冷たく、暗い



 今夜のキャラバンは海の近くに停車したので、鬼道は一人外に出て砂浜を歩く。
 夜の海の水は冷たそうで、押して引く波は魂を奪おうと狙うように映った。
 底が見えない暗い海は恐怖を抱かせる。
 警告するように、風でマントがはためいた。


 適当な岩場に腰をかけ、じっと海を見据える。
 ある時から、鬼道は海をよく見るようになった。


 それは愛媛の埠頭――――真帝国学園の潜水艦が海に沈んでからだ。
 影山は海の底へと沈んでいった。暗く、冷たい、水の底へ。


 いつだったか、影山が話していた。
 生命は水から生まれたのだと。冷たくて、拭えばなくなってしまう、この海から生まれたのだと。
 彼が何を言いたいのか、当時の鬼道にはわからなかった。
 彼の歪みは、心酔する一方で薄々感付いていた。
 今なら彼が伝えたい事はだいたい理解できる。


 人間の本質は冷たく無色なものだ。
 たぶん、そう言いたかったのだろう。


「俺は、そうは思わない……」
 呟きだが、声はしっかりと通る。
「俺は、貴方とは違う」
 言葉では否定するのに、瞳の筋肉は緊張して瞬きさえしない。


 立ち上がり、キャラバンへと戻る。
 振り返らず、歩みを躊躇わず、前を向いて。
 指先の冷えを暖めるように、拳を握った。







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