鬼瓦&土方父
鬼瓦&土方家
鬼瓦&土方
※鬼瓦&土方父→土方家→土方と話が続いています。
二階堂×豪炎寺+バーン
[ゲーム設定]霧隠×風丸
円堂×風丸







 あれは真昼。頭の天辺に降り注ぐような光を感じた。



鬼瓦&土方父



 もう何年前だったか。日差しの強い日だった。
 鬼瓦は親友円堂大介の死因を追う為に、ジャーナリストを辞めて刑事となった。追って追って、辿り着いた先は彼の故郷である福岡県。どこか稲妻町を思わせる景色に、大介の影が過りそうになった。
「ふう」
 鬼瓦は被っていた帽子を取り、ハンカチでこめかみを伝う汗を拭き取る。季節は夏で、特に暑いし時刻は昼ときている。汗が次から次へと滲んでしまう。
 続いて取り出した地図を団扇代わりに扇いだ。向かう先は警察だった。
 この市街地は線路が入り組み、踏み切りを何度も渡らねばならない。
 カンカンカン……と、列車の知らせが鳴り、踏み切り前で鬼瓦は立ち止まった。風が吹き、電車が通り過ぎる。開かれる道の先は暑さで景色が揺らいだ。
「おーい!」
 道が開くなり、自転車に乗った男子中学生が向かい側にいるらしい友人に向かって走り出す。
 その声の高さが、呼びかける感覚が、大介に似ている気がした。
 もうあまり、彼の声もよくわからなくなっているというのに、たぶん大介はあんな感じだったと記憶がくすぐる。
 鬼瓦は思う。派手に自転車を大介が乗り回すのなら、自分は夢中で後を追って後ろに乗せてもらっただろう、と。しかし、今の自分に走りきる程の体力も二人乗りをしたがる若さも無い。こうして、目を奪われて立ち尽くしているのが現状だ。
 大介。心の内で彼を呼ぶ。呼べば、とびっきりの笑顔で彼は振り向いてくれた。
 いつも元気で、明るくて、太陽のような親友。好きだった。大好きだった。ずっと友達でいられると思っていた。
「っ……」
 また、遠くから電車の通過を知らせる音が鳴り出す。我に返った鬼瓦は慌てて踏み切りを渡り、歩調を戻そうとした時、真横の気配に足が止まる。影が差して風が吹き、背の後ろで電車が通り過ぎた。踏み切りが開いても、鬼瓦の影は引かずに存在していた。
「鬼瓦さん……ですね」
 頭の上から伺う声がする。振り向けば、半袖の真っ白なシャツを着た長身の男が立っていた。問いかけようとする鬼瓦に、男は先に警察手帳を見せる。
「わたくし、土方と申します!鬼瓦さんを迎えに参りました」
 いきなり放たれた、はきはきとした声に鬼瓦は思わず驚き呆気に取られる。
「…………元気な奴だな」
「はいっ、それだけが取り柄ですからっ」
 皮肉をさらなる笑顔で返す土方という男に、鬼瓦は苦笑を浮かべながらも好感を抱いた。


