一之瀬、土門、木野、西垣。彼ら四人はアメリカにてサッカーで友情を築いた幼馴染である。
 彼ら四人の中で西垣だけは一つ年下ではあるが、年の差など問わずに仲良くしていた。
 けれども、無意識に年下扱いをして甘やかしてしまう時がある――――。



友達で兄弟



 この日、一之瀬、土門、木野の所属する雷門と西垣の所属する木戸川の練習試合があった。
「よお西垣!」
 一之瀬が軽く手を上げて挨拶をすれば、必ずといっていいほど土門の口癖が来る。
「西垣、勉強ちゃんとやってるか?」
「やってるよ」
 相変わらずの質問に、うんざりしながらも西垣は言う。
 アメリカにいた頃、よく土門は西垣の勉強を見てやっていた。その癖からか、しょっちゅう成績の事ばかりを伺ってくるのだ。
「西垣くーん!」
 木野がにこにこして小走りで三人の元へやってくる。彼女の手には布バックが下げられており、一之瀬と土門は顔を見合わせ、西垣は期待するように彼女の言葉を待つ。
「はいこれ!良かったら食べて」
 バックからタッパーを取り出せば、美味しそうなチョコレートブラウニーが見える。
「いつも有り難うアキ!」
 嬉しそうに受け取る西垣。
 木野は木戸川との練習試合がある度に、こうして手作りの菓子を西垣にプレゼントしてくれる。西垣は毎回楽しみにしており、一之瀬と土門は羨ましがっている。
「いいなーアキ」
「俺たちにも作ってよ」
「二人はいつも部活でおにぎりとか食べてるじゃない」
「アキのお菓子はいつも美味しいからな」
「えへへ、ありがと」
 指を咥える一之瀬と土門のおねだりをさらりとかわし、西垣に微笑みかける木野。
「西垣くん、今度のリクエストなにかある?」
「プリンとか駄目かな」
「んー、初めてだけど、作ってはみるね。その時は四人分用意するよ」
「やったー」
 木野と西垣の周りで一之瀬と土門が万歳をした。


「おっ、西垣。こっちにいたか」
 西垣の監督である二階堂が女川と共にやってくる。
「西垣、それなに?」
 女川が西垣の持つタッパーに気付く。
「チョコレートブラウニー。アキが作ってくれたんだ。美味いんだぜ」
「へえ、上手いもんだなぁ」
 二階堂も一緒になって感心して、木野は照れてしまい、俯いた。
「誰かに作ってもらえるなんて西垣は幸せ者だなぁ」
「監督、そんな事言わないで探したらどうですか。あとその」
 西垣は二階堂に向き直り、自分のユニフォームの襟元をいじり、彼の衣服の襟の片方が立ってしまっている事を伝える。
「はは、有り難う。西垣はしっかり者で先生は助かるよ」
「そうだな。兄としても安心する」
「そうそう」
「姉としてもね」
 一之瀬、土門、木野が満足そうに頷く。
「そっか。一之瀬さんたちは二年生なんだっけ」
 西垣と同じ一年生の女川は目を瞬かせる。
「そうだよ。俺にとって友達で兄弟だ!」
 西垣はニッと微笑んだ。







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