◇ 神双昆虫戦記編 ◇



※ 昆虫ネタ注意 ※

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「起きろ」
 日曜の朝。
 神無は父に頼まれて、渋々双魔を起こしに来た。
 足の踏み場もないゴミ部屋の中、双魔は未だ布団にくるまり「あと五分~‥‥」などともにゃもにゃ言っている。
「早く来ないとお前の分のメシも食っちまうぞ」
 言いながら、ベッドの上にまで雪崩れ落ちている雑誌や何やらを払いのけ、双魔の毛布をべらりと剥ぎ取る。
 と―――
 剥いだ毛布のその下の、双魔を包んだタオルケットの上で、一点の黒い染みが蠢いた。
 本能がざわりと危険を告げた。
 少し距離を取って目を凝らす。
 ‥‥双魔の部屋にはお馴染みの、六本足の黒い悪魔が『コンニチワ』と言いたげにこっちを見ていた。
 さすがに神無の口元が、思わずピキ、と引きつった。
「うー‥‥寒いよ神無ー‥‥」
「‥‥動くな!」
 もそりと起き出そうとした双魔を制し、傍らの「凍殺ジェット」を引っ掴んだ。
 こんなものを常備しているからには、害虫の存在を気に掛けてはいるのだろうが、だったらどうして掃除をしない!
 ―――と怒鳴るのはとりあえず後回しに、ツヤリテカリと移動を始めた黒い悪魔にスプレーを噴射した。
「うひゃ?!」
 タオルケット越しにでも伝わってくるマイナス85度の冷気に驚き、双魔が頓狂な声を上げる。
 構わず、這いずる昆虫を追いかけて、しばし冷気の噴射を続けた。
 魔物が機動を止めたのを確認してから、神無はようやくスプレー缶を置き、タオルケットを剥ぎ取った。
 開け放った窓の外でバサバサと払い、舞い飛ぶ大量の埃と共に、白く凍った死骸を捨てる。
「な、何? 何があったのさ一体」
 目を白黒させている双魔を一瞥し、溜息をついて神無は言った。
「‥‥あと十回風呂に入るまで、お前とはやらねえ」
「何いきなり?!」
 双魔の問いに答えることはなく、神無は深々と溜息をつき、魔物の巣窟を後にした。
(2011/12/08日記)

‥‥何故こんなネタが出てきたかは訊くな。
(注・ただしGではなかった)