Pillage

「ね、裕未ちゃんちょっといい?」

 最近当たり前になった、一人だけの下校。うつむき加減にとぼとぼと歩いていた裕未に、かけられる声。

「あ……康介くん」
「よっ。今問題ない? ちょっとさ、あいつの事で相談があるんだけど」

 あいつ。裕未にはそれがすぐに誰だか分かる。ほんの少し前まで、この時間一緒に楽しく下校していた、彼。

「あいつ、入院してるんだって? 俺、全然知らなかったから」
「……うん」

 もう1週間前になるだろうか? 彼との、3度目のデート。それまで普通に近場の街でショッピングするだけだったのに、その日は前から裕未が見たがってた恋愛映画に付き合ってくれた。照れ臭そうに、顔を赤らめながらスクリーンを見ていた彼の横顔を、裕未は今でも鮮明に思い出せる。

 なのに、もう少し想いをちゃんと伝えようとした喫茶店で、彼は倒れた。いつもグラウンドで見せていた健康的な横顔が、真っ青になっていた。




「裕未ちゃんは、見舞いに行ったの?」

 帰宅途上。康介の問いかけに、裕未は無言で首を振る。怖かった。救急車で運ばれる彼を見送る時、その姿を見ただけでショック状態になった裕未は、ベッドで臥せっている彼を見たくなかったのだ。

「そうなんだ……俺も早く見舞いに行きたいんだけど、事情知らないし」

 彼の親友が見せる、悲しそうな表情。裕未が感じている喪失感を、この男も感じているのだろうか?

「あいつの家に電話したんだけど、なんだか病院の名前聞くのも怖くってさ……相談なんだけど、一緒に見舞いに行ってくれない?」
「え……? 」

「で、その事でもっとちゃんと詰めたいんだけど、俺今から塾なんだ。だから今日の夜、裕未ちゃんの家に行っていいかな?」
「そんな」

 裕未は少し躊躇した。裕未の両親は繁華街でレストランを経営していて、帰宅が遅い。

「……ダメ、かぁ。いや、いいよ。あいつの事だから早く相談しとかなきゃと思って、裕未ちゃんに無理言った俺が悪かった。じゃあ……」

 力なさそうに手を振りながら、康介は裕未から離れる。その姿が、裕未の喪失感と同調した。

「あの……」
「え? 」
「いいよ、康介くん。今日の夜、お見舞いの話、しよ?」




「ふう……」

 午後8時過ぎ。両親のいない一人だけのリビング。普段なら戸締りをして入浴をしている頃だが、今日は訪問者があるので、こうして待っている。

『……相談なんだけど、一緒に見舞いに行ってくれない?』

 今になって、はじめは戸惑った康介の提案も、裕未はありがたいと思うようになっていた。自分一人なら、彼の状態を見るのが怖くて、ずっと見舞いに行かなかったかもしれない。彼の親友である康介は、普段から明るいキャラクターで、周囲を笑わせている。康介と一緒なら、病室での彼の顔を落ち着いて見られるかもしれない、と。

「……」

 テレビもつけずに、彼の親友の来訪を待つ。リビングに響くのは、時計の音。
 それに続くのは、ため息。ふと思い出された、寒い夜の事。

「は、あ……」

 同じような時間にこの家を訪れ、裕未の部屋で交わした、二人だけの夜。




『こうしてると、あったかいね』

『……うん』
『何でだろ? せっかく家に来てくれた時に、エアコン調子悪くなっちゃうなんて』
『ちゃんと勉強しない裕未ちゃんが悪いのかな』
『あははっ、そうかも……っておい!』
『痛い痛いっ!』

 枕で何度も相手の頭をバタバタと叩いて、ふと止まる動き。

 冬休み。優等生ながら数学だけが苦手な裕未が、数学のみが得意な同級生に助っ人を頼んだ。もちろん、それは一番の理由ではなくて。一緒にずっとクラス委員をしていて、素直に「いいな」と感じていた。もしかしたら、入学した時から気になっていたのかもしれない、彼。
 そんな彼と、近くにいたかった。まだ付き合ってさえいないけれど、裕未は限りなく近くにいたいと思った。

