<気になる先輩・雷伊編>


 

 

 







目の端を少し色素の薄い髪がよぎっていく。


あ。



目を引かれて振り返った雷蔵は、伊作の後姿に足を止める。

善法寺先輩……

渡り廊下を足早に行く伊作は、駆けて来た1年生にまとわりつかれて、笑いながらその相手を始める。

急いでいたのだろうに。

伸び上がるようにしてなにごとか訴えているふわふわ頭にメガネの一年生に、伊作は柔らかい笑みを浮かべ、少しかがんで話を聞いてやっている。



きゅ。




軽く胸を締め付けられるような感覚に、雷蔵は慌てて視線をそらす。

自分もまた、後輩たちには、「優しい先輩」として慕われているが。

伊作のように、あんなふうに、ふわりと相手を包み込むような笑い方は、自分にはできないと雷蔵は思う。

ふわりと、相手を包むような。柔らかくて、優しくて、あったかくて……。

この人は。誰かを受け入れるときにも、こんな顔をするのだろうか。

雷蔵は熱くなってきた顔を伏せ、でも、その場から立ち去ることもできずに、湧き上がってくる想いに耐える。

この人は、誰かと肌を重ねるときにも、その相手にこんな顔を見せるのだろうか。

組み敷かれながら、優しく柔らかく、その相手を受け止めるのだろうか……。

それとも……。与えられる快感に、眉を寄せ、のけぞり、あまい喘ぎをあげたりするのだろうか……。

止めようのない想念が、雷蔵を襲う。

……この人は、どんなふうに、人を受け入れるのだろう……この優しさ、おだやかさは、その時、どんなふうに……。

雷蔵の物思いは、この頃、雷蔵をさいなみ出しているかなえられない欲望へと、簡単に変わっていく。

 


この人に、受け入れてもらいたい。この人に、受け止められたい。この人のあたたかさを、この身で、味わいたい。

……おだやかであたたかい、この人を……抱きたい……。

 

自身も、人への優しさと思いやりを備えている雷蔵は、己の中に湧き上がる、先輩の立場にある人への欲望を持て余して立ち尽くす。



―――――と。




「どうした?」

肩に手を置かれて、雷蔵の心臓は跳ねる。

「ぼくになにか用だった?」

今まさに、想念の中で追い求めていたその人に話しかけられ、雷蔵はうろたえる。

「あ、い、いえ……」

「そう?」

伊作は気軽く顔をのぞきこんでくる。

「なんだか、顔が赤くない? 風邪気味? 熱っぽい?」

「ち、ちがいます! だ、大丈夫ですから……っ!」

慌てて身を引こうとしながら、雷蔵はうつむく。……たまらない。


 



 

 

――先輩、先輩。……肩が、熱いです……。

 







 

 

 

 

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