「わたしたち、友達だよね」
ほとんど毎晩だった。
きり丸は求め、乱太郎は応えた。
求める者は‥‥囚われていた桎梏を振り切り、おのれの思いのままに相手を望む自由
を知り、堰を切った激しさで、片われを求めた。
応える者は‥‥求められる重さを受け止めるしなやかさを覚え、身をうがつ痛みと抱
き締められる息苦しさの中に快楽を見つけ、ともに燃える熱さのなかで、片われを抱き
とめた。
‥‥それは、彼らの蜜月。
誰も、彼らを止めることはできなかった。
隣の部屋から壁を打つこぶしも、クラス委員長の嫌みも、担任の釘刺しも効はなく、
誰も彼らを邪魔立てすることはできなかった。
誰も彼らを邪魔立てすることはできなかった、できないかに見えた。
‥‥ある人物が現れるまでは。
しんべヱが学園に「里帰り」してくるまでは。
三年の終わりに堺の実家に帰ったしんべヱは、時々学園を訪ねて来る。
孫娘を行儀見習いの名目で福富家に嫁入りさせたようなものだった学園長は、孫娘可
愛さ、またしんべヱとおしげが持って来る土産への礼もあって、寛容にしんべヱの滞在
を許可したから、来ればしんべヱは忍たま長屋で何泊かを過ごしていく。
それは当然、仲の良いきり丸乱太郎の部屋に決まっていて、彼らは昔を懐かしむよう
に川の字にひいた布団で休むのが常だった。
それは三人にとって純粋に楽しい時間だった。
‥‥きり丸と乱太郎が、友達関係でしかなかった頃は。ただ純粋に。
「たっだいま!きり丸!乱太郎!」
「お帰り、しんべヱ!元気だった?」
彼らが、ほとんど毎晩のように身体を重ね、あまい睦言をかわすようになっていた五
年の秋。しんべヱが「帰って」来た。
その時期。もうきり丸と乱太郎の仲を知らないは組の生徒はいなかった。いや、知ら
ない学園の生徒もいなかったかもしれない。だから、誰か一人くらい、しんべヱに教え
てやってもよかったし、きり丸と乱太郎が「実は‥‥」と切り出してもよかった。
が、結局誰も言い出せなかったのだ。コロコロとじゃれあっていた幼なじみのふたり
が、おまえ一人をのけ者にしてデキちゃったんだよ、とは。
そして、確かに、しんべヱが何も知らないままのほうが好都合、と考える者もいたの
である‥‥。
「‥‥ッ!」
きり丸は声にならない悲鳴を上げた。
「だめでしょ、きり丸」
乱太郎の低い叱責。その手は上掛けの下に忍んできたきり丸の指をひねりあげている。
「だめって、おまえ」
泣き声に近いささやき声できり丸が訴える。
「もう三日だぜ?三日もおまえにさわってない」
「‥‥しょうがないでしょ、しんべヱがいるんだから」
低くささやき交わす彼らの横で、しんべヱは大の字になってイビキをかいている。
「だいじょうぶだよ、よく寝てる」
いいざま、するりときり丸は乱太郎の布団に滑り込む。
「あ‥‥だめ‥‥」
速攻。
滑り込んだきり丸の腕は乱太郎の肩を抱き込み、足は足を割って絡み付き、唇はうな
じに押し当てられている。
そのきり丸を押しやろうと突っ張りかけた乱太郎の腕に、しかし力が入らない。
うなじから這い上った唇に、唇をふさがれて。
唇をぽってりと吸い上げられて。ぬめった舌で口の中をかきまわされて。
「‥‥あ‥‥」
早くも息を乱されて、あえぎにも似た声をもらしてしまった乱太郎を、きり丸がニヤ、
と笑って見下ろす。
「キスひとつでメロメロじゃん。おまえだってたまってるんだろ」
「ちが‥‥!」
