新しい年を迎えた正月。
 実家へ帰省から木戸川の地へ戻って来た二階堂は、残りの冬休みを眠って過ごしていた。
 彼が眠るベッドの布団は一人分よりも盛り上がっている。隣で眠っているのは元生徒の豪炎寺――彼女が首から提げるペンダントには妹手製のアクセサリともう一つ、指輪が繋がっていた。



ひめはじめ



 二階堂と豪炎寺が出会って別れて再会して、数年の月日が経って豪炎寺は高校生になった。二人は内密に男女の交際を続けた後、豪炎寺が結婚できる年齢になったので昨年結婚して夫婦の仲となったのだ。
 当然、結婚までの道のりは険しかった。
 特に最大の難関は豪炎寺の父・勝也。彼は二人の関係を知らされるなり、二階堂を殴りつけたものだった。それでも諦めず、何度も話し合い、認められようと奮闘した。その結果二人は結婚したのだが、豪炎寺は高校を卒業するまでは豪炎寺の姓でいるのが条件となり、二人はまだ『二階堂監督』と『豪炎寺』のままであった。
 それに加え、二人の住まいもまだ別々であり、それぞれの生活があった。
 慌しい日々はどんどん過ぎていき、やっと落ち着けたのがこの冬休み。
 そして昨日、初めて夫婦の営みを交わしたのだ。
 豪炎寺は生娘であり、初めて男に抱かれた。情事が終わって夜は明けたものの、二階堂は豪炎寺が心配であまりよく眠れず、早めに目が覚めてしまった。


「……………………………」
 二階堂は豪炎寺を起こさないように、そっと彼女の様子を伺う。
 二人は生まれたままの姿で布団に潜っており、二階堂の視界には豪炎寺の裸の肩が映った。彼女はすやすやと安らかに眠っている。
 寝顔を見詰めながら、昨夜を思い出す二階堂。
 豪炎寺はあまり感情を表情に表さず、なんでもないような振りをしていたが指導した経験もある二階堂には彼女の変化は手に取るようにわかる。豪炎寺はとても緊張して、怖がっていた。小さく震えて、身体はがちがちに固まっていた。
 二階堂は豪炎寺の緊張を解そうと口付けで慰めたのだが、彼女にはまだ顔や手以外の箇所への愛撫は初めてであり、吃驚させて余計に緊張させてしまった。しかも顔への口付けでさえ、普段から舌を絡めた深いものは力が抜けてくったりしてしまうのだ。
 なんとか挿入に持ち込んでも、豪炎寺の秘部はとてもきつく、蜜の分泌は多くても双方難しいものだった。出血も僅かではあるが、してしまった。
 豪炎寺は何度も"大丈夫です"と言っていたが大丈夫ではない。二階堂もリードをしてやりたかったのだが、上手く出来たかは自信がなかった。
「……………………………」
 困惑と悲しみをこめた表情で、二階堂は豪炎寺の髪を優しく撫でる。
 すると、豪炎寺が目覚めた。目を開けた先にすぐ二階堂がいて、瞬かせる。
「あ…………」
「豪炎寺、おはよう。いい天気だぞ」
「おはようございます」
「身体は、大丈夫か?」
「……………………………」
 二階堂の目の前で、豪炎寺の顔がみるみる染まっていく。布団で口元を隠し、こくこくと頷いた。
「痛いところ、ないか?具合が悪かったら言ってくれよ」
 ふるふると首を横に振る。豪炎寺は昨夜を思い出して、羞恥に身を焦がした。
 二階堂に全てを見られ、二階堂の全てを見た、甘い時間であった。緊張して、痛い思いは多少したものの、二階堂と愛し合えて幸せだったのだ。
「豪炎寺、ごめんな。もっとお前の気持ちを解せればと思ったんだが……」
「そんな、事ないです」
 豪炎寺はまた首を横に振るい、細い声で言う。
「少し……痛かったですが、気持ち…………良かった……です」
 ちゅ。顔を少し突き出して二階堂の唇に口付けをした。
「そうなら……いいんだが……」
 布団の中で豪炎寺の腰を支えて引き寄せ、抱き締める。
 そうしてもう片方の手を頬に添えて、二階堂から口付けをした。


