卒業してから五年たち、初めての同窓会が開かれた。
もうすっかり、成人した男の顔になった元は組一同は、童心にかえって再会を喜び合った。
会には、今も忍術学園で教鞭を執る山田、土井の両教諭も顔を揃え、諸国を武者修行にめぐっている金吾と潜入任務中である伊助の二人は欠席だったが、その二人も無事は確認されていたし、物騒な生業をもつ者が大半でありながら、ほかは皆が元気な顔を見せていたから、会の雰囲気は最初から明るくにぎやかなものだった。
「久しぶりだね」
庄左ヱ門の音頭で開会の乾杯がすむとすぐ、座は乱れた。
その中で、徳利を手に乱太郎はきり丸の隣へとやって来た。
「おう。おまえも元気そうだな」
きり丸はちょっといざって乱太郎に席をあける。
「うわさ。聞いてるよ、ご活躍だね」
まぶしそうな……でもちょっと誇らしげな光を目に浮かべて、乱太郎はきり丸に酌をする。
きり丸はちょっと照れたように笑って、その酌を受ける。
「まあ……フリーなんて毎日が使いっぱしりみたいなもんなんだけどな」
「またまた。わたしみたいな、忍者やってんだか百姓やってんだか、どっちかわかんないような平忍者でも、利吉さんときり丸の名前は聞くよ。すごいよ、きり丸」
素直にきり丸の返杯を受けながら乱太郎は言い、でも、ときり丸の瞳をのぞきこむ。
「無理しちゃだめだよ? きり丸はそれでなくても、猪突猛進なところがあるんだから」
「……おまえ……」
きり丸は感極まったように呟き、間近にあった乱太郎の頭を、髪に手を突っ込みながら引き寄せた。
「いいなあ、おまえさあ……! ほんと……! 俺、おまえにツバつけときゃよかった」
「なに言ってんの」
乱太郎は笑いながらきり丸の手をはねる。
「だってさぁ、おまえ、『無理しないでね』なんて……」
そこできり丸はくうぅっと泣きマネ。
「ユキなんかさあ、無理しないでね、どころか、人の顔みりゃ、金がねえのどうの、揚げ句におまえ、家庭と仕事とどっちが大事なのってさあ……んなもん、比べられるものかよ。それをさあ……」
「どっちが大事……」
ふっと乱太郎の笑みに、苦いものがまざった。
「……それ、わたしもよく言われたなあ」
「え?」
「ん……庄左ヱ門にさ……恋人と友人とどっちが大事だって。……よく言われた、あの頃」
「……ああ」
一瞬おいて、きり丸の笑みにもホロ苦さが混ざる。
「よくすごい目で庄左ヱ門ににらまれたもんなあ。……まあ、しょうがねえよ、おまえみたいに色っぽいヤツが恋人だったら、男はおちおちしてられんって」
「色っぽい? そうかなあ」
「なんだよ、おまえ、まだ自覚ねえの」
呆れたようにきり丸は言い、
「俺ら、卒業まで同部屋だったろ。五年六年とさあ、おまえ、もう、俺がどれほどおまえの色香に苦しめられたか……あんなヤリタイ盛りに、おまえを襲わなかった俺の理性を、俺は褒めてやりたいぞ」
訳のわからない威張り方をして胸を張った。
そのきり丸に……乱太郎は意外なことを言われたように一瞬だけ、目を見張り。
それでもすぐに、
「それは初耳」
とニヤンと笑って、横目できり丸を見やった。
「きり丸は、土井先生と女の人しか見えてないんだと思ってたよ、あの頃」
卒業後も、折りにふれ、時々会っていた。
ここ一年ばかりは……そう、なんだか互いに忙しくて……会わずに過ぎていた。
―― 一年ぶり、だからだろうか。それとも、まわりに、あの頃と同じ顔が揃っているせいだろうか。……それとも……この宴席の雰囲気が、本当なら口にしにくいことも、言いやすくさせてくれているのだろうか。
乱太郎はもの思う。
庄左ヱ門に、ヤキモチ交じりにきり丸と自分と……どちらが大事なのだとなじられたことは幾度もあって。
