◇ Subjective Late Show! ◇


 
 六茫高校の修学旅行は、何故か今どき京都であった。
 一条戻橋だ神泉苑だと浮かれ喜ぶオカルトオタクの双魔とは全く裏腹に、ヤンキー神無の機嫌は悪い。
「神無神無、京都と言えば?」
「芸者と八ツ橋」
「違うよ、芸者じゃなくて半玉だよ、舞子さんは」
「やかましい」
 パコン!
「い、痛い‥‥」
「‥‥ったく、都内の高校なのに、何で今さら京都なんだか。中学校でも京都だったのに」
「えー、いいじゃん京都。風水曼陀羅だよ、千年の魔都だよ。面白いもの一杯あるじゃない」
「お前と一緒にするな。どうせ般若心経の扇子とか買ったんだろう」
「‥‥神無だって木刀と十手買ったくせに」
 ゴンッ!
「ううう‥‥そ、その上昨日の刃物工房では、みんながお土産に包丁買ってる時、一人であいくち買ってしっかり『神無』って名入れまで     
 バキャッ!!!
「ひ、ひどいよ神無‥‥何も木刀で‥‥木刀でー!!」
「名入りのドスの方がよかったか?」
「‥‥ほんとに買ってたんだ」
「‥‥(しまった)」
「‥‥神無って喧嘩オタクだよね」
「いいからついてくるな! 大体お前の班は行き先違うだろうが!」
 ‥‥そんなこんなで、本日は待望の自由行動日。双魔は涙目になりながらも、新京極へ行き天神へ行き、屋台で銀杏と甘栗を買って、最後にとある窯元の、陶芸絵付け体験コースへとふらふら赴いたのだった。


「‥‥ふ、ふふふふふふ」
 辺りをそっと見回して、同じ班のクラスメートが誰も見ていないのを確認すると、双魔はごそごそとリュックを探り、
「ぱっぱかぱっぱぱっぱっぱ~♪」
 有名ネコ型ロボットの、手元アップ時のテーマと共に、何かをすちゃっ!と取り出した。
「般若新経の扇子~!」
 ‥‥そのまんまじゃん。
 と内心突っ込みを入れながらも、双魔はあくまで上機嫌だった。
 実は先年、オカルト研の先輩であり同志でもある薬味総次郎から、「修学旅行先で作ってきた、自作の般若心経絵皿」を見せられて以来、自分もやってみたくてしょうがなかったのである。
 オタク必須のアイテムである「般若心経の扇子」であるが、それをわざわざ京都で買ったのも、絵付けの見本に使おうと云うひそかな思惑あってのことだ。
 しかも、級友の大方は、絵付けのしやすい平たい皿を自作の素材に選んだが、双魔は大ぶりの飯茶碗にした。先輩とおそろいは遠慮しようとか、そんな殊勝な気持ちではなく、
「魔除けになるかも知れないし、これで仏様にゴハンを上げて、そのお下がりを食べてれば、いつか万が一河童に出くわして相撲とっても安心だもんね~」
 などと云う、神無が聞いたら「バカかお前は!」と木刀どころか金属製の十手で思い切り殴られそうな理由なのだった。
『もし今神無が居合わせたら、「少しはひねれ!」って殴られただろうなあ。それにしても、何でコレ買ったの知ってたんだろう。他に般若心経のテレカも買ったんだけど、もっと殴られそうだから内緒にしてようっと。でも、当てずっぽうだったあいくちの件も当たってたし、神無にも何か余罪がありそう。方向性は違うけど、僕らって恐いくらい双子だなあ、やっぱり』
 なんてことを考えつつ、いそいそと作業を始める双魔であった。




