◇ 騙されソードと双魔の逆襲 ◇



前提:GUMMIXとは。
(リアル昆虫ではなくグミですが、見た目だけでも駄目!って方は画像注意)
 神無が居間を通りかかると、ソードとコウモリネコ(猫型)がだらだらしていた。
「ほら、食え」
 とソードが言い、何かをぽいと放り投げる。
 コウモリネコが目を輝かせた。投げられたものにダッシュで飛びつき、猫の本能全開でじゃれ始める。
 それだけならば何と言うこともない、ごくごく見慣れた日常の風景だ。‥‥ネコが前足でぱしぱしと弄んでいるものが、どこからどう見ても巨大な芋虫―――カブトムシの幼虫であるという一点をのぞいては。
 無言のままに振り返ると、ソードがもぐもぐと同じものを食っている。
「よォ、お前も食うか?」
 言いながら差し出されたタッパーの中には、丸々としたカブトムシの幼虫がびっしりと詰まっていた。
 神無は小さく溜息をついた。
「‥‥この前双魔が作ってたアレか‥‥」
「おお、旨いぜコレ。中になんかプリンっぽいものが詰めてあるんだよな」
「カスタードクリームか?」
「っていうのか? 双魔って凝り性だよなあ」
「‥‥‥‥‥‥」
 ‥‥噛むと中から体液的なものがぐちゃりと溢れ出る幼虫グミ。
 想像しただけでげんなりし、神無は無言で台所に向かった。ソードが平らげていなければ、この前買ってきたハーゲンダッツがいくつか入っているはずだ。
 そうして冷凍庫のドアを引き開けると。
「K」とマジックで名前を書いたアイスクリームのカップの上で、ちょこんと鎮座したアマガエルが、つぶらな瞳で神無を見ていた。
 勿論そのカエルも双魔のお手製だ。色違いのグミ液らしきもので、背中に「僕」と書いてある。
 ‥‥お前か。お前が双魔なのか。俺の弟はカエルグミか。いや違う。
 解ってはいる。いるのだが。
「‥‥‥‥‥‥」
 足元を、幼虫グミを追うコウモリネコがウニャウニャ言いながら通り過ぎていく。
 神無はカエルのグミを取り出し、ネコの目の前でひらひらさせた。動くものに反応して、ネコの視線が右に左にとカエルを追って釘付けになる。
 そのタイミングを見計らい、神無はカエルを居間のソードに思いっきり直球で投げつけた。
 ニャッ!とネコが声を上げ、カエルを追って全身で飛びつく。
「おわッ?!」
 猫ロケットに直撃され、ソードはその場にひっくり返った。ゴンと後頭部を打つ音がする。
 腹の辺りに追突したネコが一瞬あとに我に返り、ぼわりと毛並みを膨らませた。倒れたソードが復活する前にと、慌ててその場から逃げ去っていく。
 台所から居間に戻り、神無は先ほどのカエルを拾ってソードの口に突っ込んだ。
 何だかアイスを食う気も無くし、コンビニにでも行くかと家を出る。
『とにかくもう家や学校には帰りたくない』という尾崎豊の歌詞が浮かぶが、お前んちには天使も悪魔も変身する猫も居無いだろうが。昆虫グミも転がってないし、何の文句があるんだか。と八つ当たり気味に考える。
 げんなりと何度目かの溜息をつき、神無は借り物のバイクで走り出した。

 ‥‥突っ込まれたカエルをもぐもぐと食いながら、ソードが居間で起き上がった。同時に、手乗りサイズの双魔の魂がぴょこりと手の甲から現れる。
「‥‥勝ったか?」
「と言うのには語弊がある気もするけど、気分的には勝ったかも」
「よーし今度からはこの手で行くか!」
「さすがに二度目は通用しないと思うけどなあ」
「いや解らねえぞ。三回くらいは引っかかるかも知れねえ」
「そんな、ソードさんじゃあるまいし」
「何だと?!」
「いいからグミ食べようよ。―――うわー魂サイズで見るとでっかくてグロいなー。ソードさんが戦った巨大ミミズみたい」
「キモいもん思い出させるんじゃねーよ!」
「でも幼虫グミは平気なんだ?」
「お前こそ」
「実物のセミとかアレとかコレとかに比べたらどうってことないじゃん。所詮グミだし、完全ハンドメイドで安全だし、幼虫はヤクルト味で、カエルはメロン味だよ?」
「‥‥‥‥」
 ‥‥セミ食ったことあんのか。つーかアレとかコレって何だ。‥‥聞くに聞けねえ。
 と苦悩しているソードの膝で、小さい双魔がにこりと笑った。
「グミ美味しいでしょ?」
「‥‥ああ」
 何だか微妙な空気のまま、幼虫グミを食うソードと双魔であった。
(2010/07/24日記)

いじめられっ子はリアルでヤバいものを食わされたことがあるので、意外と感覚が麻痺しています。という微妙な裏話。
(だから神無がカエルグミを口に突っ込むとかはソード限定の嫌がらせで、双魔相手だと出来なかったりする。<何がトラウマスイッチ押すか解らないから)