<第3話>

 こんな状態でなければ、優しい午後の日差しに浮かぶ緑豊かな風景。休日に夫が丁寧に手入れする芝生、二人で選んで据えたタイル、家を建てた時に大工さんから木材をもらい一緒に作った門。それが普遍的に幸せを感じさせるものであればあるほど、今の自分の姿が惨めだ。

 使い捨てカメラを買いに行ったのならば、歩いて3分ほどのところにコンビニがある。しかし、あの男が真っ当にそれを行うとは思えない。傷ついたと嘘をつき押し倒し、縛った姿を見るだけだと嘘をつき躰に触れ、指を中に、指を中に、指を、中に……。

 怒りから発していたはずの肉体の熱。向ける相手がいなくなっても、残る熱。

「……っ!」

 原付バイクが、前の道を通った。ここの近所を担当している、常備薬販売会社の営業。毎日のように顔を合わせる人。こちらを見ることはなかったが、こちらを見ていたかもしれない人。こちらを訪れていたかもしれない、人。

 これからどれほどの時間、この底知れぬ恐怖と添わなければならないのだろう。主婦ならば、この時間にどれほどの人間が家を訪ねて来るのかを、嫌になるほど知っている。そんな空間に、自分は縄で縛られた恥ずべき姿を晒しているのだ。

 空を飛ぶ鳥が、無邪気にさえずる。

 遠くで、子供の声が聞こえる。

 感じたくない感覚に、気づいてしまった。

 うそ……こんな時に……嫌っ、そんな……っ。

 ずっと熱いままのあの場所に、縄の感触とは違うものが。普段ならものの1分もかからずに済んでしまうことが。

不自由な四肢に、力を込めるしか方法がない。しかし静かにやってきたこの感覚は、耐えようとすればするほど、鈍く下腹部に襲いかかる。腹部やその場所を、縄で圧迫されているのだからなおさらだ。

先ほど最悪と思い込んでいた事態は、さらに悪化した。裸に剥かれ、縄で縛られ、外部に晒され、尿意を覚えてしまった。

「たす、けて……」

 誰に向けられたのか、莉都子は小さな呻きを上げ、瞳を閉じた。何も考えたくない。何か考えれば、最悪の事態を想像して恐怖を倍化させるだけだ。

 躰をよじらせて、莉都子は生理現象に抗う。そして、ここから抜け出すことを望む。そのためにはどんなリスクがあるのかなど、もはや考えることすら出来なかった。

「……なにもぞもぞやってんだ?」

 苦悩の表情で見た先には、男の影。今日嫌になるほど見続けさせられた、男の影。

 天の声、いやそれは、悪魔の?

「はっはあ!」

 やはり、それは。

「あんた、ションベン我慢してるんだ」

 明らかに嘲りを含んだ声で、晃司は義姉を笑った。

「……っ」

 その物言いに今までにない羞恥と怒りを覚えたが、それでも脚と脚を擦り合わさなければ耐えることができない、尿意。

「まいったなぁ。その格好じゃできねえしな……」

 言葉は、笑い顔のままで。

「……ほどいて、お願い」

「嫌だね」

「ああっ……!」

 冷たく言い放つ男。また莉都子は、脚と脚の運動を再開した。しかし、そうするほど股に回された細い縄は、ジリジリと食い込み下腹部を圧迫する。当然、中心にある肉の裂け目にも食い込んでくる。その部分から感じられるのは激しすぎる尿意と、それとは別のもの。

「晃司さん……お願い……っ」

 脱ぐ脱がないなどと言い合った時とはまるで違う、潤み切った哀願の瞳。それはそうだ。この状況で洩らしてしまえば、莉都子は全裸を晒すことの何倍の恥辱を味わうだろう。

 しかし、その瞳の濡れは、それだけの理由ではなかったかも知れない。

「……仕方がねえな」

 手にレンズつきフィルムを持った晃司は、空いた手でまた莉都子の手首の縄を掴んだ。そのまま乱暴に引きずっていった先は、バスルームに続く脱衣所。今朝晃司が莉都子に劣情を抱いた、脱衣所。

