◇ Sweet&Sweet ◇
「――おいネコ、コンビニ行って来い」
日向でゴロ寝していたコウモリネコは、ややうんざりして目を開けた。
「日曜日なんニャから、自分で行けばいいのにニャ~」
「暑いから嫌だ」
「胸張っていうニャ! そんなんあちしだって嫌ニャ!」
「双魔の身体がひ弱すぎるのが悪ィんだよ!」
「――まあ、確かに、ここのところの悪天候で、連日寒暖の差が激しいですからねえ‥‥ソードも悪魔のくせにデリケートですし」
「デリケートゆうな!」
洗濯物の山を抱えて、通りざま痛いところを突いたイオスに、反射的に食ってかかる。が、
「はいはい、いいからどいて下さい。ずっと雨で、今日は干すもの多いんですから」
「おわッ」
食いついたソードをコロリといなして、イオスはさっさと庭へと向かった。
コウモリネコがのほほんと呟く。
「主夫は強しニャ~」
「‥‥ワケわかんねーこと言ってねーで行って来い!」
「でも今仕事中ニャ」
「仕事ォ??」
いぶかしげなソードの問いに、コウモリネコがそっと向きを変え、寝返りを打つようにして腹を見せる。
‥‥白い腹の毛並みの中に、本来の肉体から分離した、手乗りサイズの双魔(の魂)が埋もれていた。
「あ、見つかっちゃった」
「‥‥何やってんだテメーは」
「僕、いっぺん野生動物のでっかい敷物に寝転んでみたかったんだよね~」
双魔はふかふかを堪能するように、猫の腹でころころと転がった。
「ほら、昔の冒険映画とかに出てくる、トラとかライオンの頭がついたまんまの、一匹丸ごとの毛皮ってあるじゃない?あんな感じでこう、ごろごろ~って。あと、このサイズでナナちゃんに乗ると、気分は正にインドのトラ狩り! ソードさんもケルベロス飼ってたんだから解るよね、この気持ち!」
「‥‥てえい! 暑苦しい!!」
「あっ」
ソードは双魔(小)を猫から引っぺがし、ぽいと虚空へ放り投げた。
「な、何するニャ!」
「ひ、ひどいよソードさん~」
「この暑いのに毛皮になんか埋まってるんじゃねー!」
「そ、そんなこと言われても~」
「テメーもだ! すっかり家ネコに成り下がりやがって!」
「そんなこと言われてもニャ~」
とか何とか、同じセリフを口にしながら離れようとしない双魔とネコに、こめかみでプツリと何かが切れる。
「‥‥刈るぞ!」
「ヴニャッ?!」
「夏向きに刈ってやるその毛皮!」
「あああ、やめてソードさん~、憩いの毛皮なのに~」
「五分刈りに――いや、いっそビキニにしたらどうだ。涼しいぞきっと!」
「そ、そんなん恥ずかしいから嫌ニャ~!」
「乳の数はあるけど量はねえしな。せめてもっと露出増やして、色気のひとつも出さねえと!」
「駄目だよソードさん、猫は乳首の数が多いんだよ。ビキニにしてもブラが三段必要だから、結局ワンピースと同じくらいの面積に――」
「そ、そういう問題でもないニャ、双魔!」
「じゃあ下の乳の分は、ハート形にでも刈り残してみるか」
ごそごそと手近な刃物を探しながら、ソードの口元にいかにも人の悪い笑みが浮く。
「それはビキニよりもっと嫌ニャ~~!!‥‥てゆうか、ナゼそこでくだものナイフを出すニャ?!」
「カミソリが見当たらねえからな」
「そんニャ大雑把ニャ!」
「どうせならビキニも思いっきりハイレグがいいよな、ガーベラの戦闘服くらいの」
「でも、今どきはハイレグよりローライズが流行りなんじゃないの? セパレートだって、主流はビキニよりタンキニみたいだし」
「『ろーらいず』?『たんきに』?‥‥何だそりゃ」
「ローライズはほら、おととい七海ちゃんが着てた」
「お、あのケツが半分出るやつか。‥‥あれもいいな」
「半分て、それはソードさんが引っ張ったからでしょ。それで七海ちゃんに殴られたんじゃない」
「そうニャ、断固拒否ニャ! あちしがソードの前でそんなの着てたら、オシリ半分じゃすまないニャ~!!」
