世界大会へ向けた戦いに供え、吹雪と土方は連携技を編み出す事となった。
 二人は顔を合わせたくらいの仲であったが、宿舎で生活し、練習を共にすれば友情が芽生えていく。



便り



「はっ…………は………は…………っ」
 日がとっぷり暮れた夜の河川敷を吹雪と土方は並んで走る。
 グラウンドで連携技の練習をし、終わったら河川敷周りを一周してから宿舎に戻る予定を組んだ。
「ねえ、いい感じになってきたよね」
 荒い息を吐きながら、吹雪が笑いかけてきた。
「ああ!皆びっくりするぜ」
「そろそろ、名前決めようよ……」
「名前?」
「そ、名前。染岡くんに聞いたんだけどさ、ネーミングはいつも目金くんが決めちゃうから、自分で決めるなら予め用意しておけ、だって」
 染岡とは吹雪の友人であり、よく話題に出してくる。染岡は雷門のFWで代表選抜候補には選ばれたが、不幸にも落選してしまった。だが離れても二人の友情は続き、メールのやり取りをしているようだ。
「名前かあ、なにがいいだろう」
 二人は交互に候補を挙げて行く。何度か繰り返せば、吹雪がしりとりみたいだねと呟いた。
 宿舎に戻ると、疲労よりも急激な空腹に襲われる。駆け込むように食堂に入るが、材料だけでそのまま食べられるものはなかった。
「なにも、ないかぁ」
 冷蔵庫の前で落胆する吹雪の隣で、土方が決意する。
「よし、作るか!」
「え?なにを……?」
 土方を見上げ、瞳を瞬かせる吹雪。
 呆然とする彼をよそに、土方はあっという間に料理を作り上げた。
「うわーっ凄いね!」
 テーブルに料理を並べ、椅子に座って吹雪は感嘆の声を上げる。湯気たつ料理の香りに口の中に唾液がたまった。
「ほら、食べな」
「うん!いただきまーす!」
 土方から橋を渡され、吹雪は手を合わせて挨拶をし、食べ始める。
 吹雪と土方の体型は縦も横も土方の方が大きいが、そんな差をものともせずに吹雪の方が食べるペースは速い。
「美味しいなぁ、白いご飯が欲しくなる」
「おいおい、そんな一気に掻き込むと……」
 言っている傍から吹雪が喉を詰まらせて咳き込み、土方は手際よく水を差し出す。
「あ、ありがとー」
 ごくっ、ごくっ、ごくっ。喉を鳴らして吹雪は水を飲んだ。


「はは。そう落ち着きのない様は、なんだかチビたちを思い出すぜ」
「チビ?」
「俺の兄弟だ」
「……ああ」
 吹雪は沖縄で初めて土方に出会った頃を思い出す。あの時は、気持ちが乱れて記憶も薄いが、覚えてはいる。
「確か、いっぱいいるんだっけ」
「そりゃもう、な。……いや、いきなり言い出してすまない」
 土方はふと吹雪の家庭環境を思い出し、話を中断させようとした。
「気にしなくていいよ。僕には皆がいるもの」
「そうか。これがさ、俺の家族だ」
 携帯を取り出し、待ち受け画面にしている家族の写真を吹雪に見せる。
「わあ、本当にいっぱいだ。楽しそうだね」
「やかましいくらいだよ。ただでさえ沖縄は暑いからムンムンする。吹雪は北海道だったか」
「うん。染岡くんとかキャプテンとかにも声かけているんだけど、今度土方くんの家族も遊びにおいでよ。雪遊び楽しいよ」
「雪かぁ……。いいなぁ。スキーやってみたくてよ」
 携帯を閉じてしまおうとすると、震えてメール着信を知らせる。
「ん?誰だ?…………ああ、おやっさんか」
「おやっさん?」
「鬼瓦刑事だよ。俺が沖縄から離れて生活しているからか、心配してちょくちょくメールがくるんだ」
 “メールといっても短文だけど”と、内容を見せれば“すいみんしっかりとれ”とシンプルな一文が記されていた。
「それ、僕も染岡くんからもらったよ」
「今の流行なのかぁ?」
 二人は顔を見合わせて笑い出す。
 雰囲気と匂いにつられてたのか、既に開かれている扉をノックして基山と立向居が入ってくる。
「二人とも美味しそうなの食べてるね」
「土方くんが作ってくれたんだ」
「わぁ、いいですね」
 視線だけで腹を空かせているのが見え見えだ。
「よし、ついでだ。お前たちの分も作ってやるよ。なにか食べたいものあるか?」
「ホントっ?でもどうしよう……迷う……」
「俺、肉が食べたいです」
 迷う基山より先に立向居がリクエストを述べる。
「俺もお肉がいいな」
 基山が小さく手を上げた。
 席を立つ土方に、吹雪も立って料理を手伝う。
 和気藹々な食事を済ませ、それぞれを部屋に帰って寝る支度を整えた後、吹雪と土方はメールを打ち出した。
 吹雪の相手は染岡、土方の相手は鬼瓦。今日あった出来事を簡単な文章でシンプルに正直に伝える。
 練習は大変だが、仲間がいるのは心強く、楽しい。そして、報告できる相手がいる喜び。
 自然と口元が綻んでいった。







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