◇ 混沌の薬味邸 ◇



 ある日やってきたガーベラが、みずのを呼び止めて唐突に聞いた。
「みずのさん、DVDプレイヤーって持ってるかしら?」
「居間のテレビにつないでありますけど」
「じゃあちょっと借りるわね。――あ、せっかくだからみずのさんも一緒にどう?」
 と言ってガーベラが差し出したのは、何と部分痩せエクササイズの本(DVD付)だった。
「‥‥ガーベラさん。それ以上、一体どこを減らす必要があるんですか?」
「痩せたいっていうより、これ以上身体がなまるのを防ぎたいのよね。やっぱり処刑悪魔とただの連絡係じゃ、運動量が全っ然。‥‥ねえ?」
 と同意を求められても、処刑悪魔の運動量など想像もつかない。
 困惑に眉根を寄せたままのみずのに、ガーベラがパラパラと冊子をめくって見せる。
「ほら、パーツ別のところに『美乳&背中痩せ』とかもあるし」
「胸はこれ以上増やしたくありません‥‥」
「むしろ引き締まって減るかもよ?(嘘だけど)」
「やります」
「‥‥‥‥(せっかくの巨乳の、何がそんなに嫌なのかしら‥‥)」


「――おーい、みずの居るかー」
 呼び鈴の存在をすっかり無視して、ソードは薬味邸のドアを乱暴に開けた。
「双魔が借りてた本、返しに来たぞー」
 と、いつもの部屋に入ろうとして、

『――胸を張ってー、肩胛骨からぐーっと腕を伸ばして、ハイ右に~、左に~』

 ‥‥ドアの隙間から見えた光景に、ソードは思わず絶句した。
 大型テレビから流れ出す、やたらと明朗な掛け声に合わせて、ガーベラとみずのがウネウネと踊っている。
 いや、それ自体は別にいい。
 だが、見慣れた戦闘服姿のガーベラの横で、真剣な顔をして踊っているみずのが、学校の体操服とブルマの上にいつものマントを羽織っているのは、いくら何でもおかしすぎるだろう――
 固まったままのソードの肩に、誰かがポンと手を置いた。
「――うぉッ?!」
 驚き振り向いたソードの背後で、いわく言い難い渋面のシェキルが、無言のままゆっくりをかぶりを振った。
「‥‥おい、アレ‥‥」
 ドアの向こうを指差すと、シェキルが沈鬱に顔を背ける。
 ‥‥細かい事情は解らぬままに、いたたまれなさだけを共有し、ソードはそっとドアを閉めた。


 余談。
 後で入れ替わって顔を合わせた神無と双魔の会話。
「――という訳で、何がどうというかものすごく衝撃的だったよ‥‥」
「そのくらい黙ってスルーしろ」
「神無は耐性高すぎだよ!」
「妙なものはお前で十分見慣れてるからな‥‥」
「ええー」
(2012/04/19日記)

原作でも、みずのの珍妙な服装に関して毎度突っ込みを入れてるのはソードか七海だけだという事実。
(神無は「本人がいいって言うんだ、問題ないだろ‥‥」と、呆れつつも流している)
兄弟バッドインフルエンス。