「トイレじゃ無理だからな、風呂場でしな」

 バスルームの扉を開けた義弟が、淡々と告げる。

「そ、そんな……縄を……」

「縄はほどかねえ。写真撮るまで、絶対にな」

「だって、このままじゃ……縄に……あの……」

「縄にションベンがかかる、か?いまさらそんな小せえことで文句いうなよ。せっかくの風呂場だ、後でシャワーで洗えばいいだろ」

 平然といい放つ晃司。我慢の限界。縄姿を写真に撮るだけで終わるつもりなど、全くない。義姉の尿意を悟った時、晃司はそこに進むための恐ろしい手段を思い描いていた。

 この女は、もう少しで必ず堕ちる。あれほど嘲った淫裂の潤いは、恐れから来るものでは絶対ないのだから。

「……安心しな。俺は居間にいるから、終わったら呼んでくれ」

 そう言って晃司は、莉都子の躰をバスルームに押し込んだ。そして、扉を閉めぬまま脱衣所から出て行く。リビングのドアが閉まる音だけ、莉都子に届いた。

 唇から、湿った吐息が洩れる。莉都子もまた、限界に来ていたのだ。バスタブにもたれながら、緊縛された躰をゆっくりと座らせていく。手首の縄が、軋んでつらい。

「……っ」

 自分の姿がバスルームの壁にかけてある鏡に映った。そこにあったのは、歪められた全身を両脚で必死にふんばり、ひどい戒めに耐える女の姿。幼い女の子が我慢できずに道端で放尿する時のような、無様な格好。

そして、なにより莉都子を戸惑わせたのは、あの場所に回されている、縄だった。尿意に耐えつつ躰をよじらせ、いま縄は完全に肉の裂け目に食い込んでいた。その、淫らでたまらない場所に食い込んだ縄の色は、ライトグリーンではなくなっていた。どこからか溢れ出した湿り気によって、縄は濡れていたのだ。

 わたし……あそこが……あんなに濡れてる……。

 信じられない、信じたくない現実。そこがそうなった理由を必死にこじつけようとしても、思いつくのは自分にとって不利な事ばかり。

 その淫靡で卑猥な光景に、莉都子は見蕩れてしまった。意識したことのない、自分の肉体の奥底に蠢く色の炎。

 必死に、それを振り払った。眠る淫欲を鎮めた代わりに、また生理的羞恥が目を覚ます。

 本当の、限界だった。

「あ、あ……っ」

 目を閉じ、筋肉の緊張を緩めた。白いユニットバスの床を琥珀色に染めながら、温い水流が溢れ出す。

 早く終わって欲しいことほど、長くゆるく続く。耐えに耐えていた末の放尿は、惨めな音を立てて、長くゆるく続く。普段当たり前に行っている行為が、この世でもっとも恥ずかしい行為のように思えた。

 そして、それは、現実に。

 扉を開ける音が聞こえても、莉都子は放尿を止める事ができなかった。廊下を駆ける音が聞こえても、男の姿を視界に捉えても。

「いやあ……っ!」

 女の粘つく叫びと共に、奇妙な光景がそこに出現した。排泄を止められない縛られた女、レンズつきフィルムのシャッターを連続して切りながら冷たい笑みを浮かべる、全裸の、男……。

ジージージー、カシャ。ジージージー、カシャ。

 人として公にしてはいけない姿を、あろうことかフィルムに記憶されている。全裸、緊縛、放尿。羞恥という常識は、今この瞬間に莉都子の肉体から引き剥がされた。

「あ、あ、あ……っ」

 未練がましい最後の雫さえ、晃司は写真に残そうとしていた。あらかた恥をかき終えた兄嫁は、荒い吐息を吐きながらぐったりと首をうなだれさせている。

 予想したとおり、いや予想した以上に、股に差し込まれた縄は小水によって濡れ汚れてしまっている。震えが来るような、淫靡な姿。24枚撮りのフィルムは、女の羞恥だけをまたたくまに記録して、終わった。晃治はそれをゆっくりと洗濯機の上に置き、バスルームの扉を閉める。

