永続トラップ


ある夏の日の午後。
強い日差しがじりじりと肌を焼く。

今日は体育の選択授業だ。
イギリスは茹だるような暑さの中、広いグラウンドを走り、サッカーボールを蹴る。
自分のチームのミニゲームが終わって休憩していると、審判をしていたスペインがこちらに向かって大きく手を振って叫んでいる。

「おーいイギリスー、悪いんやけどあと2つボール持って来てくれへんー?!」

彼に合わせて大きな声で返事をするには少しばかり体力を消耗していたので、立ち上がって手を上げた。
了解した、の意である。
イギリスの答えはスペインにも伝わったらしく、 「急がんでええから、頼むでー」 と間延びした声が返ってきた。
少し休んだ後、腰を上げて体育用具室へボールを取りに向かった。
用具室はグラウンドの隅にひっそりと建てられていて、目的の場所に近づくにつれ、なにやら騒がしい声が聞こえてくる。
すると ばしゃん、 と激しい水音が辺りに響き、それに続いていくつかの歓声。
音の聞こえた方に顔を向けると、プールに大きな水飛沫が上がるのが見えた。
選択授業ではサッカーとテニス、そして水泳の中から選ぶことが出来る。
当然サッカーだろ、と思って選んだのだが、さすがにこの炎天下の中、陽炎の立ち上るグラウンドで汗だくになりながらボールを蹴っていると、涼しげな水音が少しは羨ましくもなるというものだ。
跳ねる水飛沫を見てイギリスは小さく舌打ちをして、本来の目的である用具室へと向かった。
用具室の扉は開けっ放しになっていたので、そのまま中に足を踏み入れると室内に入った途端、むわ…、と埃っぽい熱気が全身にまとわりつく。
その暑さは空気が籠もっている分、外よりも不快感を増していた。
イギリスは思わず顔を顰めたが、早く用事を済ませてここから出ようとかごからボールを2つ取り出し、早足で用具室の外へ出た。
……出た、ところで。

「あれ、…イギリス?」

用具室の入口前に、裸の全身に水滴を滴らせた男が立っている。
濡れた身体には下肢を覆う水着だけで、筋肉の流れにそって伝う雫に思わず目線を奪われた。
名を呼ばれたその声には嫌と言うほど聞き覚えがあったので、確認せずとも目の前に立っているのが誰かなんてわかりきっていたけれど、イギリスは顔を上げて男を見た。

「この暑いのによくサッカーとかやるよなぁ」

思った通り、そこに立っているのはフランスだった。
肩まである長い髪を一つに束ね、首からタオルを下げている。

「うるせーな、人の勝手だろ」

「まぁそりゃそうだけど。いやープールっていいよなー、涼しいし気持ちいいしみんな裸だし」

「…お前最後のが目的でプール選んだんだろ、変態め」

今日はうんざりするほど暑いけれど、フランスの科白を聞いてプールを選ばなくて良かった、とイギリスは溜息を吐き、続けて問う。

「それよりお前こんなとこで何やってんだ。サボりかよ?」

「なんでこんな暑いとこにわざわざサボりに来るんだよ。新しいビート板取って来いって頼まれただけ。そう言うイギリスこそサボりか?」

「そんなわけあるかっ! ボール取りに来たんだよ、見ればわかんだろっ」

片手に持っていたボールを投げつけると、フランスはひょい、とそれを避けた。

「なぁ、イギリスも今からこっち来たら?」

「お前みたいな変態がいるプールになんか入る気しねーよ」

そんな何気ない、普段通りの軽口を交わしながら、イギリスは所在なさ気に視線を泳がせた。
……なんというか、目のやり場に困る。
フランスの裸なんて見慣れているはずだが、不意打ちのように視界に入ったことで少しだけ動揺した。
ざわざわと胸に広がる後ろ暗い欲望を押し隠しても、気が付けば目線は彼を追っている。
フランスのことをそういう目で見るのはやめようと思うのに、自分より少しだけたくましいその身体を目にするたび、軽い興奮を伴って身体が熱くなる。
そしてイギリスの性癖にはフランスも早くから気付いていて、それをイギリスが自覚するように仕向けたのも彼だった。
最初に誘ったのはどっちからだったのかなんて、あまりに昔の話すぎて今となっては思い出せない。
二人の間には、ただ、抑えられない大きな衝動があった。
…初めてのときも、今も。

「今日は暑いな……。なぁ、最高気温何度か知ってる?」

この天気では相当に暑いのだろう。
知らねぇ、と素っ気なく答えると、フランスは青空を仰いで 35℃だってさ、 と独り言のように呟いた。
暑いとは思っていたが、それを聞いてさらに暑さが増した気がする。
けれど今のイギリスにとって、今日の気温なんてどうでもいいことだった。
気になっているのはそんなことではないのだ。
フランスの裸体をこんな眩しい陽光の下で見ることは少ない。
彼の身体のラインにそって流れ落ちていく水滴に、イギリスの視線はフランスの首から下に釘付けになっていた。
こんなふうに身体ばかりじろじろ見ていたら、変に思われるとわかっているのに目線を外すことが出来ない。

プールの授業で使用する水着は基本的に自由だ。
イギリスが持っているのはトランクスタイプのものだが、フランスが身に付けているのは競泳用の水着だった。
それは伸縮性のある生地で、水の抵抗を少なくするために身体にフィットするような作りになっている。
プールに入って濡れたせいもあってか、ますます肌に張り付くようにぴったりしているそれはやけにフランスの下肢を強調しているように見えて、イギリスは無意識にごくり、と喉を鳴らしてしまった。