責めるような双魔の視線がじとりとソードに向けられる。
「ソードさん‥‥まだナナちゃんにそんなことを‥‥」
「な、何だよ」
「ソード‥‥本当ですか、それは」
「うお! どっから出てきやがったイオス!」
「洗濯物を干し終わりましたから。‥‥それより、こんないたいけな動物相手に、まだそんな無体を行っていたんですか、あなたは!」
「本当ニャ‥‥この前もソードは、マタタビをくれて油断させておいて、酔っぱらったあちしを無理矢理~(涙)」
よよと泣き崩れるコウモリネコに、ソードが汗を飛ばして地団駄を踏む。
「あ、あれはテメーが股おっ広げてゴロゴロ転げ回ってるからだ! 据え膳だ! 男として不可抗力だ! それにあの分の報酬は、後でちゃんとモンプチで払ったじゃねーか!」
開き直り気味のソードの発言に、コウモリネコの毛並みがぼわりとふくらんだ。
「あ、あのモンプチはそーゆー意味だったのニャ?!」
「そーだ! 立派な取引成立だぞ!」
「ひ、ひどいニャ! てっきりごはんだと思ってたのに、実はモンプチ売春だったニャんて~!!」
「そうだよ、いくら後でモンプチあげたからって、同意がないうちにヤっちゃうのは犯罪だよソードさん! ひどいよ、僕のナナちゃんに~!」
「誰がテメーのだ!? シバから預かったんだからコレはオレ様のだ!」
「‥‥いや、問題はそういうことではなくてですね。ソード、私というものがありながら、さらにネコにまで手を出すなんて――!!」
「だ――ッ、暑苦しいからよせ~~!!」
問題がすり替わりつつある天使の悪魔のやりとりに、双魔とコウモリネコは顔を見合わせ、二人で大きく溜息をついた。
「‥‥ナナちゃん、買い物行って来る?」
「そうしようかニャ‥‥」
「――てえい、離せイオス!」
詰め寄っていたイオスを何とか振り払い、ソードはコウモリネコの方へと向き直った。
「よし、行って来い! メモはこれ、金がこれだ!‥‥間違うなよ!」
「解ったニャ、行くニャ。‥‥まったく猫使いが荒いったらニャいニャ~」
小声でブツブツ言いながら、コウモリネコはメモと二千円札を胸元にしまい、のそりと四つ足で立ち上がった。
「‥‥おい」
「何ニャ。まだ何かあるのニャ?」
「‥‥今、毛皮のどこに金とメモしまった?」
「‥‥それは秘密ニャ」
そしてしばしの後、人の姿に変身したコウモリネコが、コンビニの袋を下げて帰ってきた。
「ただいまニャ」
「お、早かったな――」
「あ、ナナちゃんお帰り! 大丈夫だった?」
頭を撫でようとしたソードの横を、双魔が空中でパタパタと追い越し、コウモリネコの肩にはしっと飛びつく。
「大丈夫ニャ。あちしは有能な使い魔だからニャ~」
グローブのような猫の手で、小さい双魔をぽすぽすしながら、コウモリネコはソードに袋を差し出した。
「ほら、買ってきたニャ。頼まれたハーゲンダッツとフォションのアイスと、ミニストップのパフェ。で、お釣りニャ」
「釣りはやる。駄賃だ」
「え、ほんとニャ?」
「‥‥それと、これも一個やる。ありがたく食え!」
ソードはガサガサと袋の中からアイスを一個取り出して、ポンとコウモリネコの手元に放った。
いつの間にか、ソードの肩の方にちょこんと乗って、双魔がつんつんと頬をつついてくる。
「ソードさん、優しい~」
「馬鹿いえ。使い魔への当然の報酬だ!」
「またまた、照れちゃって~」
「そんなんじゃねー!」
小さい双魔を鷲掴みにして、そのまま第一球を振りかぶる。
「あああ、投げないで投げないで~」
そんな二人のやりとりをよそに、コウモリネコはしばらくぽけっとして、渡された小銭とアイスを見ていた。その猫口に、やがて満面の笑みが沸き上がる。
「ありがとニャ~! ソードもけっこー優しいニャ!」
「おお、オレ様は鷹揚な悪魔だからな!」
と胸を張ったソードの横を、コウモリネコはトコトコと駆け抜け、
