~ 使用上の注意 ~
※服用に際して、以下の事に注意して下さい。
◇ Love Is Zoophilia ◇
「なんニャ」
咄嗟に呼び止めたソードの一言に、謎の猫柄レオタード娘は窓辺でクルリと振り向いた。
「やっぱりコウモリネコじゃねーか!」
「‥‥‥ち、ちがうニャ~!」
沈黙と動揺の一瞬が過ぎ去り、慌てたように猫娘は叫び、窓から逃げ出そうと身を乗り出した。
「あ、待ちやがれコラ!」
危うく右手を切られそうになった挙げ句、このまま逃げられてはたまらない。ソードはダッシュで窓辺へと駆け寄り、指先に触れた猫娘の背の、毛皮の部分をぐいと掴んだ。
が、猫娘の、『ニ゛ャッ』と云う悲鳴が上がった次の瞬間、
「‥‥‥か‥‥皮?!」
右手に感じた妙な触感に、ソードは思わずそう叫んだ。
本来の目的は一瞬にして忘れられ、掴んだ毛皮の部分を引き寄せ、腕の中に猫娘を引っ張り込む。
「は、離すニャ! スケベ! ヘンタイ!」
当の猫娘はジタバタともがき続けているが、そんなことを気に留めるソードではない。
胸の周囲をぐるりと取り巻く、ややフカフカした白い部分。パッと見それは、レオタードの飾りのフェイクファーだと、てんから思っていたのだが――
毛皮の部分を、服をめくるように引っ張ってみる。‥‥が、めくれない。
何度挑戦してみても、衣服らしく脱がすことは出来ず、引っ張られた毛と共に、背中の皮膚が浮き上がるだけだ。
「い、痛いニャ! やめるニャ! 何するニャ!」
「服じゃねーのか?! 自毛なのかコイツは!」
さらに興味をそそられたソードは、てっきり猫型の手袋とスリッパだと思っていた手足を探ってみる。
「や、やめるニャ~! くすぐったいニャ~~!!」
「何だぁ? これもナマか?!」
愕然としてソードは叫んだ。いくらコウモリネコが変身した姿とは云え、あまりに半端な人型だ。
それ以前に、たかだか一介のコウモリネコに、変身出来るだけの魔力があること事態、驚くべきことなのかも知れないが、そんなことはもうソードの頭にはない。
バタつく猫娘の首根っこを押さえ、今度は猫ジマ柄のレオタード(に見えている部分)を探ってみる。
「ニャ~! 変なとこ触るニャ~~!!」
「‥‥やっぱり毛皮か‥‥」
起毛の生地に見えていたが、それもどうやら直に生えている、紛れもない体毛であるらしい。
茫然として呟いたソードは、次の瞬間、はっとして叫んだ。
「もしかしてお前、実はこれで素っ裸なんじゃねーのか?!」
「な、何てことを言うニャ!!」
「でもそーなんだろーがよ!」
右手を引っ掻かれた痛みも忘れ、ソードはにんまりと牙を剥いて笑った。興が乗ってきた勢いのままに、ぐいと猫の手を掴み上げる。
『ニ゛ャッ!』と云う怯えた悲鳴を上げて、猫娘が後ずさろうとするが、いくら非力な体とは云え、猫にまで負けるほど弱くはない。
猫娘の抵抗をものともせず、毛皮に覆われた胸の辺りを、ソードはわさわさとまさぐった。
あるかなしかのささやかな膨らみを、毛をかきわけるようにして撫で回すと、やがて指先に小さな突起がぽつりと当たる感触があった。
「お、あったあった」
「ニャッ! ニャッ! ニ゛ャ~~ッ!!」
「ホントにナマなんだなーお前」
「ひ、ひどいニャ、動物ギャクタイニャ~!」
「動物‥‥そう言や、猫の乳ってのは六つあった筈だよなあ」
「ニ゛ャ~~ッッ!!」
猫娘の悲鳴を気にも留めず、今度は腹の辺りをかき回す。
そうして普通なら何もないはずの、肋骨の裾あたりとそのやや下に、二対の乳首が等間隔で被毛に埋もれているのを見つけ、ソードはすっかり面白くなってしまった。
「‥‥と言うことはだ」
「ニャ?!」
ソードは猫娘を手早くベッドに投げ出した。抵抗する隙も与えずに、膝の裏に手を入れて、ぐいと両脚を開かせる。
「ニ゛ャッ、ニャにするニャ~~!」
「どれどれ」
