◇ 猫を飼っているとありがちな光景 ◇



※ 昆虫ネタ注意 ※

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猫姿のコウモリネコが、路上に佇んで何かを見詰めていた。
通りかかった双魔が気付き、何してるのかなと見てみると。
ネコが見詰める視線の先には、寿命間近と思われる蝉が腹を上にしてひっくり返り、弱々しく節足を動かしていた。
「あー、そろそろそんな時期かあ‥‥」
などと、双魔が「夏の終わり」的感慨に浸っていると、ネコがそーっと前足を伸ばし、むにりと肉球で蝉の腹を押した。
「え?!」
一体ナニを?!と双魔が固まる中、ギュウと押しつけた肉球の下で「ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ッ!」と蝉が鳴き、猫の手を震わせて振動した。
「ニ゛ャッ!」
と毛並みを逆立てて、ネコがパッと手を離す。
蝉はしばらく震えた後、力尽きたように静かになった。
そこに再びネコが手を伸ばした。押すとミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ッ!と蝉が震え、手を離すとまた静かになる。
それを延々と繰り返すネコを、しばし茫然と見やってから、双魔はぼそりと訊いてみた。
「‥‥ナナちゃん、それ、楽しい?」
「楽しいニャ」
くるりと双魔を見返した目は、爛々と光って見開かれている。
「押すと動くのニャ。離すと止まるのニャ。セミスイッチニャ」
「セミスイッチ‥‥」
そういえば遙か子供の頃には、触るとスイッチが入って動く・しばらく動くと自動で止まる、という、電池式の昆虫型おもちゃがあった。神無と二人で代わる代わる、カブトムシとテントウムシの背中を叩いて走らせては、ぶつけ合って一日遊んでいたものだ。
今にしてみれば何が楽しかったのかよく解らない気もするが―――
「うーん‥‥あれって普遍的なコドモ心理だったのかなあ‥‥」
双魔が首を傾げていると、猫がくいくいと袖を引いた。
「双魔もやってみるニャ」
「えー」
気が進まないながらもネコの手に押され、蝉の腹をそっと押してみると、「ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ッ!」という鳴き声と連動した、何とも言えない振動が。
「うひゃ!」
と思わず手を引っ込めたところに、目をキラキラさせてネコが訊いた。
「ビリビリニャ? 楽しいニャ?」
「うーん‥‥むしろセミがちょっと気の毒って言うか‥‥」
何だかそんなに楽しくない‥‥僕も大人になっちゃったのかなー、などと、何となくがっかりする双魔であった。

―――

余談。
両手に何かを包み込み、ひょいと神無に差し出す双魔。
「中身はなーんだ♪」
『ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ーーー』
「‥‥せめて鳴かない虫でやれ」
「(どうしようゴキブリしか思いつかない‥‥)」
「‥‥それやったら殴る」
「うわ、僕らって怖いほど筒抜け」
(2012/08/20日記)

いくらへろへろな受キャラでも、高校生男子が昆虫触れない、というのは多分ない。<そして双魔はきっと、台所昆虫Gも平気で掴める‥‥