「……もう」

「ん?」

「……もう、出てって」

 約束は果たされたはずだ。莉都子は、これまでのように強く主張しなければならなかった。だが、莉都子は、もう。

「……風呂場が汚れちまっただろ?このままにしておけねえよ」

 晃司の気配が、バスルームへと侵入して来た。莉都子は義弟のほうを見てはいない。見れば、義弟の全裸の肉体が視界に飛び込んでくるだろう。

「だから、あんたも含めて、俺が洗ってやるよ」

 女の返事も聞かず、男はシャワーのコックをひねった。すぐに熱い湯が出たのだから、晃司は事前にリビングで準備していたのだろう。その時にはすでに、服を脱いで裸になっていたのだろうか。

「ほうら、気持ちいいだろう……あんたのションベンもきれいに流さなきゃな」

 まるで動かなくなった義姉の背後に立ち、シャワーヘッドを女の裸に向ける。結われている黒髪に、水流がかかる。

「これ、ほどいちまおうぜ」

「あ……っ」

 髪を束ねていた髪留めを、晃司はむしった。分かれた髪一本一本が湯に濡れる。後ろ姿から湧き上がる色香が倍加したのを、晃司は新たな興奮の中で感じた。

 それが、スイッチだった。

「……義姉さん」

 シャワーを握ったまま、座る。きめ細かな肌まで、10数センチ。

「ここが一番、汚れてるだろ。俺が洗ってやるぜ……」

 そこは、晃司が目的としている場所。

「……い、やっ!」

 シャワーの強い水流と共に、その場所に指が触れた。

「晃司、さん……やめ……ああっ!」

 後半身には、男の体が密着している。ちょうど腰と尻のあたりに、男のこわばりが押し付けられているのだ。淫裂をまさぐる指と、その熱く固い怒張は、どちらが莉都子の心を強く掻き乱しているのだろう?

「やあ……っあ、ああっ」

 股に食い込んだ縄を無理矢理すり抜け、晃司の中指は先程よりさら奥へと、女の穴に侵入していく。縄のせいで角度がきつく、それゆえに莉都子の粘膜はあらぬ熱を帯び始める。

「もっと、よく洗わないとな……ヘヘッ」

 男の囁きに同調して、尻肉に当たる肉柱の圧力・硬度が増す。目を閉じれば、その幹に浮かび上がる血管の1本1本さえ想像できてしまう。莉都子の鼓動は早鐘打つ。

「あっ、や、め……は、はううっ!」

 中指以外の指は、そこにある毛を毟らんかのごとく周囲の肉を荒々しくまさぐる。縄の下に息づいていた肉突起に指先が時折触れ、その度に暗い脳裏の中で小さな火花が爆ぜる。義弟に秘芯を弄くられ恥を感じる瞬間よりも、火花から生み出される鈍くそして鋭い感覚のほうが、肉体を支配し始めていた。

それはあの場所から発生し、あの場所に還元される。その還元であるぬるい愛液は、男の指の動きをさらに容易にさせていた。

「……ヘヘッ」

 自分の分身に力がこもり、女の唇から抗いの声は消えていく。自分の指は無論女の場所を洗うつもりはなく、もはや次の行為のための潤いを得るためだけの動きとなっている。女の吐息は荒くなり続け、待ち望む瞬間が近い事を知らせていた。

「ああ……っ、あ、ふんっ、ううんっ!」

 シャワーヘッドは床に置かれ、水流は絶えず蜜園を圧している。ヘッドから離れた右手はそのまま熱くぬめる秘裂を弄り、左手は縄によって美しく歪められた乳房を弄り始めていた。莉都子の洩れる声はその義弟の愛撫によって高くなっていたが、その愛撫自体に抗う事はできなくなっていた。

「……いい感じだぜ、義姉さん」

「あふ、うんっ……ん、ふっ……」

 ただでさえ肉感豊かな乳房は、縄によってさらにいびつな張りをたたえていた。鷲掴むようにその肉を揉み込み、縄の間で息づいている乳首をくにくにと捩じれば、女は緊縛され不自由なはずの首を反らせ喘ぐ。悶える。

「んふ……っ、んあ、ああんっ!」

 天井に向けられた美貌。その潤んだ半開きの瞳は、もはやなにも捉えてはいない。卑劣な男に肉体を緊縛され、乳房や淫裂を激しく愛撫され、莉都子の躰はもはや仕方なく晒されているものではなくなった。肉体の中心を潤ませて、男の逞しいモノを受け入れるため本能的に変化しているのだ。

