とある田舎の中学校の教師、二階堂修吾。
彼はひょんな事から両親のいない豪炎寺修也とその妹、夕香を引き取り、一緒に暮らしていた。
となりのウチュウジン
早朝。修也が目覚めるなり縁側の戸を勢い良く開ける。
家はお化け屋敷のような古い木造建築で、音だけで夕香が目覚めた。
「ふああ……お兄ちゃん、おはよ」
「おはよう夕香。監督を起こしてくれ」
――――監督。修吾は二人の兄妹にそう呼ばれていた。
由来は、修吾が中学校でサッカー部の監督をしているからだ。そして修也も夕香もサッカーが大好きだった。
「カントク、起きてえええ!」
布団で眠る修吾の上に夕香が乗りかかる。
「ん、ああ。夕香ちゃん……修也も、おはよう」
眠気まなこを擦りながら起きる修吾。もう一度、耳元で夕香に大声で呼ばれ、完全に目覚めた。
起きたら朝食の準備と弁当の準備。修也は小学校に通っており、てきぱきと身支度を整え、飯を作り出す。
「すまん、寝坊した」
詫びる修吾に修也はいいえ、と首を振り、ほとんど一人で三人分の朝食と弁当を作り上げてしまう。
「お兄ちゃん、美味しい!」
食卓に並べていただきますをすれば、夕香がそれはそれは美味しそうに兄の手製料理を頬張った。
「そうだな、修也のご飯はいつも美味しいなぁ」
「……………………………」
修也は俯き、黙々と食べる。はにかんでいるのを修吾は察して微笑んだ。
そして不意に、外から声が聞こえる。
「おーい!修也くーん!」
「修也くーん!」
修也が顔を上げ“今行く!”と応えた。
「あの声は……」
「円堂くんと風丸くんだよ」
「ああ、そうだったそうだった」
修也は飯を掻き込み、席を立つと、ランドセルと弁当を持って行ってしまう。
修吾と夕香が二人きりになり、飯を終えると修吾は仕事を始めた。今日は学校の用事はなく、家で出来るもの。修吾の書斎は庭と繋がっており、そこから外で遊ぶ夕香の様子を眺められる。
夕香は弁当が楽しみらしく、昼を待ち望んでいた。
「カントク〜」
たたた、と走ってきて、花を持ってくる。
「綺麗でしょ」
「ああ、綺麗だね」
「えへへ」
にっこりと笑う夕香。修吾が仕事に没頭する頃、彼女は庭の池でおたまじゃくしと戯れていた。
池に手を入れればひやりと冷たく、指を揺らせばおたまじゃくしが逃げていく。
捕まえようと井戸の近くでバケツを探していると、彼女はあるものを見つけた。
「なにこれ?」
近付いて拾い上げればクッキーフレーバー。未開封で、感触で中身も確認できる。
「あれえ?」
その先にはまた別のクッキーフレーバーが落ちている。
またその先にも落ちており、拾っていけば、どん、となにかにぶつかった。
「きゃっ」
「ワッ」
“なにか”も声を上げる。尻餅をついた夕香が目を丸くして見上げれば、小柄な少年がいた。けれども普通ではないと一目でわかる。なぜなら――――怪しげなヘルメットをつけているからだ。
「貴方だあれ?」
夕香に指を差されたヘルメットの少年はハッとして、手首につけられた時計を指で突き、振るう。しかし何も起こらず、その間に夕香が起き上がって近付いてきた。
「ウワワッ」
逃げ出すヘルメットの少年。好奇心旺盛な夕香はわくわくと目を輝かせ、後を追う。
「クルナ!」
「待て待てえ〜っ」
ヘルメットの少年の言葉に耳を貸さず、追い続ける。ヘルメットの少年が草むらに飛び込み、木々の作ったトンネルを抜けようとするが、夕香もしつこくついてきた。トンネルの先には大きな大きな木がそびえ、幹の隙間の穴にヘルメットの少年と追跡する夕香も入り込んだ。
「きゃっ!」
また尻餅をついた夕香が見た光景はまさしく異様だった。
何十人もの人間が、一斉に夕香に注目する。衣服はどれもヘンテコで奇抜なファッションであった。
「おいグリンゴ!なに連れてきてるんだ!」
緑色の髪の少年がヘルメットの少年をグリンゴと呼ぶ。
「スミマセン、レーゼ様……装置ガ壊レテイテ」
「装置が?……後で見てみよう。その前にだ」
緑髪の少年が夕香を見据え、きょとんとしている彼女にペンライトをかざす。
カッ!
光ったと感じた直後に夕香の意識は落ちた。
「…………夕香……夕香……」
呼ぶ声がして、目覚めれば修也が夕香の身体を揺らしている。
「こんな所で寝ちゃ駄目だろ?学校から帰ったらいないから吃驚したぞ」
「こんなところ…………?」
夕香は木のトンネルの中で眠っていた。
「お兄ちゃん!夕香、宇宙人をみたの!」
「…………は?」
「あれはきっと宇宙人だと思うんだ!」
「……ええと、まずはここを出よう。監督が待ってる」
夕香を連れて家の前の草むら出ると、修吾が軽く手を振って待っていてくれる。
「夕香ちゃん。ここは色々な抜け道があるから気をつけるんだぞ」
「はあい!宇宙人もいるしね」
「…………?」
元気良く手を上げて返事をする夕香に、修吾と修也は怪訝そうに顔を見合わせていた。
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