◇ 器用と不器用の境目編 ◇
「あ、コーヒーなら僕が淹れるよ、部屋で待ってて」
「‥‥‥‥大丈夫か?」
「何その疑惑の視線」
「‥‥じゃあステンレスの蓋付きサーモマグで持ってきてくれ」
「‥‥‥‥(運搬におけるどんな大惨事を想像されてるんだろう‥‥)」
というやり取りの後、神無が自室への階段を昇ろうとしたそばから、
「わー!」
という悲鳴と共に、バサバサと紙が散る音が。
(ドリップのフィルターを束ごとぶちまけたらしい)
「あああああ!」
という焦った声の後に、ゴン!という鈍い激突音が。
(フィルターを拾いにテーブルの下に潜り込み、立ち上がろうとして頭を打ったらしい)
「いたたた‥‥」
という呟きのすぐ後に、今度はガシャ!と食器の鳴る音が。
(奥にあったステンレスマグを取り出そうとして、手前のカップの山を崩したらしい)
「‥‥‥‥」
このまま佇んでいると「コーヒーの粉をぶちまけて絶叫」とか「お湯をこぼして火傷する悲鳴」とか「淹れたコーヒーを足元にこぼして(略)」までサウンドドラマが進行しそうなので、神無は黙々と二階へ向かった。
階段を登り切ると、双魔の部屋のドアが開けっ放しになっていて、中の混沌が垣間見える。
山積みのガラクタと本の山とゴミ。
その中に点在する、プラモやフィギュアの類がふと目に留まる。
ガレージキットは完璧に組み立てられ、モデルそっくりに着色されている。
大概のメカ物のプラモデルも、盛るだの削るだのでよりリアルさを再現とか、発光ダイオードを仕込んで目からビームだの、そこそこの改造を施してあるはずだ。
どれだったかの怪獣も、「ソーラーパネル式のモーター仕込んだから、明るいところに置くとこのパーツがパタパタ動くんだよ!」と、得意満面で見せられた記憶が―――
「‥‥‥‥‥‥」
「―――お待たせー、コーヒー持ってきたよー」
「‥‥お前は器用なのか不器用なのかどっちなんだ!」
「な、何いきなり?!」
(2011/10/11日記)
普段は有り得ない集中力を、趣味の分野でだけ発揮するのがオタクってもんだよね。