曇った朝のよくある風景

(作・榊 祐介)
 中の人の居住地ほどではありませんが、里はなかなかの豪雪地帯です。
 それに加えて、自然を破壊することがないよう、地上よりも地下の開発が積極的に行われています。

 なのでこんな大雪の日は、地下街の通路が大賑わいです。
 普段は地上で活動する種族の方も、雪で埋まった地上路をかき分けて進み、遅刻するよりはと、地下街の方を利用するからです。

 他の爬虫類種族同様、レッドも普段は地上の道路を利用しています。
 爬虫類は活動に際して日光を浴び、体温を上げる必要があるからです。
 体温だけなら朝風呂で上げることも可能ですが、紫外線が不足すると骨折しやすくなるので、通勤時の日光浴は欠かせません。

 とはいえこんな大雪の日は、さすがのレッドも他のイグアナ団の方も、地下街通路を利用せざるを得ません。
 あちこちの地下街の通路からひょこひょこと現れ、ドリア絵図管理事務所(ネカフェの方)や共同農場に三々五々集まるのですが、 しかし、日光を浴びていないため、イグアナ達は皆なんとなくどんよりとしています。
 日照不足鬱とでも言いましょうか、
「おはよー‥‥」
「寒いね」
「曇ってるね‥‥」
 などと挨拶を交わしますが、皆目はうつろで、窓の外を見詰めたままぼーっとしています。
 あるいは、誰かが持ち込んだ紫外線ランプに何となく集まったまま、紫の光に染まった顔を無言で見合わせていたりと、 およそ仕事になりません。

 朝いちでドリア絵図管理事務所を訪れたお客さん達は心得たもので、
「あー今日天気悪いもんねえ」
 などと呟きつつ、ゾンビのように虚ろなイグアナ達に利用手続きをしてもらい、あまり気にせずネットを楽しみます。
 一、二時間経って少し身体が温まり、紫外線ランプの光が爬虫類の脳を目覚めさせる頃、ようやくイグアナ達は動き出します。
 カチカチとキーボードを打ち始め、帳簿をチェックし、お客さんがフリーズさせた機器の復旧に走り回ったりと、 慌ただしくも賑やかな、いつもの風景が始まるのです。
――― 曇った朝のよくある風景 END ―――
(11.09.26up/初出09.02.18日記)