閉じようとする猫の膝を、自分の片膝で踏み押さえ、ハイレグ仕様のレオタードにしか見えない被毛の奥を探究する。
「ニ゛ャニ゛ャ~~~!!」
「ええい、暴れるんじゃねー!」
猫柄の毛をかき分けて、当たりをつけて指を差し入れ、肉を割るようにしてめくり上げる。
「お、やっぱり!」
ソードは思わず感心して言った。毛皮の奥にのぞいている、ピンク色をした粘膜は、多少未熟な風情ではあるが、人間&魔界の女と何ら変わるところはなく、柔らかそうで旨そうだったからだ。
大体にして魔界でのソードは、相当にお盛んな生活を送っていた。それが人間界に来てからと云うもの、巻き起こる事件の慌ただしさと、身体の虚弱さに邪魔されて、すっかりご無沙汰してしまっている。
気まぐれでイオスに手を出した時は、すっかりパワー負けしてしまい、前半はともかく、後ろ半分くらいは全く楽しむどころではなかった。
そんな悲惨な状況下にあって、溜まりに溜まったストレスと欲求が、やおら捌け口を求めて沸き上がる。
ソードはふっと真顔になり、めくり上げた肉の奥をまじまじと見つめた。
「‥‥‥別になんか変わってるワケじゃなさそーだよなぁ‥‥」
「な、なんニャ! どこ見てるニャ! チカン! ヘンタイ!」
「‥‥いーかも知れねー」
まだしも自由の利く片方の脚をバタつかせ、逃げようと暴れる猫娘だが、さすがにソードはビクともしない。
それどころか逆に、そうやって逃れようとジタバタともがき、腰をひねる抵抗にそそられ、この際相手は実はネコでも、一応人型だしまあいいか、と大雑把に思ってしまっていた。
「‥‥よーし」
「ニャ、ニャにがよしニャ~~!?」
「いーからちょっと大人しくしてろ!」
ソードは猫娘を一喝すると、普通の女なら反応しそうな辺りを適当にさわさわとまさぐり始めた。
「なんなんニャ~~~!!」
当人(猫)の抵抗をものともせず、被毛に埋もれた乳首を捜し出し、指先で転がし、舐め上げる。‥‥だが、猫娘は暴れるばかりで、一向に芳しい反応はない。
‥‥それは状況が状況だからか、それともやっぱり猫だからなのか?
ソードはちょっとだけ苦悩した。勿論、飽くまでもちょっとである。そんなことを、いつまでも気にするたちではない。
気を取り直してずり上がり、耳でもいじってみようかとふと思い-ソードは思わず口走った。
「‥‥おめー、なんで耳四つもあるんだよ」
よく見ると猫娘の頭には、人間本来の位置にある、やや尖ったような普通サイズの耳と、バニーガールの別バージョンじみた、頭部から生えた大きな耳の、二種類が生えていたのだった。
「そんなこと関係ないニャ、それより離すニャ~~!」
「だ-ッ! やかましい! ヤル気なくなるじゃねーか!」
「そんなやる気勝手に出されても困るニャ~~!」
「ンなこと言ってると、前置きなしでいきなり入れるぞ!」
「ニ゛ャ~~~ッッッ!!」
この期に及んで今だ状況を把握していない猫娘だったが、ソードがそう言ってパジャマの前をはだけるに至って、ようやく事の次第を飲み込んだらしい。
「む、無理ニャ! 人間とネコは形状が違うニャ!!」
「コウモリネコじゃねーって言ったのはどこのどいつだ!」
「それはそーだけどそーじゃニャいニャ~~!!」
「何が言いてーんだテメーは!」
「だからやめろって言ってるニャ~~!」
「とりあえず見た感じ人間と一緒だから大丈夫だ!」
なだめているのかそれとも断言しただけなのか、全くもってよく解らない。
猫娘の方も、確実に逃げたいなら猫の姿に戻ればいいのだが、パニックのあまり、すっかりそのことを忘れてしまっている。
お互い何が言いたかったのか、よく解らなくなりながらも、ソードは構わず猫娘の脚をぐいと掴んで開かせた。
かなり適当、と言うか乱暴に柔らかい肉を割り、内部の状況を調査する。
「ニャッ! ニャッ! ニ゛ャ~~ッ!!」
「‥‥やっぱ濡れてねーな。このままじゃ入らねーか‥‥」
