「はい、どうぞ」
 二階堂は豪炎寺に小さな箱を渡す。
 これはホワイトデーのお返しの菓子だ。



ジュース



 今日は豪炎寺が夜に尋ねてきて、丁度夕食が終わったところ。二階堂は食器を洗う係りを引き受け、その間に食べていてと告げて台所へ向かう。
「有難うございます」
 礼を言い、柔らかく微笑む豪炎寺。
 ホワイトデーを意識してか、この日の服装は膝丈より少し短いスカートを履いている。スカートの丈だけ彼女なりに冒険してみた。ちなみに二階堂は気付かないふりをしているが、内心目の毒に思っている。
 豪炎寺はソファの下でそれを背もたれに、敷かれたカーペットの上に正座して包装を開けた。中には一つ一つシックに包まれたチョコレートが入っている。口に放り込めば大人の味がした。
「お、豪炎寺。さっそく食べてるな」
「はい、美味しいですかんとく……」
 口をもごもどさせて言う豪炎寺。心なしか頬が染まり、目が虚ろだった。
 だが箱を見て、気のせいではないと二階堂は悟る。
「!!!?」
 素早く箱を手に取り、確かめた。
 ――――しまった。間違えた。
 二階堂の肝がぞっと冷え込む。


 二階堂はホワイトデーのお返しの菓子を、同僚と豪炎寺の分を同じ店で購入した。
 同僚には酒の入ったものを、豪炎寺には可愛らしいものにして。だが包装は同じであり、豪炎寺には同僚のものを渡してしまったのだ。もう中身は半分もない。
「豪炎寺、それ違うんだ。やめなさい」
「え?」
 ごくん、と飲み込んでしまう豪炎寺。
「すまない……豪炎寺の分、間違っちゃったんだ……。だからこれはもう、お預け。わかったか?」
「間違い?」
 座り込んで詫びる二階堂に、豪炎寺はやや開いた足の間に手をついて見上げてくる。
 目線を合わせようとして目に入った、むっちりとした太股に二階堂はどきりとした。
「ああ、間違いだ。ごめんな。お返し、別の日になにか……」
「きょうがいいれす」
 口調のろれつが回っていない。豪炎寺はすっかり酔っ払っていた。
「何もないよ、今日は」
「きす、してください」
 目を閉じ、唇を二階堂へ向ける。強請り、口付けを待つなど、今まで見せた事のない態度だった。
「わかったよ」
 肩にそっと手を置き、額に軽く触れて離す。
「らめです」
 眼を開いた豪炎寺は、不機嫌そうに唇を尖らせる。こんな姿も初めてだった。
「こどもあつかいしないでください」
「そんなつもりはないよ」
「うそら。こないだみたいなの、してください」
「こないだ……」
 豪炎寺の“こないだ”はつい先週の出来事を言っているのだろう。
 つい甘い二人きりの雰囲気に流されて、二階堂は所謂ディープキスをしてしまった。けれども豪炎寺には刺激が強すぎたらしく、のぼせてしまいダウンしてしまったのだ。
「あのなぁ、豪炎寺」
「してください」
 目が据わる。断ればボールなしのファイアトルネードが炸裂しそうだった。
「……また動けなくなっても知らないからな」
 肩を抱いて引き上げて、噛み付くように唇を奪う。
「んっ」
 ひくん、と豪炎寺の身体が震えた。
「はぁ」
 唇と唇の隙間から、熱い吐息がこぼれる。
 二階堂が口内へ舌を挿入させ、舌同士を絡ませてきた。
 くちゅ、と水音が鳴り、豪炎寺の力がだんだんと抜けてくる。二階堂の衣服を掴み、共に床へ引き寄せて倒れた。
「…………あ、………あっ」
 首の後ろに手を回し、くったりと豪炎寺の力が抜けていても責め続ける。口内をたっぷり犯しながら、もう片方の手が豪炎寺の手首を捉えて、指を絡めてくる。
 甘い刺激に豪炎寺の股は自然と開かれ、二階堂と離れまいと足を絡めてきた。スカートが捲り上がり、柔らかい素肌がふにふにと二階堂に触れてくる。
「う」
 二階堂は下半身に疼くを感じ、豪炎寺を解放させた。
「はぁ……はぁ…………はぁ…………」
「ほら、言わんこっちゃない」
 豪炎寺は露出した肌をほんのりと染めて、息を乱している。
 その姿はなんとも情欲をそそられ、今すぐ喰らいつきたい衝動に駆られるが、そうもできずに視線を逸らす。しかし――――。
「かんとく……」
 くい、と豪炎寺が二階堂の服を引っ張る。
 振り向くなり視界に入ったのは、股がはしたなく開かれて丸見えのショーツだった。
「かんとく、ここ、あつい」
 スカートの裾を咥え、秘部を見下ろす。
「ま、待て」
 手を伸ばそうとするのを、掴んで止める二階堂。
「かんとく」
「…………………参ったな」
 このままにしておけば、酔って理性のない豪炎寺は本能のままに自慰を始めてしまいそうだった。
「しょうがないな」
 二階堂は豪炎寺を後ろから抱くように座り、彼女の代わりに秘部へ手を伸ばす。
 ここまで乱してしまったのは己のせいだと二階堂は反省し、責任を取ることに決めたのだ。彼もまた、雰囲気に酔ったのか思考がおかしくなってしまっている。


