ミスキャスト/09


フランシスは開いた後孔に硬く反り返った自身の熱を押し当てると、少しずつ腰を進めていく。
そうして狭い入口を割って入っていく熱塊を押し返そうと、アーサーの肉壁はしきりに蠢動しきつく締まった。

「は……ァ、やっ…、…」

「辛い…? アーサー…」

フランシスの問いかけは彼の耳に届いているのか、固く目を閉じ背に回された腕には力が込められた。
本来の用途と異なる使い方をしようとしている器官は、やはり指とは比較にならない質量を容易には受け入れてはくれない。
アーサーも苦しいだろうが、あまり力まれてはフランシスも辛いのだ。
それでもフランシスはこれ以上ないほど緩やかに進めていき、少しでも身体の緊張を解すためアーサーの性器を手のひらで包み直接的な刺激を与えてやりながら、徐々に自身の熱を彼の体内に沈ませていく。
これは今までみたいに互いの性欲を満たすだけの行為ではない。
初めてするフランシスとのセックスを、アーサーがこれから先も二度と忘れられないくらいによくしてやりたかった。
熱を帯びて手のひらに収まっていたものを根元から先に向けて扱き、尖端を人差し指の腹で擦るとじわりと滲む乳白色の粘液が指先を濡らした。
溢れた白濁を塗り付けるようにして擦り手を動かしていくと、その刺激によってフランシスを咥え込んだ後孔が少しずつ弛緩する。
ゆっくりと中を開いて奥へと突き立てていき、あと少しですべて入りきるところまでくると、アーサーの腰を浮かせて両手で掴んでしっかり固定し、一気に根元まで突き入れた。

「ひ、ぅッ…、…ぁあっ」

ぐち…、と結合部から響く湿った音と、アーサーの声が重なる。
互いの下肢が密着し、フランシスを受け入れている場所は灼けるように熱い。
肌がぴったり当たっていることで、自分の中にフランシスの熱が全部収まったことを知ったアーサーは、背に回した腕をほんの少し緩め、閉じていた目を開いてこちらを見上げた。

「…お前のが、俺ん中にあるの……わかる、ぜ…。すげえ熱い……」

「うん……アーサーの中も熱いよ…、あと、すごくきもちいい」

熱の籠もった声音でそう囁くと、アーサーは ばか、 と呟いてぎゅ、と胸に顔を埋め縋り付いてくる。
繋がったまま彼の身体を緩く抱き締め、汗で濡れた手のひらを握ってやると、フランシスはしばらく動かずにアーサーが挿入の違和感に慣れるのをじっと待った。
互いの心音が重なり合い、体温が混ざり合っていく感覚は他に例えようもなく心地良いものだった。
本当はもっとこうしてアーサーの肌の感触や体温を感じていたかったけれど、彼が急に腕だけでなく両脚までフランシスの腰に巻き付けてきて、柔らかくうねる内壁も続きをねだるように収縮し、中を満たすものを締め上げる。
最初は内部への浸蝕を拒むようにきつく締め付けられたのに、フランシスの熱をすべて咥え込んでしまった後は、アーサーの体内に馴染むのも早かった。
フランシス自身にねっとりと絡みつき、その形に合わせて包み込みような肉襞の動きは、息を詰めて堪えなければならないほどの強烈な快感をもたらす。
思わず熱い吐息を零し、額から瞼、頬、唇と順に口付けながら彼の望むままに少しずつ腰を揺すって中を突き、緩慢な動きで律動を始める。

「はっ……ぁア、っん、…ふ、フランシス、…!」

蕩けきった内部に深く突き入れると、アーサーは声を抑えることもせず、甘い鳴き声を上げた。
いつもはなんとか声を堪えようと唇を噛むのに、今日は初めての行為に我慢がきかないらしく、部屋の外にまで聞こえてしまいそうな音量にフランシスは苦笑して、その声を吸い取るように彼の唇に自分のそれを重ねる。
アーサーは唇を塞がれて苦しそうに眉根を寄せるが、フランシスが動くことに苦痛を感じている様子はない。
それどころかフランシス自身を咥え込んだ後孔は、もっと奥へと誘い込もうと蠢いている。
相変わらず快感に従順で、身体は酷く素直だ。
アーサーは息苦しさのあまり口付けから逃れるように顔を背けたが、フランシスは彼の顎に手を添えて正面に向けさせると、潤んだ瞳と視線が交わった。

