泡の秘密 後編
< 登場人物 姉 美穂・弟 成二 >
「どうぞ、ここで服をお脱ぎになってください。裸になられましたら、向こうのバスルームにあるイスでお待ちください。すぐにマオちゃんが参りますから。あ、それから、マオちゃんが声をかけるまでお客さんは向こうを向いていてください。一応そういうことになってますので」
「はあ……」
通された部屋、そこはピンク色に統一された広いバスルームと脱衣所だった。
相変わらず緊張したままの成二は、落ち着かない様子でその部屋を見回していた。
「そんなに緊張なさることはないですよ。えーと……」
「え、あ、加藤です」
「……加藤、さまですか?」
倉田が少しけげんな顔をした。
「え、ええ……何か?」
「い、いや何でもないんです。加藤さん、相手は確かに素人さん同然ですが、一応こういう商売ですので、一通りちゃんとマオちゃんがやってくれますよ」
成二を落ち着かせようと、倉田が言う。
「はあ、ありがとうございます」
成二が答える。
「それから、基本的にお時間は決っておりません。お客さまを信頼して、常識的なお時間ならOKです。ご会計はマオちゃんの申告で後払いです」
事務的に倉田が言う。成二はそれをただただ聞いているだけだ。
「では、ごゆっくり……」
倉田は慎みを含んだ笑顔を残して部屋を出て行った。ただ一人、そのバスルームに残された成二は、しばらく何にもできないでいた。が、とりあえず立ち上がってシャツのボタンをはずし始めた。
(うわあ、本当に今ソープにいるんだ……)改めて思うと、また緊張して来る。
脱いだ服を脱衣カゴに入れて、成二は全裸の震える体をバスルームに移動させる。そこにはピンクのタイルに覆われた室内に、ちょこんとバスチェアが置いてある。
「ここに、座るのか……」
独り言で気を紛らわせながら室内を見渡していたが、そんな成二に外から呼びかける声があった。女の声だ。
「失礼しまーす」
(来た……!)成二は全身をさらに緊張させてそのバスチェアに座った。声だけを聞けばいかにもフーゾクの女っぽいが、ここはとりあえず『全員素人』という倉田の言葉を信じて、成二はドアの方に背を向けた。
「ど、どうぞ……!」
背後で、ドアを開ける音がした。そして、閉まる音と共に、スリッパの足音が続く。段々近づくその音を感じながら、成二はゴクリと唾を呑込んだ。
そして、足音は成二のすぐ後ろで止まる。
「どうも、こんばんわ。マオです」
カワイイ声と同時に、成二の首筋にその吐息がかかる。
(うわあっ……!)感動が全身を突き抜ける。女は自分のすぐ後ろに、全裸に近い格好で座っているのだ。それを意識すると、否応なしに股間のモノはグングンいきり立って来る。
「お客さん、初めてなんですってね」
「は、はい……」
「うふふ、でも心配しないで。ちゃんとわたしがお相手してあげるからね……」
「は、はあ……お願いします」
「それじゃあご対面、と行きましょうか」
背後の女の子はそう言って、成二の座っている椅子に手をかけた。
「わたしが合図したら、ゆっくりこちらを向いてくださいね……」
成二は言われるままにした。しかし、その演出があまりに気恥ずかしいので、思わず目を閉じてしまった。
「それじゃ、いいですか……いち、にーの、さんっ!」
女の声に、意を決して成二は勢いよく体を回転させた。目を閉じたままで。
しばらくの間、女の反応が読めなかった。急に黙ってしまったのだ。
(目を閉じた自分の反応を楽しんでいるのかも……)そう思った成二は、ゆっくりと目を開いていった。
そこには女の健康的な腿肢が見えた。少し視線を上に上げると、ピンクのタオルが見える。大事な部分はそれで隠しているのだ。しかしタオルに隠れていても、その中身が素晴らしいスタイルであることはすぐに分かる。純粋な好奇心にかられた成二が視線をさらにあげようとすると、今までしばらく無言だった女が声を出した。
「成……二!?」 「え?」
突然名前を呼ばれ驚いて顔を上げると、さらに驚くべき事態が待っていた。そこにあった顔は、間違いなくいつも同じ家で暮らしている姉 美穂のものだったからだ。
「ね、姉さん!」
成二は声を上げた。勢いで思わず椅子から滑り落ち、自分の股間が丸見えであることに気が付きすぐに近くのタオルを引き寄せた。