 土方が先導して鬼瓦を警察へと案内する。着くまでの間、そう距離はかからないというのに彼はべらべらと語りだした。
 福岡の土地の事、家族の事。故郷は沖縄で子沢山。待っていてくれる子供たちがいるから自分は頑張れるのだという。結果、惚気なのだが、鬼瓦は指摘せずに耳を傾けていた。
「そりゃあ……たくさんだな。奥さんは……」
「いやぁ、家内には先立たれてまして」
「子供たちだけなのか?」
「ときどき親戚に様子を見てもらっているんですがね。長男がしっかり者でよくやってくれます」
「長男とはいっても、お前さんの年だとまだ幼いだろ。あんたは沖縄で働きたかったんじゃないか」
「……いえ、わたくしはここ福岡が希望でした」
 土方の瞳に一瞬、空を流れる雲のように影がさす。
 ――――この男も何かを背負っている。鬼瓦は悟った。
「そうか。まぁ、なんだ。今日は暑いが、沖縄はもっと暑いんだろう」
「そうですねえ……。こんな陽気だと、あっちはさぞ海が綺麗でしょう」
「海か。落ち着いたら海でも見てみるか」
「ええ、福岡の海も綺麗ですよ。ああ……家の裏をちょっと歩いた所にひまわり畑があるんですよ。海の青とひまわりの黄色が、本当に素晴らしいんです……」
 息を吐き、土方は故郷沖縄を懐かしみ、目を細めた。
「ひまわり、か」
 鬼瓦はニヤリと笑い、土方と自分の間を手で測る。
「上手い表現が見つからなかったが、やっとしっくり来た。お前さんはあれだ、ひまわりみたいだな」
「ひまわり、でありますか」
「ああそうだ。高くって、頭がずっしりとして、太陽を向いてやがる」
「ずっしり……」
 土方の脳裏に“太陽”はすぐに子供たちへと結びつく。
「宜しくな」
「はい」
 福岡警察の前、鬼瓦は土方へ手を差し出し、握手をした。
 これが親友の故郷の地で始まった、鬼瓦の出会いである。





 花の命は短い。鮮やかに咲いたと思えば、色をくすませて枯れる。
 空を覆う真っ暗な雲は、もう彼はいないのだと現実を突きつけてくれた。


 花の命は短い。あまりにもそれはあっけなさすぎる。
 突然だった。前触れもなく、花は無残に折られてしまったのだ。



鬼瓦&土方家



 親友大介の故郷福岡で出会った土方という警察官。
 家族と故郷をこよなく愛する男だった。
 明るく、前向きで、一生懸命な男だった。
 男ならばこう生きたいという夢を形にしたような男だった。


 だが、突然の悲劇は訪れた。
 犯人が逃げようと乗り込んだ車に彼は引かれて絶命した。
 あっけない最期であった。まるで花の命のように、出会ってからそう月日も経たぬ内に永遠の別れとなってしまった。
 葬儀は彼の故郷、沖縄で行われた。
 鬼瓦にとって沖縄は初めて訪れる地。土方より、沖縄の話をよく聞かされていた。太陽が自然を全て照らしてくれる楽園だと――――。
 だがどうだ。天気は生憎の雨で、太陽は姿も見せやしない。
「……土方」
 一人離れて、鬼瓦は呟く。
「あんたいい人過ぎたのさ。いい人は、神様に目ぇつけられやすいんだ。狙われたら仕舞いよ。天国へ連れてっちまう」
 屋根の下で雨を避けながら、天を見上げた。
「大介。そっちに俺の福岡での同僚が逝ったよ。同郷のよしみで、よくしてやってくれ。こっちは相変わらずの地獄さ。悪人だらけでてんてこまいだ」
 煙草をふかし、息を吐く瞳は細められる。
「……もう少し待ってろ、とびっきりの土産を持ってってやるから」
 自嘲気味に笑って、煙草の吸殻をケースにしまう。
 そうして警察の群れの中へ戻ろうとした時、ふと小さな子供の泣き声を耳にした。
 様子を覗き見れば、雨に打たれて子供たちが寄り添っている。
 もっと凝視すれば、頭一つ出た長男らしき少年に、幼い兄弟たちが泣きついているように映る。
 ――――あいつの子供か。
 子沢山と聞いていたので、察するのは早かった。


「おお、どうしたい」
 歩み寄り、傘に入れてやる鬼瓦。
「お前たち、土方刑事の子供たちだな。顔を見ればわかるさ」
「………………あ」
 幼子を抱くようにあやしていた少年は、かすれた声で“長男の雷電です”と答えた。
「おじさん、誰?」
 雷電に顔を埋めていた子供が顔を上げて鬼瓦を見据える。
「俺か?俺は鬼瓦ってんだ。土方刑事の同僚……仲間でな。お父さんから子供たちのことはよく聞かされていた。賢い、いい子たちだってな」
「ほんと?」
 子供たちの視線が鬼瓦に集まった。
「お父さんの話をしようか。ここじゃ濡れるだろうから中へ入ろう」
「うん」
 子供たちの手が雷電から離れ、鬼瓦のコートを掴んだ。
「あ、こらっ……」
 迷惑をかけると、雷電が引きとめようとする。
「雷電くん」
 鬼瓦は雷電にポケットティッシュを握りこませた。
「?」
「たぶん、今しかない。行ってきなさい」
「……………………………」
 一息置いて雷電は鬼瓦の意図を理解し、一礼して建物の裏へと駆けていく。
「兄ちゃん?」
 兄を追おうとする弟を、鬼瓦はやんわりと肩に手を置いた。


