土方&豪炎寺
円堂×風丸×霧隠
綱海&音村&喜屋武
地木流×二階堂
吹雪×染岡
二階堂×豪炎寺







土方&豪炎寺

 大地を照りつける眩しい太陽。温暖の地、沖縄――――
 ビルが密集した東京とは異なる、緑が青々と茂った石造りの塀に囲まれた沖縄の一般的な一軒家。
 家の中の居間のテーブルに、幼い兄弟たちが集ってなにやら話している。
「なあこれって」
「……だよねえ」
 兄弟の声を聞きつけて、彼らの長男である土方が洗濯籠を持って庭から踏み入ってきた。
「おーい、何をやっているんだ?」
「兄ちゃん!これ……」
 テーブルから一歩離れる兄弟。そこには一台の携帯電話が開かれていた。
 色を見て、土方の歩調が速まる。
「おい、それは触っちゃ駄目だって言っただろ」
 “それ”は彼ら兄弟のものではない。つい数日前から共に暮らす事になった東京からの客人のものなのだ。
「光らなくなっちゃったんだ」
「なんだって」
 土方は携帯電話を手に取り、電源のボタンを押す。弟の言った通り、画面が出てこない。
「充電切れか?」
「うーん、それっぽい」
「参ったな……」
 籠を置いた土方は人差し指で頭を軽く掻く。ここから携帯ショップへはそれなりの距離があり、忙しい土方は時間が無く、弟たちでは迷子になりやすい。
「とりあえず、あいつに伝えておくか」
「じゃあこれ、畳んでおくね」
 籠からシャツを取り出す弟に“頼む”と言い残し、土方は家の奥に入り、屋根へ昇った。


 屋根の上で、後ろに手を組んで転がる少年がいた。彼が客人である“豪炎寺”だ。
 彼は特に何もない時はこうして屋根の上で空を眺めている。
「豪炎寺」
 土方が呼ぶと、豪炎寺は身を起こす。
「これ」
 歩み寄り、携帯を渡した。
「充電切れている」
「そうか」
「あと弟たちが触っちまった。よく言い聞かせておくから、すまない」
「いいや、構わない」
 詫びる土方に豪炎寺は頭を振るう。
「なるべく近い内に携帯の店へ案内するよ」
「いや……大丈夫だ……」
 携帯から土方を見上げる豪炎寺。
「しばらく使う予定は無い」
「駄目だ。……明後日にでも行くぞ」
 即答し、言い放つ土方。
「豪炎寺が使わなくても、途切れないでずっと呼びかけている人たちがいるんだろ」
「…………………………」
 返す言葉が浮かばず、豪炎寺は沈黙した。
「明後日だ。わかったな」
「…………………………」
 豪炎寺の顎が僅かに動く。頷いたサインに土方は微笑んだ。