「ちがうの?そういう冷たいこと、言う?」
再び、唇を乱太郎の唇に、頬に、耳朶に、すべらせながらきり丸がささやく。
「ちがうなんて、言うな、乱太郎‥‥こうして‥‥さわって、キスして‥‥抱き合いた
かったのが、おれだけだったなんて‥‥思いたくない‥‥」
「‥‥きり丸‥‥」
「乱太郎‥‥おまえに触れたかった‥‥」
そして、熱いキス。
もうどうしようもなかった。太ももへと滑り降りた手が、横合いから下帯の中へと忍
びこんで来ても、急激に熱を帯び勃ちあがりかけたそれを包み込んで来ても、乱太郎に
はもう、きり丸を押しやる力はなかった。
この数カ月で、乱太郎の肌は覚えた。きり丸の愛撫の気持ち良さ、寄せ合う肌が生む
熱とその心地よさ、きり丸が呼び覚まし引き出す快感の奥深さと豊かさ‥‥そういった
ものが、ただ、きり丸に身をゆだねていれば与えられることを‥‥乱太郎の躯は覚えた。
抗しきれるはずもない。
「あぁ‥‥」
乱太郎はうなじを反らす。
その四肢は乱れて、のしかかるきり丸に絡みつく‥‥。
それでも、なんとか理性を保とうとする意識が残っていて、
「‥‥だめ‥‥まずいよ、しんべヱが‥‥」
などと制止を求める言葉が紡げる間だったのが、幸いした。
しんべヱのイビキが止まったのに、ふたりはなんとか気がつくことができたのだ。
おそるおそる振り返れば‥‥大あくびと共に、しんべヱがむくりと体を起こすところ
だった。
「オシッコ」
ふらふらと出て行くしんべヱを見送って、きり丸が深い深いため息をついた。
「‥‥変わらねえよなあ、しんべヱは」
「ねえ、なんか乱太郎、きれいになったね」
しんべヱが笑う。乱太郎が困ったような照れたような笑みで、
「そうかなー」
と答える。
「きり丸はさ、なんか、カッコよくなったよね」
しんべヱが笑う。きり丸がふん、と笑って、
「だろ?」
と答える。
しんべヱが笑う。乱太郎ときり丸の間で。
三人で笑う。昔と変わらず。
恋仲になったきり丸と乱太郎の、同級生に対する態度が変わったわけではなかった。
教室の中で、校庭で、彼らの互いに対する振る舞いも、変わってはいなかった。
乱太郎は肩を組んで庄左ヱ門や団蔵と笑い合ったし、きり丸が秘密めいたささやきを
皆の前で乱太郎に仕掛けることもなかった。
彼らは変わらなかった。表面的には。
それでも、ほかの人間が、彼ら二人は特別な関係なのだと思い知らされるのは。
なにげない瞬間に、ふたりの間に立ちのぼる色濃い空気のせいだろう。背を向けてい
てさえ、ふたりが痛いほどに互いを意識し、相手の気配を追っているのがわかる時。ふ
と絡んだ視線が沸き上がる熱と緊張をはらむ時。短い言葉のやりとりに、絶対の信頼と
くすぐったい甘えがのぞく時。ふたりの間に、互いに引き付けあおうとする濃い、熱を
はらんだ空気が生まれる。
どれほど、彼らが表面的にはただの友人を装おうと、周りの人間は、彼らが特別な関
係にあることを思い知らされ、情事の現場に踏み込んでしまったようなばつの悪さに、
弾き出されるしかないのだ。
そんなきり丸と乱太郎の間に、ごく自然にしんべヱはいる。
もう何カ月も誰も入れなかったきり丸と乱太郎の部屋にも、しんべヱは平然と入る。
「ちょっと遊んでってもいい?」
しんべヱがいるふたりの部屋には、寝間着姿でも平気で遊びに行けるのに、すぐには
組の生徒達は気が付いた。
薄皮一枚の下にあまくただれたものをひそめながら、気詰まりな緊張とぎこちなさに