『……寒い、ね』

 無言の痛さを和らげるように、彼がまた話し始める。裕未にとって、ありがたいような、そうでないような感じの。

『うん』
『ちょっと、聞きたいんだけど』
『な、に?』
『えっと……俺としては、可愛い同級生と一緒に毛布で包まって座ってる状況はそこはかとなく嬉しいんだけれど』
『あ、うん』
『もうあらかた数学も終わった事だし、できればもうちょっとあったかい所に行きたいなー、とか思わない? リビングとか、話すなら近くのファミレスとか……』

 極めて冷静にしゃべっているようで、彼も言葉を出すたびに顔を紅潮させてゆく。いたたまれないのだ。女の子とこんなに近くにいる事が。
 でも、裕未は違った。もう、離れたくなかった。

『……行きたく、ない』
『え……』
『このまま、こうしてたい』
『あ、えっと……』
『一緒に、ずっといたい。今日だけじゃなくて、明日も、あさっても、ずっとこれからも』

 裕未の眼差しに、彼は怯む。

『好きだった、から。ずっと好きだったから。これからも、好きでいたいから』

 そして。すぐ目の前の顔に。
 キス。
 裕未からした口づけだったが、それは二人の間で、やがて自然に。お互いに生まれて初めてのキスだったが、互いの気持ちが触れ合ったこそ、そのキスはますます自然に、長く。

『……裕未、ちゃん』
『……っ』

 その後、何か言葉を交わしたのか交わさなかったのか、裕未はよく覚えていない。気がつけばベッドの上にいて、気がつけばまたキスをして、気がつけば毛布やふとんをいっぱい被って、気がつけば裸になって、した。

『あ、く……っ』
『ん、んっ、あっ……』

 準備も何もない、あっと言う間の出来事。当然、最後彼は裕未の中で果てた。でも、嬉しかった。自然に体が離れるまで、裕未と彼はずっとベッドの中で抱き合い続けていた。




 ピンポーン。


 甘い感傷は、電子音で遮られる。リビングのソファーで我に返った裕未は慌てて立ち上がり、玄関へと走る。開けたドアから、康介の顔が覗いた。
 家に上げ、リビングに通し、紅茶を出す。

「へえーっ! お嬢様お嬢様だと冗談で言ってたけど、マジで裕未ちゃんお嬢じゃん!」
「そんな事ないよ、普通普通」
「いやいやいや、アパート生活十六年の俺からしちゃ、これはもう大金持ちさまの家だよ?」

 やっぱり、慣れない。康介の軽い物言いは返事しやすく気楽でいいのだが、それ以上に『家に男の子と二人きりでいる』という状況が。あの冬の夜はそうじゃなかったのに、と裕未は苦笑する。
 一時もじっとせずにリビング中を走り回る康介に、裕未は戸惑わされっぱなしだった。そして、やっと、康介が訪れた理由を思い出す。

「あ、あの……康介くん?」
「あ、なになに?」
「そろそろ……お見舞いの話、しない? しようよ、ね」
「おわっ!」

 また大げさに驚いてみせる。裕未は笑って反応するしかない。

「いや、正直すっかり忘れてたぁ! お金持ちの家なんて初めてだからさ」
「忘れるのは、ひどいよ」

 とりあえず、笑えた。

「じゃあ、話そっか」

 ソファーに座り直し、康介が出された紅茶にやっと口をつけた。

「えーっと……日にちとか決める前にさ。ちょっと裕未ちゃんに聞いときたい事があるんだけど。いい?」

 急に変わった相手のテンションに、裕未は気を取られた。真面目な話なのでは? とすぐの向かいのソファーに座る。

「な、に……?」
「えっと。あいつと裕未ちゃんって、付き合ってるんだよね?」
「え……?」

 唐突な質問だった。

「あ、いやいや、ヘンな意味じゃないよ? あいつもやっぱり女子にモテるしさ、裕未ちゃんも俺ら男どもの人気の的じゃん? 二人が付き合ってたらそりゃもう最強カップルだし、俺もそう思って裕未ちゃんに、あいつの見舞いっていう大事な話を相談したわけで。違ってたらカッコ悪いなー、くらいの意味なんだけど」
「そ、そうなんだ……」

