◇ 暑いと脳味噌が煮えている編 ◇



※前提:コウモリネコのレオタードは服ではなく地毛。
ある暑い日の天野家の居間。
涼を取るため人型になり、それでも暑そうなコウモリネコを見て、双魔がぼそりと呟いた。
「ナナちゃんて全裸なのに暑そうだよね‥‥」
「ニャ?!」
「全裸だろ。それ地毛なんだからよ」
魂ソードが投げやりに突っ込むが、気温は連日真夏日を更新中。脳味噌が茹だるようなあまりの暑さに、それ以上のセクハラをする気力も無く。
「そーだ! おいネコ、カルピス作って持ってこい!」
「なんであちしにそんなこと頼むニャ! カルピスくらい自分で作れニャ!」
「暑いから嫌だ」
「だからって猫の手を借りようとするニャー!!」
「ていうかソードさん、何でかカルピス好きだよね‥‥まあいいや、僕やるからナナちゃん手伝ってよ」
「それならいいニャ!」
双魔の助け船に喜色満面、ネコはテテテとキッチンに向かった。イオスのエプロンが置いてあるのに気付き、ちゃっかりと借りて身に着ける。
しかし、それをじっと見た双魔がまた一言。
「裸エプロン‥‥なのに露出少な!」
「ヴニャ?!」
ビクゥ!と飛び退いたコウモリネコに、さすがに見かねた神無が言った。
「お前脳味噌煮えてるぞ‥‥プールでも行くか?」
プール!とネコが目を輝かせる。
「あちしも行くニャー! コドモ料金でいいニャ!」
「えーと‥‥水着どうするの? その上に着るの? 着ないと全裸だよね‥‥」
「全裸ネタから離れろ(パコリ)」
「あれを水着と言い張るにしても、毛皮ではちょっと無理がありますしね‥‥」
神無の冷静さとは裏腹に、イオス(魂)も暑さでややおかしい。
「でも地毛の上に水着はモコモコして無理かなあ‥‥毛並みがはみ出してても色々とまずいし、どうしよう」
そこでソードが嬉々として言った。
「‥‥よーし、今日こそは剃るか!」
「ニャーーーー!!!」
「‥‥何やってるんだお前ら」
ベランダから現れた乱封(と妹)が、阿鼻叫喚の天野家の惨状に、後退り気味で呟いた。

‥‥そして乱封が何しに来たのかというと。
「―――いや、妹がプールに行きたいと言うんだが、魔将傘を持っては入れないから、誰か他に付き添要員がいないかと思ってな‥‥」
「傘を置いてけばいいだろ!」
「ていうかそれ、みずのさんとかガーベラさんに頼めばいいんじゃないの?」
「いや‥‥みずのはスクール水着にあのマントだろうから、入場を断られる可能性があるな‥‥」
「そんなこと訊いてないから! ていうか神無もやっぱり煮えてるから!」


‥‥余談。
「ていうかなんでみずのさんがスク水って言い切れるのさ?」
「何でって、『あの』みずのだぞ‥‥」
「あー‥‥うん‥‥そうかな‥‥そうかも」
「(つーかスク水って何だ?)」
「(水着なのにプールには入れないとは、何か危険なものなんでしょうか‥‥?)」
などと、的外れな会話を秘密裏に交わす大ボケ天使と悪魔をよそに、話はさらに横滑りしていく。
「ガーベラさんなら普通のビキニだろうから大丈夫じゃない?」
「いや、あれだけ胸があると、ビキニは上下でサイズが違う可能性があるから無理かもな‥‥」
「え、そういうものなの?」
「上下別のサイズで買える店はそう多くないはずだし、ガーベラがそこまで知ってるかどうか解らん以上、 脇とか胸元が腹まで開いてる系のワンピースが無難じゃないか。あれなら胸だけオーバーサイズでもそこそこ融通が―――」
「‥‥神無、何でそんなに女子の水着に詳しいのさ‥‥」
「ていうかお前ら、先にネコの水着をどうするか考えろよ! まずビキニ型に剃るから手伝え!」
「そ、そりは勘弁するニャーー!!」
「それじゃ結局全裸だから駄目だってば‥‥」
(2014/08/16 夏コミペーパーSSに加筆修正)

(結局、かえでちゃんとお揃い・色違いの、胸元にフリル・腰にスカート付き、という毛並みを隠すデザインの子供用ワンピースで事なきを得ました)
(地毛の上に水着を重ね着、という点だけはどうしようもありませんでしたが)
(神無が水着に詳しいのは、過去のモテていた時期に色々買い物に付き合わされたかららしい)

※このネタは結局のちに2017年夏コミ本の1シーンになりました。