満ちているいつもの空気の代わりに、しんべヱがいるその部屋は和やかな雰囲気に満ち
ている。しんべヱがいる部屋なら、きり丸が乱太郎の肩に手をかけていても、こちらが
赤面するようななにかは生まれてこない。
そして、確かに、それを僥倖、ととらえる者もいたのである‥‥。
「お。しんべヱ、うまそうな団子だな」
「うん!庄左ヱ門がおごってくれたんだよ」
「‥‥庄左ヱ門が?」
「なんか庄左ヱ門、優しくなったねえ。前から優しかったけど」
兵太夫は覚えている。
何かとぶつかりだしていたきり丸と庄左ヱ門が、初めて派手に刃を交えた時のこと。
それは昼食後の食堂。
乱太郎としんべヱに午後の授業の準備を頼んだきり丸がゆっくりと振り返ったのだ。
乱太郎としんべヱを出て行かせてから、きり丸が振り返ったんだ。
「庄左ヱ門。ずいぶんとあこぎなマネ、するじゃないか」
明るいといえるほどの声で、はっきりときり丸が言った。食堂に残ってたみんなは
その声の中のなにかにシンとなってしまった。
「あこぎなマネ?なんのことかな、きり丸」
振り返った庄左ヱ門の声も、普段と変わらない。
でも、二人は正面きってにらみあっている。
「しんべヱに学園に戻れって言ったそうじゃないか」
「言ったけど、それがどうしてあこぎなのかな」
「てめえの都合だけで人をはめるようなマネはあこぎってんだよ」
ばしっと、かなり派手にふたりの間に火花が散った。見えたのは、たぶん、僕だけじゃ
なかったと思う。
「へえ。ぼくの都合でしんべヱをはめたって言いたいの」
「食いもんで釣るような卑怯な手まで使ったろうが」
「団子をおごったこと?君にはおごらなかったから、そうやって絡むわけ」
「‥‥知らんぷりする気か、委員長」
「‥‥君こそ。因縁ふっかけてどうする気」
息詰まる。それはたぶん、僕だけ。僕は庄左ヱ門にやめろ、と言いたくてたまらない。
きり丸は、勝ち目がないときに、こんなふうに大勢の前で喧嘩をふっかけたりはしない。
「しんべヱがいれば、おれは乱太郎といちゃいちゃできない。お邪魔虫をくっつけとけ
ば、おれへの牽制になる。だからおまえは、しんべヱに学園に戻ってほしかった」
きり丸の声は、もう表面的な明るさを装うこともない。一言一言、庄左ヱ門に突き付け
るようなきつさで。
「ちがうのか、庄左ヱ門」
そして一歩も引かない庄左ヱ門‥‥。
「そういうのを曲解って言うんだよ。僕はただ、大好きな友人と少しでも長く過ごして
いられれば、と思っただけだ」
「大好きな友人に、おまえは無理難題を押し付けんのか。三年までの課題をこなすのも
やっとで結局落ちこぼれて体もついていかなくて辞めてったしんべヱが、二年もブラン
クあいてんのに、また一緒にやれるわけないだろうが」
「それは少しちがうよ、きり丸。福富屋の跡継ぎに本当に危険な四年からの授業を受け
させたくなかったから、パパさんがやめさせたがったんだよ」
ち、ときり丸が舌打ちの音を響かせる。
「それがおきれいな建前だってぐらい、誰だって知ってら。おまえはおれと乱太郎を邪
魔する奴が欲しかっただけじゃないか。はっきり言ってみろ。おまえ、乱太郎が好きな
んだろ」
僕は、まさか、みんなの前できり丸が庄左ヱ門にそう叩きつけるとは思ってなかった。
すっと庄左ヱ門の顔が青ざめた。
でも、表情はひとつも変えずに。