その度、きり丸は大事な友達だと、でもそれだけなんだと一生懸命に説明して。……そんな言葉よりもなによりも、そういう時には素直に躯を開いて恋人を受け入れればよいのだと、そんなことも学んで。
そんな……
「庄ちゃんがヤキモチ焼くんだ」
言ってしまえばそれだけのことを、だが、自分はきり丸に今まで告げることができずにいた。
「困った奴だな。俺にまで悋気かよ」
そう言ってきり丸は軽く流してくれるだろうとは思いながら。
庄左ヱ門になじられるんだ、なだめるの、大変なんだよ。わたし、いっぱいいっぱい、キスしてね……ほんと、庄ちゃんって手がかかるんだよ……。
惚気(のろけ)まじりに、そうきり丸に告げてもよかったのに。
告げないことで、自分はなにかを大事にしていた。
――そして、きり丸も。
夜中にふと目覚めた時に、隣の布団からさえざえと醒めた視線が感じられたことが、これも幾度もあった。
こちらが目覚めたことに、きり丸はたぶん、気づいたろうと思う。
だが、きり丸は言葉を発しようとはせず。
自分もまた、『どうしたの』とも『眠れないの』とも問いかけず、ただ白々と夜が明け行くまで、まるで空気が重さをもったような部屋の中で二人して布団の中で固くなっていたことが。卒業までの同部屋の中で、幾度もあった。
夜が明ければ、いつもの通り。
軽口を叩き合い、いたずらを目論む仲のよい友達であることに、まったく変わりなく。
……そんな眠れぬ夜についても。
きり丸は、今まで口にしたことがなかった。
やっぱり、それはきり丸も。
言葉にしないことで、軽口にまぎらわせたりしないことで……なにかを大事に……してくれていたのじゃないかと、乱太郎は思う。
……一年ぶりだから? 懐かしい顔がいっぱいだから? それとも……。
今まで告げずにいたことを自分は口にし、きり丸も、冗談の延長のように眠れなかった夜を語り。
こんなふうに、もう、わたしたち、流してしまえるんだね……。
もちろん……流さなきゃいけないようななにかが……あったわけではないけれど……。
「そうそう!! きり丸!!」
喜三太の大声に、うつむき加減だった乱太郎が、はっと顔を上げた。
「なんだよ、俺がどうした」
ちらりとその乱太郎に目をやって、きり丸がこれも大声でこちらを見ている集団に声をかける。
「いやさあ、きり丸が一番だったねって話」
みんながわらわらと寄って来る。
山田と土井、二人までもみんなの後ろからやってくる。
「こども。どう? かわいい?」
喜三太の問いに、きり丸は、
「うるさいだけだよ、ガキなんて」
口ではそう言いながら、浮かんだうれしそうな笑みが若い父親の誇らしさを語る。
「なんで連れてこん」
咎めるような声を出したのは山田だ。
これにはきり丸が答えるより早く、土井が、
「いやもう、無理ですよ。歩けるようになったら、これがまたきり丸そっくりの落ち着きなさで、ちっともじっとしててくれないんですから。こういう席に連れて来たらむちゃくちゃになります」
そう答え、山田に軽くにらまれた。
「そういうあんたはもう、会っとるんですな」
とたんに土井の相好が崩れた。
「やーもう、おむつ替えはきり丸のバイトのおかげで、わたしもプロ級ですからー、よく子守に狩り出されちゃって……」
「きり丸」
山田が不機嫌に土井を遮る。
「なんでわしのとこにも連れてこん」
きり丸はぴょこっと首をすくめる。
「すんませーん。仕事仕事で、つい……」
ふん、と山田は鼻息も荒く、
「おまえらもだぞ。さっさと嫁さん見つけてわしのところに連れてこんか」
話を振られた元は組は、おー薮蛇薮蛇と首をすくめる者、俺だって早く連れてきたいですよーと泣き声を出す者、また……
「あ、団蔵! 団蔵、おい! こいつ、今度、嫁さんもらうんですよ! すごいかわいい子で……」
