さびしんぼう



 夜。二階堂の家で風呂から上がった豪炎寺がテレビを眺めていると、後ろから次に入った二階堂が出てくる。
「うん?まだ起きていたのか」
「はい。監督はこれからお酒を飲むんですよね」
 さらりと、二階堂の行動を予想してみせる豪炎寺。図星であった。
「眠かったら、先に寝るんだぞ」
「はい」
 はきはきとした返事に、二階堂は豪炎寺の夜更かしを許してしまう。
 二階堂はビールとおつまみをもってきて、それらを摘まみながらテレビを眺める。隣では豪炎寺が横からおつまみだけを食べている。
 一缶を開けると、すぐに二階堂の顔が赤くなった。彼はアルコールが回りやすい。
 酔った二階堂の姿に、豪炎寺は心臓を高鳴らせる。彼にとって夜更かしのお楽しみはこれからなのだ。
「二階堂監督、お顔が真っ赤ですよ」
「うん」
 指摘をすれば、二階堂が豪炎寺の肩を抱き寄せて、耳元で返事をしてくれる。
「こっちおいで」
「はい」
 二階堂が胡坐を崩すと、足の間に豪炎寺は座った。腰に腕を回し、頬を摺り寄せてくる。
 ひくん、と身を震わせて豪炎寺は喉を鳴らす。
「ん」
 追い討ちをかけるように耳を甘く噛まれれば、ぴくぴくと震えた。
「っあ」
「可愛いなぁ」
「……………………ふぅ」
 二階堂は豪炎寺の反応を楽しみながら、片手でビールを飲み、もう片方で彼の胸の突起を布越しからぐにぐにと摘まんで転がす。
 二階堂の責めに豪炎寺もアルコールが回ったように頬を火照らせ、目をとろんと半眼にさせた。


 二階堂は酔うとこうして豪炎寺にぴったりとくっつき、悪戯をしてくる。
 素面の二階堂は豪炎寺を気遣いながら優しく抱いてくれるのだが、酒に呑まれた二階堂は豪炎寺を苛めるように弄ってくるのだ。これはこれで豪炎寺には心地良く、夜更かしの"いけない楽しみ"であった。
「あ!」
 指ではなく、箸で胸の突起を摘ままれ、吃驚する豪炎寺。その下では足の付け根をねっとりと触られている。すけべな手つきにぞくぞくと豪炎寺は乱されていく。
「ごうえんじ。明日来られないんだろ」
 弄りながら二階堂が問う。
「監督だって、お仕事で都合が悪いんでしょう」
「そうだけど……」
 弄る手を止め、ぎゅうと抱き寄せる。酔った二階堂は甘えたがりで、豪炎寺には可愛らしく映った。
「明日早いから、出来なかったし」
「そうですよ。監督、朝早いのにどうしてお酒飲んで、すぐに寝ないんですか」
「だって……そうしなきゃ、寂しくて寝られないよ……」
 切ない声を出す二階堂。
 二階堂が酒を飲む姿を見てから、豪炎寺は彼が自分が想像するよりも脆い人間なのではないかと思うようになった。
 最近、お互いの生活が忙しくて会う機会が減り、尚且つ会えても朝が早く身体に負担がかけられないので情事を交わしていない。豪炎寺としては欲求不満なのだが、二階堂は欲求よりも寂しさが強い様子だった。
「ごうえんじ」
 ぼんやりとした声で豪炎寺をしきりに頬擦りする二階堂。
「監督は、お酒弱いみたいですけれど、飲むのはお好きなんですか」
「そうだなぁ……」
「そんな酔い方だと、少し心配です」
「はは……すまん。俺は酔うと色々やらかしちゃうから……」
「あの、監督。しま……せんか?少しだるくなるだけです、俺は大丈……いえ……俺が、したいんです」
 豪炎寺がしどろもどろに誘う。
「でも、飲んじゃうと勃たないんだよ、俺」
 二階堂の手が豪炎寺の性器に、布越しで触れる。それは硬く勃ち上がっていた。
「お前は元気だなぁ。……よし、そこに寝て。口でしてあげるから」
「……………………………………」
 豪炎寺はやんわりと横たえられ、ズボンと下着を取り払われて股を開かされる。