「…声も抑えられないくらいきもちいい?」

「うるせえっ、わ、わかってるくせに、…聞くなばかぁ…」

「わかんないから聞いてんの。俺だけよくても意味ないだろ、…二人でしてるんだから、一緒に気持ち良くなりたいし……な?」

動きを止めたフランシスを見上げる緑色の双眸が、涙の被膜でゆらゆらと揺れている。
アーサーはフランシスの言葉に長く息を吐き、首を縦に振るのと同時にまなじりにぷくりと溜まった涙の粒が零れ落ちた。
濡れた頬にキスを落とすと、フランシスの身体に巻き付けた両腕両足にさらに力が込められる。
早くしろ、と言わんばかりにぎゅうぎゅうとしがみついてくるアーサーの身体は、まるで湯上がりのように赤く染まっていて、全身でフランシスを誘っていた。
そんないやらしい姿を見せられたら、堪えることも出来なくなる。
彼の望むままに律動を再開し大きく腰を引いて強く打ち付けてやると、アーサーは声にならない喘ぎを零して身を震わせる。
フランシスは中を擦る速度を上げ、最奥を抉るように思う様突き上げた。

「フラン、…っ、…、ふ、っ……ぁ、…ぅあっ」

フランシスに縋り付き、アーサーは体内を出入りする凶暴な熱を必死で受け止めた。
アーサーの蕩けきった肉襞はフランシス自身を柔らかく受け入れるだけでなく、自分の名を呼びながら身をくねらせ乱れる様は酷く扇情的だった。
本当にかわいいなぁ、と頬を緩ませ、強く腰を引き寄せてより結合を深めると、また高い声が上がる。
きっとアーサーは頭の中も身体も全部、フランシスでいっぱいなのに違いない。
もっと己の熱で満たして、今以上に自分のこと以外何も考えられなくなるほど感じさせてやりたくなる。

「俺のは…イイ、…? アーサー…」

卑猥な問いを囁き、焦点を失い欠けている両眼を覗き込んだ。
もう虚勢を張る余裕もないのだろう、アーサーは素直に頷いて切れ切れに答える。

「すげぇ、いいっ…、……俺……も…、わけわかん、ね…、…」

腰を打ち付け全身を揺さ振ってやると、腹部に当たっているアーサー自身は硬く張り詰め、止めどなく零れる蜜が互いの肌やシーツに飛散する。
フランシスのものでいっぱいに開かされた後孔はぎち、ときつく締まり、もう限界が近いことを訴えていた。
繋がったままアーサーの腿の裏に手を掛け、シーツに膝が付きそうなほど足を折り曲げて強く押さえ付けると、上から勢いをつけて突き入れる。
力強く脈打つ熱い肉塊に貫かれ、柔らかく濡れた内部は貪欲にフランシスの熱を咥え込んだ。
真っ赤な顔を涙で濡らし、されるままにすべて受け入れるアーサーはひたすら健気で、愛おしいばかりだった。
いつから彼が自分のことを好きでいてくれたのかはわからないけれど、アーサーと抱き合うことでこんなに幸せな気持ちになれるのなら、ふらふら遊んでいないでもっと早くこうすれば良かったと少しだけ後悔した。
息を吐くたび上下する胸に口付け、腫れたように尖った乳首を舌先で押し潰しながら転がし、激しい抽送を繰り返す。
ひときわ強く、自分自身をアーサーの中に捻り込み最奥まで貫くと、尖端に硬くしこったものが当たった。
それをぐい、と押し上げた瞬間、アーサーの身体は大きく震え、背を弓なりに反らして声もなくあっけなく果てた。
その直後、後ろに突き立てられたフランシス自身を思いきり締め上げ、アーサーの性器からはどろりとした白濁の蜜が勢いよく噴き出して腹から胸にかけて広く濡らす。

「…アーサー、…っ」

達したことで彼の内部がきつく絞られ、忙しなく収縮する柔肉の刺激を受けてフランシスももう限界だった。
フランシスはアーサーの中を満たしていた己の熱を引き抜くと、彼の腹の上に吐精する。
混ざり合ってどちらのものかわからなくなった精液が、彼の薄く割れた腹筋をなぞってシーツの上に流れ落ちた。

