特権は諸刃の剣
このところ耳慣れた罵倒を聞かないな、とフランスは手元の本からふと目線を上げる。
暇を持て余していることだし、久しぶりにイギリスの奴をからかいに行くか、としおりを挟んで本を置いた。
もう何度も訪れたイギリスの家は、門を通るとすぐ大きなバラ園がある。
今や英国紳士などと気取っている彼だが、フランスにとっては今も昔も腐れ縁の天敵で、元ヤンのくせにバラ園なんて似合わないことやってやがる、というのが素直な感想だ。
しかしバラに罪はないし、何より美しいものが好きなフランスの目を楽しませてくれる。
バラ園を抜けて玄関をくぐると、そこから先はもはや勝手知ったる家内だ。
迷うことなくまっすぐイギリスの部屋に向かうと、一応ノックをして(しないとうるさい)返事も聞かずにドアを開けた。
「ようイギリス、元気かー? …って、あれ?」
ドアを開け放った部屋の中にイギリスはいた。
……が、仕事中に睡魔に意識を浚われてしまったらしく、未処理の書類が積まれた広いデスクに顔を突っ伏して眠っている。
まだ昼過ぎだというのに、仕事中に居眠りだなんてめずらしい。
そっと近づいてイギリスの寝顔を覗き込むと、半開きの口から零れたよだれが書類に染みを作っている。
あーあ、と溜息を吐いて、イギリスの肩を軽く揺らして起こしてやる。
「おい起きろよ、書類によだれ垂れてんぞ」
「ん……んん……」
「お兄さんがわざわざ来てやったんだぞー、起きねえと今日の晩ご飯作ってやんねーぞ」
あちこち跳ねた髪を撫で回しながらそう言うと、イギリスはゆっくり目を開けて呟いた。
「……めし…?」
目覚めての第一声がこれとは随分と食い意地が張っている。
その反応にフランスは思わず苦笑する。
「おはよー、何昼間っから寝てんだよ」
「……なんでお前いんだよ。不法侵入で通報するぞ」
寝起きのせいかフランスの顔を見たからか、顔を上げたイギリスは酷く不機嫌そうだ。
それをわかっていて、フランスは余計に彼を苛立たせるであろう満面の笑みで答える。
「暇だったからお前をからかいに来たんだけど?」
「帰れ!!!!!! お前と違って俺は忙しいんだよ、昨夜だってあんま寝てねーんだ。仕事の邪魔すんじゃねえよ」
これ見よがしに大きな溜息を吐いて、イギリスはよだれを垂らした書類を手に取り顔を顰める。
こんな昼間から居眠りをしていたのは、仕事が立て込んでいるかららしい。
よく見れば目の下にうっすらクマも出来ていて、昨夜寝ていないというのも疲労の残る顔を見れば頷ける。
そのときフランスの頭に妙案が浮かんだ。
せっかく海を越えてロンドンまで来たのだ、そんなに疲れているなら労ってやろうじゃないの、と薄く笑みを浮かべたフランスは早速それを実行に移すことにした。
ふぁ、とまだ眠そうに欠伸をしてペンを取り直したイギリスの手をぎゅ、と握る。
「…何だよ?」
急に手を握られ、イギリスは訝しげに眉をひそめてフランスを見上げる。
「仕事で疲れてんだろ? お兄さんがマッサージしてやるよ」
「……。変態がなにニヤニヤしながら言ってんだよ。誰が頼むかそんなもん」
マッサージ、という言葉にイギリスはぴくりと身体を震わせて、ほんの少しだけ目元を赤く染めた。
これがフランス以外の発言なら、当然そんな反応はしない。
イギリスにとっては、フランスの言うマッサージは言葉通りのものではなく、マッサージに限らずフランスとの身体的接触をもっと別の行為に結びつけて考えてしまうようだ。
しかしフランスとしては今日は純粋にイギリスの疲れを癒してやろうと思っただけで、彼が考えているような疚しい気持ちはない。
……少なくともこのときはそう思っていた。
「えー? お前何を想像してんだよ。お兄さんマッサージとか結構得意なんだぜー。嫌ならすぐやめるから、騙されたと思って試してみろよ」
な? と微笑って言ってやると、イギリスはもともと赤かった目元をさらに赤くしてそっぽを向いて答える。
「しょ、しょーがねえな、そこまで言ってヘタクソだったらただじゃおかねえからな!」
「はいはい、じゃあ上着脱いでそこのソファに横になれよ」
料理だとかマッサージだとか散髪だとか、フランスはそういうことを器用にこなす側面がある。
そういったスキルがあまり他人のために発揮されることは少ないのだが、イギリスには結構な頻度で使用されている(主に料理が)。
長年敵同士をやっているのに、フランスは何をするにも不器用なイギリスの世話をするのが好きなのだった。