「っ…………」
 明るい場所で性器を曝け出され、さらに足を開く行為に豪炎寺は羞恥に身を焦がす。
 けれどもそんな戸惑う気持ちは性器が口内の熱で含まれると同時に吹き飛ぶ。
「……………っんん!」
 二階堂は豪炎寺の股の間に顔を埋め、優しく性器を口に含む。
 舌でやわやわと敏感な箇所を這わせながら、適度な感覚で鈴口を吸う。
 二階堂の口の愛撫はとても上手く、豪炎寺を一瞬でとろけさせるのだ。
「あっ………はぁ………っ、あっ、あっ……あん……」
 かたかたと膝を震わせ、つま先を立てて耐える足。手はぎゅうと上着を掴み、目は快楽に潤む。口は熱い息を吐いて、半開きでだらだらと唾液を流しては淫らに喘ぐ。
「ふあぁ…………、ふあああ………」
 性交よりも我慢するのが辛い。声はとても抑えられず、甘い吐息に喉を震わせた。
 性器は蜜と二階堂の唾液でとろとろで、窄みまで伝い、ひくひくと痙攣させる。
 とどめとばかりに濡れそぼったそこへ指を柔らかく触れられれば、豪炎寺はたちまち達してしまう。
「あああっ!」
 勢い良く大量に射精するが、二階堂は上手に受け止めて、零れた分も綺麗に舌で舐めてくれる。
 欲望を吐き出した豪炎寺はぴくぴくと身を震わせて余韻を残す。
「いっぱい出したなあ。気持ち良かったか?」
 二階堂の問いにこくこくと頷く。
 二階堂の施す口の愛撫はとても気持ち良くて好きなのだが、豪炎寺は気持ち良すぎるからこそ、不安を抱いていた。今夜はもう押し留める事が出来ず、聞いてしまう。
「監督は……他の人にもした事があるのですか……」
「え」
 二階堂があきらかに動揺を示す。
「二階堂監督は俺を抱いてくれる時、いつもとても優しいし気持ち良くしてくださいますし、後の事も気遣ってくれます。今までは監督が監督で、俺より大人だからって、思い込んでいました。けど……だんだん……貴方は男性経験もあるんじゃないかって……俺には思えてきたのです」
 胸がばくばくと高鳴った。恐怖と緊張で張り裂けそうになる。
「豪炎寺が気持ち良くなってくれたら、俺は嬉しいよ」
「誤魔化さないでください……ホントの事、教えてください」
 目元に溜まった涙が零れ落ちた。
「じゃあ言うよ。ある」
「俺以外にも、男性の恋人がいらっしゃったんですか?」
「男でそういう付き合いをしたのは、豪炎寺が初めてだよ。だから、お前が泣く必要なんてない。不安にさせてごめんな」
 二階堂は豪炎寺を起こし上げ、優しく抱きしめる。けれども豪炎寺は納得がいかない。二階堂の発言には明らかな矛盾がある。
「え……けど、経験はあるって……」
「経験があるのと、付き合うのは別だろ」
「え?」
 意味がわからない。付き合うから経験がある、というのが豪炎寺の考える普通の流れであった。
 そして、二階堂から告げられる真実は豪炎寺の価値観を完膚なきまでに崩壊させる。


「寂しくなるとさ……抱かれたくなるだろ」


「…………は?どういう、意味ですか」
「人肌っていうかさ、誰かにもたれたくなるんだよ。お酒飲むと、誰でもいいかーってなって……さ」
「よよ、良くないですよ!!!なに言ってるんですか!!!馬鹿なんじゃないですか!!?」
「馬鹿ってわかっていてもコントロール出来なくて。子どものお前には……というか、俺の体質みたいなもんだよ」
 絶句であった。あまりにも信じられなかった。
 だがしかし、二階堂の行為の上手さや酒を飲んだ時の状態は、いかにもそんな行動を起こしそうに思えてしまう。
「監督は……俺に内緒で、そんな事ばかりをしていたんですか」
「してないよ。豪炎寺と一緒にいるようになってからはしていない。あー……でも、お前が転校してしまった時、自分でも良くわからないくらいにどうしようもなくなってな……その時は随分乱れた生活送っていたなぁ……」
「……しちゃ、駄目です。監督、いけない事ですよ」
「ごめん」
 しゅんとして、反省する二階堂。すぐに反省するのが逆に危なっかしい。
「二階堂監督。寂しい時は俺を呼んでください。負担とか、気にしないでください」
「ごうえんじ……」
 二階堂の唇に、豪炎寺は小さく口付けた。
 返すように口付けを交し合う中、二階堂がやんわりと豪炎寺の肩を抑えて囁く。
「勃ちそうだから、しよっか。いい?」
「!」
 豪炎寺は二階堂の首に腕を回して合図し、再び寝かされる。
 二階堂の性器を受け入れて揺らされながら、抱かれている二階堂を想像していた。
 きっと想像を絶するくらい淫らなのかと思うと、興奮を覚えてしまう。







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