「好きだよ、大事な友達だからね。僕は大事な友達とは少しでも長く一緒にいたいと思
うよ。だから君がなにを怒ってるのか、わからない。君のほうこそ、乱太郎しか目にな
いんじゃないのか。しんべヱが復学するのを嫌がるなんて、友達がいのない‥‥」
「!」
『友達がいのない』多分、その一言がきり丸の逆鱗に触れたんだろう。
きり丸は庄左ヱ門に飛びかかった。
冗談じゃない、五年にもなって。素手でも十分に相手に痛手を負わせられるだけの技
術が身についてるってのに。僕たちは必死でふたりを止めた‥‥。
小高い丘になったところで、きり丸はひとりふて寝を決め込む。
その顔に、すっと影がさした。
「きり丸‥‥」
「なんだ、しんべヱか」
体を起こしたきり丸をしんべヱが心配そうにのぞきこむ。
「庄左ヱ門と喧嘩したの、きり丸」
「‥‥聞いたのか」
「うん。食堂めちゃくちゃだって」
「あーあ。後でおばちゃんにこってりしぼられるんだろーなー」
「きり丸‥‥」
しんべヱが相変わらずの白くふくよかな顔に憂いの色をにじませて、きり丸を見る。
「ねえ、それ、ボクのせいだって聞いたよ?」
「別におまえのせいじゃねえよ。庄左ヱ門がおまえに学園に戻れって言ったって聞いて
おれが勝手に腹立てただけだから」
「‥‥きり丸がどうして怒るのか、わかるよ。ボクがいまさら学園に戻れっこないもの」
「‥‥おまえの復学を歓迎しないのは友達がいがないって、庄左ヱ門に言われてさ。かっ
となっちまった。‥‥おれさ、しんべヱ」
きり丸はうつむく。握り合わせた手の、関節が白い。
「一年の最初、誰がクラスで一番金持ちか、探ったんだ。金持ちのぼんぼんにくっつい
てりゃあ、おこぼれがあるだろうって‥‥。‥‥おまえにはよく、団子おごってもらっ
たり、見たこともないような南蛮菓子、分けてもらったりさ‥‥おれ‥‥だから、よけ
い腹立ったのかもしんね。‥‥おまえのためじゃないかもしんね‥‥」
話すうちに膝の間に頭を垂れてしまったきり丸の前に、しんべヱが座り込む。
「ボクだって同じだよ、きり丸。ボクね、パパに言われたの。ケンカの強そうな子と仲
良くして、優しそうな子にくっついてなさいって。そしたらいじめられずにすむから。
だからね、ボクだって同じなんだよ、きり丸」
きり丸が顔を上げた。
「でもさ、でも、楽しかったよね、きり丸。ボクたち、いっつも一緒で、楽しかったよ
ね」
うん、ときり丸は深くうなずく。
「楽しかったな、バカばっかやってさ」
「ボクね、きり丸も乱太郎も大好きだよ」
「‥‥おれもだよ、しんべヱ」
楽しい時間は過ぎる。
コロコロと昔のようにじゃれ合う一週間が過ぎる。
きり丸と乱太郎がただの友達に戻った一週間が過ぎる。
夜になるとほんの少しだけきり丸が苛つき乱太郎が切なげな、週の後半も、なんとか
過ぎる。
苛ついたきり丸が壁際に乱太郎を追い詰め、後ろから布越しに勃起したそれを押し当
て、乱太郎に怒りと泣き声のまじった声を上げさせたところに、しんべヱががらりと戸
を開け、言い訳に四苦八苦する、というおまけを週の終わりにつけて‥‥一週間が過ぎ
る‥‥。
しんべヱは牛のひく車を前に、きり丸乱太郎と名残を惜しむ。
隣では学園長が、すっかり爺の顔になっておしげと別れを惜しんでいる。
「またね、またね、きり丸、乱太郎」
「ああ、またな、しんべヱ。また来いな」
そこまでは普通の別れの会話だったが。