呟きながらソードの視線は、枕元へとふと向けられた。
生傷が絶えない生活のため、手近に常備してある傷薬のビンが、用意してあったかのように目に入る。
既にキレているソードの思考は、こんな時ばかりはやけに早い。
素早く手に取り、蓋を開けると、中身をひとすくい指に取り、湿り気もない粘膜に塗りたくる。
「つ、冷たいニャ~! 何なんニャ~!」
「傷薬だから安心しろ。オロナインは何にでも効くんだ。化膿止めとか、肌荒れとか、それから――」
さっき引っ掻きまくられた右手の傷に、余った薬を塗り込みながら、ソードは得意気に説明した。もっともそれは、効能書き等を読むのが好きな、イオスからの受け売りだったのだが。
しかし、今しもひどい目に遭わんとしている、いたいけな小動物の猫娘にとって、そんなことは関係ない。
「いやニャ~! ひどいニャ~! 発情期もまだニャのに~!!」
「ネコでも初モノかー‥‥いーかも知んねー」
「ウ゛ニャ~~~ッッッ!!」
もはや抵抗する余地もなく、いきなりズルリと入れられてしまい、猫娘は絶叫した。全身の毛が一斉に逆立ち、タヌキのように尻尾が太くなる。
だが、
「お、こいつはなかなか‥‥」
尖った牙をちろりと舐め、ソードは身震いして溜息をついた。
猫は人間より平熱が高い。当然、体内も熱くて具合がいい。しかも、オロナイン使用のドーピングとは云え、天然の体液より乾きにくい分、ある意味普通よりすべりがいい。
その上猫娘は、猫の姿も変身後も、どう見てもまだコドモである。『発情期もまだ』の言葉通りなら、当然慣れていないだろうし、そういった諸々の理由からして、使い心地が悪いわけはない。
「‥‥い、痛いニャ~~‥‥」
もはや涙声で猫娘が訴える。しかしソードは動じない。
「大丈夫、猫には処女膜なんかねーらしいからな」
「でも痛いニャ~! このままじゃ排卵されてしまうニャ~!!」
「へ? 何だそりゃ」
「猫は交尾の時、痛いと思うと排卵がおこるニャ‥‥このままではニンシンしてしまうニャ~~!!」
「大丈夫だっつってるだろーが! 大体、猫と人間じゃ子供なんか出来ねーよ!」
「でもいやニャ~~!」
「だ-っ! しょがーねーな! 首でも噛んでやるから大人しくしろ!」
ソードはぐいと猫娘を抱き寄せ(その際上がった悲鳴はとりあえず無視して)、なるべく後ろ首に近い辺りを、やおらはむりと噛んでやった。
猫の習性として、交尾の時にその辺りを噛まれると、ピタリと大人しくなってしまう、と云うことがある。それはひとえに、最中に逃げられないようにと云う、恐るべき遺伝子の罠なのだが、この場合は正にそれだった。
案の定、子猫とは言えやはり猫。猫娘の身体から、へなへなと力が抜けてゆき、ソードは悪魔の笑みと共に言った。
「さーて、邪魔が入らねーうちにサクサク行くか!」
「ウニャ~‥‥」
妙に間延びした猫娘の声は、諦めなのか、それとも脱力しているだけなのか。
真偽の程は解らねど、どっちみち、ソードにはどうでもいいことだった。
さて、それから小一時間も経った頃。
ソードの部屋のドアが、不意にコンコンとノックされた。
「――ソード? 起きているんですか?」
イオスの声が呼びかける。
が、返事はない。
深夜なので、当然と言えば当然ながら、ドアのわずかな隙間から、中の明りが洩れている。当然、イオスは釈然としない。
「‥‥すみません、勝手に開けますよ」
鍵が無いのをいいことに、断わりを入れつつも静かに部屋の扉を開ける。
「何だか猫の声がうるさくて目が覚めてしまったんですけど、コウモリネコでも来て――」
いるんですか、と云いかけて、次の瞬間イオスは茫然と目を丸くして叫んだ。
「ソ、ソード! 何をしてるんですか?!」
ドアを開けたら、いきなりソードがベッドの上で、見知らぬ女の子(しかもどう見てもコドモ)を組み敷いていたのだから、驚くのもまあ無理はない。
