◇ 冬と悪魔と足湯編 ◇
そろそろ肌寒い初冬のある日。
双魔が借りた魔導書を返しに、ソードが薬味邸を訪れると。
「‥‥総次郎は不在、みずのとガーベラは台所だ」
いたたまれないような顔をして、応対に出たのはシェキルであった。
「台所? ケーキでも作ってんのか」
「そういう訳ではないが‥‥」
「まーいいか。邪魔するぜ!」
困惑のシェキルを押し退けて、ソードはずかずかと台所に向かった。
薬味邸は古い洋館で、私室以外は土足で上がることが出来る。台所の床などは煉瓦敷きで、火気にも水にも強い仕様なのだが、
「‥‥何やってんだ、お前ら」
目を丸くしてソードは言った。
古い煉瓦の床の上にはなみなみと湯を張った金だらいが置かれ、長いスカートをまくり上げたみずのと、 いつも変わらぬミニスカートのガーベラが、横に置かれた椅子に座って湯の中に足を突っ込んでいた。
「足湯ですよ、ソードさん」
「足湯って何だ?」
「前にも言ったけど、私、寒いと魔力が上手く使えないのよ。それをみずのさんに相談したら、いい方法があるって聞いて」
「お風呂に入る時間じゃないけど、ちょっと暖まりたい時なんかに便利なんですよ」
「へー、それって暖まるのか?」
「勿論。ぽかぽかですよ」
「最高よ。魔力もなみなみと湧いてくるわよ」
「そりゃすげーな! よし、オレ様も混ぜろ!」
と靴を脱ごうとしたソードを、しかし女子二人は押し止めた。
「いきなり足を入れるのは駄目ですよ。まず向こうの洗い場できれいに洗ってきてからでないと」
「というかこれは女湯だからソードは入っちゃ駄目よ」
「てめえ最初に間違ったふりして男湯に入ってきたじゃねーかよ!」
まだしも好意的なみずのとは裏腹に、意地悪モードでクスクスと笑うガーベラにソードがブチ切れていると、
「―――じゃああちしは女湯OKニャ!」
突然現れたコウモリネコ(人型)が、喜色満面で宣言した。
「テメーどっから湧いて出た!」
「あの、性別はともかく、コウモリネコさんもまず足を洗ってから―――」
「ていうか猫だろ! ペットは温泉持ち込み禁止だろ!」
と薬味温泉の注意書きを思い出したソードが怒鳴っているうちに、ネコはポイポイとスニーカーを脱ぎ捨て、たらいに足を入れようと―――したのだが、
「‥‥入らないニャー!」
「え?」
「あー‥‥」
「そういえばそうだったわね‥‥」
涙目で叫ぶネコを前に、三人は遠い目で溜息をついた。
みずのとガーベラが足を入れている五十センチほどのたらいには、半端に猫の形のままのやたらと大きいネコの足は、到底入りそうにないのだった。
その後。
「猫の姿に戻って前脚を入れるというのはどうですか?」
「うー‥‥あったかいニャ‥‥でもなんか思ってたの違うニャ‥‥」
「入れてもらってんだから贅沢ゆーんじゃねー!」
(2015/11/15日記)
(マイ設定では妙に仲のいいみずのとガーベラですが、ソードはそれを見るたび「ガーベラの奴、実はみずのを狙ってるんじゃねーだろーな‥‥(性的な意味で)」と結構本気で心配しています)
(原作連載時にはガーベラ×みずの本とかオン作品がいくつかあったですよ。<面白かった)
(原作連載時にはガーベラ×みずの本とかオン作品がいくつかあったですよ。<面白かった)