◇ 映画はお前と見たくない ◇
TVの中では、最終ラウンドを迎えたロッキーがチャンピオンの連打を浴びていた。
ジャンケンで負けた方が小遣いを出してDVDを借りてくる、というのが、天野家の双子の風習だった。ただし、借りるものの選択権は負けた方にあるので、どちらが得なのかはよく解らない。
今回の勝負は神無の負けで、選んだのは「ロッキー」の一作目だった。
一緒に見ているイオスとソード(手乗りサイズの魂状態)は勿論初見だ。が、双魔は何度も見ているらしく「これもう飽きたよ‥‥次のシーンのセリフ覚えてるほど見たよ」とぼやいていた。
ともあれ映画はクライマックスに近付き、試合終了。勝敗は判定にもつれ込む。
暗記するほど見た映画だが、それでも神無は画面に見入っている。傍らに置いたコーヒーカップを取るのも手探りだ。その横顔をチラと見て、双魔は再び画面を見た。
インタビューアーを無視して、会場内にいる恋人・エイドリアンを探すロッキー。そしてロッキーと言えば取り上げられる「エイドリアーーーン!」という絶叫のシーンで、タイミングを計った双魔が一言。
「ダルメシアーーーン」
‥‥思わず噴きかけたコーヒーを、神無は必死で飲み込んだ。が、咽喉から妙な音が出る。さすがに少し噎せたらしい。しかし双魔的には失敗らしく、「やっぱりエビドリアかなー」と残念そうに言った。
「‥‥そのネタはもう古い」
「だから変えてみたんだけど、やっぱり定番ネタの方が確実に」
「そう何回も引っかかってたまるか」
「あ、次はぼく『101』見たいなあ」
「‥‥断る」
「ええー。神無ブチ嫌い?」
「‥‥犬のガラの問題じゃない」
‥‥などと揉めている兄弟の横では、
「なァイオス、ダルメシアンって旨いのか? ファミレスにあるか?」
「いや、それは食べ物じゃないと思いますよ‥‥多分」
「多分かよ」
「だって映画の内容からして人名でしょう?」
「そうなのか? エビドリアは食ったことあるぞ」
と、人間界のギャグが解らぬ天然仕様の天使と悪魔が、「ダルメシアン」についてボソボソと模索していたのであった。
(2010/12/29冬コミペーパー)