「――双魔、アイスもらったニャ! 半分こして一緒に食べるニャ~」
「わーい、それいいね♪ このサイズだと、気分はバケツアイスだよ!」
拍子抜けしたソードをよそに、一人と一匹は連れだって、うきうきとダイニングへ消えて行った。
呆然と残されたソードの肩を、イオスがぽん、と叩いて一言。
「ソード‥‥ちゃんと表現しないと愛は伝わりませんよ?」
「な、何のこった! 訳わかんねーこと言ってんじゃねー!」
「全く、不器用な上に素直じゃないんですから‥‥」
「やかましい!」
「マタタビだって、ほんとは単に喜ぶかなあと思ってあげたんでしょう?」
「う‥‥」
「それで勢いで余計なことまでしちゃうところが、いかにもあなたらしいですけどねえ」
「何が言いてーんだ、テメーは!」
「愛情表現が屈折しすぎなんですよ、あなたは。ちょっと気に入ると、すぐ喧嘩売ったり意地悪したりするんですから」
「よけーなお世話だ!!」
イオスはくすくすと笑いながら、空の洗濯バスケットを持って踵を返した。
「あ、コラ待て!」
「はいはい、そのうちまた決闘しましょうね」
「何なんだ一体――!!」
「? どうかした、ナナちゃん」
ファーストフードのコーヒー用マドラーを極小サイズのスプーン代わりに、苦労してアイスと格闘していた双魔は、ふいと目を上げて小首を傾げた。
耳をひくつかせていたコウモリネコが、ぼわりとしっぽを太くする。
「ニャッ、ニャんでもニャいニャ!」
と言い張ってはみたものの、ただでさえ鋭い猫の聴力に加え、ソードの大声はよく通る。
『何が言いてーんだ、テメーは!』
『愛情表現が屈折しすぎなんですよ、あなたは――』
「ウ~~‥‥‥‥」
「‥‥ナナちゃん、耳動いてるよ」
「ニャッ!」
慌てて耳を抑えたコウモリネコに、双魔はまあいいけど、と再びスプーンを振りかぶり、
「あとでソードさんに代わってもらうから、一緒に川の方行こうね」
「川? 何があるニャ?」
「七夕だから、笹を取ってきてくれって頼まれてるんだよね。お父さんそういうの好きだから」
「タナバタ‥‥そう言えば、そういう情報も集めたような気がするニャ‥‥人間界の季節の行事ニャ?」
「うんそう。アイス食べたら行こうね」
「ん~‥‥わかったにゃ」
頷きながらも、何か考えるようにしっぽをパタパタさせていたコウモリネコを、双魔はしばし不思議そうに見ていたが、やがて溶け始めるアイスを前に、それどころではなく忘れてしまった。
そして夜。
「‥‥ったくよー、なんでオレ様がこんなことしなきゃならねーんだか」
双魔とネコが取ってきた笹に、意味も分からず飾り付けをさせられながら、ソードはブツブツと文句を言った。
同じく飾り付けを手伝いながら、イオスがやけに楽しげに答える。
「だったらあのまま、双魔くんを出しておけば良かったじゃないですか」
「いや、晩メシはあくまでオレ様が食う!」
「じゃあ、まあいいじゃないですか。人間界には色んな風習があるんですから、それを楽しむことにしましょう」
双魔が書いたらしい、『国書刊行会のク・リトルリトル全集を集める!』とか、父が書いた『家内安全』という札を見ながら、イオスはちょっと苦笑しながら答える。
「あなたは願い事とか書かないんですか?」
「バカこけ、こんな紙切れに書いたってどうにもなりゃしねえじゃねーか。ボーっと待ってねえでテメエの力でどうにかした方がよっぽど早いぜ」
「はは、あなたらしいですね」
「‥‥つーか、このヘタクソな字の『モンプチ金缶』って札は何だ、おい」
「うーん‥‥猫の幸せって簡単そうですね‥‥」
イオスは返答に困ったように、汗を浮かべて苦笑した。
と、その時。
「――ソード、こっち向くニャ!」
「あ? 何だ、今までどこ行ってやがった、ネコ」
不意に聞こえたコウモリネコの声に、言いながらソードが振り向いたその瞬間!