円堂×風丸×霧隠

 青空を白い雲がゆったりした速さで流れていく。
 ここは雷門中の屋上。丁度、昼休みであった。
「じゃーん」
 注目と言わんばかりに、戦国伊賀島から引き抜かれた生徒・霧隠は菓子を取り出した。
 共に雑談を交わしていた仲間である円堂、風丸、半田は彼へ目を向ける。
「お、それ新しい味じゃん」
「さすが半田はわかってくれると思った」
 菓子のパッケージを指差す半田。それはチョコポッキーであり、発売されたばかりの“稲妻町限定・雷雷軒醤油味”だ。チョコなのに醤油、という新感覚で生徒たちの話題になっていた。
「心優しいオレ様はお裾分けなんてしてあげちゃう」
「やりぃ」
 喜ぶ円堂、風丸、半田。まずは一本ずつ持って、四人が口を開けた時だった。
「そうだ。なあ霧隠、ポッキーゲームって知ってるか」
「あ?なにそれ」
 目を瞬かせる霧隠。
 伊賀島は辺境の地。ポッキー自体も東京に来てから知ったので、ゲームなど知る由も無い。
「こうやって」
 半田がポッキーの端を咥えて器用に横にし、小さく噛んでいく。
「向かい側に相手とかじり合いっこするんだ。先に折った方が負け。わかる?」
「わかった。なんか面白そうだな」
 直感的に読み取るのが早い霧隠はすぐさま理解した。
「これさ、気にな……」
「風丸!」
 半田の説明の途中で、霧隠は風丸を呼ぶ。
「オレとポッキーゲームしようぜっ」
「ええ」
 驚く風丸。当たり前だ。
 ポッキーゲームの本来の目的は半田も言おうとしていた、気になる子との唇の接近なのだから。
「えーと、あのな、霧隠」
「なんだよ風丸。やる前から負けを認めるのか」
 違う。
 霧隠は直感が鋭い分、思い込みも激しい。
「早くやろうぜ」
 ポッキーを咥え、口で差し向けてくる。
「やめろよ」
 円堂が放つ。普通の音量なのに低く空気を通り、よく聞こえた。
「ポッキーゲームって男同士でするもんじゃないだろ」
 しん、と静まる。
 一番“気にするな”なんて明るく言いそうな彼が戒めてきたのだ。
「そうなのか?」
 霧隠の瞳が半田をきょろりと捉えた。
「まぁ、あわよくば唇を奪っちゃう女子とのゲームだしなぁ」
「え……そうなの?」
 彼の白い頬に赤みが差す。そうして咥えたポッキーをすぐに食べてしまった。
「オレはこういうの上手いから、危うく風丸とキスするとこだったぜ。はーやだやだ」
 上がった顔の熱をごまかすように、肩をすくめて手を上げ“やれやれ”というポーズを取る。いかにもわかりやすい演技なのに、円堂には鼻についたようでムッと唇を尖らせた。
「霧隠から言い出して来たのに、そんなのはないだろ」
「なんだよ円堂。風丸を庇っちゃってさ。お前がしたかったの?」
「どうしてそんな話になるんだよ」
 円堂の顔がカッと熱くなる。霧隠も熱がちっとも冷めない。


「なあ」
 ぽつりと風丸が呟く。円堂と霧隠が素早く彼へ顔を向けた。
「これ美味いな。もう一本……いいか?」
 はにかみながら申し訳無さそうに、二本目を要求する。
「え……」
 円堂、半田、霧隠は固まり、既に飲み込んでしまったポッキーの味を思い浮かべようとした。







綱海&音村&喜屋武

 燦々と輝く太陽が照らす浜辺で、小学生の喜屋武は砂で城を作っていた。
 その隣で同じく小学生の音村は何かの曲を聴いているのか、ヘッドフォンに片手を添えて小さく頭を揺らす。
 ざざあ……ざあ。
 引いては返す波の音。調子が乗ってきたのか喜屋武は歌いだす。
「う〜み〜はひろいーな、おおき――ぃなぁ……」
「い〜ってみたい〜な」
 途中から音村も合わせてくれ、二人で声を揃えた。
「よその〜く〜に〜」
 喜屋武が笑い出し、音村も笑う。人気の無い海には二人の笑いがよく通った。
 ところがその笑顔は突然、石のように硬直する。


