◇ 地雷ホワイトデー編 ◇
来たるホワイトデーのお返しに備え、神無と双魔は買い物にやってきた。
人外であるイオスとソードの選択は全く信用出来ない、という身も蓋もない理由によって、二人は中から見ているのみだ。
『いや、双魔よりはオレ様の方がましだ!』とソードには反論されるのだが、正直大差ないと神無は思う。常識そのものを知らないソードと、知っていてなお趣味の悪い双魔なら、双魔の方がましな程度だろう。
―――と、つい今し方までは思っていたのだが。
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
無難な価格の菓子やハンカチ他の小物、アクセサリー等がずらりと並ぶ特設コーナーの棚の前で、双魔がぴたりと足を止めた。何とも奇妙な顔をして、棚の一点をまじまじと凝視する。
「どうした」
何かいいものでもあったのか、と振り返って歩み寄る神無の問いに、
「いや、あの、これ‥‥」
と双魔が指差したものは。
『骨盤矯正ベルト&骨盤パンツ』
という、謎の健康用品だった。
つけまつげ三枚は盛っていそうな黒々と縁取られた濃いアイメイクでパッケージ写真に納まっているのは、女子御用達のカリスマモデルだ。
どうやらこのモデルのプロデュースによる、美容アイテムだと言うことは解るのだが、
「‥‥ホワイトデーと骨盤にどんな関係が?」
「‥‥知るか」
思わず双魔の頭をはたく。
が、どうやら妙な方向から、双魔のオタク魂が揺さぶられてしまったらしい。その場を動く様子もなく、かといって一応は下着のたぐいのせいか、手に取ることも出来ずにパッケージを凝視してぼそりと呟く。
「‥‥骨盤‥‥」
「骨盤くらい俺にもお前にもある。いいから無難なお返しを探せ」
「いやそういう問題じゃなくて!」
「じゃあどういう問題なんだ」
「どういう仲ならこういうお返しが許されるんだろうと思って‥‥」
どうやら誰かにこれを贈ろうと思った訳ではなかったらしい。‥‥と一安心してから、神無も遅れて首を捻る。
確かに、それなりに深い仲なら、プレゼントに下着もあり得るだろう。しかし骨盤ベルトとなると、方向性が全く解らない。何を思っての選択なのかと余計な疑念を生みそうでもある。何の気なしにハンドクリームを贈っただけで、手荒れをチェックされているのかと身構える女子がいるように―――
「‥‥とりあえず俺達にそんな知り合いはいない。だから気にするな」
「気になるよ!」
「‥‥お前、自分が使ってみたいだけじゃないだろうな」
「‥‥‥‥‥‥ちょっと」
「‥‥‥‥‥‥や め ろ」
‥‥俺のせいで腰痛が、とでも訴えたいのかもしかして。
というかすかな疑念を振り払い、拒絶の言葉だけを簡潔に述べて、神無は今度こそ踵を返した。
―――
後で出てきたイオスとソードの会話。
「アレって大リーグボール養成ギブスみたいなもんか?」
「多分違うと思います‥‥というか、どこでそんな言葉覚えたんですか‥‥」
(2012/03/09日記)
(ホワイトデー特設コーナーに骨盤パンツがあったのは実話ですよ)
(何故そんなものをチョイスした、イトーヨーカドー)
(息子からお母さんへのお返しならありかも知れないが、しかし天野家は母不在の男所帯。 神無も双魔もそんな可能性は微塵も思いつかなかったものと思われます)
(何故そんなものをチョイスした、イトーヨーカドー)
(息子からお母さんへのお返しならありかも知れないが、しかし天野家は母不在の男所帯。 神無も双魔もそんな可能性は微塵も思いつかなかったものと思われます)