「成二……なんで、なんであんたがこんな所にいるのよ!」
美穂が叫ぶ。
「姉さんだって……ここはソープランドなんだよ!姉さん、なんでそんなとこで働いてるのさ!?」
成二もすぐに疑問をぶつけ返した。弟のその疑問に、美穂は答えられずしばらく黙っていたが、やがて観念したようにそのピンクのバスタオルに包まれた体をバスルームに座らせた。
「……バレちゃ、しかたないわね。私の仲のいい友だちが、ちょっと前ここでバイトしていたんだけど、事情があってやめなくちゃならなくなったの。その話を彼女から聞いて、バイト料も弁当屋さんよりずっとよかったし『じゃあ私が代わりにやるわよ』って言っちゃったの。最初はものすごくイヤだったけど、要領をおぼえてくると面白いし、なによりお金がたくさんもらえるもの」
姉の淡々とした語りに、成二は驚くしかなかった。家では静かで、頭のいい真面目な姉が、なんのはばかりもなく弟に風俗業従事のいきさつをしゃべっているのだ。
「……さて、私は自分のことを全部成二に話したわよ。今度は成二がしゃべる番。さあ、姉さんに話しなさい。なんであんたがソープランドにいるのか……」
妖しげな視線を弟に投げかけながら、美穂はにじり寄った。
「あ……あの」
「何?どうして?」
「……俺はただ、友だちに紹介されて『あそこに行けばイイことが出来る』って聞いたから……」
ここまで話して、成二はハッと思った。今日ここに来たのはオサムの紹介だ。そしてオサムは成二の相手として、自分の初体験相手であるこの店のミオという女の子を用意してくれた。そして、そのミオと言う女は、目の前の姉の美穂なのだ。と言うことは……。
「姉さん、オサムと……ヤッたの?」
「オサム……?あ、え、オサムって、あのお金持ちの息子さんの?」
「そうさ。今日ここに来たのも、オサムの紹介があったからさ。『俺の初体験
の相手を』って」
「……」
今度は美穂が答えに詰まる番だった。オサムは美穂の店でのお得意様だ。そして、事実オサムの筆おろしを、オサムの父に頼まれてやったのは自分だ。そのオサムがまさか弟の友だちだったとは……。
「ねえ、ヤッたの?姉さん、オサムとヤッたの!?」
成二は叫びながら、オサムに対して大いなる怒りを覚えていた。
「あーっ、分かった!」
突然美穂が叫んだのを見て、成二はうろたえた。
「な、なんだよ。俺の質問に……」
「あんた、妬いてるんでしょう?」
それはこの場の劣勢を取り繕うための、冗談のような言葉だったが、それが成二には思わぬ効果を及ぼした。
「……そうだよ」
「え……?」
「そうだよ、妬いてんのさ。俺、姉さんのこと好きだもの、ずっとずっと、姉さんのこと好きだったもの」
「……!」
「俺、姉さんが風呂に入っている時それを覗いたことがあるし、姉さんの下着盗んでオナニーしたこともあるし、それに……」
姉の言葉を引金にして、成二は胸の底に溜っていた想いをすべて吐き出していった。オサムと姉の関係を知ってからの、言いようのないムカムカとした気分が嫉妬だと気がついて、その劣情をすべて勢いに任せて言い放ってしまった。美穂はそんあ弟の様子を呆然と眺めている。
はたと、成二が言葉を止めた。そして、黙って姉の前に立ち上がる。
「オサムとヤッたんなら、俺ともしてくれるよね……」
ゆっくりと、ピンクのタオルだけを巻いた美穂に近づく。
「ちょ、ちょっと成二……」
美穂が言うが早いか、実の弟は猛然と半裸体の姉に飛びかかった。
「姉さん、姉さん!」
「やめて……やめてぇ!」
弟にのしかかられた美穂は必死に抵抗するが、あらぬ目的を持った若い男に力が及ぶはずがない。事実成二の両手はすでにピンクのタオルをはぎ取り、姉の豊かな双胸をあらわにしていた。成二は迷うことなくそのバストにしゃぶりつき、あらん限り強く吸う。
「やぁっ、痛い!」
あまりの痛みに叫ぶ姉の様子など気にもかけずに、成二は今度は手を女性の快感器官のある(であろう)あたりに伸ばした。
成二にしてみれば、その部分さえ分かればすぐに自分のペニスをそこに挿入して事を成すつもりだった。しかし女性経験の全く無い、正真正銘の童貞である成二には、手の平に陰毛の感触を感じてもその先の目的地の場所を探し出すことはできなかった。