「エイ!」
「うわッ?!」
どこか間抜けな気合いと共に、人間に変身したコウモリネコが、何かをぐいと突き出した。それが何なのか、ソードが気付いた時は既に遅く、
「あ‥‥あれ??」
「あ、ソード!?‥‥」
呆然とするイオスの前で、封印の眼鏡が発動し、ソードは双魔と入れ替えられてしまったのだった!
「ニャフフフフ」
呆然とする二人の前で、コウモリネコは得意げに笑った。
「あちしだってやる時はやるニャ~。これで邪魔は入らないニャ!」
「えーと‥‥て言うか、ソードさんじゃなく何か僕に用なの? ナナちゃん」
「そうニャ」
コウモリネコはえっへんと胸を張り、次いでごそごそと背後を探ると、何かの包みを差し出した。
「あげるニャ。‥‥双魔にニャ!」
「え‥‥ありがとう。‥‥でも、何?」
双魔は呆然としたまま包みを受け取り、だが、答えぬネコの目線に促されて、パリパリと可愛いらしいラッピングを解いた。
やがて中から現れたのは、町内のケーキ屋のチョコトリュフと、何故かハーシーの大きな板チョコ。
「えーと‥‥」
「今日は七夕ニャ。‥‥人間界では、サマーバレンタインともいうニャ!」
「サマーバレンタイン‥‥」
そんな、デパートのバーゲン戦略じゃないんですから、と咽喉まで出かかった一言を飲み込み、イオスは努めて温厚に聞いた。
「ま、まさか‥‥それもシバからの命令じゃないでしょうね?」
「違うニャ。‥‥シバ様には、これを報告する暇はなかったニャ‥‥」
「そ、そうだね、それにシバさんからじゃ、僕に宛てられるはずがないし!」
かつての日々を思い出してか、しゅんとしてしまったコウモリネコに、双魔が慌ててフォローを入れる。
ネコははたと我に返って、再びぴんとしっぽを立てた。
「そうニャ、これはあくまでもあちしから、いつも優しい双魔へのプレゼントニャ~」
「そっかあ‥‥ありがとう、ナナちゃん」
双魔は改めて笑顔を浮かべ、ネコの耳の間をするすると撫でた。
「ここのチョコ、結構高いのになあ‥‥わざわざお小遣い溜めてたんだ?」
「そうニャ、ソードのパシリでちょっとずつ小金を溜めたニャ」
「でも、なんでハーシーの板チョコまでついてるの?」
「ウ‥‥」
コウモリネコはちょっとだけ、ばつが悪そうに言葉を濁し、爪の先で絨毯をこりこりと掻くと、やがて勢い込んで口を開いた。
「こ、これはあくまでも双魔にニャ!‥‥でも、余ったらソードにもあげていいニャ‥‥ちょっとだけニャ!」
イオスと双魔はきょとんとして、だが、顔を見合わせて、ふと笑いあった。
「ああ‥‥なるほどねえ‥‥」
「なんだかんだ言って、ナナちゃんもソードさん好きだもんねえ」
「ウ~~‥‥」
「おやつ分けてくれるし、お駄賃もくれるし」
「で、でもパシリは不本意ニャ! モンプチ売春もお断りニャ! マタタビ昏睡ゴーカンも駄目ニャ!」
「まあ、そこらへんはソードさんだからねえ‥‥」
「ええ、悪魔ですしねえ‥‥」
「なんでそんなことに寛容ニャ、おまいら!」
ジタバタと汗を飛ばして訴えるコウモリネコに、イオスと双魔は困った笑みを浮かべて顔を見合わせた。
コウモリネコもつられたように、何だか困ったように俯いて呟く。
「そんニャだけど、それでもソードはシバ様が見込んだ悪魔ニャ‥‥あちしもちょっとは世話になってるニャ‥‥ほんのちょっとだけど、恩は返すのが使い魔の流儀ニャ!」