「あ!」
 布越しに触れただけで、豪炎寺の身体が跳ねた。
 感触で湿っているのを察しながら、二階堂は指の腹で優しく気遣いながら愛撫を施しだす。
「ん、んぅ」
 刺激に、豪炎寺の身体は敏感に反応する。
 豪炎寺の秘部からは蜜がとろとろ溢れて、ショーツに染みを作り、隙間からもとろりと伝う。
「はぁ、はぁ………はぁっ……は――――っ……」
 今まで聞いた事もないような、豪炎寺の濡れた息。二階堂はどくどくと血潮が沸き、疼いていた下半身は静まるどころか暴走しそうだった。昂ぶった性器は豪炎寺にあたってしまっているが、彼女が気付いていないのが幸いだ。
「あ………ぁ……」
 ショーツは蜜でぐっしょりと濡れてしまい、薄い茂みまで透けてしまう。そこから、つんと盛り上がる肉芽を二階堂は見つけてしまった。そして、欲情のままに指と指の間で、きゅっと摘んでしまう。
「……ふあっ!?」
 びくんと震え、膝が立って、耐えようとしてか二階堂の腕を挟みこむように閉じてくる。
「ああ、あ!」
 擦り付ければ、蜜がとぷっと溢れた。どうやら達してしまったようだ。
 だが、この刺激は豪炎寺の許容量をとっくに超えてしまったらしい。
「…………………っ」
 ぶるりと身震いしたかと思うと、アンモニアの匂いが二階堂の鼻腔をくすぐった。
 みるみるそれは流れ出して、カーペットに染みていき、水溜りを作る。
 豪炎寺は耐え切れず、小水を漏らしてしまったのだ。
「うわー、やっちゃったか……」
 額に手を当てる二階堂。豪炎寺自身はなにをやったのかさえ気付いていない。
 処理は二階堂が行った。
 まず汚してしまったショーツを脱がし、ティッシュで拭き取ってから抱き上げてベッドに寝かし、代わりといってはなんだが自分のトランクスを履かせて眠らせる。その後はカーペットを外したりと、何事もなかったように掃除した。
 翌朝、豪炎寺は眼を擦りながら目覚める。着替えないままベッドに入ったせいで、衣服はくしゃくしゃだった。どうもスカートの中がすかすかするが、気にせずに居間のソファで眠っているだろう二階堂の様子を伺いに行く。
 居間に入るなり、何かが足りないような気がするが、理由はわからずに眠っている二階堂を揺らした。
「二階堂監督。朝ですよ」
「ん……豪炎寺。具合はどうだ?」
「え?なんとも」
 きょとんとした様子に、昨夜の出来事は忘れているのだと察する。だが寝惚けていたのか頭はうまく働かなかった。
「豪炎寺、そろそろ乾いているだろうから返すよ」
「え?」
 二階堂は起き上がり、洗面所で乾かしていた豪炎寺のショーツをにこやかに渡す。
「はい」
「え……………………」
 絶句する豪炎寺。今スカートの中がどうなっているのか、考えるだけでも恥ずかしくて死にたくなった。
「こ、これは?」
 やっと二階堂は言い訳もなくショーツを返してしまった失態に気付く。
「あの、そうだ。豪炎寺お前、オレン……いやリンゴ……いやいや牛にゅ……違う、グレープジュース零しちゃっただろ?」
「昨日のこと、よく覚えてないんです」
「ああそれな、俺が間違えて豪炎寺にお酒の入ったチョコを渡したからなんだ。それで手元が狂って、さ」
「そうなんですか」
「ああ、そうなんだよ。それで俺が脱がして」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」


 ファイアトルネード!
 ドン、とドアと窓が振動で揺れる。
 乙女の恥じらいの超必殺技が炸裂したのだ。







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