「……」

 突然晃司の両手が、あれだけ念入りに這っていた女の躰から離れる。乳房からも、秘部からも。

「……んっ」

 洩れた声。背後に押し付けられていた怒張さえも、男が立ち上がる気配と共に消えた。洩れた声は、それら全てに向けられた、吐息。

 まだ乳房にも尻肉にも、無論ヴァギナにも男の感触が生々しく残る。先程までなにも捉えていなかった瞳は、男の姿を追う事で、新たな色が灯る。

「は、あ……っ」

 それは、なにかを願う色。

縄をほどいてもらう事、服を着せてもらう事、この空間から開放される事。もはやこれらを願っているのではない。女は、男に征服される事を、願っているのだ。

夫と躰をつなげられない空虚。そもそもその空虚を招いたはずの男に、満たして欲しいと願っている。男に、満たされたいと……。

「……っ」

 男が、目の前に立つ。潤んだ視界に侵入して来たものは、逞しいペニス。血管を浮き立たせ、鼓動に合わせヒクつき、エラを大きく広げ、目の前に太く長く固く存在するペニス。莉都子にはもう、それしか見えなかった。

「舐めろよ……」

 晃司は、それしか言わなかった。そして、そういわれてもなお莉都子は、その男のいななくモノにのみ視線を注ぎつづけている。

「……なあ、舐めたいんだろ?」

 まだ心に折り合いをつけられないでいる。肯くこともしない。ただ、鼓動は際限まで激しくなり、喉はいくつ唾を呑んでもカラカラに乾く。

「……っ」

 ぺろっ。

「お……っ」

 それは唐突に。莉都子の舌先が晃司の固い先端に触れ、チロチロとねぶった。続いて、唇がその先端に、まるで愛しい動物にキスするように、優しく何度も口づける。

「……その気になったんだな。いいぜ」

 義弟の声にも、莉都子はまだ答えない。しかし、熱く始まった固いものと柔らかいものの接吻は、互いに影響を及ぼしながら続いていく。

「ん、んっ、んちゅ……っ」

 舌先は、肉柱の先端に開いているわずかな口に念入りに差し込まれ、そこからにじみ出る粘つく透明液をすすっている。それは本当にわずかだったが、口淫という猥褻な行為を忘れかけていた女にとっては、明らかに男の匂いのするその体液は最上の味わいだった。

「……もっと深く、咥えろよ」

 胸をいびつに見せている縄を掴み引き寄せて、男は女の上半身をさらに自分の兇器に接近させた。舌先と先端の淫らであどけない交錯は終わりを告げ、口内粘膜と鋼のようなペニス全体との往復愛撫が始まる。呼吸は苦しくなり、全ての運動は困難になったが、それでも女はさっきまであれほど口にしていた抗いや拒みの言葉をひとつも吐き出さなかった。

 舌もすぐに、まとわりつくように動き出す。

「んっ……んふう、ん、ふ……っ」

 荒々しい呼吸が、唇の端から洩れ出る。それは、濡れている吐息。熱心に、無我夢中に首を振りたてているからこそ、洩れる吐息。

「最高だぜ……ほら、もっとしゃぶってくれよ、おお……っ」

「んふっ……んちゅ、んむ……ふっ、んっ」

 心に澱んでいたさまざまなものが、進んで乱れる事で掻き消えていく。そんな中で脳裏に浮かぶひとつの光景。

 明るい陽の差し込む風呂場の脱衣所のような場所。そこに、縄に彩られた美しい女性がいる。

その明るい光の中、女性は歪んだ体勢を取らされている。背後で括られた両手。無残にまろび出、縄をかけられ醜く歪む乳房。痕がつくほどきつく結われた縄に拘束される美尻。空しく折りたたまれた両脚。

 四肢を縛られたその女が縋りついているのはただ一つ、目の前に立つ男の股間に嘶く、長大なペニス。女は唇で、そのペニスに縋っている。顔をしかめながら、必死に。

 ほんの少し前、晃司に見せられたいやらしい雑誌写真。そこに映っていた女と、自らの姿が交錯しやがて、同調した。

 ああっ……あの人も、こんな気持ちだった……?縛られて、無理強いされて、でも……こんなに、淫らな気持ち……あ、あ……っ、ほ、しい……。

 なにかを求めた女の肉体は、その猥褻な決意に伴って全身、いやもはや細胞の一つ一つに至るまで、暗く色づき始めた。変化は当たり前のように、逞しい男をしゃぶる粘膜にも肌の色にさえ及ぶ。