ジタバタと言い張るコウモリネコの背を、イオスはぽんぽんと優しく撫でた。
「まあ、出来る範囲では言って聞かせますから、勘弁してやって下さい」
「それしかないよねえ‥‥とりあえずは、チョコいただきまーす♪」
双魔が目の前のチョコトリュフを、一粒口に放り込む。
「う、うまいニャ? 甘いニャ??」
「うん、美味しいよ。ありがとう、ナナちゃん」
「よ、よかったニャ~」
ほっとしたように息をつき、コウモリネコもにぱりと笑った。
「ソードさんも、小さいサイズでこれ見たらすごいだろうね! ベッドのような板チョコと、クッションみたいなトリュフだよ!」
「あり? ‥‥そう言えば、ソードは小さくなって出てこないニャ?」
きょろきょろと辺りを見回しても、手乗りサイズのソードの姿はない。
「交代じゃニャく、眼鏡で封印されると出てこニャいのかニャ‥‥」
「いえ‥‥あれは、パワーアップしたソード相手に、もうそこまでの拘束力はないはずですが‥‥」
「‥‥きっと照れてるんだよ、ソードさん」
トリュフをはむはむと頬張りながら、双魔は脳天気に笑って答えた。
「悪魔のくせに、ソードさんたらシャイなんだから~」
「――誰がシャイだ!!」
「んわッ!」
いきなり響き渡る怒号と共に、チョコを口に運ぼうとしていた双魔の手の甲から、にゅいっとソードが飛び出した。その勢いのまま、強烈なアッパーが双魔の顎にヒットする。
「‥‥い、痛い‥‥」
「やかましい! 好き勝手なこと言いやがって!」
「でも結局は照れてたんでしょ」
「まだ凝りねえのかテメーは!」
「わ~、やめて~~」
「――あれ? そう言えばコウモリネコは‥‥」
イオスの呟きに、双魔とソードもぴたりと動きを止め、きょろきょろと視線を走らせる。
と、窓辺でバサリ!と羽音が聞こえた。皆が一斉に見やると、猫姿に戻ったコウモリネコが、今しも飛び立とうとしているところだった。
「あ、ナナちゃん、どこ行くの?」
「ちょっと散歩してくるニャ。‥‥あくまで散歩ニャ!」
それ以上追求されてはたまらない、と言う風情で、コウモリネコはあたふたと飛び出し、夕暮れの空へと消えていった。
「コラ! 逃げるんじゃねー!!」
「まあ、いいじゃない、ソードさんと二人、照れ屋同士なんだし」
「何だかねえ‥‥みんな結構純真なんですねえ」
「誰が純真か!」
「別にあなたのことだとは言ってませんけど?」
「うッ‥‥」
開け放した窓から風が吹き込み、さわり、と音を立てて笹の葉が揺れた。
はためく短冊と笹の葉に、何となく皆がふっと黙り込み、夜に染まりかけた空を見上げる。
「‥‥ナナちゃん、意外と屋根の上にいて、ぼーっと時間潰してたりしてね」
くすっと笑った双魔の言葉に、小さいソードがぽかりと双魔の脳天を叩いた。
「わッ」
「いるんなら早く帰ってきて眼鏡取れ! メシが腹一杯食えねーじゃねーか!」
「な、何もそれで僕を殴らなくても~」
「まあ、いいじゃないですか。たまにはそのサイズで、巨大な料理を堪能したらどうです?」
「そーゆー問題じゃねー!」
「まあまあまあ、すぐに支度しますから――」
‥‥‥‥‥‥。
「‥‥やっぱり無駄に大声ニャ、ソードは」
屋根の上で、コウモリネコがかふっとあくびをして呟いた。
笹の葉さらさら、夏の宵。
―― 「Sweet&Sweet」 END ――
(発行・2002/08/09 再録・2006/09/06)