「昨日は焦ってしまったな。もっと今度は、ゆっくりしような」
 豪炎寺は二階堂に腕を回し、二人は何度も口付けを交わす。
 その内、二階堂は舌を絡めたくなり彼女の唇の隙間へ滑り込ませて口内を犯す。
 舌を挿れる時、びく、と彼女の震えが二階堂をぞくっとさせた。豪炎寺も二階堂が舌を挿れるのは、吃驚させたい悪戯が混じっていると悟っている為、やや嫌がる素振りを見せる。それがまた二階堂の情欲をかきたてた。これは二人がまだ貞操を守っていた頃のささやかな刺激であったが、情事を交わした今、また新たなものへ変わろうとしていた。
「……ん………っ……、あっ……」
 舌と舌を絡ませると、ぴちゃぴちゃと水音が立つ。二人の唾液がぬるぬると絡み合い、互いの熱い息が顔にかかる。
「あっ…………うぅ…………」
 二階堂の豪炎寺の腰に触れる手が重みを増す。彼女の力が徐々に抜けていくのだ。
「ふ、ぅ」
 豪炎寺の目がとろんと半眼になり、息が濡れて乱れていく。
 いつもならここでやめていたのだが、もっと彼女を責めたくなる欲望が疼いた。
 豪炎寺の口内から舌を引き抜き、首筋を舐める。
「ひぁっ……!」
 彼女の身体が跳ねそうなほど反応する。さらに甘噛みをしてやれば、豪炎寺は目をぎゅうと瞑って身体を強張らせた。
 二階堂は豪炎寺を仰向けに寝かせ、彼女を組み敷いて見下ろす。
 “今度は”なんて言ったのに、どろどろに男の情欲が騒いで止まらない。
 敷かれた豪炎寺はぽーっと顔を上気させて、ぴくぴくと震えている。試しに指先で腕をなぞってやれば甘く喉を鳴らす。
「ん…………うんっ」
 全身が性感帯になってしまったように、些細な接触で豪炎寺は淫らに喘ぐ。
 二階堂は反応が面白くて、指で鎖骨や胸の間、へそをなぞって、悪戯を施す。
「や、ぁ」
 は――――っ、は――――っ。薄く開いた唇から濡れた息、真っ赤な舌を覗かせ、豪炎寺は甘く息衝いていた。
「…………いけません」
 昂り、潤んだ瞳で怒ったように見据えてくるが、逆効果である。寧ろ、誘っているのかと錯覚しそうになる。
「駄目?」
 胸の突起を軽く突く。
 ぷっくりと膨らんで、いやらしく勃ちあがったそこを。
「駄目!」
 豪炎寺は二階堂の手を取って、かぷりと噛み付いた。
「痛たた」
 二階堂は痛がるものの、痛いのに、どこか心地良さを抱く。対して豪炎寺はしてやったような、得意そうに口の端を上げる。
「二階堂監督が悪戯する罰です」
「俺が悪いのか?豪炎寺だって、悦んでいただろ?」
 ――――ほら。
 二階堂のもう片方の手が、豪炎寺の秘部に触れた。
 そこはぐしょぐしょに濡れてしまっている。
「!」
 豪炎寺の顔が強張り、二階堂は“しまった”と誤った行動だったのかと過ぎるが、優しく触れて擦ってやれば解れていく。
「ん、んぅ………ん――――っ……」
 噛み付いた指を、ぺろりと舐めて舐りだす豪炎寺。
 ちゅうちゅうと吸いつけて、恍惚に目を細めた。
 秘部はくちゅくちゅと蜜が溢れ、布団の中でも二人の耳に聞こえる。
「こんなに濡らして、可愛いなぁ」
「かん、とく」
 ぬるりと指を口から出して、二階堂の名を呼ぶ。
「豪炎寺、おいで」
 二階堂は豪炎寺を抱くように体勢を変えさせて、後ろから抱き込んだ。
「指、挿れるよ」
 くぷ。豪炎寺の秘部を開かせてから、指を一本沈める。
 浅く抜き差しし、次は深めて、豪炎寺の“良い場所”を探った。
「かん、とく」
 唇を硬く閉ざし、声を耐えながら豪炎寺がまた呼ぶ。
「声、出してごらん。俺は豪炎寺に気持ち良くなって欲しいから、好きな場所教えて欲しい」
 耳元で囁きかけ、甘く息を吹きかけた。
「ふぁ」
「ん?ここがいいのかな?」
 豪炎寺の内側は温かくてきゅうきゅうと締め付けがいい。
 二階堂は深めた指を擦り付けるように愛撫を施した。
「そ、こ…………」
「ここ?」
「!」
 二階堂が問うのと同時に、豪炎寺の秘部から蜜がとぷっと溢れ出す。
「あ…………あっ…………ああ……」
 膝を震わせ、とろとろと蜜を零れさせる。
「そっか、豪炎寺はここが好きなんだな。じゃあもっと擦ってやらないとな」
「!!」
 二階堂は指を二本にして、さらに豪炎寺を責めた。
 甘い刺激は、ぐちゅぐちゅと激しさを増して豪炎寺を襲う。
「ひぁっ……ひぃ、ん!……ひぅ、ぅ………!」
 ひいひいと喘がされる豪炎寺。だが抵抗するように二階堂の腕の中で暴れだした。
「かんとく……!やめ、やめて、ください……!監督、ずるい!!」
 ぴたりと二階堂の手が止まる。
「…………すまん。今度って言ったのに、俺から自分の発言を裏切って」
「え……?ああ、そんな事を言っていましたね。いえ、違うんです……私も、監督を気持ち良くさせたいんです」
 豪炎寺は緩まった二階堂の腕を抜け、彼の性器に触れた。
 それはギンギンに血液を高め、硬く勃ちあがっている。先端からは蜜も零していた。
「監督こそ、こんなに濡れてますよ」
「い、いやそれは……、しょ、しょうがないじゃないか」
「……………………………」
 もっと触ろうとしてくる豪炎寺に、二階堂は逃げて上半身を起こしてしまう。