 男は、それに気づく。

「おい……」

 ぐいっ、といやらしく動く続けていた女の頭を男は手で押した。よほど強烈な吸引だったのか、この状況であまりに場違いな、ぽんっという甲高い音を立てて唇とペニスは離れた。

「ああ……んっ」

 莉都子の舌先は、遠くに離れた肉幹を追うように、伸ばされて虚空を彷徨う。限りなく淫靡な動き。

 そんな女を興奮した視線で刺しながら、晃司はゆっくりとバスルームの扉を開けた。シャワーの熱がこもっていた内部に、外気がひんやりと冷たい。しかし二人の男女が帯びているあらぬ熱を冷ますには弱すぎた。

「……這えよ、入れてやる」

「あ、あ……っ」

 言葉の響きに、莉都子の全身は痺れた。今まで過ごしてきた普通の人生の中で、頭と躰が最も乖離した刹那。しかし、それは、ほんのわずかな逡巡。

「……っ」

「くうっ……!」

 背中の縄を掴んで、義弟は義姉の躰をうつぶせに押し倒した。上半身は強く洗面所の床に当たったが、怒りも痛みも感じなかったのは、女が、少なくとも女の肉体が、そうされる事を望んでいたから。

「ケツ、上げな……」

 バスルームに残された下半身。その肌に男の声が振動となって襲いかかる。

縄のかかった下半身を、晃司はずっと眺めつづけた。その時間が長ければ、晃司はまた強引に女の尻を引き起こしたに違いない。だが。

「ん……っ」

 目の前の光景は、晃司にとって理想的な変化をした。薄桃色に色づいた莉都子のヒップは、背後に立つ夫の弟に向けられゆっくりと差し上げられ始める。全身を緊縛され、両足首さえもきつく縛られている苦しい体勢で、莉都子は猛る兇器に対して自分の尻を、さらには隠すべきすぼまりや濡れそぼった性器を、わずかにライトグリーンの細縄で隠したまま露わに差し上げる。

 莉都子は、晃司に貫かれたい、と。

「……ヘヘッ」

 今日何度も莉都子の心を掻き乱してきた晃司の冷笑。しかし今の莉都子には、それが男の合図だと感じられた。

 ぐいっ、と男の手のひらが莉都子の尻たぶを強い力で掴んだ。それだけで皮膚下の敏感な神経は全身を昂ぶらせて、脳と下半身の中心を甘く揺らめかせる。

 晃司のもう一方の手が、股の間に締められている縄を引っ張る。真っ直ぐ後ろに引いた縄はさらに熱い亀裂に食い込んだ。

「あうっ……!」

 莉都子の低い叫びをよそに、晃司はその縄を強い力で横にずらす。ついに男の眼前に、収まるべきモノを待っている熟れきった淫裂が現れた。

 男は、もう迷わない。

「入れるぜ、義姉さん」

「……っ!」

 喘ぐ瞬間さえ、与えられなかった。女の本能が待ち望んでいた、モノ。それが自分に接触し、深く、深く、深く。

「おお……っ」

 晃司も、思わず唸った。入り口はまるで、男の幹を食い潰してしまうかのように強い力で締めてきた。しかし、その先で蠢く爛れた肉洞は、しっとりと柔々とペニスを包み込む。どんな女よりも、その内部は心地よかった。

 だが。

「いくぜ」

「ひ、いい……っ!」

 ゆっくりと進んでいた先端は、両手が尻を強烈に引きつけた事によって一気に膣奥までたどり着く。女は、その瞬間、絶頂した。

「はあっ、あう、はう……っ」

 莉都子の唇から洩れるのが、ゆるい吐息から激しい喘ぎに変わる。全身に駆け巡ったエクスタシーの電流を、莉都子の理性は抑えられないでいる。

「ああ、いいぜ……あんたの中最高だ」

「あ、は……」

 躰の中に埋まった逞しく熱い肉棒。もうただそれだけで、渇望の中にいた女の粘膜は歓喜の体液をしっとりと浴びせる。

「ヘヘッ、嬉しそうに食い締めてくるぜ……じゃあお望みどおり、突いてやる」

 晃司は、宣言した。そのまま尻肉をぐいと掴み、激しい連続躍動を開始する。

「あ、ひ、いい……っ!」

 洗面所の床、低いところから上げられる莉都子の叫び、それは家中に響き渡るほど高く大きなものだった。そのトーンはぐいぐいと男に突かれる事でますますエスカレートしていく。