「うん、また来るよ。その時には、ボク、喜三太たちの部屋にでも泊めてもらうから、
よろしく言っといてね」
え、ときり丸と乱太郎は聞き返す。
「あ。それとも三日か四日くらいなら、平気?」
「‥‥しんべヱ、それってなんの話?」
「え?だってお邪魔だったでしょ。ボク、自分が十日くらいあいても平気だから、いい
かと思ってたんだけど、悪いことしちゃった」
きり丸と乱太郎は、初めてみるようにしんべヱを見つめる。
相も変わらず、白くふくよかなその顔。声変わりを迎えても、やっぱり皆より半オク
ターブ高いその声。小さいけれどいつもぱっちりと見開かれている瞳も昔と変わらない
けれど、その眼に昔はなかった光がある。理解と共感を宿した瞳。
「しんべヱ、あのさ‥‥誰かから聞いたわけ?それともこの前の‥‥」
「えー、すぐにわかるよー、ボクだっておしげちゃんがいるんだもん」
「‥‥はあ」
「いい仲なんでしょ、きり丸と乱太郎。ごめんね、お邪魔虫で」
ふう、ときり丸がため息をついた。
「別に邪魔じゃねえよ、しんべヱは」
乱太郎がにこりと笑った。
「しんべヱが邪魔なわけ、ないじゃない」
しんべヱがぱあっと笑う。
「えー、ほんとー?」
「ホントホント」
きり丸が笑ってうなずく。
「いつでも帰ってきな。でさ、困ったことあったら言えよ。おれたちさ、おまえの分ま
で頑張って、ちゃんと立派な忍びになってやるからさ」
「うん!」
しんべヱが飛び上がる。
「頼りにするね!きり丸、乱太郎!それで‥‥それで‥‥おいしいもの食べたくなった
ら寄ってね!いつでも御馳走するからね!南蛮渡来のおいしいもの!」
「うん。あてにしてるよ、しんべヱ」
従者が、ぼっちゃまー出ますよーと間延びした声を上げる。
「じゃあね、元気でね、ふたりとも。体には気をつけてね、無理しないでね」
おう、ときり丸が片手をあげるのに、しんべヱは小声で付け足す。
「庄左ヱ門とケンカしないでね」
おう、と上げられたきり丸の手が、そのまま凍りついた。
「じゃあね、しんべヱ」
「またね!」
しんべヱの横でおしげがしおらしく頭を下げた。
「‥‥しんべヱのセリフじゃないけど」
伸びかけたきり丸の手がぴくりと止まった。
「きりちゃん。庄ちゃんともうケンカしないでよ」
「‥‥あのさ、乱太郎。一週間ぶりに布団をくっつけて寝ようって時に、もうちょっと
色っぽいこと言えない?」
じとん、と乱太郎はきり丸を見返す。
「この前の食堂での大騒ぎ、あれ、なんなのさ」
きり丸はしらっと横を向く。
「なんだったっけ」
「もう。忘れたふりだけ、うまいんだから。団蔵に聞いても兵太夫に聞いても、なんか
はっきりしないんだよね」
「‥‥へえ。たいしたことじゃないと、みんなも忘れるんだな、きっと」
言いながらきり丸は夜着姿の乱太郎の肩を引き寄せる。
「なあ、そんなことよりさ‥‥」
乱太郎の裾から忍び入る手。
「‥‥あ‥‥」
乱太郎の口からあまい声が漏れた。
舌を絡める。糸ひくのはどちらの唾液か、わからない。
はふ、頼りなげな吐息をもらすのは、乱太郎のほう。
「‥‥ね、きりちゃん‥‥」
結んだばかりの寝間着の帯を解かれながら、乱太郎は言葉を紡ぐ。
「‥‥わたしたち‥‥友達だよね」
きり丸は、はだけた前を割り胸から腹へと撫で上げ撫で下ろす。
「友達、だよね‥‥どんどん、友達の部分は少なくなってくけど‥‥でも、友達の部分
もちゃんと‥‥残ってるよね」
「‥‥そうだな」