兵太夫が団蔵を前に突き出す。
「ほお! そうか! よかったな、団蔵」
両教諭が祝福を口にする。
「きり丸、団蔵と来たら……庄左ヱ門! 庄左ヱ門は!?」
誰かの無邪気な声が、酒の勢いもあってだろう、大きく響いた。
座の中の何人かはどきりとしたはずである。
「……ぼくは」
一瞬でしんとした中に、庄左ヱ門の静かで落ち着いた声が流れる。
「結婚はしない。自分にウソをつくような生き方はできないから」
そしてその目線はまっすぐ、きり丸の隣に座る、乱太郎へと向けられる。
乱太郎がいるから。女性と結婚はしないと。自分にとって大切なのは乱太郎だと。
庄左ヱ門は言葉と視線の両方で、みなに向かい堂々と宣する。
庄左ヱ門のその視線を受けて、乱太郎の頬がかすかに赤くなる。
『……もう』とその唇が音はなく動き、恥じらいをふくんで伏せられる面に、『みんなの前で……だめだよ』と言葉が続くのが聞こえるようだった。
その様子は、彼ら二人が卒業後もずっと……学園にいたころと同じように恋人として付き合い続けていると物語る。
「……の、呑むぞお!!」
虎若の大声が、ふたりに当てられてかたまった空気を破った。
「お、おお! おまえ! 庄左ヱ門! 来い! 呑ませちゃる!!」
「え、ええ……」
「おまえもだ! 団蔵! 呑めーっ!」
「あはははは」
「変わんねえなあ、委員長」
またもにぎやかさと猥雑さを取り戻した座を見ながら、きり丸がため息まじりに言う。
「……うん」
あたたかい光の、なごんだ瞳で、皆に取り囲まれている庄左ヱ門を見ながら乱太郎はうなずく。
「……かわいがってもらってんのかよ」
軽く乱太郎の胸元を小突きながら、きり丸が尋ねる。
「……そりゃあもう」
きり丸の笑みに応えて、乱太郎もまたいたずらっぽい笑みを浮かべる。
「……見る? 証拠」
襟元に手をかけた乱太郎にきり丸は降参と言うように手を上げる。
「やめとくわ」
その口元から笑みが消え、よかったな、きり丸はつぶやく。
「……もう、無理に消す必要もねえもんな」
「……うん」
あれは……五年の夏だったか。
春頃から、妙に雰囲気があやしいと二人が噂になっていたのは、きり丸も知っていた。
その日。
次の日に水練の実技があると土井が告げたとたん、乱太郎の顔がこわばったのを、きり丸は不思議に思った。
それから後、乱太郎はまるで元気がなかった。
放課後、部屋で過ごしている時も、食堂で夕飯を食べている時も。乱太郎は沈んでいた。
風呂に行こうと誘おうとした時には姿がなかった。
そして、消灯後。
乱太郎は、そっとそっと……布団を抜け出した。
素行の悪い自分ならいざ知らず、乱太郎が消灯を狙って布団を抜け出す……しかも自分に隠すようにして……そんなことは今までなかった。
不審に思い、寝たふりしてから、きり丸は乱太郎を追った。
乱太郎は。
井戸端で。
一生懸命、冷たい井戸水で、自分の躯をこすっていた。
「なにやってんだ」
声をかけたのは、乱太郎の意図がまるで見えず、本当に不思議だったからだが。
びくりと振り返った、乱太郎の、はだけた寝間着の間から……
月明かりにもはっきりと、白い肌に散る赤い吸い跡がいくつも見えた。
部屋に帰る途中で泣き出した乱太郎に、不安で不穏な想像がいくつもいくつもわいたけれど。
落ち着いてじっくりと聞き出せば。
唇合わせるだけでは足りなくなった、「付き合ってる」人と、きのう初めて上着を脱いで抱き合った。その時に、これも初めて……顔以外にキスを受けたのが、はっきりくっきり紅い痕跡となって残ってしまい、もうどうしていいかわからない。
ということで。
乱太郎の白い肌に無残なほどくっきり残る鮮紅色の跡が、きり丸が最初案じたような無体な暴力の結果でも、いいように言いくるめられた結果でもなく、互いの躯を、互いにまさぐり合うことを……おずおず進めた結果なのだと納得できた。