 少し混乱している。不躾な質問だったからではなく『自分と彼が本当に付き合っているのか』という疑問を図らずも突きつけられたからだった。
 近い立場にはいる。デートも3度した。そして、躰もひとつになった。だけど、お互いちゃんと『好き』を確認したわけじゃない。特に相手である彼が、それを告げぬまま突然いなくなってしまった。

「あの、ね。私にも、よくわかんないんだ……多分、好きだし、彼もそう思ってくれてる事を信じてる。でもね、それを確かめるのも、怖くて……」
「あいつからは、まだ?」

 無言で、裕未は頷いた。言葉が出なくなっていた。涙が出る寸前の、奇妙な気持ち。あの時見た彼の蒼白な顔と、『好きだ』の一言にこだわっている自分の心が、交錯していた。

「そっか。裕未ちゃん、すげえ悩んでるんだね」

 伏した頭で、康介の声が移動したのを、裕未は悟った。しかしそれは、心の中の解決できない問題に比べれば、あまりに些細な事だ。自分の座ってるソファーが沈み、声もすぐ隣に移動したが、状況は同じだった。

「ひどい奴だね、あいつ」

 その時まではまだ、康介が沈んでいる自分を慰めてくれているのだと思った。裕未は、まだ。

「……って、事はさ」

 やっと、気づいた。耳のすぐそばに聞こえた、康介の声。

「……え?」
「裕未ちゃん、まだ誰のものでもないって事だよね……? あいつの物になる寸前でも」

 顔を上げる。驚くほど近くに、康介の顔があった。咄嗟に後ずさりしようとした、刹那。

「……きゃっ!」

 抱かれた。抱きつかれた。何かの冗談だ、何かの冗談だと思おうとしている間に、裕未の小さな躰を拘束する康介の力は強くなる。

「こ、こうすけ、くん……っ?」
「……なんかさ、すっげえ燃えない? 人の物、そばからかっさらうのって」

 意味が分からない。人の物? かっさらう? 