答えるきり丸の指先は、乱太郎の胸の桜色した乳暈を丸くなぞって、震える喘ぎをひ
きだす。
「‥‥いつまで残ってるかな、それ‥‥」
濡れてあたたかい舌に、指先でほぐされた乳首を嘗められて、乱太郎の腰が浮いた。
「あ、ん‥‥あ‥‥の、残してて‥‥ね、きり丸‥‥」
細かく震える指をきり丸の髪の中に伸ばしながら、乱太郎は切れ切れに言葉を続ける。
「ずっと‥‥友達でいて‥‥と、ともだち、なら‥‥別れなくて、い、い‥‥いッ!」
充血した下腹部のものと同じように、愛撫に堅く立ち上がった乳首の先端を、ほんの
小さく、きり丸が噛む。
乱太郎は切なげに、両の足の裏をこすりあわせる。
「ず、ずっと‥‥離れたく‥‥な、い‥‥」
離れたくない、その思いは同じだけれど。
互いが、大切なかけがえのない友人だというのも、本当だけれど。
居心地が良く、離れた後も会えばいつでも打ち解けられる友人関係は、得難いものだ
とわかっているけれど。
「おれ、自信ね」
自信ない、ときり丸は、乱太郎の滑らかな肌に唇を這わせながら、小さく言う。
「‥‥戻れないかもしれね‥‥友達のおまえは、もう‥‥」
「ア‥‥アン!」
いらない。その言葉と一緒にきり丸は深く乱太郎を呑み込む。
離れたくない、その思いは同じだけれど。
生ぬるい友人関係でいるより‥‥。
肌焦げる熱で‥‥火傷したい。
もう、戻れなくても‥‥かまわない。
色素の薄い乱太郎のそこは、光の加減で茶のかかったピンクに見える。
細かい襞が小さくすぼんでいくそこに、誘われるようにきり丸は舌の先を伸ばす。
どれほど舌先を尖らせてみても、きゅっとすぼんだそこは、ほんの入り口しか舌には
侵入させてくれない。
「や‥‥だめ‥‥あ‥‥きたない‥‥」
逃げようとする腰を引き寄せて、亀裂をべろりと嘗め上げる。
双丘がひくりと震えた。
かまわずそこに舌を遊ばせたまま前を探れば、顔を出したそこが丸く張ってしずくを
垂らしている。
「先にイカセてやろっか」
「‥‥え?え、やだ、うぁ‥‥あ‥‥」
生暖かく柔らかな粘膜が体内に忍び入ろうとする、その刺激に耐えながら、腰を緊張
させれば、優しい手がつぼを心得た握りようで、猛ったものをすりたてる。
「あ、あ、あ、‥‥でる、でっ」
きり丸は手の中で、それがひときわ緊張を高めた後、びくびくと小刻みに震えて体の
中の温度のものを飛ばすのを楽しむ。
空気に触れてたちまち冷え始めるそれを指の間に広げてペロンと嘗めて見せれば、射
精の余韻に震えが静まるのを待つ乱太郎が、羞恥という名の興奮に、また頬を新たに上
気させる。
「‥‥やだ、もうきり丸‥‥やらしい‥‥」
「なに言ってるかなー、一週間ぶりなんだぜ。やらしいこと、うんといっぱいしような」
「やだやだ」
言いながら乱太郎の両の足は割られて、きり丸の体を挟み込む。
きり丸がその狭間を割る動きを見せれば、それだけで乱太郎の体に震えが走り、きり
丸が自身をそこにあてがえば、喘ぎが漏れる。
「‥‥こらえて、乱太郎‥‥」
ぐっときり丸の腰が動く。
貫入に乱太郎は一際高い声を上げ、半身を激しく反らした。
くったりと床に吸い付いて動かなくなった乱太郎の髪を、きり丸はすくう。
「‥‥こういうことしてる、友達ってのも‥‥いないと思うんだけどな‥‥」
口づけながら、きり丸は呟いた。
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