が、熱中していたところを邪魔されたソードは、不機嫌丸出しで怒鳴り返した。
「――あぁ?! 何だテメー、邪魔すんじゃねー!!」
「邪魔も何も、ソード! その子は一体どこの子なんです?! こんな夜中に、一体どこから持ってきたんですか! しかもどう見てもまだ子供じゃないですか! そんな子供に何てことを!!」
「だ――ッ!! やかましい!!」
矢継ぎ早に浴びせられた疑問質問の雨アラレに、いつものことながらソードはブツ切れ、そこらにあったそばがら枕を咄嗟に引っ掴んで投げつけた。
だが、それを甘んじて受けるイオスではない。易々と枕をキャッチすると、反射的にソードへと投げ返す。
枕は顔面に直撃し、ソードは思わず鼻を押さえた。ぐらりとソードの身体が揺れる。と、脚を抱え込むようにして引き込まれていた猫娘が、『ウニャ~』とかぼそい声を上げた。
字にして書くと情けないが、その声には先程までのような苦痛の響きは見受けられない。
一瞬逆上したイオスだったが、その甘いんだか情けないんだか解らない声に、二度茫然と目を丸くした。
ソードは鼻をさすりながら言った。
「どこの子も何も、コイツはコウモリネコだ!」
「猫?!」
「見ろ、この耳とシッポ! こいつ、いきなり襲いかかってきて、俺の右手を切り落とそうとしやがったんだ!」
「あなた、猫相手に何てことを!」
「そーゆー問題じゃねー!」
何とか説明したのはいいが、突然眼前で繰り広げられたあまりに異常な状況に、イオスも何だか混乱している。
「いくら不自由しているからって、動物相手にそんなことをするなんて! 離れなさい!」
「もう入ってんだから無茶言うな!」
「何言ってるんです、まだ服を着ているじゃないですか!」
「これは服じゃねー! 猫の毛だ! 自毛!」
「いいからともかくやめなさい!」
イオスは強引に引き離そうと、ソードの腕をぐいと掴んだ。が、当然ながらソードは応じず、その手を乱暴に降り払う。
「冗談じゃねー! もうちょっとでイクとこなんだから邪魔すんな!」
「あなたと云う人は!」
「人じゃねー!」
お決まりのセリフを返しながらも、ここまで来たら止められない。ソードは猫娘の腰を抱き込み、再びガツガツと突き上げ始めた。ぐったりしていた猫娘が、動きに押されて『ニャッ、ニャッ』と云う断続的な声を上げる。
「ソード!」
イオスは何とか引き剥がそうと、羽織ったままだったパジャマの襟をぐいと掴んで引っ張った。それに負けまいとソードが奥へとずり上がる。
何かタイミングが良かったのか、それともいい加減限界だったのか。そうして深々と突き上げられた時、猫娘がひときわ高い鳴き声を上げ、ふるふると震えてきつくソードを締め上げた。
「うわ‥‥ッ」
今までにない予期せぬ反応に、邪魔が入って塞き止められていた快感が腰の奥から突き抜ける。
次の瞬間、襟首を掴まれた勢いのままにソードはのけ反り、思う存分猫娘の中に溜まっていた欲情を吐き出した。
‥‥そうして、荒い息遣いだけがこだまする、しばしの凍ったような沈黙の後。
「あー‥‥‥すっきりしたー‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥何てことを」
ソードの襟首を掴んだまま、開いた口が塞がらないイオスは、しばし茫然と立ち尽くしていた。
やがてソードはもそもそと身体を引き離し、猫娘の頬をぺちぺちとはたいた。
「おーい、生きてるかぁ?」
「‥‥ソード。せめて前くらいしまったらどうなんです」
「‥‥‥‥るっせえなー」
悪態をつきながらも何となく、自分の身の危険を案じて、パジャマの前をかき寄せる。
「おい、ネコ。起きろ。終わったぞ」
身も蓋もない言い方だが、ソードと云うのはこう云う奴である。
ぽすぽす、ぺしぺしとゆすられはたかれ、ようやく猫娘は目を開けた。少しの間、ぼーっと座った目でソードを見返し、傍らに立っているイオスの姿に、ようやくはっとして正気を取り戻す。