「だからさ、裕未ちゃん……」

 裕未の躰は、強い力でソファーに押し倒され、沈んだ。

「俺の物になっちゃいなよ。多分、愉しいと思うよ?」

 やっと、気づいた。彼の親友は、康介は、目の前の男は、自分を無理やり手に入れようとしている。

「や、やあっ!」

 裕未は力を込め、身を捩った。

「暴れちゃダメだよ。もう決めてたんだ。あいつが病院に入ってから、ずっと。俺だって、裕未ちゃんが好きだったし。裕未ちゃんとヤリたいって思ってたし」

 身勝手な理屈を、当たり前のように話す。震える肩をソファーに押し付ける力は、一層強く。

「あいつは入院、自宅にお招き、ご両親は深夜に帰宅。これって最高のシチュじゃん」

 どうして! という怒りの視線を向けるが、康介の道徳心には届かなかった。左手を肩に残し、弱々しく震え始めた裕未の目の前で、右手をうねうね動かしてみせる。

「さあ、早速味わせてもらおっと……」
「や……やめて、やめて……っ」

 康介の手は、ライトイエローのブラウスの襟元にかけられる。そして、一気に。

「いやああーっ!」

 ボタンが弾ける。布の破れる音が聞こえる。そして、康介が小さく笑う。

「でっけー! ……知ってる裕未ちゃん? この胸想像して、男子が何人もオナニーしてるって事」
「し、知らない……っ」

 掠れた声。恐怖で喉が沸き、空気に触れた素肌が裏寒く感じる。凌辱者は、まだ手を緩めずに。

「じゃあ、この邪魔なブラも取っちゃおうね。裕未ちゃんの生おっぱい……うひゃひゃっ」

 言うが早いか、康介はフロントストラップを勢いよく引き千切る。

「うはあ……憧れの裕未ちゃんおっぱいだぁ!」
「いや、いやあっ!」

 裕未の叫びを合図にするかのように、康介の右手が豊かな胸を強く揉み始める。

「すげえ、すげえすげえすげえ! 裕未ちゃんのおっぱい最高!」

 わざと下卑て語りながら、康介は裕未の柔胸を揉み続ける。当たり前のように指の間で薄桃色の先端を刺激しながら。

「や、やめて……やあっ!」

 必死に抵抗しようとしても、動かせるのは首と両足だけ。口調の嫌になるほどの軽々しさと反比例して、康介の押さえる力は強く、ますます強く。

「あー、おっぱいばっか触っときたいけど、やっぱ大事な所があるもんねー……」

 手は、胸から離れた。しかしその代わり、間髪入れずに唇が少し桃色が濃くなった先端に吸い付いてくる。

「ひ、いい……っ!」

 裕未の後引く叫びは、乳首に吸い付かれたからだけではなかった。ほぼ同時に康介のあの右手が、スカートの中に侵入してきたのだ。それも、ピンポイントで、あの場所に。

「嫌っ、ダメ、だ、めえ……っ!」

 触れられた事でますます掠れる、声。薄い布地の上から指の先端でコツコツとノックした後、クロッチの隙間から秘部に接近して来る。巧みすぎて、自然すぎて、触られた経験など皆無の裕未を惑わせる。

「うわー……ヤッベふにふに。裕未ちゃんのここいらの肉、めちゃめちゃ柔らかいよ?」
「し、知らない……もう、やめてっ。触るの、やめてぇ……」

 直接ではない場所だからこそ、躰中から力が抜けてゆく。

「あ、い……っ!」

 そして、指は直に。繊毛を絡め取りながら、縁の襞肉に触れる。された裕未は、たまらない。

「ダメ、だ、めぇ……康介、くんっ!」

 力無い両腕を必死に動かして、康介の胸板に向かって抗う裕未。しかし、その時点でイニシアチブは奪われていた。さっきまで動かせなかったのに、動く手。康介は、裕未がまるで気づかぬうちに、華奢な体を拘束していた左腕を、離していた。乳房に張り付いた唇と舌と、股間をまさぐる右手だけで、裕未の肉体を見事に捕らえている。躰から離れた左手が向かった先は、ベルト。裕未の与り知らぬ所で、凌辱者は獲物を仕留める準備を着々と進めていたのだ。

「ゆーみちゃん……ほらほら、どんどん柔らかくなってくよぉ? ……女の子って大変だね、こんな状況なのに緩んできちゃうなんて。あははっ!」

 指は、遂に熱く狭い穴に辿り着き、そこを穿ち始めている。『自分でするより』、その指の存在感は圧倒的だった。もはや切なそうに身悶え、躰をくねらせるしかない裕未。康介が下半身をいつの間にか露出し終った事さえ、気づけずに。