そしてその「付き合ってる」相手が……庄左ヱ門だということも、きり丸はその時、乱太郎の口から聞いた。
……その時。
胸を刺した痛みは鋭く強く、一瞬、肉体的な痛みにまで高まってきり丸の息を奪った。
「……好きなのか?」
自分でもぶざまにかすれた声での問いに、乱太郎は泣き顔のまま、まず首を横に振り、それからこくんとうなずいた。
「どっちなんだよ、わかんねえよ、それじゃあ」
思わずイラついた声を出したきり丸に、乱太郎はますます困ったようなふうで、
「だって……わ、わかんない、わかんないよ。す、好きになるって、どんなの? どういうのが、好きっていうの? わたし、わからない。好きっていうのが、一緒にいて楽しくて……で、……で、ずっと一緒にいたいっていうことなら、わたし、わたし、きり丸のことだって好きだよ! でも、それとちがうんだよね? 本当に好きっていうのは、それとは、ちがうんだよね?」
と、涙の乾ききらぬ目で見つめて問い詰められれば、きり丸もまた、返す言葉はない。
でもね、と乱太郎は上気した顔を伏せ、ぼそぼそと続けたのだ。
「……庄ちゃんと……一緒にいるとものすごくドキドキするよ……? キ、キスすると……ふ、ふわあっとして、く、くらくらっとして……も、ものすごく……」
なぜだか。
それ以上、聞いていたくなかった。
だから、きり丸は乱太郎に……そして自分に宣告したのだ。
「そういうの、好きって言うんだよ。おまえは庄左ヱ門が好きなんだよ」
乱太郎はほっとしたように顔を上げた。
「そうなんだ?」
「そうだ」
うなずいたきり丸に、
「……よかった……うん、わたし、なんか、自信がなかったんだ。庄ちゃんはものすごく頼りになるし、好きだなって思うけど……ドキドキするのが、ほら、初めてそういうことするから、慣れてないからドキドキするのかなって、ちょっと心配だったんだ」
そう乱太郎が言ったのは。
もしかしたら、ひとつの大きな転機になるかもしれない言葉だったと、きり丸はそれから何年かしてから思ったが。
その場では、きり丸は、ただ、自分の身がばらばらに砕けていくような痛みをこらえようとするのでいっぱいで。
痛みの原因がなんなのか、それを考えるより、痛みを封じ込めることが一番のように思われて。
「……水でこすったって、消えねえぞ、そんなの」
痛みを自分自身にも隠したくて、きり丸は最初の問題に立ち返った。
「湯であっためて、ちょっと揉むようにすんだよ。でも一日じゃ消えねえなあ。……山田先生が使ってる白粉あるだろ。あれ、普通のより濃いし、落ちにくいから、なんとかあれを分けてもらって……」
乱太郎が素直に称賛に輝く瞳を向けて来た。
「すごいねえ、きりちゃん」
「おまえがガキすぎんだよ。庄左ヱ門にもよく言っとけ! 見えるところに吸い痕なんかつけるなって」
「……水練でも、見えないところ……?」
ぽつりともれた疑問に、二人は凍った。
あれ以来。
きり丸は乱太郎の後見人のような気持ちで、二人の恋を見てきた。
あの日感じた痛みは……その痛みを感じた記憶ごと、奥へ奥へと封じ込めてきた。
それでよかったのだと思う。
押し込めて来たからこそ。
その年月があったからこそ。
眠れなかった夜のことも、冗談にできるようになったのだから。
……もう、本当に……ただの、冗談に。
「……でも、すごいね」
きり丸の杯に徳利を傾けてくれながら、乱太郎が言う。
「もう歩けるんだ。わたしが見た時は、こーんなちっちゃくて、あんあん泣いてるだけだったのに」
「そりゃおまえ、」
今度はきり丸のほうがはっと顔を上げながら返す。
