◇ 「神双とサタン様・嫌なタイトルをつけ合う」の巻 ◇



(※新刊「MOONLIGHT DRIVE」の隙間から余ったネタなので、時系列が新世界編です)
(※イオソは無事天魔に戻っていて、影サタン様との間には和解が成立しています)
「え、じゃあ僕ってもう正式に魔法使いとか魔導師とかなんだ?!」
 ひゃっほう、と小躍りした双魔とは裏腹に、神無は一層げんなりしながらドーナツにざくりとフォークを刺した。「奥様は魔女」ならぬ「弟は魔法使い」‥‥嫌すぎる。双魔の部屋に山と積まれているラノベのタイトルのようではないか。
「『お兄ちゃんは堕天使』も十分嫌ですけど何か」
「俺の脳内を読むな。‥‥というかそのノリはやめろ」
「いっそBLっぽいタイトルにした方がいい?」
「や め ろ」
「ああ、それは僕からしてみれば『人間の友人が数十年に一度の飛行免許を取った件について』というところなのかな」
「さらっと参加するな‥‥(ていうか何で魔王が今時のラノベのノリを知ってるんだ)」
「あ、じゃあこの状況は『この中に一人、魔王様がいる!』って感じだね!」
「まんまじゃねえか‥‥」
 などとうんざり呟きながらも、ついうっかりと「天野家に平和を求めるのは間違っているだろうか」なんてタイトルが浮かんでしまう辺り、神無も既に毒されている。
「『ノリの悪い兄の育て方』とか?」
「兄という存在は暴虐の極みだからね‥‥むしろ『兄という概念が存在しない平和な世界』でどうだい」
「えー、僕は神無と仲悪くはないから、存在しないのはちょっと困るなあ」
「君達は仲が良すぎだよ。‥‥確かそのまんまのタイトルの本があっただろう」
「あー、『お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ』ってやつ?‥‥ていうかサタン様、何で日本のラノベにそんなに詳しいの‥‥?」
「今さら気付くな‥‥」
「ふふ、君からしてみれば『俺の弟がこんなに可愛いわけがない』というところかな」
 むしろ俺の弟がこんなにバカ丸出しで困っている。‥‥と言いたいところをぐっと堪え、神無が溜息をついていると、父がひょこりと顔を出した。
「おや、お友達かい? ちょうど時間だからお昼ごはんを食べていくといいよ~」
「やあ、お邪魔しているよ。ありがたくご相伴に預かることにしよう」
 ‥‥魔王を気軽に昼食に誘う父と、朗らかに応える魔王サタンの図に、神無は出かかった文句をまた呑み込み、深々と何度目かの溜息をついた。
「『やはり俺の一家団欒はまちがっている』――って感じ?」
「‥‥だから脳内を読むな(そして嫌なタイトルをつけるな)」
(2016/08/16 夏コミペーパーSS)

(なろう系に埋め尽くされて以来ほとんどラノベを読まなくなってしまったので、こんな展開になってしまって元ネタ探しに苦労した件について)