「だ、駄目だ豪炎寺。やめなさい。お前には早い」
「早いって、もう私たちは夫婦ですけど?私は二階堂監督の嫁です」
「けどまだ子供だ」
「子供じゃないです。もう、セックスしました!」
 二階堂は下がろうとするが、壁際で四つんばいで近付く豪炎寺に追い詰められてしまう。
「監督こそ、逃げて大人気ないですよ」
 逃げ場のない二階堂は、足の間に豪炎寺に侵入され、再び性器に触れられて握られてしまう。
 だが強気に出る豪炎寺であるが、二階堂の性器にどぎまぎとしている。
 優しい二階堂からは想像もできない、ある意味グロテスクであり、直接的なまでの性を示していた。昨夜は暗くてあまり見えなかったが、よく自分の中に入ったものかと肉体の神秘に内心驚いている。
「二階堂監督。この際言っておきますけど、子ども扱いしたら怒りますからね」
 豪炎寺は二階堂の足の間で正座をし、彼の性器を片手で掴んで擦り上げた。
「怒って、どうする、んだ?」
「おしおきします」
「おしおきって……」
「子供がしちゃいけない事、します。こうやって、監督が嫌がる事しますからっ!」
 擦る手を速める豪炎寺。
 寧ろそれは“ご褒美”にあたるのかもしれないが、二階堂はほとほと困り果ててタジタジになってしまうので効果的であった。
「ご、豪炎寺……悪かったよ……。可愛いお前に、男のものをそうやって欲しくないんだ……。ご、ごめん。だ、だから、もう」
 二階堂には限界が近付いていた。必死に射精しないように気張っているが、もう崩壊しそうである。
 二階堂には子供で、生徒で、愛らしく大好きな豪炎寺の目の前で射精をしてしまうのは、なんとも恥ずかしく屈辱的なのだ。
「反省してくださいね。二階堂監督、私は貴方のなんですか?」
「嫁さんだよ。しっかり者のいい嫁だ」
「……………………………」
「……………………………」
「………………………はい」
 豪炎寺がはにかんだように微笑む。手を離し、解放しようとしたが既の所で精がはじけてしまう。
「ひゃっ!?」
 素っ頓狂な声を上げる豪炎寺の手を白濁が汚し、勢いのついたものは頬にまで付着した。
 二階堂にも予想外で目を丸くさせる。
 豪炎寺との念願の情事への興奮は想像以上だったようだ。
「ほら、豪炎寺。もういいだろう。もう、やめてくれ」
 豪炎寺が己の手に視線を落とす前に、二階堂が彼女の手首を捉えてベッドに押し倒す。
 豪炎寺はもがき、布団とシーツが乱れた。
「もう気は済んだだろう?やめなさい」
「は…………い……」
 大人しくなる豪炎寺は二階堂にしがみつき、頬に口付けをして愛撫を施す。
 二階堂もお返しとばかりに口付けをする。抱き合い、ベッドで泳ぎながらじゃれあう二人に、情欲の熱は再び高まり、性交となる。
 仰向けに寝かせた豪炎寺の腰をしっかりと捉え、二階堂が己の性器の先を彼女の秘部の割れ目へ向けた。
「力、抜いてな。痛かったら言うんだぞ」
「はい……」
 二階堂はゆっくりゆっくりと腰を沈め、二人は再び一つとなる。
 ――――あ?
 二人の間に微弱な電流が走った。昨夜とは異なる、しっくりとする感覚がした。
 腰を揺らしだせば、豪炎寺は心地良さそうに共に揺れ、締め付けがいい具合に二階堂を刺激させる。
「んっ………あっ………はぁ………」
「はぁ………くぅ……」
 ベッドを軋ませ、性器と性器を擦り合わせた。
 達するのは早く、二階堂は豪炎寺の内へ白濁を注ぎ込む。
「あ!あぅ、う!」
 豪炎寺は性器を痙攣させて白濁を受け止め、受け止められなかった分を結合部から溢れさせた。
 額から滲んだ汗に張り付いた髪をどかそうとするが、二階堂が性器を引き抜こうとしていたので、伸ばそうとしていた手で止めようとする。
「だ、だめ…………ああ」
 しかしタイミングは遅く、二階堂は性器を引き抜いてしまう。
 ぬるりと抜けて、また白濁が零れる。
「もっと、一つになっていたかったです……」
「はは、無理するな。また、その……すればいいじゃないか」
「また、しましょうね」
「ああ」
 二階堂はくったりとしている豪炎寺の身体を抱き上げ、優しく撫でてやった。
 けれども二人の熱は冷めず、少し休んだらまた性交をしてしまう。それを何度も繰り返し、この日一日中二人は抱き合っていた。