 そして後日。
 絵付け体験コースに参加した生徒の作品が、まとめて学校に郵送されてきた。
 双魔はいそいそと帰宅すると、早速居間で包みを開いた。陽に透かしたりかざしたり、つらつらと自作の茶碗を眺め、満面の笑みに溶け崩れる。
 しかし、元来無器用な双魔である。濃紺の地色に浮かんでいる、渋い金色の筆文字は、どう見てもあんまり上手くなく、魔物が退散しそうにはない。なのにその字には妙な気合いだけがしっかりと込められているものだから、本来ありがたいものであるお経が、逆に怪しくも禍々しいような雰囲気を醸し出してしまっていた。
 本人はまるで気にしていないのだが、案の定、珍しく早く帰宅した神無がソファーの後ろを通りかかり、上からひょいと茶碗を取り上げて、
「何だこりゃ」
 と渋い顔をした。
「あ、お帰り神無、早かったね」
「‥‥お前、京都でわざわざこんなモン作ってきたのか?」
「うん。かっこいいでしょ?」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「何で黙ってるんだよー」
「‥‥おい、しかも字が違ってるぞ、ここんとこ」
「え?どこどこ?」
 予想外の神無の指摘に、あわてて茶碗を取り返し、引っくり返して字づらを追う。
「ほら、ここ」
「あっ、ほんとだ!‥‥あっちゃ~」
 横に開いた扇子を置いて、ちゃんと見ながら写したはずだったが、手が覚えている似たような漢字を無意識に書いてしまったらしい。『亦復如是』の『亦』の字が、しっかり『赤』になっている。
 何だかなあ、と呟く神無に、双魔はふいと眉根を寄せた。
「‥‥て言うか神無」
「何だ」
「‥‥何でそんなに詳しいの、お経」
「お前が一時期、うち中でテープを回してたからだろうが!」
「あ、なるほど」
 双魔はポンと手を打った。
「門前の小僧が習わぬ経を読んじゃったんだね。‥‥でも、耳で覚えたからって、普通漢字までは解らないじゃん」
「お前より頭がいいだけの話だ」
「‥‥ヤンキーってほんとに漢字に詳しいんだね」
「‥‥割るぞ!!」
「うわー、やめてよー!!!」
「――神無、双魔、ゴハンだよ~」
「あ、お父さん助けてー!!」

 ‥‥‥‥‥‥‥。

 結局、父のとりなしもあって、茶碗は何とか破壊を免れ、無事仏壇と食卓を飾った。
 誤字があろうが悪趣味だろうが、何と言っても双魔にとっては大事な手作りの一点ものである。
「大体、お前の部屋ほど物が壊れやすい場所はない」
 と、神無には嫌味を言われたが、普通の食器と一緒くたにして台所に置くのも忍びない。
 双魔はその晩、茶碗を自室に持ち込んで、枕元に飾って寝ることにした。
「幽霊はお経に弱いって言うから、これで何か出ても安心だね!」
「出るか、馬鹿」
 神無が呆れて溜息をつく。しかし双魔は我関せず、出たら出たで嬉しいけどね、と、うきうきと床についたのだった。




