昼休み。風丸が食事を終えて部室へ行くと、円堂がいた。



流れる



 円堂は体操着姿で机に向かい、ノートを書いている。その傍にはペットボトルが置いてあった。
「円堂」
 呼んで初めて風丸の存在に気付いたようで、目を瞬かせる円堂。
「何やってんだ」
「部誌」
「えっ。やっていたのか」
 風丸は適当な椅子を持って、円堂の向かい側に座った。
「ん、最近だよ。それより風丸はどうしたんだ」
「俺?円堂がたぶんここだろって聞いたから」
「誰に」
「東くん」
「ああ、そう」
 どうやらクラスメイトに居場所を聞いて来たらしい。納得しかけるが、危うく本題から逸れる所であった。
「それで俺に何か用か」
「飯、どうしているのかなって」
「もう食べたよ」
 円堂はゴミ箱を指差す。ここからだと見辛いが、パンの袋でも捨ててあるのだろう。
「風丸は?」
「食べた。そんで次は体育」
「ああ……」
 息を吐くように頷く。風丸も体操着であった。ちなみに昼前が円堂のクラスは体育だった。
「だからさ、何な訳」
 なかなか本題を言い出さない風丸にいらつきを覚えてくる。たぶん、わざとはぐらかしているのがわかるからだ。
「何ってさ……」
 風丸は声を途切れさせ、机の空いた場所に頭を載せる。ごろっと、硬い音がした。
「円堂お前さ、字ぃ汚ったないのな」
「悪かったな」
 口を尖らせると風丸が喉で笑う。彼の笑いが机から振動として伝わってくる。
「えー……んー……どー……」
「なんだよ」
「呼んでみただけ」
「………………………邪魔、なんだけど」
 温和な円堂もさすがに痺れを切らしてきた。
「酷ぇの。俺、円堂に会いに来たのに」
「だから用件を言えって」
「用件が無くっちゃいけないのか」
 風丸は目を細めて口を緩ませる。とろんと、甘えたような顔に変わった。
「そんな事は、無いけどな」
 ノートに視線を移す。照れて逸らした、ばればれの誤魔化しに風丸はまた笑う。
「揺らすなって」
「ごめん」
 悪気が全く感じられない言い方なのに、自然と許せてしまう。


「サッカー部が部誌なんてなぁ」
 風丸の言葉に、円堂は今までを振り返った。
「ここ数ヶ月で色んな事があったよ。廃部になりかけたり、部員が集ったり、フットボールフロンティアに出たり、転校生が増えたり、な」
「ホント、色んなものも変わったよな」
「うん」
「俺たちも」
 目を閉じる風丸。
 そう、周りの環境と共に古い付き合いの二人の関係も変わっていった。心が近付き、触れ合い、解け合い、もっと通い合わせようと身体を寄せた。なぜこうなったのかはもう思い出せない。自然と、気付いたらそうなったとしか答えられない。
「風丸」
「なに?」
「呼んでみただけ……」
 呼ばれて瞼を開ければ、温かい瞳で見詰めてくれる円堂の姿があった。交差する視線から愛おしさが伝わり、幸せな気持ちが心身を満たしてくれる。風丸は円堂に触れようと、手を伸ばす――――
「あ」
 声を上げた時はもう遅かった。
 載せてあったペットボトルを払うように落としてしまう。
「うわっ」
 円堂は咄嗟に部誌を持ち上げて非難させるが、机を伝って足を濡らした。
「ご、ごめんっ」
 立ち上がり、風丸は手近に置いてあったタオルを取って膝をつく。
「良いよ。それ水だし」
 ティッシュで机を拭きながら言う。
「でもさあ」
 水は円堂の体操着のハーフパンツ、そこからはみ出た腿、靴下まで流れていた。濡れた箇所をあてるようにタオルで水を吸い取る。
「だからさ」
 円堂は風丸を止めさせようと手を止め、彼の方を向く。
 けれど、上から見下ろせる風丸の姿が妙にいやらしく声を詰まらせた。
「ん」
 視線に気付き、風丸が見上げてくる。不埒な思いを見透かされそうで、円堂は一人頬を染めた。
「円堂」
「なんだよ」
「お前、やらしい顔してる。何?こういうの好きなの?」
 風丸が意地悪そうな笑みを浮かべ、下唇を舌でゆっくりと濡らしてみせる。
「こういうのって何だよ」
「好きなのかって聞いてる。好きならしよう」
 タオルを置き、手をそれぞれ円堂の太股に乗せた。あまり触れられた事の無い箇所は、敏感に感触を伝えてくれる。
「いや……その……」
「んー?」
 顔を寄せ、腿を舐め上げた。
「……やめろって」
 否定の言葉は非常に弱々しい。肯定が入り混じるのは否めない。
「するんだろ?」
「……うん」
 認めざるを得ない。
「腰、上げていて」
「うん」
 円堂は腰を上げ、ズボンと下着を下ろす。その間に風丸は部室の鍵を内側からかけた。