 ざっぱーん。
 大きな波と共に綱海が海からやって来た。
 いきなり宙を跳んできたサーフボードがヒュンヒュン空を切って回転し、喜屋武の作りかけの砂の城へ突き刺さる。まさに見事に、ぐっさりと。
「よっ……と!」
 くるくる回転し、体操選手の決めポーズで綱海が喜屋武と音村の間に着地した。彼は音村と喜屋武より一つお兄さんだが豪快で、現れれば嵐を起こす。
「お前ら楽しそうじゃねえか!何してたんだ?」
 キラッ。沖縄の太陽のように眩しく微笑む。
「つ、つ、つな……つな……綱海…………!」
 音村は立ち上がり、わなわなと肩を震わせて綱海を指差す。あまりの衝撃に言葉にならず、示した指をさらに伸ばし、喜屋武の城だったものへ向ける。
「なーんだ?どうした……って、うおああああ!!」
 振り返って見下ろした綱海がオーバーリアクションを取った。
 被害者の喜屋武はというと、城の残骸を前にしてアワアワ困惑している。
「き、喜屋武っ!すまん!すまねえ!!」
 ざざっ。綱海は素早く砂へ手をつき膝をつき、土下座して詫びた。
 綱海の人より大きな声で喜屋武は我に返る。
「い、いいよ……、いつもの事だし……キャンが海の近くで作ったのも悪いし……」
 これが初めてではない。過去にも喜屋武は何度も綱海のサーフボードで自分の持ち物を破壊されていた。ある時はアイスを切断され、またある時はペットボトル粉砕、そのまたある時は学校帰りに持ち出した工作……きりがない。いつもなぜだか喜屋武は危ない方へふらふらと行ってしまう癖があり、綱海もかなり反省しているし気をつけてはいるが、被害は耐えない。幸い、喜屋武本人に直撃していないのが唯一の救いだ。
「喜屋武、城いい感じだったのにね」
 落ち着いた音村は側に置いた鞄から、クッキーを取り出して彼女に渡す。
「良かったら食べて。俺に免じて許してよ」
「キャン、気にしてないよ。でも有難う」
 クッキーを受け取る喜屋武。
「ああっ、いいなぁっ!俺にもくれよ!」
 綱海が立ち上がり、物欲しそうな目を送る。
「綱海……誰のせいだと思ってるんだ……」
「はは。音村、怖い顔すんなよ〜」
 ジト目になる音村を軽く押す綱海。軽くのつもりだったのだが、音村は不意打ちによろけて、濡れた砂に尻を突く。
「げ」
 まずい雰囲気を察し、綱海は一歩下がってから逃げ出す。
「いいかげんにしろよ!」
 音村が目を吊り上げて追いかける。
 二人は何かを叫んだり吼えたりしながら、熱い砂浜を駆けた。あれはその内じゃれあいに変わるので、喜屋武は止める気にはならない。二人を眺めながら、音村から貰ったクッキーをゆっくり食べた。







地木流×二階堂

 会えませんか。
 そう突然、連絡をしてきて彼――地木流灰人は夜、二階堂のマンションへ訪れた。
「今夜は楽しみましょうね」
 玄関へ招くなり、ワインの入ったケースとレンタルビデオ屋の袋を掲げて微笑む。
「……なに……が?」
 思わず、そんな事を口にする二階堂。
「今日は十三日の金曜日じゃないですか!」
「え……はぁ……」
 やや斜め上を見上げてカレンダーを思い浮かべた。
 十三日の金曜日といえば不吉の代名詞の日。尾刈斗中の監督なのだからと納得はできるが、やたらと上機嫌な雰囲気をかもしだす地木流に厄介な人物と知り合いになってしまったと二階堂は後悔する。それでも、退屈はしないしそれなりに楽しんでいると思いたかったが、居間へ通した瞬間に考えは変わった。
 パチッ。いきなり明かりを消してきたのだ。
「ここは蝋燭にしましょう」
「…………………………」
 追い出したい。二階堂はこめかみを引き攣らせる。
 テレビを前にしたソファに並んで座り蝋燭をたて、ワインを飲みながら借りてきたホラーDVDの鑑賞会が始まった。
「超とっておきの自信作揃いです。二階堂監督もきっと気に入りますよ」
「……尾刈斗の生徒さんもこういうのを観るんですか?」
「なわけないでしょう」
 地木流はDVDのケースを二階堂の顔へ向け“グロテスクな描写云々、R指定云々”の箇所を指で示す。
「そう……ですね……まだ、中学生ですものね……」
 はは。乾いた笑いをする二階堂は遠い目をしていた。
 なぜ相手に自分が選ばれたのか、なんとなくわかった気がする。