「う‥‥ウニャ~~~!!」
「あ、あの‥‥大丈夫ですか?‥‥」
泣き出してしまった猫娘に、イオスが恐る恐る呼びかけたが、当人(猫)はそんなものに耳を傾ける余裕はない。
「ひ、ひどいニャ、ひどいニャ~! 発情期もまだニャのに~! 四回もナマで中出しするニャんて~~!!」
「‥‥そんなに溜まってたんですか」
「よけーなお世話だ!!」
呆れたような仏頂面で、イオスが冷たく言い放つが、その内容はまだ混乱気味だ。問題はそう言うことではない(筈だ)。しかし、そんな論旨のズレに気付くようなソードではない。
「大体そーゆーテメーはどーしてるんだ! 前に俺とヤッたのずいぶん前だし、神無の身体の方がよっぽど場数踏んでた筈じゃねーか! 今頃相当タマってんじゃねーのかァ?!」
「私はあなたと違って、もう身体機能のコントロールが出来るようになりましたから。あなたもいい加減、その身体を使いこなせるようにならないと――」
「ひ、ひどいニャ~! 実はホモのくせにあんなことしたニャんて~! しかも天使と出来てたニャんて~!! 魔界に帰ったら言いつけてやるニャ~~!!」
「だ――ッ! やかましい!」
ステレオのように左右から責められ、ソードは何度目かにブチ切れて叫んだ。
「大体ケダモノのくせに人型になるんじゃねー!イヤなら猫に戻ればよかったんじゃねーか! てめーだってちゃんとイッたんだから文句ゆーな!」
猫娘は涙に潤んだ目で、ぱかりと口を開けてソードを見た。ぷるぷるとかぶりを振りながら、怯えたように後ずさる。
「あの‥‥」
見かねたイオスが割って入ろうとしたその瞬間、
「オニ! アクマ! ケダモノ~~!!」
猫娘は泣きながらそう叫ぶと、窓を開けて外へ飛び出し、猫の姿に戻って飛び去っていった。
「あっ! チクショウ逃げやがった!」
ソードは窓から身を乗り出した。
「悪魔はホントだが鬼じゃねー! ケダモノはテメーだ-!」
「そう云う問題じゃないでしょう、全く‥‥」
ソードの隣で、イオスは思わず頭痛をこらえるポーズになって言った。
「いくら悪魔だからって、ネコにまでケダモノと言われるなんて、あなたと云う人は‥‥」
しかしソードは聞いていない。コウモリネコの去っていった夜半の星空を見上げながら、ふるふると拳を握り締める。
「あいつめ、最初から卵が狙いだったにちげーねえ! 助けたりしてだましやがって!『言いつける』って言ってやがったな。一体誰の差し金であんなことを!」
「‥‥誰かの差し金じゃなくたって、あんなひどい事をされれば、これから積極的にあなたを狙ってくるでしょうねえ‥‥」
「さっきから何が言いてーんだテメーは!」
噛みつかんばかりの勢いで、ソードはくるりと振り返る。が、
「‥‥パジャマの前が開いてますけど」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥だから何だってんだよ」
妙に冷静に言ったイオスの視線が、ソードの脳天からつま先までを、やけに念入りに行き来する。
‥‥ソードは何となく後退った。と同時に、ふいとイオスが前に進み出て、
「‥‥すみません、急にコントロールが利かなくなってしまいました」
「あぁ?!」
驚いて叫んだ時は既に遅く、ソードはやおら背後のベッドにぽんと放り出されていた。
「テメー、急激に何しやがんだ?!」
「時々調整が上手くいかなくなると、神無さんの深層意識に操られてしまう事があるんですよ。‥‥今回は寝不足のせいでしょうか」
言いながらも、イオスはさっさとソードのパジャマをはぎ取って、慣れた手つきでやけに濃い愛撫を施し始める。
「ちょっと待てぇー!!」
「待てません。そのうち私の意識もなくなりますから、あとは頑張ってください」
「何を頑張るんだ何をー!」