「ひいっ、は、ああんっ!」

 激しく押し寄せる波によって何も捉えられなくなった視覚。今は視覚に捉えられないものが敏感に感じられる。溢れる愛液、したたる感触、熱い体温、生々しい体臭、荒い声、うねる粘膜……淫らな感覚は脳を蕩かせ、莉都子をさらに乱れさせていく。

「どうだ……なあ、気持ちいいんだろ」

「あ、あ、あ……い、い……っ」

「もっとはっきり言えよ……なあ、俺のが気持ちいいんだよな?」

「い、いい……っ、いい、のぉ……くふ、ううんっ!」

「そうか、ヘヘッ……じゃあ、もうちょっと頑張ってやらなきゃな」

「い、ひいっ!それ……こ、晃司さんっ……それ、いひぃっ!」

 女の豊かなヒップを自由に動かし、自分自身の角度を変え激しく突き上げる。女には、たまらない。

「なあ、義姉さん……いいだろ、兄貴よりイイんだろ?」

 それは、男の核心。ペニスの攻撃は止まらぬまま。

「あう……っ、うんっ、そ、それは……あ、ひ、いいっ!」

 額に汗を浮かび上がらせた莉都子は、口篭もる。

「いまさらなんだよ……じゃあ、やめちまうか」

 あんなに激しく動いていた腰が、ぴたっと停止する。凪。夫との愛に応える、最後の機会。だが、莉都子は。

「ああ、嫌……止めちゃ、いや……ああっ……突いて、いてぇ」

「じゃあ、言えよ。俺のほうが兄貴よりイイんだろ?」

「そ、それは……」

「なあ、あんたはこんなふうに、縛られてよがってんのが好きなんだよ。兄貴じゃ、そんなことはしてくれねえぜ」

「あ、くうっ!」

 首の後ろの縄の結び目を強く、まるで馬の手綱を引くようにした晃司。莉都子は首、背中を醜く反らせ、顔を苦痛に歪ませる。だが。

「……そんなに嫌なら、このままやめちまおうか……すぐに抜いてやる」

「ああ……っ!」

 声と同時に、女の入り口が強く締まりそれを防ぐ。

「なんだ、やっぱ欲しいのかよ……じゃあ、正直に言えよ。あんたは、今何が欲しいんだ……?」

「……っ」

 こうしている間にも、内部の粘膜は男の精を悦びに変えようと蠢く。そして、もはやそれだけでは治まらない事も、莉都子の、女の本能は知っている。

「し、て……っ」

 そこで一度吐息。そして。

「……あ、あの人より逞しいモノで……っ、わたしを……もっと……ふ、かく、強く……突い、て……っ」

 言葉より如実に、莉都子の尻が円を描くようにくねる。

「……上出来だよ」

「あ、ひいいいっ!」

 縄目を持ったまま、女の躰を歪ませたまま、晃司は義姉のヴァギナを突き上げた。焦らされ、辱められ、また莉都子は絶頂に。

「いひいっ!晃司さん、イイ……っ、もっと、ああっ、すご、いい……っ!」

「もっとよがれよ、腰振れよ……おら、おらっ!」

「ひい……っ!ダ、メぇ……莉都子、狂うっ……狂っちゃう……あひいっ!」

 苦しい体勢のはずなのに、莉都子は淫らに躰を振るう。腰は前後に激しく動き、尻は際限なく淫らにくねる。縄をかけられていても重力と運動によって揺れ動く乳。その動きさえ、今の莉都子には悦びとなる。