「風呂に入ってからアロマオイルとか使うともっといいんだけど……さすがにそんなもん用意してきてないしな。力抜いて大人しくしてろよ」
うつぶせに寝かせたイギリスの身体を跨いで両手を肩に添え、ゆっくり指先に力を込めると少しずつ硬く張った筋肉を揉み解していく。
長時間椅子に座って仕事をしていたせいか、イギリスの肩や背中はがちがちに凝っていた。
「お前さぁ……忙しいのはわかるけどよ、少し運動した方がいいぜ。すっげえ凝ってる」
「……ん」
フランスの言葉を聞いているのかいないのか、何とも眠そうなぼやけた声の返事が返ってきた。
つい先ほどまで居眠りをしていたくらいだ、やっぱ疲れてんだろうな、と思うとマッサージをする手にも力が入る。
肩、背中、腰と順番に丁寧に解していき、しばらくするとイギリスの全身からは余分な力が抜けて、すっかりリラックスしているようだった。
ヘタクソだったらただじゃおかないなどと言っていたが、フランスのマッサージはお気に召したらしい。
これで少しでも疲れが取れたなら、マッサージしてやった甲斐もあるというものだ。
けれど脱力したイギリスの身体に触れているうちに、今ならマッサージのどさくさに紛れてイタズラしてもバレないのではないか、などと良からぬ考えがもやもやと頭に浮かぶ。
一度そんなことを考えてしまうと、もっとあちこち触りたいという欲求が抑えられないくらい大きくなっていく。
バレてもマッサージだと言い張れば良いのだし、ちょっとくらいなら触っても大丈夫だろうと、腰の辺りを揉んでいた手をそーっと脇腹に滑らせ優しく撫でてみた。
その途端、すぐにぴくり、と僅かにイギリスの身体が震えたが、抵抗する様子はない。
恐らくもう半分眠ってしまっているのだろう、フランスの手が妖しい動きをしているのにも気付いていないようだ。
調子に乗って背後から覆い被さると、イギリスの耳元に唇を寄せて小声で囁く。
「な…、気持ちいい…?」
「……ん………きもち、いい、……」
寝ぼけているとはいえ、こんなに素直な反応が返ってくるなんて滅多にない。
マッサージに対しての答えだというのに、この可愛い反応にフランスは我慢出来ずに彼の耳の後ろに口付け、軽く吸い付いた。
鼻先を擽るイギリスの匂いにうっとりしつつ、何度も触れるだけのキスを繰り返すと、だんだん身体も熱を孕んでフランスは欲望のままに彼の首筋に歯を立てた。
「っ…?!」
それにはさすがに目を覚ましたのか、起き上がろうとしたイギリスの肩を上から押さえ付けた。
「フランス…?! てめ、何やって、…うわっ!」
逃れようとする彼の尻に、フランスは熱くなった下肢をぐい、と押し付ける。
「何って…、マッサージに決まってんだろー? …もっと気持ち良くしてやるから、このまま寝てなって」
「変なとこ押し付けんなっ、これのどこがマッサージだ、ばか!」
真っ赤な顔でそんなことを言われても、今さら引けるわけがない。
押さえ付けられながらも藻掻くイギリスの抵抗など構わず、ベルトを外してソファの下に放り投げるとズボンの前を開いた。
イギリスの服も脱がそうとうつぶせだった彼の身体を反転させると、下腹部にごり、と何やら硬いものが当たった。
文句を言うわりにやる気なんじゃねーか、と思ったのもつかの間、よくよく見れば自分の腹に当たっているのは鈍く光る銃口で。
当然引き金を握っているのはイギリスの指だ。
どこにそんなものを隠し持っていたのか知らないが、さすがにフランスも手を止める。
「死にたくなかったら早くその物騒なモノをしまえ」
イギリスの言う 物騒なモノ とはフランスの下半身を指しているらしいが、どっちが物騒なモノなのか。
下手に挑発したら間違いなく腹に穴が空く、と背中に冷汗が滲んだ。
言われた通りにしぶしぶ身体を起こしてズボンを上げようとすると、腹に突きつけられていた銃身から力が抜けたのがわかった。
「……あ…!」
その瞬間を見逃さなかったフランスは、イギリスの手から素早く銃を取り上げ部屋の隅に放り投げる。
そして正面から向かい合い、彼の頬を手のひらで包むようにして撫でていく。
「お前さ……俺とするの、そんなにイヤなの?」
真剣な表情で問うとイギリスは困ったように目を伏せたが、正直言って何故彼が毎度毎度ここまで嫌がるのか理解出来ない。
初めてしたときからイギリスが受ける側で、フランスより身体の負担も大きいのもわかる。