 しかし深夜。
 双魔は妙な胸騒ぎと、枕元に立つ人の気配をおぼろげに感じて目を覚ました。
 ご存じの通り双魔の部屋には、本やその他のガラクタなんかがびっしりと積み重なり、詰め込まれていて、本来あるはずの机との隙間も、とても人が立てる場所ではない。
 にもかかわらず、ベッドヘッドのその向こうに、ぼーっとたたずむ白い影!
『双魔‥‥』
 か細い声で名を呼ばれるに至って、寝ぼけまなこが一瞬にして覚め、双魔は跳ねるように飛び起きた。
 普段は臆病な双魔だが、ことオカルトとなれば話は別だ。これは憧れの超常現象かと、わくわくどきどきと目を凝らすと      半分透けた人影が、じっと自分を見下ろしている!
「うわッ、オバケ!!(喜)」
 普通とはちょっとニュアンスの違う喜色満面の叫びと共に、双魔はもっとよく見ようと、枕元の眼鏡に手を伸ばした。
 が、
『‥‥全然性格変わってないわね、あんたって子は』
 呆れたようなその声に、双魔はハッとして目を上げた。
「え?‥‥そ、その声はもしかして‥‥」
 慌てて眼鏡をずり上げると、闇にまぎれてぼやけた影がようやくはっきりと焦点を結ぶ。
『でもさすがに大きくなったわね、双魔』
 明らかに生者のものではない、闇に白く浮くその姿は何と、数年前に死んだ筈の、双魔の母のものだった!
「うわあやっぱりオバケ!‥‥と言うか母さんナゼここに?!」
 お経だから魔よけにいいかと茶碗に書きつけてみたものの、状況を鑑みるに効果なし。しかし出てきたのが母なのを思えば、それはそれで良かったのか?
 超常現象体験中で浮かれ喜ぶオタク魂と、相手が母である懐かしさ、だが何故と云う疑問が混ざりあい、混乱している双魔を後目に、母は枕元に視線を落とした。
『ああ、やっぱり‥‥お前、お茶碗に書いたお経が、一文字間違ってるじゃないの』
「あ、うん、神無にも言われちゃったよ」
『これじゃ魔除けになんかならないじゃない。もー、母さんあの世で恥かいちゃったわよ』
「いやあの母さん、何でそんなこと知ってるの?‥‥じゃなくてあの世で恥って一体ナニ?!」
『いいから双魔、その茶碗は早く処分してね‥‥』
「そ、そんなこと言われても、せっかく作った記念の茶碗なのに‥‥ああっ、母さん待って!!」
 双魔が皆まで言い終えぬうちに、白く凝った母の輪郭はゆらめきながら薄れていき、闇に溶けるようにぼやけて消えた。
 ‥‥いつしか白々と夜は明けて、母の姿は既になく、枕元には元通り、お経の茶碗があるばかり。
 いつ寝入ったのか目が覚めたのか、まるで覚えのないままに、双魔は茫然と辺りを見回し、鳴りっぱなしだった目覚ましを止めた。
「‥‥夢かなあ‥‥」
     何が夢だって?」
 いつの間にドアを開けたのか、制服姿で立っていた神無が、耳ざとく聞きつけてそう言った。
「あ、神無おはよー。んー‥‥何か母さんが夢枕で不吉なことを‥‥」
「馬鹿言ってないで起きろ」
「人の話聞いてよ、もー。‥‥不吉と言えば神無は珍しく学校行く支度してるし。何かありそうでやだなあ」
「休むのか? じゃあ寝てろ。お前の分の朝メシは、代わりに全部食っといてやるから」
「わー、やめてよー、起きるよー!」
 双魔がじたばたとベッドを下りると、神無は笑って踵を返し、トントンと階段を下りていった。
 あわてて制服を身に付けながら、ふと、机の上に鎮座している例の茶碗が目に入る。
「‥‥夢だよねえ‥‥」
 母が夢枕に立ったと思えば、少々気にならない訳ではない。が、何と言っても、大事な記念の品である。字が間違っていようとも、夢に踊らされて捨てる訳にはいかない。
 双魔はそれきり忘れることにして、たかたかと朝食の待つ階下へと向かった。




 しかし夢ではなかったのだった。
 その晩再び、茶碗を置いて寝た双魔の枕元に、やはり浮き上がる人の影。
 昨夜と同じように目を覚ました双魔は、素早く枕元の眼鏡をかけ、恐る恐る呼びかけた。
「か、母さん?‥‥」
 だが、返ってきた声は母のものではなかった。
『こりゃ双魔、オマエ、茶碗のお経が一個間違っとるぞ!』
「あっ、あなたは僕が小さい時に死んだ父方のおじいちゃん!」
 何か説明的な台詞じゃのう、と祖父がぼそりと呟いたが、この際そんなことはどうでもいい。
「そんなこと気にしないでよ。それよりどうしておじいちゃんまで?!」
『ゆうべお前の母さんに聞いてな。‥‥ほんとに間違っとるな。恥ずかしいのお』
「いやだからあの、どうしてそんなことを言いにわざわざ夢枕にまで‥‥」
『母さんが言ったのに、まだ持っとるんじゃのう、この茶碗‥‥いいか、早く捨てとけよ、双魔』
「あああ、待ってよおじいちゃん!!‥‥」

