◇ アイスと双魔の冷たい誘惑 ◇



今日もソードは冷凍庫を漁り、「俺」とマジックで書かれたアイスにわくわくとスプーンを突っ込んだ。
すると。
「――ソードさんってほんっとアイス好きだよね」
何故か楽しげな声がして、スプーンを持った右手の卵から手乗り双魔(魂)が現れた。
「おお! 美味いからな、人間界の冷たいもんは!」
「魔界には滅多になさそうだもんね、こういうの」
「まー貴族とか上級魔族だったら解らねえけどな」
「やっぱそうなの?」
「ああ。氷結系の悪魔とか雇えば、冷たいもの自体は好きな時に食えるだろうが―――こんなうめえもんが作れるかどうかは怪しいな」
言いながら、その辺の箸立てに混ざって刺さっていたファーストフードのコーヒーマドラーを引っこ抜いて双魔に渡してやる。
魂サイズの双魔はそれをシャベルよろしく振りかぶり、全身でアイスを掘り返すようにして、マドラーのアイスを口に運んだ。
「うわー、魂サイズだと味噌汁用のお玉でアイス食べてるみたいだよ!」
「でも魂で出てる方が一緒にもの食ってると、身体の方が腹一杯になるのが妙に早いんだよなあ。あれ何でなんだろうな」
「さあ‥‥あるいはどっちかが食べてれば、片方は何も食べなくてもいいってことなのかも?」
「だったらつまらねーな」
‥‥などという、他愛ない会話を交わしつつ、二人でアイスを食べ終えた頃。
「ねー、ソードさん」
「んー?」
「悪魔の身体に戻って魔界に帰ったら、もうアイス食べられなくなるね」
「え?‥‥あ、そうか! そうだな‥‥」
「でも人間界にいれば、その辺のコンビニでアイス売ってるし、季節を問わず食べ放題だよ?」
「あー‥‥すげーよな、人間界‥‥」
「だからもうちょっと人間界でのんびりしてようよ。僕らが寿命で死ぬくらいまではさ」
「んー‥‥(人間の寿命ってたった百年ぽっちとかだったよなあ‥‥)」
「ねー? 僕も珍しいアイス探していっぱい買ってくるからさー」
「んーーーー‥‥‥‥」
しかしその時。
「‥‥ソード。何を真剣に悩んでるんですか」
眉間に深く皺を寄せたイオス(と、肩口に座って腕組みしている魂神無)が現れた。
「あ」
「おー、お前も食うか? アイス」
「どれだけアイスで頭一杯なんですか」
イオスは呆れた溜息をついた。
「‥‥というかあなた、いま脳内で私との決闘とアイスを天秤に掛けてましたよね?」
「う」
「そして明らかにアイスに傾きかかってましたね?」
「え、いや、そ、そんな訳ねーだろ!」
とか何とか、あまりにも下らないネタで揉め始めた天使と悪魔の傍らで、双魔がふう、と溜息をついた。
「‥‥惜しかったなー」
あと一歩だったのに、という呟きに、ぺしと神無の鉄拳が飛んだ。
「あう」
「どれだけ奴らを引き留めたいんだお前は」
「だ、だってーー!」
「何だかな‥‥」
アイスに釣られるソードもソードだが‥‥と、冷め切った目を向けた先では、天使と悪魔の低レベルな争いが、いつ終わるともなく続いているのだった。
(2014/06/01日記)

(何だかソードがアイスに釣られるアンクっぽい)
(人間界の甘冷たいものって、意外とすごいパワーを秘めているのかも知れない‥‥とちょっと思った)
(そして多分、双魔と神無に寿命っぽいものは訪れないんだよなー‥‥<そのうち書くかも知れないマイ設定)