「ね……裕未ちゃん?」
「ん……っ?」

 康介の緩い言葉に、裕未は濡れた瞳を向ける。

「……まだ、したくならない?」
「そんな、の……ならない、よ……っ」
「俺、したい……裕未ちゃんに、めちゃめちゃ入れたい」

 何かが裕未の太腿辺りにぎゅっと押し付けられる。熱く、固く。恐怖にこわばる全身、もう動けない。

「これも、脱がしちゃおうね。入れるのに邪魔だから……あ、スカートはそのまんまで」

 するすると、ショーツは両脚を抜けていく。少しすり合わされるだけで、力のこもらない、脚。

 康介が腕を動かせば、裕未の小さな躰は康介の望む通りの格好になる。指を内部に入れられたままの下半身は、凌辱者の下半身といつのまにか相対していた。

「うし、スカートずり上げて……裕未ちゃーん、挿れちゃうよ? ホント、ごめんね」

 一片の気持ちも入っていない謝罪の言葉に続いて、ヒップに男の手が回った感触を裕未は感じた。そのままぐいっと持ち上げられ、何かが、何かに触れる。

「……や、めてっ」
「……やめないよ」

 ぎっ。ぎぎっ。ぎぎぎぎぎっ。

 チリチリと、頭の中の神経が擦れる。何かが胎内に侵入し、どうしようもない異物感を裕未に与えて来る。
 チカチカと、彼の笑顔がフラッシュバックする。

「やっべえ、裕未ちゃんのおま○こ、気持ちよすぎ……こんなの初めてだぁ」
「あ、あ、あ、あ、あ……っ」

 反らせた喉から漏れるのは、つらさを含んだ吐息。2度目の、痛み。彼じゃない他の人の物を受け入れてしまった、苦しみ。

「あー……でも」

 マヌケな声。

「……やっぱ処女じゃないじゃん! 可愛い顔して、あいつとバンバンヤリまくってたわけだぁ」

「ち、違う、よ……ちが、うっ」

 強烈な圧迫感に、掠れた声しか上げられない裕未。彼を侮辱された事への反論さえ、語れず。

「まあいいや。じゃあ、エンリョ無く動くよ。いっぱいいっぱい、気持ちよくさせてあげるから……」
「やめて……お、お願い、こうすけ、く……あはあっ!」

 裕未の最後の懇願さえ聞き入れず、康介の腰は裕未の小さな躰の奥に狙いを定めて動き始めた。

「や、やんっ……あ、う、うごかさ、ないで……あ、あんっ!」
「動かさないわけ、ないじゃん……あーイイ。裕未ちゃんの中、ぐちゅぐちゅでぬるぬるで最高だよ?」

 ずい、ずいっ、と余裕ある腰遣いで狭洞を進む康介のペニス。

「そんな、事、ないよぉ……やめて康介くん、や、めて……っ」

 瞳から、涙が流れる。無理やりとはいえ、彼の親友を躰に受け入れているという、現実。ほとんど意味をなくしてしまった『やめて』の言葉も、この事実を知らず病院のベッドに横たわっているであろう彼に対する贖罪のためには、まだ微かに必要だった。

「いやマジマジ。今までセックスした女の中で最高……さ、入ったよ、裕未ちゃん……俺のち○ぽ、どう?」
「し……知らな、いっ」
「か、カワイイーっ! ……やべ、俺裕未ちゃんの事もっともっと好きになっちゃった……いじめちゃっても、いい?」

 組み敷いた女の表情に加虐心を煽られた男は。

「あ、ひいいいいい……っ!」

 同意も得ず、遠慮なく動き始める。苦しみ、惑い、喘ぐ女の表情を、もっと見たくて。

「や、はっ……は、は、激し、いっ……そんな、強くしちゃ……あう、はうっ……壊れ、るぅ……っ!」

 形のいい眉を歪ませ、裕未は喘ぐ。優しさのかけらもない、康介の躍動。2人目の男を受け入れた膣細胞が、ピリピリと火花を散らす。

「壊れちゃいなよ……あいつのより、絶対俺のち○ぽのほうがイイんだから。壊れちゃって、悶えちゃって、いつか『してして!』って言わせちゃうからね……おー、イイっ!」
「ひどい、ひどいよぉっ……こんなの、あう、ううっ……ああん、許して、ゆる、して……っ!」