「あれ……あれっ……?」
気ばかりがあせって、成二はますますあらぬ方へ手を動かす。そんな弟の全身から先ほどの勢いがなくなっていくのが分かった。
「ちくしょう……ちくしょう……!」
やがてあきらめたのか、成二はそう呟いてがっくりと姉の躰に倒れ込んだ。
美穂は胸のあたりに、濡れた感触があるのに気が付いた。成二は、泣いているのだ。
(成二、あなたそんなに……)自分の胸で泣く弟を見て、急にいとおしく感じられた。
「ねえ、成二……」
まだ小さな鳴咽を繰り返している弟の頭を優しく撫でながら、美穂はささやきかける。
「女の子っていうのはね……ただ躰を奪うだけじゃダメなのよ……」
姉の言葉に、成二は泣き顔をゆっくりと上げた。
「もっとやさしく、いたわるように……ね、分かる?分からないなら姉さんが教えてあげる……」
美穂は弟の泣き顔に顔を近づけて優しくキスした。
「姉さん……」
「さ、もう一度手をあそこに伸ばしてみて……」
言われるままに、成二は先ほど探り当てることのできなかったあたりに、おずおずと手を伸ばした。その手に、美穂が自分の手を添える。
「そう、そのまま……そこをゆっくり……」
姉の指に導かれて、さっき触れたヘアの、奥の奥に手の平は進んでいく。
「あ……っ」 目の前の美穂の口から、小さなため息が洩れた。成二の指が、美穂の場所にたどり着いたのだ。
「成二……そこが女の子の場所よ。さあ、指を優しく動かしてみて……」
言葉に促され、その部分の外側を少し撫でてみる。
「ああ、そう……もっと優しく、深く、ね?」
力を込めると、指はあっけなく姉の内部に滑り込んだ。姉の内部は、心地よい温かさと圧力に包まれている。これが女の人の躰か、と成二に感心させるのに充分な感触だった。
「中で、動かして……」
美穂の声は、色っぽい艶を帯びて来た。ソープでの仕事では決して味わうことのできないきめ細かな快感が、弟の指によって与えられていたのだ。
姉の反応が読み取れたのか、成二は指を少し大胆に動かし始めた。
「ふ……はああっ」
「姉さん……気持ちイイの?ねぇ、気持ちイイの……?」
「イイわ……成二の指、気持ちイイの」
美穂は荒い息づかいで弟の問いに答えた。御世辞でもなんでもない、真実の言葉だ。
「はあ……ふうんっ」
自分の指が姉の体内で動くことによって、姉は声のトーンを高くする。そしてその指は、得体の知れぬ生温かい液体に濡れ始める。その全ての現象が成二を再び興奮させていった。
しばらくの愛撫の後、美穂は弟の指をヴァギナから引き抜いた。
「……私ばっかり気持ちよかったら、成二が可愛そうだもんね」
美穂はそう言って、弟の躰を離した。
「そこに、仰向けに寝るの。そう、そんなふうに……」
姉に従った成二は、姉が今から自分にしてくれることに期待していた。この体勢で、姉の美しい顔が股間のモノに近づいて来る。今までビデオでしか見たことの無い、フェラチオだ。少し髪をかきあげて、上目づかいで弟の表情をちらりと見て、微笑を浮かべながら分身に手を沿える。
「う、うわわ……!」
美穂の熱い唇に自分自身が包まれた時、成二はこの上ない感激を覚えた。童貞であるがゆえ、今まで色々なオナニーを試行錯誤してやってきたが、その試行錯誤がバカみたいに思えるほど、このフェラチオというのが甘美だったのだ。
しかし昴まりきった少年のペニスが、何十人もの男を相手にしている美穂の舌技に耐えきれるわけもなく、美穂の数度の頭の上下ですぐにその喉奥に熱いスペルマを放出した。
「うあああ……っ!」
弟が放った大量の精液を、美穂は当り前のようにゴクゴクとおいしそうに呑み干した。お客相手でもしない行為だ。
「姉さん……俺、気持ちよかった」
至福の表情で成二が言う。
「そう?よかった……でも、これで終わる気はないんでしょ?」
美穂が、素晴らしく色っぽい視線を弟に投げかけてきた。美穂自身、先ほどの指の愛撫で、快感をじらされているのだ。こうなったら、姉も弟も『近親相姦』という禁忌を犯さねばならぬ所まで来ていた。
「ね?姉さんと、ヤりたいんでしょ……?」
姉の淫らな言葉に、成二は無言でうなづくだけだった。
「じゃあ、もう一回しゃぶってあげるね……」