 雨を眺めながら、縁側で子供たちと話をしていると、雷電が戻ってくる。
「有難うございました」
 感謝を述べる雷電は鼻声であった。返されたポケットティッシュは半分になっている。
「兄ちゃん、これ。おばさんに貰った」
 兄を見るなり、弟の一人が親戚に貰った餅を土方へ持っていく。
「ああ、すまん。鬼瓦さん、チビたちうるさかったでしょう。失礼な真似していたら申し訳ありません」
「兄ちゃん酷いよ。ちゃんといい子にしてたもん」
「土方刑事の子は、噂通りのいい子たちさ」
 薄く笑う鬼瓦に、雷電にも笑みが宿る。
「あーっ」
 いきなり一人が立ち上がり、外を指差す。鬼瓦と雷電は目を丸くさせてから、示す方を向く。
 雨が引き、雲の隙間から太陽の光が漏れ出す。
「雷電くん。君が笑えたから、お父さんも笑っている」
 雷電が静かに頷いた。





鬼瓦&土方

 閉じた瞳を開けば、太陽の光が差し込み、墓の前で揺れる線香の煙の揺らぎが映った。
 鬼瓦はときどき沖縄へ足を運んでは同僚の墓参りに来ていた。
「おやっさんが来てくれて、親父も喜んでるよ」
 鬼瓦の隣には、同僚の息子――土方雷電が立っている。彼の言う通り、鬼瓦が来たことを喜ぶように今日は快晴だった。
「ああ、いい天気だな。あいつと初めて出会った日も、こんな天気のいい、暑い日だったさ」
「へえ……」
「会うなり、お前さんらの話や、沖縄の話をしてきたな」
「まったく、親父は……」
 苦笑を浮かべながらも、土方は誇らしげに鼻の頭を擦る。
「そうだ。これを渡しておくんだった」
 思いついたように鬼瓦は鞄から菓子の入った箱を土方に渡す。
「東京土産だ。弟たちと仲良く食べな」
「はは、有り難い。チビたちはこういうのに目がないから、俺が少しずつおやつの時間に出しておくよ」
「しかし雷電くん。お前さんも大きくなったな」
「そうかな……」
 チビたちを世話するのに腕の筋肉ばかりつく、と土方は腕を擦った。
「もう何年か……。沖縄は相変わらず、いい土地だな」
「だろう?おやっさんもここに暮らしたらどうだい」
「そうしたいのはやまやまだがな……」
 自嘲気味に口の端を上げ、肩を竦めて歩き出す。
「いつでも来てくれよ。チビたちもおやっさんが来ると喜ぶんだ」
 鬼瓦の横に並び、後ろ頭に腕を組んで言う。顔はにこにこと上機嫌だ。
「くすぐってえな」
「今日だってさ……」
 土方が弟の話題を出し、雑談を交わしていると不意に鬼瓦は足を止める。そこにはひまわり畑が広がっていた。
「見事な黄色だな……。なんだか、心洗われるようだ……」
 なあ。鬼瓦は振り向かずに土方を呼ぶ。
「この景色を、見せたい奴がいるんだ」
「うん?水臭ぇよ、おやっさん。話してくれって」
 振り向かずとも感じていた。燦々とした、眩しい光を。
 思えば、もう会えない友を追う悲しい旅路の先に、生命の溢れるここ沖縄へ辿り着いた。命とはこうして繋がっていくのだとも思えてしまう。
 そして今、繋がりを絶たれた者を鬼瓦は抱えている。ここならば、再び紡ぎ直せる気がする。
 目を閉じて浮かぶ、あの男の笑顔がそう教えてくれていた。





