余韻
「監督」
豪炎寺の漆黒の瞳が二階堂を見据えた。
二階堂の大きな手が豪炎寺の頭を優しく撫でる。
「二階堂監督」
手を避けるように頭を振るい、豪炎寺は二階堂に近付く。素肌と素肌が触れ合って、じわりと人の温度が伝わってきた。
薄暗い寝室。二人はベッドの中、生まれたままの姿で布団に包まっている。時刻は夜遅く、空気は気だるさが漂う。ベッドは整えられても、その周りはくしゃくしゃの衣服にゴミ箱に溜まる丸まったティッシュや避妊具の空き袋――――情事の跡が残っていた。
身体を重ねてシャワーを浴びれば、いつも二人は余韻を残す事無く眠ってしまう。
なのに、今夜の豪炎寺は冴えた瞳で二階堂に身を寄せてきた。
「豪炎寺。早く寝なさい」
二階堂としては子供の豪炎寺に禁じられた行為をした上に夜更かしさせるのは罪悪感がして、眠るように促す。
「少し、少しで良いから、話がしたいです」
「……少し、だけだぞ」
許可をすれば、豪炎寺は二階堂の腕に手を絡めてきた。
これはいつもの事だった。豪炎寺はベッドの上では身体に執拗に触れてきて甘えたがる。指摘すれば離れるので、二階堂はあえて何も言わずに好きにさせておく。
「話というか、すみませんでした」
「ん?」
「ごめんなさい」
落ち込み、俯く豪炎寺の額が二階堂の肩にあたる。
彼が詫びたのは、今夜の情事に理由があった。愛撫して慣らしたはずなのに、どうしても性器の挿入に豪炎寺が痛がってしまい二階堂は諦めたのだ。高まった性欲の処理は豪炎寺の足の間で摺り寄せて吐き出した。
「謝るなよ。そもそも豪炎寺に負担がかかりやすい。無理しなくて良い」
「ですが……」
情事の最中も豪炎寺は気落ちし、二階堂が慰めるように何度も彼を果てさせてくれた。それが逆に豪炎寺の罪悪感を増してしまったようである。終わっても引き摺っているのだ。
「俺、頑張りますから」
「なにをどう頑張るんだ?」
豪炎寺の顔を上げさせ、間近に寄せて“ん?”と問う。
彼の頬がみるみる染まり、口ごもった。
「豪炎寺がその気なら、もっとエッチな事するぞ」
「え?」
油断させた所で、二階堂は豪炎寺の身体をまるごと抱き締める。
「どんな事、するんですか?」
不安そうに豪炎寺は二階堂へ視線を送った。
「豪炎寺の知らない、あんな事やこんな事だよ」
「ほんと、ですか」
「冗談に決まってるだろ」
「冗談、ですか」
拗ねたように目を細める豪炎寺。
「どうして二階堂監督はこういう時、意地悪なんですか」
「俺、意地悪か?」
「意地悪です」
二階堂の腕から逃れて、寝返りを打って背を向けた。
「……………………………」
じっと二階堂が豪炎寺の後姿を見詰めていれば、やがて横目でチラチラ伺いだし、向き直って抱きついてくる。二階堂は腕を回して豪炎寺の髪を撫でてやれば、とろんと瞼を重くさせた。
言葉は要らず、身体に触れて愛を伝え合う。温もりが心地良く二階堂も眠たくなってきて、二人は睡魔に落ちる。
時間が経てば体勢が崩れ、寝相の悪さにお互い蹴り合っていた。けれども起きる気配は無く、絶妙の足の絡ませ具合で朝まで目覚めなかった。
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