「……あのー……イギリス? なんかさっきから目線がイヤラシイんですけど。どーしたよ、…お兄さんの裸見て欲情しちゃった?」

微かに笑いを含んだ彼の言葉に、はっと我に返る。
多分、…否、間違いなく、今の自分は酷く物欲しそうな顔をしていたのだろう。
フランスの表情が笑みに歪んだのが、その裏付けだ。

「……そうだ、って言ったら、どうする?」

イギリスがそう返すと、意外な返事に あれ、 とフランスは少しだけ首を傾げた。

「うーん……まぁ授業中だし、お互い用事も言い付けられてるしね。……五分だけなら付き合うぜ?」

五分じゃ足りない、と思ったけれど、彼の言うとおり今は授業中だ。
あまり時間は取れない。

「…五分経ったら、途中でもやめるからなっ」

イギリスの返事に、フランスは少しだけ声を上げて笑った。
周囲を見回し、誰も見ていないのを確認して二人で熱気の籠もった用具室へ入ると、内側からは鍵を掛けられない扉を閉め、開けられないように支え棒を立て掛ける。
窓も閉め切ると息をするのも苦しいくらいに、用具室の温度は上がっていった。
用具室を密室にしてしまうと、イギリスはフランスの前に膝をついて座り込んだ。
時間がないのでいつになく性急な手つきで彼の濡れた水着をずり下げると、中から現れた性器にそっと指を絡ませる。
触れたくて仕方なかったものが手の中にあることに、イギリスの瞳は悦びに揺らめき熱く湿った吐息を零した。
片手をフランスの太腿に当て、もう片方の手でフランス自身を包み擦り上げる。
そうやって何度か手を上下させただけで徐々に熱を帯びていくそこに、唇を押し当てゆるゆると先端を口内に含んでいった。
彼の熱を咥えて口の中に収めると、プール独特の塩素のにおいと味が舌先に広がる。
そんなことにすら興奮を覚えて、イギリスは夢中でフランスのそれに舌を這わせて吸い上げた。
慣れない行為ではあったが少しでもよくしてやろうと必死に頭を動かして、舌と唇で敏感な部分を擦っていく。
しばらくその辿々しい愛撫に任せていたフランスだったが、下肢に顔を埋めているイギリスの丸い後頭部を大きな手のひらで包むようにして支えると、ゆっくりと腰を動かし始めた。

「…っ…?! ぅ、ん、んっ…」

突然口腔内を突くように出入りし始めたものに咄嗟に歯を立てそうになったが、すんでのところで堪えて目を閉じる。
溢れた先走りと唾液が混ざり合って、ぬるぬるとした感触が舌の上を滑っていく。
口を限界まで開かされ、顎が疲れて痛くなった。

「ふぁ、っ……あ、…ぁ…」

口内への出入りを繰り返すフランスの熱は勢いを増し、その熱さと硬さ、力強さに翻弄されて、イギリスはされるままになっていた。

「イギリス、…ちゃんと全部飲まないと、何してたか…、バレるかもよ?」

フランスも息を弾ませて普段より色を帯びた声音で囁く。
もうじき吐き出される精を飲み込むのは抵抗があるが、ジャージや用具室の備品に飛び散って汚れたら困るので、今は仕方がない。
イギリスはいつ放たれてもいいように、きつく目を閉じてドキドキと胸を震わせながら彼が達するのを待つ。

「…、出すぞ、…イギリスっ…」

余裕のないフランスの声。
それと同時に喉の奥まで突き入れられ、どくん、とフランス自身が口内で弾けた。

「…ん、…ぁ、ッ…、…」

一気に大量の熱い精液が流れ込んで、なんとか飲み下そうとするがフランスのを咥えたままでは上手く嚥下することが出来ず、唇の端から伝って滴り落ちる白濁を慌てて両手で受け止める。
零しながらも吐き出されたものを飲み込むと、ようやく彼の熱が口内から抜き取られイギリスは大きく息を吸い込んだ。
口と手のひらは少し汚れたが、ジャージも周りの備品も汚れていないようだ。
イギリスは満足げな吐息を漏らして手の甲で唇を拭うと、何事もなかったかのようにボールを抱えて立ち上がる。

「なんだ、もう戻るのかよ?」

「当たり前だっ、お前もそれ持ってこいって頼まれてんだろーが! いい加減戻らねーと怪しまれるぜ」

フランスの足下にあるビート板を蹴ると、彼はそれを拾い上げて言った。

「じゃあ次の授業サボって、ここで今の続きしない?」

五分、と言ったとおり、長時間ここにいたわけではないのに、外の気温の高さと、閉め切ったことで熱を孕んだ澱んだ空気が充満している。
それに加えてあんな行為をした後だ。
イギリスは努めて涼しい顔をしていたが、その肌は汗で濡れていた。

「こんなとこでやったら暑くて死ぬだろ……死にたいなら一人で死ね、バカ」

「なにその言い草酷い! 自分から仕掛けてきたくせにっ……」

「うるせえなっ、だからしゃぶってやっただろーが! つ、続きは後だ!」

「後って? 放課後の生徒会室とか?」

からかうような口調で言ったフランスに、イギリスは劣情を秘めた瞳で見上げる。

「……そんなわけあるか…。夜、………俺の部屋に来いよ」

不機嫌を装った声音で答えると、彼は薄く笑みを浮かべた。
こうして繰り返される、明確な理由のない接触。
どちらが先に抜け出せるのか、この関係はまるで互いに仕掛け合った罠のようだ、とイギリスは思った。





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夏の暑さのイメージが伝わるといいなぁ……と思って書いた。