた。江田 慎二である。今、江田にはなんの邪心もなかった。昔愛した女性、留美子の娘 恵里香とつき合うことであの時の屈辱をすでに果してしまっていた。伊勢内家を今訪れようとしているのは、自分の建築事務所の事業拡大により、東京に支社設立の準備のため何年か東京に行かなければならなくなった。  
 もしかしたらそのまま一生……。だから最後に恵里香、そして留美子に会っておこうと思っただけなのだ。

「元気な顔さえ見られたら、それでいいさ……」  

 江田はそうつぶやいて伊勢内家を目指した。  
 巨大な伊勢内病院の前にたどり着いた江田に、ある別の考えが浮かんだ。なんのことはない、愛する留美子を奪っていった男 伊勢内陽一がどういう人間か一目見たくなったのだ。さいわい江田は最近、胃炎を煩っている。それを伊勢内陽一に診てもらおうと思った。そう決意した江田は、病院の玄関へ回る。 しかし、江田の願いは叶えられなかった。病院が休診していたのだ。

「平日なのに、なぜ休診を……?」  

 江田は不審に思った。そして、なぜか突然病院のことが調べたくなった。胸に迫ってくる不思議な好奇心といいようのない圧迫感。江田は、なぜか心臓の鼓動を昴ぶらせながら脚を進めた。  
 病院はひっそりと静まり返っている。いつもなら、どんな時間にも診察客が訪れているはずなのだが、今日は誰もいない。だから江田は不審がられる心配なく病院をよく見回っていた。  
 病院の裏手、屋敷と隣り合わせの場所に江田が立った時、江田はえもいわれぬ不安感に襲われた。そして、その不安はすぐに現実のものとなった。聞き慣れた女の声が、江田の耳にかすかに飛び込んで来たのである。それは、恵里香の喘ぎ声だった。

「……!?」  

 江田は、その場所に一番近い窓に近づく。その恐ろしい予感を確かめるために……。  

 そこには、江田の想像していたものより、さらに上をゆく光景があった。愛くるしい少女 恵里香と、自分と同じくらいの中年男が全裸で躰を交えている。  
 中年男が下になり、恵里香がその男の腰の上に乗って自分から腰を振っている。かすかにしか聞こえないが、恵里香はこれ以上ないくらい大きな声で喘いでいるようだ。ショートカットの髪は、汗によって額にぴったりとくっつき、その顔は果てしない快感に酔いしれている表情だった。下の男も、力を振り絞ってはいるが、その顔もやはり恍惚としている。おそらく、この男が伊勢内陽一なのだろう。  
 実の父娘の交歓を覗き見て、江田は不思議になんの感慨も湧いてこなかった。もともと、恵里香と出会ったのもまったくの偶然であったし、恵里香との関係は純粋なセックスフレンドだったからだ。逆に、その非常識なセックスを見て江田は心で冷たく笑っていた。
(バチがあたったのさ。俺から留美子を奪ったバチがね……このまま、恵里香と陽一という男は、獣のように狂った近親相姦という泥沼から逃げ出せないだろう……)江田は冷めた気持ちで陽一と恵里香のつながりを見つめていた。  

 父の上で激しく腰を振っていた恵里香が、さらに激しく喘いで果てた。父親の胸に倒れ込んで荒い息を吐きながら、幸せそうな表情を見せる恵里香を見ながらその窓を離れた。  

 江田は、そのまま病院から屋敷に続く勝手口を開けた。今の父娘のセックスを見た後では、警戒することなど考えもしなかった。事実、勝手口から屋敷の内部に入っても周りは静かだった。江田はなにかに導かれるように、広い屋敷の中を進んでいく。  
 予想していた通りの光景だった。そこは広いリビング。その部屋で、何人もの男女が全裸で入り乱れている。そのほとんどが歳のいった美熟女と、二十歳そこそこの若い男だった。そしてその肉宴のまん中で、ひときわ高い声で喘いでいる女二人がいた。立位で唇・胸・腹・下腹部をピッタリと合わせ悶えあっている。その一人は、江田にとって忘れることのできない女性、留美子だった。もう一人のロングヘヤーはその留美子に雰囲気の似ている美少女。恵里香に聞いていた姉 由梨絵だろう。そしてよく見ると、二人の躰の下にまた男がいる。二人の性器を舌や手で愛撫していたのだ。

「和彦……ママをやってぇ!」
「ダメよママ!ママはさっき圭一郎さんとやったじゃない。今度はワ・タ・シよ……」  

 二人の美女が争うの見ながら、下の男が立ち上がってきた。男はやはり二十歳を少し過ぎたぐらいの青年だった。顔を女の愛液で濡らして、嬉しそうに由梨絵に話しかける。

「じゃあ今度は由梨絵とやるよ。かあさんはちょっと待っててね……」  

 江田はその青年が留美子の息子と知っても、もう驚かない。今はただ、自分を陥れ青春を奪った伊勢内家の転落を、こうして覗き見ているのがなにより楽しかった。  

 江田が伊勢内家を人知れず去ったあとも、留美子と子供たち、そしてあの秘密クラブの面々の交歓は続いていた。和彦は圭一郎と共に母 留美子を犯し、由梨絵はその兄のうごめく腰にピッタリとくっついてアヌスに舌を這わせている。伊勢内病院の院長室でも、陽一と恵里香が第二戦を始めたころだ。伊勢内家の全員を結んだ近親相姦という背徳の鎖は、永遠に続いていくように思えた。

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