「あっ…、…フ、フラン、シスっ…」

耳元で熱く甘く名を呼ぶ吐息混じりの声が鼓膜を震わせ、フランシスはアーサーを抱き締めて口付けた。
するとアーサーからも身を擦り寄せてきて、何度もキスを繰り返すと満足したのか、湿った吐息を漏らして目を閉じた。
荒い呼吸を紡ぎながら向かい合うようにして横たわり、最後に全身を襲った大きな快感の余韻はすぐには消えてくれない。
それはアーサーも同じなのだろう、ぐったりとベッドに身を沈ませている姿を見ると、初めてだから仕方がないとはいえ、ちょっと無理させたかな、と実感する。
火照った肌や汗で湿った髪を撫で、指先で跳ねる毛先を弄びながら頬や耳やこめかみにも口付けると、戯れのように触れる感触がくすぐったかったのか、アーサーは薄く瞳を開けフランシスと目が合うと慌てて毛布を被って背を向けた。
どうやら恥ずかしくて仕方がないようだが、一つのベッドで同じ毛布にくるまっているのだから隠れても無駄である。
フランシスも毛布の中に潜り込み、布団の中でアーサーを抱き寄せた。

「なに隠れてんの? 今さら照れるなよ」

「照れてねえよバカ! つーか暑い! くっつくなっ」

毛布をすっぽり被って抱き付かれて、暑いのと息苦しいのとでアーサーは足で毛布をはねのけた。
フランシスは彼の身体を腕に抱いたまま赤い頬に何度もキスをして、お前ほんとにかわいいなぁ、などと囁きながらうなじに頬を擦り付ける。

「どっか痛いとこない? アーサーもちゃんときもちよかった? 俺はすっごくよかっ」

そこまで言いかけたとき、ついにアーサーの羞恥が限界に達したらしく、振り向くなり思い切り額に頭突きされて、するりと腕から逃げられてしまった。
…とはいえ、あまり広くないベッドなので、逃げたと言っても手を伸ばせば届く距離なのだが。

「いってーな……何すんだよ!」

ずきずきと痛む額を押さえて身を起こすと、アーサーは大笑いしたのち、 そのまま死ね、 と言い放った。
……おかしい。
何度も甘えた声音でフランシスの名を呼んで、かわいく縋り付いてきたアーサーはどこに消えてしまったのだろう。
行為が終わってまだ十分と経っていないのに、もう普段通りの彼だった。
まぁ今までがこの調子だったのだから、恋人同士になったからといって急に変わるとは思っていないし、こういう鋭角な部分があってこそアーサーだ。
そんな彼がいかがわしいビデオに出てまで自分と抱き合いたかったというのだから、手段としてはずれていると思うが、それだけ必死だったのだと思うと嬉しくもある。
背を向けたままの彼の丸い後頭部を眺めながら、フランシスは零れる笑みを抑えきれずに頬を緩ませた。
それにしてもAVに出るなんて面倒なことをしなくても、普通に好きだと言ってくれれば良かったのになぁ、と改めて思うが、アーサーは昔から色恋事には疎い方な上に、友達もろくに出来ないことを気にしていて、他人から好意を向けられることにも慣れていない。
そんなアーサーにはフランシスの女性関係はだらしなく見えたのだろうし、ただでさえ人から好かれる自信を持てない彼が、そんな節操なしの自分にまともに告白する気にすらなれなかったというのも、仕方がないことかもしれない。
AVなんかに出ていたらそう思われるのも当然だし、何よりアーサーの気持ちを知らなかったとはいえ、自分の出たAVを彼に見せたりするなんて、最低にもほどがある。
自分の言動が随分アーサーを追い詰めてしまっていたのだと今さらながらに気が付いて、そのことにめずらしく少しばかり自己嫌悪に陥った。