「おまえが来たの、産まれてすぐじゃん。あれから一年たつんだぜ? 赤ん坊の一年っていったら、すげえぜ、そりゃあ」
「へえ……」
「これがまた、おまえ、さっきの土井先生の話じゃないけど、すんげえヤンチャでさあ、歩けるようになったと思ったら、もう悪さばっかりしやがって……」
ぷ、と乱太郎が吹き出す。
「しょうがないよ、きり丸の子だもん」
「ちぇー」
口をとがらすきり丸を、乱太郎がしみじみと眺める。
「……よかったね、ほんと。きり丸、いい顔してるよ。きっとほんとに、いいおとうさんなんだろうな」
「デキちゃった婚なんて、女にだまされたようなもんだけどな」
あーと乱太郎は非難がましい声を上げる。
「ユキちゃんに言い付けてやろ。そういうこと言う?」
――軽口を叩きながら、乱太郎は思い出す。
鋭い痛みの記憶。
きり丸が結婚すると、もうすぐ子どもが産まれると、人づてに聞いた時の、あの痛み。
きり丸の新居を訪ね、まだぽやぽやした顔立ちながらはっきりきり丸に似た赤ん坊と、前掛けの似合うユキの笑顔を見た時の、あの痛み。
息が止まるかと思った。からだがバラバラに千切れるかと思った。
結婚祝いと出産祝いが同時にすんでありがたいよ、なんとか軽口と、元気そうな赤ちゃんだねおめでとう、と祝いの言葉を口にして、早々にきり丸の家を辞したのが、そう、一年前だ。
なにを弁解することもないと思った。
乱太郎は在学中からずっと庄左ヱ門と付き合っている。
同じように、自分もユキと付き合っていただけのことだ。
結果として、女のユキが孕み、自分たちは一緒に暮らすことにした。
父として、母として。……夫婦として。
去って行く乱太郎の背が、たまらない寂しさをこらえているように見えたけれど、掛ける言葉はなにもないと思った。
それが一年前だ。
痛かったけれど。
なにもまちがっていないと思った。
庄左ヱ門はきっと黙って抱いてくれるだろう。
……かけがえのない、愛しい人。
その人の腕は、求めればすぐに開かれる。
……自分には、庄左ヱ門がいる……。
せつなさを感じたけれど。
ここでまちがってはいけないと思った。
振り向けば、自分の血を分けた子どもと、その子どもを産んでくれた愛しい女がいる。
……今までも、まちがっては来なかった。
これからも、まちがえない。
……俺と、乱太郎は、友だちだ。……これまでも、これからも。
「言い付けに来いよ」
ときり丸は応じる。
「たまには遊びに来い。ユキも喜ぶ」
「うん」
きり丸の言葉に、ためらいもひっかかりも見せず、乱太郎はすぐにうなずいた。
「いいように子守に使われるんだろうけどね、いいよ、きり丸がちゃっかりしてるのは昔からだもんね」
気安い仲ゆえの、ちょっと嫌み交じりの冗談をたたいてから、乱太郎は笑みを見せる。
「……行くよ。遊びに」
「おう。待ってる」
そこへ。
「まいっちゃうよ、もう。兵太夫のヤツ、人にむちゃくちゃ呑ませるんだから」
ぼやきながら庄左ヱ門がやってくる。
「あ、ごめん。なんか話、途中だった?」
きり丸と乱太郎は顔を見合わせ、互いの顔に、同じ表情を見つける。
「乱太郎に子守しに来いって言ってんの。委員長も一緒に来いよ」
これまでも、友達だった。
これからも、友達だろう。
付き合う中で愛育んだ、愛しい恋人にやましいことは、なにもない。
張り合いながらも尊敬していた、大事な友人に、そして、次の命を共につないだ愛しい女に、顔向けできないことは、なにもない。
そして、互いへも。
笑みと信頼を、期待できる。
きりちゃん、遊ぼう!
一年は組の昔から。
自分たちは変わらず、友達だ。……これまでも、これからも。
了
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