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円堂×風丸
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二階堂×豪炎寺
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変質者×虎丸
円堂×風丸
「くしっ」
円堂の真横で、風丸がくしゃみをした。
「くしっ、くしゅっ」
三回連続でするくしゃみに、円堂はティッシュを渡して言う。
「風邪か?」
「違う。花粉だよ」
「あー、風丸は花粉酷かったよな」
円堂のくれたティッシュを受け取るものの、風丸はさらに三回くしゃみをして鼻を噛む。
「全く、毎年嫌になるよ」
「風丸、鼻水が前髪につかないように気をつけろよ」
「失礼な奴だな。そんな失敗は一度もした事ないぜ」
ティッシュをもう一枚もらい、鼻をほんのり赤くして放つ。
「大変そうだなぁ」
円堂はじーっと風丸を見詰めていた。
「円堂は全然花粉に反応しないよな。けどな、こういうのはいつ来るかわかんないんだぞ」
目を擦りながら風丸は言う。前髪で隠れている目もかゆいらしく、髪を避けて擦りだした。
「いちいち避けるくらいならさ、またカチューシャでもすれば?」
「却下。円堂が見物人をいっぱい連れてくるからな」
「そりゃあ、珍しいものは皆に知らせなきゃだろ」
「俺は動物園のパンダか」
「パンダって可愛いよな」
風丸の突っ込みをマイペースで返す円堂。
溜め息を吐こうとしたが、それよりも先にくしゃみが出た。
二階堂×豪炎寺
冬から春へと変わり行く、とある日の夕方。
豪炎寺が二階堂の家を訪ね、出てきた彼の姿に目を丸くさせる。
「ん?まだ冷えるだろう。早くお入り」
「は、はい」
中に入り、向かい合わせの席で二人で夕食を食べている最中に、豪炎寺はずっと思っていた事を呟く。
「あの、二階堂監督……」
「うん?」
「その……それ」
そっと自分の目の間に指を置く。その仕草で二階堂は察した。
「ああ、これか」
薄く微笑む。二階堂は眼鏡をかけていたのだ。
「言っておくけど、老眼じゃないぞ」
「わかっていますよ」
「花粉だよ」
「ああ……」
この時期は花粉が多く、豪炎寺の通う雷門中でもマスクをするものが目立っていた。
「似合わないか?」
さきほどから二階堂は眼鏡に自虐的である。恐らく、彼は初めて見せる眼鏡に照れているのだろう。
「いえ、そんな事はないです」
頭を振るう豪炎寺。
お世辞ではなかった。寧ろ似合っており、新鮮な魅力があった。
だからこそ“そんな事はない”としか言えず、それから先の気の効いた言い方が出来なかった。
好きな姿だと思った。
ドキリとしたのだ。
つい一人じろじろ見て、一人頬を染めてしまう。
「豪炎寺もしてみるか?」
「えっ」
見詰めていたのを見透かされたと勘違いし、つい声が通ってしまう。
「度は入ってないよ。ほら」
二階堂は眼鏡を外して向きを変え、顔を突き出した豪炎寺にかけてやる。
「サイズは大きいが、なかなか男前じゃないか」
「そう……ですか?」
二階堂に眼鏡をかけてもらうのも新鮮で、鼓動の速さが増した。
「ああ、お父さんにそっくりだ」
「違います」
すぐに眼鏡を外し、二階堂に返す。
「そっくりだぞ」
「違いますって」
そっくりなのに。二階堂はしつこく言っていた。
変質者×虎丸
「行ってきまーす!」
元気良く挨拶をして自宅兼店である虎ノ屋食堂を出て行く虎丸。イナズマジャパンのジャージにエプロン、手には出前箱を持っていた。
「虎丸!」
母たえが扉から顔を出して虎丸を呼ぶ。
「自転車はいいの!?」
「うん!大丈夫!」
走って遠くなっていく虎丸に、たえは“元気ね”と呟いた。
イナズマジャパンは快進撃を続け、予選を勝ち抜いていく。虎丸は日本最強のチームメイトに囲まれて思いっきりサッカーが出来るのが楽しいらしく、店の手伝いにも気合が入る。自転車を使うより走った方が運動になる気がして、自転車は使わなかった。
さくさくと家を回って出前を済ませ、虎丸は軽くなった出前箱を片手で扱いながら帰路も走る。
「よっと!」
道の角を曲がった。
するとすぐ先にスーツ姿の男がいて、咄嗟に腕を後ろへ回して出前箱をぶつけまいとする。
「ごめんなさいっ」
頭を下げて詫びた。顔を上げると男は怒らず、ジャージを指差す。
「君、宇都宮虎丸くんだろ?イナズマジャパンの」
「えっ…………あ、はい。そうです」
「予選勝ち抜いてくれよ、応援しているから」
「有り難うございます」
ぺこりと会釈をして横を通ろうとした虎丸だが、男に腕を引かれた。
「さ、サインとか、駄目かな」
「サインですか?構いませんが、生憎書くものが……」
「ペンなら持っているよ。公園に行こう」
男は虎丸の腕を掴んだまま、公園へ向かう。公園は人気がなく、静かであった。
ベンチに座った男はペンを取り出すが、他に何かを出したいのか、しきりにポケットを確かめていた。
「うーん……ペンはあるのに紙がないぞ。仕方ない、俺のシャツに書いてもらうか」
「ええっ、良いんですか?」
「ここで脱ぐのは恥ずかしいから、こっちに来てくれないか」
「えっ……えっ……」
「すぐだから、それを置いてさ」
出前箱をベンチ横に置かれ、虎丸は男とベンチ裏の木々の中へ入る。
虎丸の胸に不安が広がっていくが、応援してくれる人に悪い感情は持てず、大人しく連れて行かれた。
「ちょっと待っていてれくよ」
腕を放し、背を向けて男はベルトをガチャガチャと鳴らす。
空はだんだんと暗くなっていき、虎丸は恐怖を抱きながら待つ。
「よし」
振り向く男。
彼はシャツではなく、下半身を露出させていた。
虎丸は吃驚して目を丸くさせるが、すぐに逃げ出す判断が出来た。しかし――――。
「待って」
力強く手を捉えられ、握りこまれる。
「さ、遠慮しないで」
強引に手を性器へ近づけ、触らせようとする。
「あ、…………あ……」
声が出ない。顔は血の気が引き、冷や汗が滲む。
同じ男なのに、本気を出せば抜け出せるかもしれないのに、身体が思うように動かないのだ。
――――助けて。
助けを呼ぶ言葉が、胸の中だけに何度も響き渡る。
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