 下着から取り出された円堂の自身を風丸は膝を突いて手で包み込む。そうして上下させて刺激を与えてやった。円堂はまだ気難しそうな顔をしているが、彼の分身は正直に血液を集めて膨張してくれる。
「円堂、気持ち良い?」
「うん」
「しゃぶってやろっか」
「やめろよ。そんな事しなくて良いって」
 自身の鈴口に口付けようとする風丸に円堂は頭を押さえて離させた。
「どうしよっかな〜」
「だーめ」
 また寄せようとする風丸をまた離させる。
「絶対、駄目だかんな」
 手はずっと頭に乗せる事にした。見下ろし、押さえつける様に征服欲までが湧き出すが、必死に押さえ込んだ。
 自身を愛撫し続ける内に先端から滲み出た蜜が風丸の指に絡みつき、卑猥な音を立て始める。二人きりの部室にはよく響いて、日常と切り離された感覚がしてくる。それがさらに二人の情欲を高めだす。
「はぁ………は………」
 円堂の身体は熱を持ち、息が乱れていく。脳はもう快楽に浸りきって、ぼんやりしている。
 円堂の色の混じった息遣いに、風丸も高められていくのを感じていた。
「円堂」
 はっ……。風丸は円堂自身に熱い息を吹きかけ、その口の形で銜える。抑えていた円堂の手は頭が動いて落ちた。
「駄目……だって言ってん……だろっ」
 引き剥がそうとするが、駆け抜ける快楽に蹲り、足で風丸を抱え込む形になってしまう。
「ん……っ………んん………う」
 風丸は唾液混じりの円堂自身を舌で舐めて、突く。柔らかく温かい、それでいて濡れている舌の愛撫は手とは異なる別の快楽を与えてくれた。体勢が辛くなり、四つんばいになる。
「ああ………あ……」
 ――マズイ。円堂の脳裏に走った。
「風丸。そろそろ……その、出るから」
 苦しそうに、照れ臭そうに囁く。
「ああ、そう」
「そうって……離れるよ……かかるし」
「んー……」
 風丸は置いてあったタオルで手早く手を拭い、髪を前髪ごとまとめた。
「円堂、口ん中に出せ」
「馬鹿野郎、何……」
「はいはい馬鹿ですよ。ほら、キツいんだろ」
 再び円堂の自身を口に含み自分に向けて親指を揺らす。来い、という合図だ。
「知らないぞ」
 低く呻き、円堂は風丸の口内に欲望を吐き出す。注ぎ込まれた白濁の液は端から漏れて、顎を伝って床に落ちた。
「うう」
 風丸は口を離し、机に置いたままの濡れて丸まったティッシュを取って吐き出した。
「うえっ。ちょっと飲んじまった。量多いぞ……」
「はい」
 風丸に二、三枚のティッシュをまとめて渡す。
「風丸、あんな事しなくて良いんだからな」
「ほら……その……円堂に気持ち良くなって欲しくてさ」
 口元を綺麗に拭って、はにかむ。そんな所に愛おしさが増し、調子に乗ってしまいそうで怖くなる部分でもある。


「あのな。それは俺だって同じだって」
 円堂の視線は風丸の下肢に映った。決して気のせいではない高まりが見える。
「その……俺、しようか……」
「円堂、今立てんの?」
 問われて返答に困る。今は微妙に腰を上げ辛い。
「でも、さ」
 座った体勢で片方の靴を脱ぎ、足を伸ばして布越しに風丸自身へあてた。
「良い?」
 円堂はやわやわと刺激を与えだす。
「悪くない……かな……。案外器用なもんな。円堂、キーパーなのに手ぇ下手だし」
「………………………………」
 ぐさっ。言葉の槍が円堂の心に突き刺さった。
「あ、ごめん。傷付いた?」
 こくり。拗ねたような顔で頷く。
 挽回とばかりに、足が動きを変えた。
「あのさ……良いんだけど……これ汚れちゃうからやめて欲し……」
「ユニフォームならロッカーにあるから気にすんなよ」
「最悪」
 いかにも嫌そうに言う風丸。二人は合図でもしたかのように同時に笑い出す。
 風丸は身を起こし、背を屈めて円堂を抱擁して耳元で愛を囁いた。
 しかし、返ってきたのは的確すぎる腹立たしい指摘。
「歯、磨いておけよ」
 思い切り円堂の耳を掴んだ。








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