全部、夢だったら良かったのに。
堕ちるとき
二階堂は眠りから意識が覚めていくにつれ、目覚めたくなくなった。このまま眠って、いなくなりたいかのような気分だった。けれどもカーテンから差し込む光が瞼に注いで、彼の瞳を開けさせる。
「ん………………」
低く呻いて、ベッドの布団の中でもぞりと動いた。
シーツの感触が直接的に肌に触れる。腕を出せば、すっかり小柄になってしまった少年の腕が覗いた。
――――すう。
間近で聞こえた呼吸に、二階堂の全身は硬直し、ゆっくりと恐る恐る首を向ければ豪炎寺が眠っていた。
彼女も布団から覗く肩は素肌で、生まれたままの姿だというのは二階堂がよくわかっている。
首の後ろは淡く色付いており、それも覚えがあった。
「…………………………」
一人二階堂は頭を抱えてシーツに顔を埋める。
全部、本当だった。夢になんか、ならなかった。
二階堂と豪炎寺は互いに愛し合う“恋人”だ。
けれども年齢や立場から、表には出せず、関係も清い交際を続けていた。
二階堂も中年ではあるがまだ若い健康な男、豪炎寺も子供ではあるが十分女性である。互いに抱く欲情があっても、押さえて付き合っていた。
だが、ある出来事によって狂いが生じる。豪炎寺によって飲まされた伊賀島秘伝の薬で二階堂は数日間の間、子供の姿に変えられてしまった。身も心も豪炎寺と同年代の少年となった二階堂に、二人の恋慕の感情は押さえがきかなくなり、崩壊寸前まで追い込まれてしまう。豪炎寺が責任を感じて二階堂の家に泊り込んでいたのも大問題だった。
二階堂は豪炎寺の色香にやられ、豪炎寺も顔の位置が近くなった二階堂にくらくらし、とうとう昨夜二人は一線を越えてしまったのだ。
二階堂は力任せに豪炎寺をベッドに押し倒し、豪炎寺は待っていたかのように首に腕を回して夢中に口付けを交わす。我慢の限界を超えた二人は盛った獣のように服を脱がしあい、性器を露にして結合させた。避妊はしたが、すればいいという問題ではない。二階堂の中で豪炎寺を愛するからこそやってはいけない禁忌を犯してしまったのだ。
――――最悪だ。
顔を埋めたままの二階堂の横で、豪炎寺が目を覚ます。素肌にはところどころ二階堂の刻んだ所有の証があり、寝室は情事の痕が色濃く残っていた。豪炎寺にとって昨夜は初夜であり、恥じらいをもって二階堂の背を揺らした。彼の背にも豪炎寺の刻んだ証が残っている。
「監督、二階堂監督」
「豪炎寺…………」
やや上半身を浮かせた隙間から乳房が見え、二階堂は興奮しそうになる衝動を抑えながら返事をした。
「息、苦しそうでしたけど、大丈夫でしたか」
「ん、ああ。豪炎寺こそ、その、大丈夫か」
「…………はい」
こくん、と頷く豪炎寺。
短い返事ではあるがどこか女性らしさが漂い、二階堂は罪悪感に苛まれた。
「豪炎寺、すまない……俺は本当に……」
二階堂の落ち込みぶりに、豪炎寺は困惑する。
「監督……」
「俺、…………お前のこと、大事にしようって決めていたのに……俺……」
「………………………………」
意を決したように豪炎寺は二階堂の額に唇を押し付けた。
「監督が…………のせいで…………のは、嫌……です。昨夜、嬉しかったです」
「豪炎寺……」
見詰め合う視線に、二人は胸を高鳴らせる。一度相手の肉欲の心地よさを知ってしまえば、我慢がさらに困難になってくる。
「あ」
身体を抱き締め合えば、走る微弱な電流に豪炎寺は高い息を漏らす。
二階堂が口を開けて舌を出し、合図を察すれば豪炎寺も舌を出して、舌先同士を突いて絡ませあう。
「………んっ、………ふぅ」
水音を立たせながら、二階堂が豪炎寺の秘部に手を滑り込ませれば、蜜が指に付着する。
「は、…………ぅあ………」
指をばらしながら愛撫を施せば、淫らな熱い息を吐く。
二階堂が豪炎寺の反応に無邪気に微笑めば、お返しとばかりに豪炎寺が二階堂の頬を舐め上げた。
「あ、あっ」
二人が快楽に震えるたびにベッドが軋み、くぐもった甘い吐息が零れる。
朝日を浴びながら、深く、深くへ堕ちていく。覚めない夢の中を泳いでいた。
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