 許して、の言葉は康介でも、病院にいる彼に向けられた物でもなかった。激しい陵辱の中で、まだ2度目なのに、痛み以外の感覚を微かに悟ってしまった、自分に対しての言葉だった。それは優しい彼によってうがたれた躰が、康介という男によって淫らに開発され始めた、瞬間。

「うは、ウソだろ……裕未ちゃん、どうも俺、もうイッちゃいそうみたい」

 情けない声で、裕未に囁く康介。裕未を得るため茶番を演じ続けて来た康介の、どうやら真実の言葉。

「え……や、やっ、ダメ……ウソ、ウソっ!」
「マジマジ……うわ、やべーっ。このまま、中に出しちゃってオッケー? へへへっ、ダメだよね……」
「ダメっ! おね、がい……外に、そとにぃ!」

 必死な叫び。裕未にとって、それだけは受け入れがたい事だった。それを許してしまえば、躰はおろか心まで汚されてしまいそうだったからだ。

「あ、やっぱりか……中出ししたいけど、今日はガマンだね……うはっ、もうダメ! 出すよ、ちゃんと外に出すけど、どこがいい裕未ちゃん?」

 どこがいいと聞かれ、答えられるはずもない。

「……顔かな? うん、裕未ちゃんの顔を俺の精液で汚したい……決定!」

 突き入れは、最大限に。裕未は、がくがくと大きく揺さぶられる躰をそのままに、躰の奥底から湧く許しがたい感覚に抗うため、尻肉を掴む康介の両腕に、細い爪を立てた。

「うわ、裕未ちゃん、イクよ! ……あは、はあっ……うわ、うわ、出るっ!」

 抜かれた。
 掴まれた。
 起こされた。

 びゅるっ、びゅるっ、びゅるっ、びゅるっ、びゅっ、びゅっ。

 熱い液体が、裕未の顔に浴びせられる。

「うわー、いっぱい出ちゃった……裕未ちゃんの顔、やらしー! ……おっと、記念記念、っと」

 液体の嫌悪感から逃れるため目を閉じていた裕未に、ごそごそと物音が聞こえた。続けて、ケータイのカメラ撮影音が幾度も響く。この姿を、撮られて、いる。
 涙がまた湧いて来た。だがそれは、すぐに白く熱い精液に混じって、消えた。




『写メ、届いた? よく撮れてたでしょ、裕未ちゃんのぶっかけ顔』

 犯された次の日。屈辱的な写真の着信音で起こされた裕未は、その到着メールの指示通り学校の屋上に呼び出され、康介に抱かれた。『あいつに見せたら』の一言で、堕ちた。

『ほら、昨日より痛くないでしょ? だいじょーぶ、すぐ気持ちよくさせてあげるから。昨日も最後はそうだったっしょ?』
『い、や……あんっ、康介、くんっ……こんなとこじゃ、嫌ぁ!』

 まだ肌寒い風が吹く中、紺色のブレザー姿のまま金網に押し付けられ、挿れられ、最後は顔に出された。




 春。写真で脅される、というより行為そのものに罪悪感を感じ、裕未は康介にホテルで抱かれた。

『バラしてもいいじゃん。あいつに言っちゃおうよ。「俺達付き合ってます、ヤリまくってます」って』

 その言葉が、罪の意識を煽る。付き合ってなどいない、無理やり躰を奪われている、という事自体が、彼を裏切る行為を続けさせる原因となる。

『うはあっ……後ろからもいいよ裕未ちゃん。バック、初めてでしょ。深い? 深い?』
『や、やあっ……! ダメ、そんなに激しく、しないでえっ!』

 突かれる苦しみは、あの夜より確かに薄れている。こればかりは自問自答しても答えが出ない。心はまだ彼を想っている。だからこそ、康介の巧みで屈辱的な要求が心惑わせ、狂わしていく。

