お揃い
学校帰りの学生で溢れるファーストフード店の窓際にある二人席。
そこで土門と木野は向き合い、話をしていた。
「…………という訳で、俺も一之瀬とアメリカへ行く事になったんだ」
土門は木野に語る。フットボールフロンティアインターナショナル・通称FFIにアメリカ代表として参戦する一之瀬に、自分もついていくと。
「二人とも行っちゃうんだ。寂しくなるなぁ」
「昨日、西垣にも話したら同じ事言われたよ」
テーブル上のトレイからポテトフライを摘みながら言う。
「日本でも、そろそろ代表を決める選抜試合が行われるそうよ。たぶん雷門からの候補が多いだろうから、戦えるといいね」
「そうだな。日本とアメリカが対決となれば舞台は本戦だ。勝ち抜きたいよ」
「うん」
にっこりと微笑む木野。彼女の笑顔に土門はこの先の伝えたい言葉に緊張を覚える。
「アキ。この後、ちょっと時間あるか?」
「うん、あるよ」
「じゃあさ」
飲み物で喉を潤してから放つ。
「買い物に付き合ってくれないか。日用品とか、色々その、いるからさ。俺一人じゃ、よくわからなくて」
「え?」
きょとんとする木野。彼女の僅かな反応の一つ一つに動揺しそうになる。
これは、デートの誘いをしているようなものなのだから。
「駄目、か?」
「ううん、違うよ。土門くんってそういうのしっかりしてそうだったから、意外に思っただけ。いいよ、付き合うよ」
やった!土門は心の中でガッツポーズを出す。
この密やかな想いの行く末は随分と切望的ではあるが、日本を離れる時ぐらい良いだろうと自分に言い聞かせて踏み切ったのだ。
二人は食事を終えたら店を後にし、雑貨屋へ向かった。
「土門くん、なにが欲しいの」
店に入るなり木野が問う。
「アバウトだけどさ、こっちにあってあっちにない物、かな」
「アバウトだね。でもわかるよ」
木野がくすっと笑った。彼女が笑えば土門にも笑顔がうつる。
二人は店の商品を見回り、話しながら土門の持つ籠の中に入れていく。
「あっ」
木野が足を止めた。
「どうした?」
「これ、可愛いなぁって」
彼女が手にとって土門に見せるのは、可愛らしいスプーン。
「はは、可愛いスプーンだ」
「私も買おうかなぁ」
「俺の買い物だけに付き合う事ないんだから、アキも……。その、アキ、俺買おうか?」
「え?」
「買い物付き合ってくれたお礼だよ」
「有り難う!」
喜ぶ木野に、籠の中へスプーンを二つ入れた。
「俺も欲しくなっちゃった」
「土門くんもそれ使うの?」
「そうだよ、カッコいいだろ?」
そうだね、と頷く木野。彼女なら、そう言ってくれるのではと土門は思っていた。
買い物を済ませ、店を出ると木野は包みを別にしてもらったスプーンを受け取り、礼を言う。
「有り難う土門くん、大事するね」
「俺の方こそ有り難う、アキ」
土門は木野を家の近くまで付き添い、彼女と別れた。
一人帰路を歩く土門は買い物袋を抱えて持ち直し、スプーンのある場所を確かめる。
不意に、溜め息が零れる。
お揃いだよ。
そんな簡単な一言が言い出せなかった。
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