「あふ、うんっ!もっと、もっとぉ……ひいっ、そうっ、あ、ひ、ああんっ!」

「もっと狂えよ、義姉さん……おお、もっといじめてやるぜ」

 女を穿つ獣と、男を咥えこむ獣。叫びは交差し同調し、あらん限りの淫音となって狭い空間に反響する。

「ああっ、また、イクわ……いいっ、いひっ!晃司、さん……っ、お願い、激しくっ、あっ、莉都子、イクわ……っ」

「イケよ義姉さん……俺も、おおっ、イクぜっ……おら、おら、おらぁっ!」

 その場所からは、ぐじゅぐじゅという音が絶え間なく。抜け、埋まり。突き、引き。くねり、くねる。女の内部から溢れた蜜は、二人の絶頂が近い事を知らせていた。

「だ、ダメっ……もうっ、イク……晃司さんっ、もっとぉ……いいっ、あっ、狂、う……っ!」

「おお……っ、ああっ、俺も、イク……っ!」

 肉洞は、ペニスを締め上げ蕩かせる。肉柱は、ヴァギナをこさぎ上げ蕩かせる。莉都子と晃司、義姉と義弟、男と女が、同じ場所にたどり着く、瞬間。

「い、イク……あひっ、晃司、さんっ……イク、イクっ、イクう……っ!」

「イクぜ……、お、おおお……っ!」

 噴射。締め上げられた上で、当然のように、大量に。

 どくっ、どくっ、どくっ、どくっ。

 永遠に続くような、噴出。

 それでも女の粘膜は、更なる精の噴出を求め、蠢く、締める。

「あ、あ……ふうん……」

「はあ、はあっ……」

 しばらく体を突っ張らせて余韻に浸っていた二人。やがて、同時に床に力なく倒れ込む。荒い息の、男と女。

 晃司が、唇で首筋を撫でた。合図。

「あ……っ」

 眉を歪ませた汗だらけの美貌を、莉都子は背後の男に向けた。

「んふ……っ」

「んん……っ」

 それは、口づけ。

 激しく淫らに愛し合った者同士の、舌を絡ませた、口づけ。

 

 

 なんか、あいつの様子がおかしかったな。

 珍しく夕食も食べずに、早くからずっと寝ていたし。

 なにもないとは思うけど、ちょっと不思議でさ。

莉都子、気をつけてくれよ。

あいつは、まだ寝てるのか……。

 じゃあ、俺は行ってくるから。

 ガチャ。

 

 玄関ドアが開く音でやっと、莉都子は我に帰る。

「ええ……行ってらっしゃい」

 声をかけたと同時に、ドアは閉まる。そして、少し離れた場所で、ドアが開く音。

「ごくろうなこった……」

 誰かが、そう呟きながらこちらに近づいて来る。莉都子は、息をひとつ、呑む。

「……っ!」

 背後から強く抱きしめられ、首を捻じ曲げられ、強引に唇を奪われる。

「ん……んふっ……あ、ん」

 男の舌が、遠慮なく侵入して来た。女はそれに、絡めることで応える。舌の根が痺れるほど、強く熱心に。鼓動が早鐘を打つ。躰中が熱くなる。

「……義姉さんよ」

 唇を離した男が、女の耳元で囁く。女の唇は、濡れたまま。

「……ここにも、キスしてくれよ」

 縛める力が抜け、そのかわりにすぐ下でベルトが外れる音と布擦れの音が聞こえた。

「あ……」

 小さな吐息を吐き、莉都子はゆっくりと跪いた。そこには、逞しく勃立したモノ。

 今度は始めから、そのペニスを口奥に深々と呑みこんでいく。それを心ゆくまで、味わいたいかのように。

「うんっ……うふ、んん……っ」

 鼻から抜ける荒い息と、唇から洩れるじゅぷじゅぷした粘る音。

 少し開いた瞳に映ったのは、ライトグリーンの、洗濯ひも。昨日、自分にきつく縛られていた、縄。

「……また、縛るの……?」

 怒張から少し唇を離し、莉都子は男の顔を見上げた。唇と先端の間に、先洩れ液が未練げに糸引いている。

「俺はどっちでもいいぜ……あんたの好きなようにするさ」

 男の、義弟の、夫の弟の言葉。潤んだ瞳の奥に、猥褻な炎が灯る。

「……縛って」

 そう小さく囁いて、莉都子は再び義弟の逞しいペニスをしゃぶり始めた。

 まだ家のすぐ外で、夫の車のエンジン音が聞こえる時。

 1日の始まり。

 長く、淫らな日の。

「トナリニイルオトコ」 完

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