二階堂×豪炎寺+バーン

 それは、全国より選手を集めた雷門と、木戸川清修が練習試合を行った後の事。
「なあ豪炎寺。あの人はお前の“父さん”なのか?」
 と、二階堂を指差してバーンこと南雲春矢は問う。
「はぁ……っ?」
 豪炎寺は返答すら問題外のような反応をした。
「二階堂監督は父じゃない。俺の父は稲妻町にいる」
「そうなのか。お前はあの人ばかり見ていたから、父さんだと思った」
 声を潜めないものだから、数人が振り返り、豪炎寺は“違う”と手を振る。
「父さんじゃないとしても、好きなんだろ?」
 あっけらかんと言ってみせるバーン。
「なにを言う」
 不意打ちに、言い逃れの手段が浮かばず豪炎寺は赤面した。図星だが、この気持ちは隠さなければならない。
「好きなら好きって言った方がいい。俺はもっと父さんと話がしたかったから」
「黙れっ」
 羞恥に豪炎寺はバーンの口を塞ぐ。
 周りの仲間たちは“またやってる”と呆れ半分、微笑み半分で見守っている。
 元プロミネンスのキャプテン・バーンが加入してからというもの、あんな調子なのだ。原因はバーンの世間性に疎い性格が豪炎寺を苛立たせているだけなのだが。どうしても炎のストライカー同士で付き合わねばならない機会が多々あり、避けるのは難しい。
「もがっ……なぜ黙るん……だ……っ」
 バーンは豪炎寺が隠したがる理由が分からない。
 彼は閉鎖された空間で昼夜問わずサッカーに明け暮れた生活をしていた。そのせいか仲間意識が強く、こそこそするよりも正面きったやり方を好んだ。


「豪炎寺。お友達になんて事するんだ」
 とうとう見かねた二階堂がバーンの口から豪炎寺の手を引き剥がす。
「二階堂監督は邪魔しないでください。余計な事ばかりを言う彼が悪いんです」
「邪魔とは酷いなぁ」
「はは、豪炎寺は天邪鬼だ」
 苦笑を浮かべる二階堂に、バーンは豪炎寺を指差してけらけら笑った。
「俺が天邪鬼?」
「そうだろ。その人が好きなのに、邪魔って言った。俺はそんなのとっくに卒業したぜ。ちっちぇ〜頃に、ヒロトばっかりな父さんに、我侭を一回だけ言ったんだ」
 カチン。豪炎寺のこめかみが引き攣った。これはまずいと察した二階堂が、二人の頭に軽く手を乗せた。
「まぁまぁ二人とも。あっちのベンチのアイスボックスにアイス入ってるから、仲良く食べなさい」
「丁度欲しかったんだ、もらうっ」
 バーンは喜んで木戸川のベンチへ駆けて行った。豪炎寺も向かおうとすると、二階堂が背に手を回してくる。
「豪炎寺、そんなに俺が好きなのか?」
「二階堂監督までからかわないでください」
 豪炎寺は俯き、唇を尖らせた。わかっているのにわざわざ問う二階堂の方が意地悪に感じる。
「俺も好きだよ」
 そっと潜めて囁き、さらに潜めて“愛してる”と告げた。
「……っ!」
 二重の意地悪に、二階堂から離れて豪炎寺は駆けて行く。汗を拭うような動作で頬を手の甲を擦りながら。
 熱くなった顔を早くアイスで冷ましたかった。





