否定/ナナシとアキラ
あるのを知っている。
信じるか信じないかの話ではない。
あるものはある。それだけだ。
記憶があるから存在する、としか言いようがない。
だからこそ、前世の業とやらを否定する。
前世と今世の俺は別人だ。
なのに何故、前世のツケを今の俺が負わされなけりゃならない。
あれは俺じゃない。俺とあの人は何の関係もない。
なのに時々あの人が見える。
天幕に覆われた部屋の中で、あの人が泣いている。
誰にも知られず、一人きりで、声を殺して泣いている。
とっくの昔に死んだ人なのに、もはや俺はあの人ではないのに、
「あの人がまだ泣いている」と、どうしてか俺は時々思う。
それは俺じゃない。
彼は俺じゃない。
はるか昔に死んだ人が、
もはや存在しない天幕の中で、
今も一人きりで泣いている。
それは俺じゃない。
彼は俺じゃない。
――― 「否定/ナナシとアキラ」 END ―――
(2016/08/26)