『あははっ。こりゃいけね、気持ちよすぎてもう出しちゃうかも……裕未ちゃん、このまま出していい? このまま、裕未ちゃんの中に出していい……?』
『やっ! だ、め……そんなの、だめ、だよ……っ!あ、あう、あううんっ!』

『あーもうダメ。出しちゃう出しちゃう。裕未ちゃんのあそこに俺のどばっと……ああ、出、たあ!』
『そんなっ、そんなっ! な、中は、だめーっ! ……あ、あ、あ、あ……っ!』

 中に出された。そして、よりにもよって、イッた。




 暑くなり始めた、ある日。裕未は、裕未の部屋で、裕未のベッドで、康介に抱かれた。

『なんだぁ、あんまり抵抗しなくなったじゃん。自分でさっさと脱いじゃうし』
『……だって』

 だって……なんだろう? 衣替えしたばかりの夏服、紐リボンをほどきながら、裕未は自分の言葉の行く先を捜していた。

『ま、いいけどね。今日もばんばんヤリまくりましょー! で、最後は中出しでキメ。今日は大丈夫な日だよね? 裕未……』

 性欲に直結した、康介の物言い。もうパンツ一丁になって、中に両手を突っ込み自分のをしごきたてている。怒りも、湧かなくなっていた。

 しばらくの後。

『……ほら、こうすると、イイでしょ? 裕未、ガマンしないでさー、イイって言ってみ?』
『あ、ひっ! ダメ、ぇ……そんな、ことっ、言えない……っ!』

 最後は屈曲位で激しい絶頂。はあはあと荒い息で口づけを交わした後、康介はベッドに横たわり、だらんと垂れた股間の分身を指差す。フェラチオの要求。もう幾度もやらされたし、自分を苦しませて来たペニスを頬張る事に違和感を感じなくなっていた。

「うはっ、うわっ……イイねそれ! 舌遣い、フーゾクのお姉さんみたいにヤラしいよっ!」

 再びエレクトしたペニスに、裕未は自分から腰を沈める。

『あーエロい。裕未ってば進んで腰振っちゃってまぁ。ほら、やっぱり気持ちイイんでしょ? 言っちゃえよ、ほら!』

 ぐいっ。裕未の腰の沈みに合わせて、康介の腰がずぶりと突き上げられる。奥深くまで侵入する、彼の親友の、モノ。

『あ、あ、あ……い、イイ、のお……っ。これ、凄く、気持ちイイ……!』
『うわ、言っちゃったー……あ、裕未ってやっぱもう俺とヤるの気持ちよくてたまんないんでしょ? だから自分から脱いでしてしてっ、って頼むわけだぁ……あいつがみたら、どう思うかねぇ?』

 チクチクと刺さる、棘。だからこそ余計に、彼の親友の上で躍動する自分が、たまらなく淫乱に思えて。

『やっ、やあっ……言わないで、もうっ……またおしゃぶりもするからぁっ、おっぱいも揉むからぁっ、お尻も振るからぁっ、あそこも、締めるからぁっ……彼のことは、言わない、でっ……い、イイっ! 裕未、ゆ、み、またイクうううっ!』

 淫らに叫び、淫らに色を求める、自分。初めて呼び捨てにされた事にも戸惑わない、自分。綺麗なまま閉じ込めた彼との想い出と、あえて乖離させるように。




アナタノナカノワタシハ マダキレイナママデスカ




 そして、夏のある暑い日。

 花を買おう、と思った。店の外では康介が、つまらなそうにケータイを弄りながら裕未を待っている。

 店の奥の、一つの鉢。少し薄暗い店内で、それは真っ赤に輝いて。お見舞いに鉢植えなんて、と思い返し、何気ないほんの気まぐれで店員さんに花の名前と花言葉を聞いた。

 結局、花は買わなかった。あの花に何かを感じた自分を、裕未はただ隠したかった。




Anthuriumアンスリウム。真っ赤なハートの姿をした印象的な植物。花言葉は、情熱。そして、恋に悶える心。揺れる、心。

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