[ゲーム設定]霧隠×風丸

 この日のキャラバンは、風丸と伊賀島から引き抜かれた霧隠は隣同士であった。
 窓の外を流れゆく景色は木々が多く、不意に風丸は話しかける。
「なあ霧隠。戦国伊賀島もこんな風に緑が多かったな」
 フットボールフロンティア全国大会で行った伊賀島の景色を脳裏に浮かべた。
「ああ。空気も水も美味い」
「だよなあ、良いなあ」
「本気で言ってるのか?都会もんのお前には退屈な場所だ」
「俺の勝手だろ。霧隠が退屈していただけじゃないか?」
「ああ。そうとも言う」
 あっけらかんと答える霧隠に風丸はぽかんとして、くすくすと笑い出す。
「霧隠はさ、稲妻町をどう思う?」
「面白い場所だな。オレの知らないものがたくさんある。だがそれは、怖くもある」
「怖い?」
 問い返して、風丸はふとエイリア学園を思い出した。未知のものへの恐怖をなんとなく理解する。
「そうだな。ちょっとわかるかも。けど、稲妻町は良い所だ」
 風丸が微笑む。彼の笑顔に惹かれるように、霧隠も信じたい気持ちが湧きそうになる。しかしその引力に、自分そのものを奪われてしまいそうで戸惑いも生じた。
「風丸は稲妻町が好きなんだな」
「ああ、好きだぞ」
「だから、エイリアを倒したいんだな」
「そうだ」
「わかっている……オレの伊賀島も酷い目に遭った。うん……わかっている……」
 自分に言い聞かせるような霧隠の口調に、風丸は“どうした?”と問う。
「風丸、忘れるなよ。エイリアという共通の敵がいて、雷門に引き抜かれたからオレはここにいる。だがそれはオレだけであり、雷門と伊賀島の対立は変わらない」
「ん、ああ」
 敵対感情を抱いているのは伊賀島が一方的なだけなので、雷門側としては疎い。
「稲妻町が良い所で、お前も良い奴なんだろう。だが、オレのいる伊賀島は退屈なんだ。オレとお前は違うんだ。今もそうだ。ときどき、風丸といるとオレたちは違いすぎて眩暈がする」
「違いすぎる事の、なにがいけないんだ?」
「いけなくはない。言っただろう、ただ怖いんだ」
 霧隠は口を閉ざし、腕を組んで目を瞑る。仕方なく風丸は視線を景色へ移した。
 霧隠の言葉から、伊賀島はかなり特殊な環境なのだろうと風丸は察する。もしかしたら、自分は霧隠にとって宇宙人のようなまったく別の存在に感じられているかもしれない。誰にとっても、立場が変われば異邦の者となる。
 だったら尚の事、風丸は霧隠に歩み寄りたくなった。怖くない、大丈夫だと伝えたくなった。





円堂×風丸

「くしゅっ」
 キャラバンの中で、風丸がいきなりくしゃみをした。
「はい」
 隣の円堂がティッシュを差し出してくれる。
「ありがと」
 鼻声で礼を言い、風丸は鼻を噛んだ。
 彼のくしゃみに、近い席の仲間たちは次々と"大丈夫”と聞いて心配する。無理も無い、丁度北海道を出てからくしゃみをしたのだから。皆、風邪の疑いをしているのだろう。
「風丸、風邪とかひいてないか?」
「大丈夫だよ。ただのくしゃみだって」
「いちおう、熱測った方が良いよ」
 円堂はマネージャーから体温計を借りてくる。
「円堂、心配しすぎ」
「でも風丸は俺が具合悪くなったら、すぐ薬だ医者だって騒ぐだろ」
「そりゃあ円堂が無茶ばっかりするからだろ」
「してないって」
 円堂は口を尖らせて言う。
「いーや、してる」
 ふふん、と風丸が鼻を鳴らした。
「してなーい」
「してるっ」
「しーてーなーいー」
「しーてーるー」
 互いに譲らず、言い合う。
「風丸のわからずや。これでもくらえっ」
 円堂が体温計を風丸の口に突っ込む。風丸は大人しくなるしかなかった。
 口から抜けば、微熱が表示される。
「風丸、微熱あるぞ」
「そりゃさっき騒いだからじゃないか」
「どうして意地張るんだよ。認め……」
 話の途中でくしゃみをする円堂。
「円堂も風邪の疑い有りだな。測れよ」
 風丸が円堂から体温計を奪い、彼の口に入れた。


「………………………………」
「………………………………」
 円堂は大人しくなり、風丸も黙り込んだ。円堂の瞳が何かを言いたそうに見詰めてくるが、風丸はそらす。言いたい事はわかっていたのだ。間接キスだと。





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