◇ 裏暗黒魔闘術があったらば ◇



 ある日天野家の裏庭で、蜂の巣が複数見つかった。
 駆除業者を頼もうかと苦悩している父に、神無が一言。
「あんなもん、殺虫剤ぶっかけて散らしてから、高枝切り鋏で取りゃいいだろうが」
「え、ずっと前にお父さんが通販した高枝切り鋏が初めて役立つ日が来たんだ?」
「ああッ、双魔までそんな冷たいことを! 父は、父はー!」

 などと涙目の父を後目に、裏庭に来た神無と双魔。
 物置の軒下を見上げると、直径5センチから10センチあまりの蜂の巣が8個ほど点在し、それぞれに蜂が群がっている。殺虫剤を噴霧しようにも、そのままでは手が届きそうにない。
「脚立も要るな。持ってくるか‥‥」
「あ、ちょっと待って。脚立とか無くても大丈夫、僕やるよ!」
「どうやってだ。‥‥というか高枝切り鋏以上の何が出来るんだ、お前に」
「ええーひどいよ神無」
「お前昔、柿取ろうとして木から落ちた上、側にあった蜂の巣つついて刺されまくったことあっただろ」
「詳細な解説にあの日の記憶が藤子不二雄先生の絵柄で蘇っちゃったよ!‥‥いいから任せて」
「‥‥‥‥」
 のび太と双魔の類推について神無が考えているうちに、双魔はゆっくりと深呼吸、魂の力を集中する。
「裏暗黒魔闘術ーーー!」
 ソードの紋章が刻印されたイングラム似の銃が顕現し、目映い火線が迸る!
 炸裂音が立て続けに響き、軒下の蜂の巣が次々と爆裂した。直撃を免れた生き残りの蜂も、突然の襲撃に右往左往、群れる余裕もなく飛散していく。
「やったあ、全弾命中ー!」
「お前、意外とこういうの得意だな‥‥」
「ガンシューで鍛えてますから! バーチャコップとかHOUSE OF THE DEADとかデスクリムゾンとかー」
「‥‥‥‥‥‥」
 何でセガ系のレトロゲーばっかりなんだ。というか最後のそれはデフォで照準狂ってる伝説のクソゲーじゃねえか。それで何がどう鍛えられたんだ。
 ‥‥と言いたかったが面倒で、神無は溜息をついて踵を返した。
「あ、待ってよー」
「‥‥喉渇いたからアイス買ってくる」
「アイスいいなあ。せっかくだから僕も行くよ!」
 ‥‥それで赤い扉を選ぶのか。と突っ込むのもやっぱり面倒で、神無は再び溜息をついた。
(2010/07/19日記)

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全くオタっ気の無いヤンキーでも、兄弟の趣味には否応なしに詳しくなってしまいます、という話。