「今日はちょっと反応が鈍いですねえ‥‥ネコなんか相手にするからですよ」
「んッ、あァ‥‥っ!!」
猫を相手に消耗した身体も、天使の力にはなす術もない。
そうして、美しい星空のよく見える、ベッド脇の窓も開けっぱなしのまま、天使と悪魔の夜は更けていくのだった‥‥。
それから適当な後日のこと。
「――ソード、覚悟するニャ!」
今度はちゃんと服を着た猫娘が、やおらソード(及びイオス)の前に立ちはだかった。
「何が覚悟だこのバカ」
「頭をポンポンするニャ! ‥‥今日こそは恐ろしい目にあわせてやるニャ!」
「‥‥あのなあ」
うんざりして二の句が告げないソードの前に、猫娘は不意に何かを差し出した。
‥‥それを見た瞬間、ソードとイオスは目が点になった。
宅配便の空箱に、およそ生後一カ月とおぼしき、ぽわぽわした毛並みの子猫が六匹、ミイミイ鳴きながらもそもそしている。
その柄はブチ×2、虎ジマ×2、三毛、黒と、何の脈絡もない不統一さだ。
「なんか可愛いですねえ」
妙にのんびりとイオスが言い、指先で子猫をあやし始める。
ソードはしばしの沈黙のあと怒鳴った。
「‥‥‥‥‥これが一体どう恐ろしいんだ!」
「ニャフフフ」
猫娘は変な笑いで口の端を釣り上げた。
「聞いて血も凍るほど驚くニャ!‥‥この子猫達はオマイの子供ニャ!」
「なに――ッ?!」
「この前の四回が大当たりニャ!」
「ちょっと待て! それで何で六匹もいやがるんだ!!」
「ブチ柄とトラジマは一卵性の双子ニャ」
「そっか、なるほど。‥‥じゃねー!」
一瞬納得しかかったソードは、ハタと気付いて牙を剥いた。
「ネコと人間じゃ子供なんか出来るわけないじゃねーか!」
「人間の身体に入ってても魔族は魔族ニャ。出来る時は出来ちゃうニャ~」
「嘘つけー!」
「ホラ、この子達の牙はソードとおそろいニャ。間違いなくソードの子供ニャ!」
「‥‥猫って、最初から牙のある生き物じゃありませんでしたか?」
「と、ともかく、チチオヤはちゃんと面倒見るニャ!」
イオスの突っ込みに汗を飛ばしつつ、ソードに箱を押しつけると、猫娘は脱兎のごとく去っていった。
後には猫入りの箱を抱えて、茫然と立ち尽くすソードと、その姿を見つめるイオスが残るばかり。
そのイオスが、不意にぽん、とソードの肩に手を置いて一言。
「‥‥あなたもとうとう父親ですねえ」
「ちょっと待てぇー! 信じるのかテメーは!」
「大丈夫ですよ、お父さんには拾ったと言って上手くごまかしておいてあげますから」
「そーゆー問題じゃねー!!」
「まさか自分の息子が、猫を相手に子供を作ってしまったなんて知ったら、さぞかしショックを受けるでしょうからねえ」
「だから違うだろーが! 聞けよ人の話!」
ジタバタしているソードを後目に、イオスは猫入りの箱を受け取り、さっさと段取りを組み始める。
「コウモリネコがナナですから、この子達には一から六までの番号で名前をつけたいですねえ。お父さんと相談しないと」
「お、お前はそれでいーのか?! 本当か?! おい!!」
「いいも何も、自業自得じゃないですか。子猫のご飯とか予防注射とかは、あなたのお小遣いから出して下さいね」
「ちょっと待てぇー!」
「自分の子供じゃありませんか。ちゃんと面倒見るんですよ」
にこやかに言いながら踵を返し、ソードにくるりと背を向けたイオスは、箱を抱えて笑いをこらえた。
勿論イオスも、子猫=ソードの子供説を、本気で信じているわけではない。
だがしかし、ソードの素行を考えるに、今のうちお灸を据えておいた方がいい。
ソードがこれに懲りるかどうかは、神様も知ったことではないが、とりあえず、 コウモリネコはこれ以降、ソードの前での変身には、必ず服を着て現れるようになったのだった。
―― 「Love Is Zoophilia」 END ――
(発行・1998.11.08 再録・2005/11/16)