それでもフランスが誘えば最初は何だかんだと嫌がる素振りを見せていても、甘い言葉とキスを与えられると結局応じてやることはやるのに、それもフランスに無理矢理その気にさせられているとでも言うのだろうか。
そうだとしたらベッドでの過剰なまでの奉仕も、イギリスだってまんざらでもないと思っていたのは間違いだったのかもしれない。
考えてみればイギリスから誘われたことなど数えるほどしか……否、一度か二度しか……否、皆無だ。
もともと行為自体が好きではないのか、フランスとするのが楽しくないのか、それなら何故もっと強く拒否しないのか、こういうときイギリスの態度は煮え切らなく中途半端だ。
しかしイギリスからしたいとか何とか言ってくることはないけれど、フランスが少し強引に出ると流されるように受け入れるのだから、行為自体が嫌なわけではないだろうし、フランスとするのが楽しくないならそもそも流されてすることもないに違いない。
それはずっと気になっていたことでもあったので、この際だからきちんと理由を聞いてみることにした。
「嫌なら嫌だってはっきり言っていいんだぜ。無理させてまでしたいとは思わねえし、そんなのお互い楽しくないでしょ?」
「…別に…、嫌なわけじゃ……今は、いきなりだったから驚いただけで…」
「今だけじゃなくて、いつも嫌がってるじゃねーか。ホントのこと言えよ」
「…や…、それは……」
目を合わせないまま言いにくそうに口籠もる彼の様子に、フランスは軽くへこんだ。
嫌だと言いたくても言えない、イギリスの態度はそんなふうに見えたのだ。
「……嫌ならもうやめよっか? 俺も嫌がってる奴に無理矢理とか趣味じゃないし」
つい詰るような突き放した口調で言うと、イギリスは不安げに揺れる双眸を見開いてフランスの腕を掴んだ。
「い、嫌じゃねえっつってんだろ! 嫌なんじゃなくて……、その、……お前に触られると、…なんか、おかしくなる、……から」
ぼそぼそと呟いたイギリスの答えは想像していたのとは逆で、自分に都合の良い幻聴かと一瞬耳を疑った。
けれど顔を赤くして目を伏せたイギリスを見て、幻聴でも何でもなく本当に彼の言葉なのだと嬉しくなる。
「俺に触られると、どこがおかしくなんの?」
「…んなこと聞くな、ばかぁ!」
フランスのストレートな問いに、イギリスは耳までも真っ赤に染めて顔を背けた。
イギリスがそんなふうに思っていたなんて予想外で、どこをどんなふうにするとおかしくなるのか、もっと詳細に聞きたいくらいだった。
「可愛いとこあんのな、お前。まぁそういうとこも好きなんだけど」
「ばっ、バカかお前……俺はお前なんか嫌いだ!」
「うん知ってる」
イギリスの口から出るのは 嫌い ばかりだが、言葉と態度はいつも真逆だ。
わかりやすいことこの上ない、とフランスは小さく笑ってイギリスの唇に自分のそれを重ね合わせる。
「…、…ん、んっ……」
食むように甘く吸い付き、空いた隙間に舌を差し込むと、遠慮がちではあったがイギリスからも舌先を擦り合わせて応えてくれた。
互いに満足するまでキスを繰り返し、唾液で濡れた唇を離すととろりとした双眸と視線が絡み合う。
「マッサージの続き………してもいい? イギリスは横になってるだけでいいからさ」
言いながらフランスの手はイギリスのベルトを外し、ズボンの前を開いていく。
この後に続く行為がマッサージでないことはわかりきっていたが、イギリスはもう抵抗しなかった。
静かにソファに身体を倒すとフランスの指が直に下腹部に触れ、その感触を確かめるようにそっと皮膚を辿る。
フランスの手はもっと下に下りていき、きゅ、とイギリス自身を手のひらで握り込んだ。
軽く何度か擦り上げてやると、イギリスが短く息を吐くのと同時に少しずつ硬く勃ち上がっていく。
手の中で熱く脈打つものはフランスの目には熟れた果実に映り、思わずその先端をぺろりと舐めた。
そのまま先の膨らんだ部分をゆっくりと口に含み、僅かにへこんでいる窪みに尖らせた舌先を当てて、小さな穴をぐりぐりと広げるようにつついた。
口で咥えたまま、指と手のひらを使って根元をきつく扱いてやると、さっきよりも彼の呼吸が荒くなっていく。
その堪えるように声を抑えた喘ぎにも似た吐息は、フランスの気分をさらに昂ぶらせた。
唾液と滲み出る先走りでぬるぬると滑るイギリスの性器と、それを咥えた自分の唇が擦れる摩擦で熱くなる。
「ん、……ぅ、……は…っ」
本能のままに頭を上下に動かして舌と唇でねっとりと舐り、ときおり軽く歯を立てて甘噛みする。