 情欲は日が変わっても治まらず、結局残りの冬休みを肉欲の海に溺れて暮らす事となる。
 豪炎寺を愛する気持ちが止められなくなった二階堂は、ベッド以外でも豪炎寺の柔肌を求めようとした。豪炎寺も二階堂によってすっかり情事の悦びを知ってしまい、嬉々として二階堂に押し倒され、股を開いて彼を招く。衣服を破かれんばかりに強引に暴かれ、貪られる。
「かん、とく。いけ、ませんよ」
 居間の床に組み敷かれ、高く上げられた足を揺らして豪炎寺は嗜めた。しかし喉はこみ上げる笑いで引き攣っている。
「もう明日から、学校なのに」
 足に引っかかったショーツを取り払われて、ぱさりと床に落ちた。
「頭、切り替えなきゃ、なぁ」
 暴いた胸元からブラジャーを避け、乳房に口付ける二階堂。
「頭、お前とする事しか、考えられない。豪炎寺も気をつけろよ。子どもは勉強しなきゃな」
「また、子ども扱いする」
 豪炎寺も二階堂の胸元へ手を這わせ、ボタンを外す。
「いや、子供じゃなくて、勉強をだな」
「監督、おしおきですよ」
 うっ。二階堂の動きが一瞬固まる。
「昨日はおしゃぶりしたら、監督いっぱい出しましたよね」
「男のものを口でしゃぶるとか、いけないんだぞ」
「子どもに、いけない事をさせる悪い大人ですね」
「うう、それは反則だぞ」
 しゅんとする二階堂に豪炎寺はお預けとばかりに股を閉じ、二階堂に乗りかかって反撃をする。
「明日のために、いけない監督をいい監督にしなければなりませんね」
「はいはい。豪炎寺には敵わないな」
 二階堂がそっと合図をすると、豪炎寺は目を瞑り、二人は口付けを交わした。
 一度灯った夫婦の情欲の火は、日に日に熱く燃え盛っていく。







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