 地木流の“超とっておき”DVDの内容は本当に怖すぎた。
 グロテスクで残虐で容赦がない。制限が設けられているだけにエロティックもあるにはあるが、無残な結末ばかり。たかがホラーだフィクションだと軽い気持ちだった二階堂も、だんだんと直視できなくなり、暗い部屋に不安を覚えてくる。
 何か適当な言い訳をして席を立とうと、隣の地木流の様子を伺いながら声をかけた。
「あの、地木流監督」
 声はテレビの中の悲鳴にかき消されそうになる。丁度、美女が犠牲になろうとするシーンの真っ只中であった。
「え、なんですか」
 地木流は肩を上下させて驚く。
「すみません、丁度盛り上がっているところ。私はちょっと……」
「そうですよ。こんなシーンに……二階堂監督……貴方……」
 頬に手を添え、視線をそらして息を吐く。
「私、貴方の事、それなりに気に入っていますし。そう、ですよね……そういうことになりますよね……」
 決意したように真剣な眼差しを向け、二階堂の肩に手を置いて抱くように首へ回して引き寄せる。
「え、ちょっと……っ。なんのつもりですか」
 嫌な予感がして、二階堂は地木流の腕を解こうと焦った。
「なんのつもりって、自分から誘っておいて。するんでしょう?」
「誘ってないですし。なにもするつもりはないです。私は席を立ちたいだけで」
「この期に及んで、大人げないですよ」
 地木流は腕を緩め、手が剥がそうとする二階堂の手を掴んで指を絡めた。前へ力を加えて押し倒そうと迫る。
「いいムードの時に声をかけておいて、つもりがないなんて嘘も甚だしい」
「なにのどこがムードなんですか……。私は地木流監督のようにホラーはそこまで得意ではないですし」
 なんとか逃れなければ、という気持ちが高ぶって二階堂の喉が“ごくん”と生唾を飲んだ。
「……ああ、そうでした。いやだ、私とした事が、つい」
 本当に二階堂から"そのつもり"が無い事を地木流は悟り、手を解いて姿勢を正す。
「勘違いしてすみません」
「いえ、わかってくだされば」
 愛想笑いを浮かべて、傾いた身体を戻す二階堂。
「ですが」
 テレビへ視線を向けたまま、地木流が呟くように言う。
「その気にさせた責任、どう落とし前をつけてくれますか」
 静かに流した目を送り、そっと細められた。


「…………ねえ?」


 口を開いてから、音を発する。
 そこからチラついた赤い舌は、映像の血よりも真っ赤で危険な色をしていた。







吹雪×染岡

 本当のお前に会いに行くよ。


 北海道。大雪原――北ヶ峰。吹雪は一人、雪を踏みしめてやってくる。
 その手に抱えるようにして持つのはマフラーと、美しい花。何もない、白銀の世界の真ん中で立ち止まった。
「随分、ご無沙汰していて、ごめんね」
 語りかけるように優しく呟く。
 ここ北ヶ峰で吹雪は両親と弟を亡くした。墓よりも、この場所こそが彼にとって家族の魂の眠る場所であり、墓参りの意識を持って度々訪れている。
 しかし吹雪が雷門イレブンに加わり、エイリア学園と戦う旅に出て以来顔を見せていなかった。数ヶ月の出来事も、吹雪にとっては長い長い旅だったように思う。日本各地を巡るだけではなく、吹雪自身の心の在りかを求めた旅でもあった。
「本当に久しぶりな感じ。十年ぶりくらい?」
 ふふ。吹雪は喉で笑う。
「今日はね、謝りたい事と、伝えたい事があって来たんだよ」
 空を見上げて深呼吸をした。風はなく、空も綺麗に澄み渡っている。
「まずその、色々ごめん。僕、ここへ来るたび、めそめそしてたね。無茶ばかり我侭言ってたね。特にアツヤ……お前の思い出を引っ張って、しがみついて、振り回して。悪かった」
 背を屈めて、持ってきた花を置いた。どこからともなく吹いた柔らかい風に、ふわふわと花びらを揺らす。
「それとそう、次に伝えたい事。僕、こないだまでずーっと旅に出ていたんだ。友達がいっぱい出来た。一緒にボールを追いかけたいパートナーも出来たんだよ。僕は今までアツヤさえいてくれればパーフェクトだし、二人で一人になれたなら一人で大丈夫って思っていたんだけどね。どんな人かアツヤは気になるでしょう。きっと、気に入ると思うよ」
 伸びをして、うん、と喉を鳴らした。
「名前はね、染岡くん。ムスッとしていて無愛想なんだけどね、優しいんだ。僕、好きなんだ。東京は遠いけれど、ずっと繋がっていたいんだ」
 吹雪は寒さか、照れ臭さか、頬を染めてにっこりと微笑んだ。
「今度、絶対伝えてみせるよ。だから、父さん、母さん、アツヤ。僕は大丈夫。僕は幸せ。これからを、皆と一緒に生きていくから」
 抱えたマフラーを持ち直し、花に向かっておじぎをする。
 すると、ポケットの中の携帯が震えだし、取り出せば染岡の名前が表示されていた。慌てたように電話を取れば、スピーカー越しに染岡の声が聴こえてくる。