それを何度も繰り返すと、甘ったるく掠れた声が零れ、イギリスの指がフランスの髪に絡んだ。
彼の震える指先が触れたことで、もう限界らしいと察して顔を上げ咥えていたそれから口を放した。
「っ…、フランス…」
達する寸前で中断されてイギリスは不安げな目で、戸惑いを含んだ声で言った。
途中でやめたのをどう思ったのか知らないが、別に意地悪をしているつもりではない。
髪に触れていたイギリスの手をやんわりと解いて身体を起こすと、必要以上に体重を掛けないように彼の上に跨りソファに膝をつく。
フランスは片手でイギリスの後孔を広げ、もう片方の手で自分自身を支えて入口に宛がった。
「…いい?」
「…も、…いちいち聞くなって…!」
イギリスは快感に蕩けた顔を隠すようにフランスの背に腕を回してしがみつく。
その可愛らしい仕草に表情を緩め、額や頬や唇に何度もキスをしながらイギリスの後孔を割って、ゆっくりと自分自身を突き立てていった。
異物を受け入れることに慣れた内壁は、粘膜を擦られる感覚にも違和感や痛みはかなり薄れている。
感じられるのはフランスが動くたびに与えられる焼けるような熱さばかりで、イギリスは下肢が自分のものじゃなくなっていくような錯覚を覚える。
僅かに乱れた呼吸を繰り返すフランスを見上げて、イギリスは自らもゆるゆると腰を動かした。
「はっ、…はぁ、……ぁッ」
身体の奥まで浸蝕するフランス自身がうねる肉襞を擦り、その強すぎる刺激に無意識に咥え込んだ熱をぎゅうっと締め付けてしまう。
その瞬間、フランスは眉間に皺を寄せて小さく息を吐いた。
(やらしい顔……)
海の波のように揺らめくフランスの双眸には自分しか映っていない。
イギリスはそんなフランスの表情を見るのが好きだった。
このままだとソファが汚れるとかそんなことを考える余裕もなく、揺さぶられるままに声を上げフランスの背に回した腕に力を込める。
奥まで深く貫かれているのに、イギリスの後孔はまだ足りないとばかりに浅ましくヒクついていた。
そのまま下肢に力を入れてさらにきつく後孔を絞ると、フランスは詰めたような息を吐いてイギリスの中に吐精した。
「…あ…、…ァ、…!」
中に放たれたフランスの精液が内部を濡らすのを感じながら、僅かに遅れてイギリスも自分自身の尖端から白濁の蜜を零す。
フランスが零れたそれを指先で掬いぺろりと舐めたのを、イギリスは乱れた呼吸を吐いて見ていることしかできなかった。
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重なるようにしてソファに横になって身体を休めていた二人だったが、イギリスは今にも眠ってしまいそうなほど瞼が閉じかけている。
このまま寝てしまいたいのはフランスも同じだが、後始末のことを考えるとそうもいかない。
「イギリスー、……寝るならせめてシャワー浴びて、ベッド行けよ」
「んー…うん……、後で……」
「おい、イギリス…」
それきりイギリスは寝入ってしまい、どんなに声を掛けても身体を揺さ振って起こそうとしても、目覚めるどころか返事すら返ってこなかった。
あれ、そういや仕事の途中じゃなかったっけ、と思いつつ、疲れているところにさらに疲れるようなことをしてしまったので、少しだけ寝させてやろうと思った。
イギリスの身体を綺麗に拭いてやって、寝室からブランケットを持ってきて掛けてやる。
(起きるまでに晩飯作っとかないとなー。多分起きたら機嫌悪いだろうし)
している間は大人しいのに、終わった後は羞恥が先に立つからか酷い暴言や暴力を平気でフランスにぶつけてくるのだ。
もう少し控えめな照れ隠しは出来ないものかと切実に思うのだけれど、それがイギリスの性格なのだから仕方がない。
少しでも機嫌が良くなるように、彼の好きなメニューで美味しい食事を用意しておかなければ。
一頻りイギリスの寝顔を見つめた後、軽く唇を触れ合わせる。
それだけのことで何となく、ほんのり幸せな気分になったフランスは夕食の準備をするべくキッチンへと向かった。
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兄ちゃんの手つきはマッサージだろうがなんだろうがエロそうです。
書き終わってから普通にマッサージしてるのに勝手に意識してしまうイギリスが見たいなと思いました(今さらすぎる)。
機会があれば書きたいと思います(そのまま忘れる確率100%)。