「俺、アーサーにずっとやな思いさせてたね。……ごめんな」

「な、なんだよ改まって……気持ち悪ぃな」

フランシスの科白に、振り返ったアーサーは顔を顰めている。

「だってアーサーがそこまで俺のことで思い悩んでたなんて思わなかったからさ。でもこれからはお前だけにするし、今までの分も合わせて大事にするから」

きっと初めて見るであろう、フランシスの真摯な表情と言葉に、彼は僅かに口元を緩ませたかと思うと、隠すように枕に顔を埋めて 当たり前だばか、 と小さく呟いた。
顔は見えないが、真っ赤に染まった耳たぶからは湯気が出そうなほどだ。
フランシスは自分の言った言葉のとおりに、今後はアーサー以外と付き合うつもりはない。
どうしたら本当に本気でアーサーだけを恋人にして、大事にするつもりだということが伝わるだろう。
今すぐ信じて欲しいとは言わないけれど、今までの素行があまりに酷かったので、言葉だけじゃなくなんらかの行動でその気持ちを示したい。
彼の丸い頭にぼさぼさと生えている髪を撫でながら少し考えて、フランシスはベッドサイドに置いていた携帯を手に取ると、手早く発信操作をする。
深夜にもかかわらず、数コールで電話は繋がった。

「あーギルベルト? うん俺ー、悪いな、こんな遅くに。あのさ、AVのバイトのことなんだけど、あれもうやめるわ。……はぁ? 急じゃねーよ、もともと一回だけって約束だったろ。あとアーサーの撮影のことだけど、お前俺に相談もなく勝手に話進めてんじゃねえよ、言っとくけどそれも白紙だからな! まぁそういうわけだから、もうバイトのことで連絡してくんなよー、じゃあな」

ほとんど一方的に言って、フランシスは通話を切るとギルベルトの番号を着信拒否に設定する。
断ったとはいえ、また懲りずに連絡してくるだろうということは予想が付くので、このまま二、三ヶ月は着信拒否にして、ほとぼりが冷めたら解除することにした。
話を終えると、驚いた様子でこちらを見上げていたアーサーがぽつりと呟く。

「…フランシス…、今の電話…」

「うん、もうあのバイトはやらない。俺とお前が出るやつも断っちゃった。アーサーのエロくてかわいいとこ知ってるのは俺だけでいいでしょ?」

「ば、バカ! なに恥ずかしいこと言ってんだ! つーか、そんな勝手なこと言っていいのかよ?! 撮影のやり直し、近いうちに都合つけとくって言われたぞ…」

「え? だってもう一回撮影するってのは、アーサーとギルベルトが勝手に決めた話で、俺は何も聞いてないもん。そんなの引き受ける義務なんかないでしょ。うん、まぁ、アーサーがどうしてもカメラの前で俺としたいって言うなら、カメラ借りてくるからお前が高校生んときの制服着て、ここで撮りながらすればいいんじゃな……いってぇ! ちょっ、痛い!」

話の途中で髪を引っ張られ、髪の下から現れた耳もついでとばかりに一緒に引っ張られた。
一応恋人同士になったはずなのに、この仕打ちは一体なんなのか。
髪を掴んでいる手を取り、なんとか髪に絡んだ彼の指をほどくと薬指の付け根にキスをした。

「じゃあ改めてこれからもよろしく、俺のかわいい坊ちゃん」

そう囁いて指の股を舐めると、アーサーは色気の欠片もない裏返った声を上げる。
こんなとこも感じるのか、とやわやわと彼の手のひらを揉みながら感心していると、固く握ったアーサーの拳が今度は頭に振り下ろされた。
相変わらず容赦がないが、ただ甘いだけの関係は自分たちには似合わないから、これはこれでいいのだ。
殴られた衝撃で、ベッドに沈んだフランシスを見下ろしているアーサーの視線を柔らかく受け止め、鮮やかな色の薄緑の瞳を見返す。
しばらく見つめ合うようにして固まっていたが、アーサーは瞳をぎゅ、と閉じて肩口に顔を埋めるようにして縋り付いてきた。
そのとき耳元に微かに 好きだ、 と聞こえた気がしたのは、都合のいい幻聴だろうか。
試しに 俺も好き、 と返してやると、彼の身体がぴくりと震え、やがてじわりと熱くなった。
幻聴なんかじゃなかったみたい、と嬉しくなって、フランシスはアーサーの身体を抱く腕に少しだけ力を込めた。





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アーサーが想定外に可哀想な子に…。