 ‥‥‥‥‥‥‥‥。

「‥‥お前、ここ最近妙に顔色悪いな。また夜更かししてゲームでもしてたのか?」
 目の下に青黒く隈を作り、憔悴したような双魔の姿に、さすがに神無が怪訝そうに訊ねた。
 朝食のトーストをもそもそと噛みながら、双魔は座った目で神無を見た。
「‥‥言ったって信じないよ、神無は」
「‥‥何かあったのか?」
「‥‥‥‥‥‥」
 寝不足で味の解らないトーストを牛乳で無理矢理流し込み、双魔はしばらく黙り込んだ。
 ‥‥あれ以来、母・父方の祖父に続いて、翌日は祖母が、その翌日には母方の祖父が、叔父が、伯母が、ご先祖が、しまいには全くの赤の他人が、「噂を聞いたんだが、茶碗のお経が間違ってるらしいな」と連日枕元に立つに至って、双魔はすっかり疲労困憊してしまった。
 単純に慢性の寝不足のためか、それとも生気でも吸われているのか、どちらか定かではあらねども、さながら日替わり牡丹灯籠。ただでさえひ弱な双魔の身体が、これでは到底もつ筈がない。
 ‥‥さすがに心配げな目を向けている神無を、双魔はしばらくじっと見て、言った。
「‥‥説明しても、絶対神無は信じないから、今晩茶碗預かって」
「‥‥おい、どういう脈絡で茶碗の話になるんだ」
「いいから預かって」
「それは構わないが‥‥」
「でも、割ったら駄目だよ。約束だからね」
「‥‥ああ」
 双魔は食べかけのトーストを、ぺんと神無の皿に置いた。
「じゃ、代わりに食べて。僕、今日休んで寝てるから」
「‥‥いらねえよ」

 そうして双魔は学校を休み、かねてよりの懸案を解決すべく、茶碗は自室に置いたまま、神無の部屋に入り込んで爆睡した。
 日当たりのいい昼日中だからか、単純に茶碗がないせいか。双魔の昼寝のあいだ中、霊はとうとう現れなかった。


 そしてまた翌朝。
 昼寝に続いて夜も熟睡した双魔は、久しぶりにさっぱりした顔で朝食の味を噛みしめていた。
 しかしその晩、茶碗を押しつけられた神無の方は、とても熟睡は出来なかったらしい。
 背後からドカドカと足音を立てて、ダイニングに下りてきた神無は、見るからに不機嫌そうだった。
 双魔が振り向くより先に、襟首をぐいと掴み上げる。
「‥‥よう」
「あ、神無おはよー。よく眠れた?」
「んな訳あるか! 何だあの茶碗は一体!!」
「あー、やっぱり出た? 神無なら見えないか、霊も逃げるかと思ったのになあ‥‥」
「‥‥あれは捨てるぞ、いいな!?」
「だ、駄目だよ、僕の茶碗だよーーー!!!」
「たかが茶碗一個だろうが! いつからそんな物欲の権化になったんだお前は!」
「だって手作りだよ、般若心経好きなんだよ~! それでいつかは仏像に挑戦だよ! やっぱり最終目標は興福寺の阿修羅像で~!」
「‥‥それは仏欲だ!!」