「そ、染岡くんっ、ど、どうしたの」
 家族に決意を宣言した直後か、顔の熱が急上昇した。声もどもってしまう。
「えーと……今日は、本日は快晴なり……。はは」
 無難な天気の話題を出して、一人苦笑した。
『吹雪のところも天気なのか』
 笑い混じりに染岡の声が返ってくる。
『今日はいいサッカー日和になりそうだ。お前にさ、直接声で伝えたい事があってよ』
「うん?なに?」
 携帯を限界まで耳にくっつけた。
『円堂が、ウチのキャプテンがさ、白恋中と練習試合しようって』
「うん!……でも、僕は染岡くんと同じチームがいいなぁ」
 嬉しさのあまり、欲が出る。
『ワイバーンブリザード、撃ちてぇなぁ』
「でしょ?ねえ、あの……」
 言いかけた言葉はやや強めの風に消されてしまう。
『すまん。聴こえなかった』
「ごめんね、風が急に強くなって」
『風か……』
「そう、風だよ…………」


 北海道と東京。吹雪と染岡の息を吸うタイミングが重なり、同時に放った。


「風に、なろう」







二階堂×豪炎寺

 雷門と木戸川の練習試合が終わり、選手がベンチで休んでいた時であった。
「あー、豪炎寺。ちょっといいか」
 木戸川の監督・二階堂が豪炎寺に声をかける。豪炎寺と、隣に座っていた影野と円堂も顔を上げた。
「どうぞ」
 円堂が席を詰め、二階堂が礼を言って座る。
「実はな、フットボールフロンティア優勝校のストライカー・豪炎寺が元木戸川の生徒という事で、学校新聞にお前の簡単なプロフィールを載せたいって話が来たんだ」
「え……」
 あからさまに困惑する豪炎寺。無理も無い。
「大丈夫。豪炎寺の経緯は問わないさ。先生たちにも責任がある」
「それなら」
 豪炎寺は小さく頷き、了承した。


「えーと、まず……。先生も目を通すのは初めてなんだよ……」
 二階堂はバインダーに挟まれた紙からアンケート用紙を探す。
 ――――聞く前に確認しておくべきじゃないだろうか。
 傍にいた雷門メンバーは二階堂の性格に危うさを抱いた。
「よし。これこれ……身長と靴のサイズは……だな」
「はぁ」
「お前最近食べ盛りだから、体重聞かれなくて良かったな」
「余計なお世話です」
 ややムッとさせて豪炎寺は身長と靴のサイズを答える。
「次に得意科目だ。体育でいいか」
「勝手に答えないでください」
「すまんすまん」
 二階堂からペンとバインダーを取り上げ、書いてから豪炎寺は返す。
「好きな食べ物は?」
「あまりこだわりがないのですが……」
「こないだのから揚げ美味かったよ」
「では、から揚げにしてください」
 周りはそろそろ二人の異質な雰囲気に感付き始めるものの、妙に気になって目を離すことが出来ない。
「んー……デートするならどこがいいですか。これはきっと女の子の質問だな」
「旅館とか……泊まりたいです……」
「駄目駄目。サッカー観戦くらいでいいだろう」
「今度連れて行ってください」
「んー、今度な」
「では、サッカー観戦でいいです」
 柔らかく豪炎寺は微笑んだ。
「次……今日の下着の色はって…………誰かの悪戯か?これは無視、と」
「色も何も、柄ですし……」
「だよなぁ。最後だ、将来の目標は?」
「二階堂監督にお任せします」
「ん、そうする」
 すらすらと書いて二階堂がペンをしまう。
「つき合わせて悪かったな。新聞できたら知らせるよ」
「二人で読みましょうね」
「ああ。じゃあ、失礼するよ」
 二階堂は席を立ち、生徒が待っている木戸川のベンチへ戻っていった。
 彼が去った雷門のベンチは、しんと静まり返る。
「……………………………?」
 なぜこんなにも静かなのだろう。豪炎寺は素で分からず、首をかしげて足をぶらつかせた。







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