美穂は弟の股間の前に近寄ると、再び先ほどのような舌での愛撫を開始した。若いペニスは、放出も早ければ復帰も早いことを美穂は知っていた。舌や唇を駆使していると、やがて成二の怒張はその期待に応えるように、しっかりと勃起してゆく。
一回目の放出前の体積に戻った事を感じると、美穂はペニスから口を離した。
「……もう準備はできたわ。いい成二、そのままでいいのよ。あとは姉さんがちゃんとしてあげるからね……」
美穂は仰向けのままの成二の上に躰を移動させ、いきり立った弟の怒張に手を添え、自分の淫裂に当てがった。
「……さあ、成二が夢にまで見た本当のセックスよ……」
美穂はそう言ってゆっくりと自分から腰を沈めていった。
「うわわっ!姉さん!」
眉をひそめて成二がうなった。姉の体内は、思っていた以上に温かで柔らかかった。それだけでなく、その熱い粘膜がまるで成二のモノを絞り上げるかのように絡みついて来る。男女の往復運動を容易にする愛液もこの上なく溢れてくる。
「うあっ、うあっ……!」
単調な喘ぎ声だが、その声にはいかに成二が初めてのセックスを堪能しているかを如実に表していた。
その弟の腰の上に乗っている姉 美穂も、客とのセックスではとても味わえない快感を経験していた。『タブーを犯している』、そのことがこの行為をこの上ないものにしているのだ。
「う、うっあ、うあっ……姉さん、姉さんっ!」
「ああっ……イイわ、成二のオチンチン、イイっ……!」
ピンクのタイルに囲まれたそのバスルームは、成二と美穂二人だけの悦楽空間となっていた。二人の激しい鳴咽は大きく響き渡り、二人の間からはいやらしい音が途切れることなく発生している。
美穂の腰の動きは最高潮に達し、それを受け入れている成二も、本能のままに腰を突き上げる。二人の交歓は、ソープランドの一室を、二人だけの愛の聖域へと変えていったのだ。
「姉さん……姉さんっ、出、出るよぉ……っ!」
やがて、感きわまったように成二がうなる。クライマックスがもう間近に迫ってきているのだ。
「まだよ成二……もう少し、姉さんのためにもう少し頑張って、ね?」
余りにも淫らに腰を振り立て、美穂は弟の絶頂に追いつこうとする。姉のその言葉に、成二は眉をしかめて耐える。
やがて、美穂にも快楽の波が押し寄せて来た。この瞬間のために今まで頑張ってくれた成二を愛おしく思いながら、美穂は最後の躍動をする。
「ああっ、成二、成二っ!イイっ……姉さんイクわ……一緒に、ねえ一緒にイッてぇーっ!」
「あああっ、姉さん……うわあっ、イクうっ!」
その瞬間、ドクドクっと美穂の体内に成二の歓喜のしるしが注ぎ込まれた。
少し遅れて美穂も、そのほとばしりを感じながら今までにない激しいオーガズムに達していた。
「さ、お客さん。キレイにしましょうね」
美穂が明るい声で言う。
「じゃ、ちゃんと洗ってくれよ」
成二がふざけて言う。二人は感動的なつながりを経験したあとのバスルームでじゃれあっていた。美穂はいつも客にするように全身での泡マッサージを弟に施していた。
「どうですか?気持ちイイですか?」
「ああっ、イイよ」
背中に当たる姉の乳房の感触に成二は感動していた。二人はそんなやりとりをお互い楽しんでいた。
「……ねえ、姉さん」
「ん?何?」
「このバイト、これからも続けるの?」
振り返った成二が、真剣な表情で聞く。
「んー、どうしようかな……成二はやめて欲しいの?」
「いや、別にそういうわけじゃないけど、ただ……」
「ただ?」
「オサムとだけは……もうやってほしくないんだ。もうあいつに姉さんの躰を触れさせたくないんだ」
弟の表情は真剣そのものだった。そんな弟を、美穂は再び愛おしく思えた。
「……いいわ、約束する。オサムくんとは、もう絶対セックスしない」
「本当!?」
「ええ、ほんとよ。でもそのかわり……」
そう言って美穂は後ろから成二の股間に手を伸ばし、しっかりと勃起しているペニスを撫でさすった。
「今夜から、成二がその分の相手をしてくれなくちゃ、ね?」
姉の淫らなささやきは、成二を歓喜させた。その姉の美しい顔にキスをすると、二人は泡まみれの躰を再びピンクのタイルに倒して、いつ果てるとも知れない快楽の淵に堕ちていった。
『泡の秘密』 完