 ‥‥‥‥‥‥‥‥。

 しばし話し合って?はみたものの、殴ろうが怒ろうがテコでも動かない妙に頑固な双魔の駄々に、神無が勝てた試しはない。
 その日のところは仕方なく、問題の茶碗はお寺に預け、何とか供養してもらうことで、二人の意見は一致したのだった。
 だがしかし、問題は供養とかお祓いとか、そう云うことではなかった訳で――
 数日後、旦那寺の住職が、憔悴した顔で現れた。
「あ、和尚さん、どうでした?‥‥出ました?」
 思わずわくわくと問うた双魔を、神無が容赦なく殴り倒す。
「はあ‥‥それが‥‥」
 見慣れた兄弟のドタバタはさておき、和尚はぐったりと項垂れると、ことの顛末を語り始めた。
 問題の茶碗を預かった以上、霊が現れるのは覚悟していたが、和尚の場合、かつて供養した檀家の人々が夜ごと枕元に列を成し、茶碗の誤字を指摘しては、『和尚さんもヤキが回ったんじゃないかい』等と、とくとくと説教して行くのだと言う。しかも茶碗は霊を呼ぶばかりで、読経も護摩もまるで効かない。それでも何とかしようとするなら、もはや茶碗を割るしかなく、それで持ち主に許可を得たいと、この日の訪問と相成ったのであった。
 しかし、
「駄目」
 身も蓋もない双魔の一言に、早速神無の鉄拳が唸る。
「何が駄目だ! 坊主もそう言ってるんだから割れ!」
「駄目ったら駄目ーー! 破壊からは何も生まれないんだよ神無!!」
「これ以上何か出て来てたまるか!!」
 ‥‥しかし結局またしても神無は、双魔の駄々に負け越した。
「‥‥それで私のところに来たと云う訳ですか‥‥最後に
 満面に浮かべた笑顔のまま、ジロリと睨みをきかせたみずのに、双魔はビクリと後退り、神無は無言で溜息をついた。
「だ、だってお経じゃみずのさんは畑違いかなーと思って‥‥母さんもおじいちゃんも、うちは代々浄土真宗だったし!!」
 パコン!
「落ち着け、バカ」
 今度はみずのが溜息をついた。
「‥‥まあ、いいでしょう。それで、割らずに私にどうにかしろと?」
「割らないからにはお手上げだと、坊主も言っていたがな」
「ええ、多分この誤字が原因で、魔除けとしてのお経の力が逆作用して、霊を集めてしまっているんでしょう」
「お前なら封印とか出来るんじゃないのか?」
「でもこれは、悪魔の仕業ではありませんし‥‥」
「だ、駄目かなあ?‥‥」
 何やら考え込みながら、みずのはしばし茶碗を眺め、思いついたようにぽつりと言った。
「単に、文字の間違いを直せばいいんじゃないですか?」
「‥‥あ」
 双魔と神無は顔を見合わせ、同時にぽんと手を打った。
(‥‥バカ兄弟‥‥)
 と、みずのが内心思ったかどうかは、はたには解らぬことであった。


「しかし、直すと言ってもどうやるんだ?」
 渋い顔の神無に聞かれ、双魔は茶碗をやすりで削る手を一旦止めて顔を上げた。
「削って‥‥書き直すしかないでしょ?」
「と言ってもな‥‥顔料とか釉薬とか、お前だって持ってないだろう」
「そ、それは‥‥」
「? どうする気だ」
「‥‥プラカラーで」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
 そんなこんなで紆余曲折、試行錯誤がありながらも、塗りを削って書き直し、やがて茶碗は正しいお経に。一文字&その周辺だけが、田宮プラカラー独特の何だかケミカルな色まだらだが、この際気にしてもしょうがない。
 ひとまずはこれで安心だろうと、双魔はその晩何日かぶりに、茶碗を飾って床についた。
 しかし夜半、やはり枕元に立つ白い影が!
「あっ、母さん! もう間違いは直したのに何故?!」
『ああ、やっと直したのね‥‥母さんこれで安心したわ。恥ずかしいから、もうああいう間違いはしないでね双魔』
「だからせめて、何でそれを気にするのか教えてから消えてよ母さんーー!!」

 ‥‥‥‥‥‥。

 そして、夜明けに目覚めた双魔の胸に、一抹の不安が去来する。
「ま、まさかとは思うけど‥‥」
 しかし不吉な予感ほど、何故か的中するものである。
 案の定、翌日は祖父が、翌々日には祖母が叔父伯母が、間違いの修正を確認しに、連日枕元は大賑わい!
 おかげで双魔は、またも再び疲労困憊、神無との茶碗争奪戦で、さらなる体力を使う始末。
「やっぱり割れ!いーから捨てろ!」
「駄目ーーー!!」
 天野家の平和は、まだまだ遠いのであった。
―― 「Subjective Late Show!」 END ――

(発行・2001.08.11 再録・2005/09/16)