都市



 風の音と、エンジンの音に包まれて、ケット・シーは飛空艇から景色を見下ろしていた。
 夜の闇の中に、昼のような明るさを見せる、魔晄都市ミッドガル。世界の中心にして、この占いマシーンの操縦者であるリーブのいる都市でもある。


 ギィ…。背後に鈍い音がして、扉が開き、誰かが甲板へ上がってきた。
「よお」
 呟きのような、小さな声ではあったが、低くよく通る声だったので、主はすぐにわかった。バレットである。
「あ、バレットさん………」
 名を呼んだ後に、何かを含んで間を空けてしまう。
 ケット・シーの操縦者がリーブであると判明した時から、アバランチのリーダーでもあるバレットとの関係は、スパイと判明した頃よりも壁が厚くなった。溜め込んだ物を吐き出したが、だからといって打ち解けられるはずもない。お互い、30過ぎのいい年で、そう心が入れ替えられるはずもない。
「何してるんだよ」
 バレットは横に来て、同じように景色を見下ろした。
「ミッドガルまで来ていたのか」
「ええ」
 相槌を打ってみせる。


「住んでいた所を上から見るのは、おかしな気分だな」
「ええ」
「お前の本体、あそこにいるのか」
「はい」
「どんな気分だ」
「綺麗ですわ」
 正直な感想を言った。バレットの刺さるような視線を感じるが、気付かない振りをして景色を眺め続けた。


「間違った、自惚れに満ちた場所かもしれません。空気は汚いですし、土地は悪いかもしれません。でも、ボクは、それでも、そこに住む人が快適に暮らせるように、力を合わせて考えに考え抜いて、理想の都市を……。ボクにとって」
 一度語り始めれば、今に至るまでの数多の押し込めた言葉は溢れ出して、止まらなくなる。神羅を恨む気持ち、罪の重さは重々承知であった。それでも、リーブにとっては都市の開発に携わった事は誇りである。
「俺も、あそこに住んでいたしな。言わば家だ」
 言葉を遮り、バレットは言う。
「あのな」
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
 話を切り出されるが、なかなか始まらない。
「その」
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
「あー……」
 頭に手を当て、一人声を上げた。恐る恐るケット・シーは彼の方を向く。
「バレットさん?」
「やっぱいい。やめだ」
「はぁ?」
 ぽかんと口を開ける中、バレットはとぼとぼと歩き出し、扉のノブに手をかけた。開けて中へ入ってしまう前に、一言声をかける。
「バレットさん」
「なんだ?」
「また、お話しましょう」
「お、おう」
 ぎこちない返事ではあるが否定しない所、満更でも無い様子であった。


 閉じられた扉をしばし眺めた後、ケット・シーはまた景色の方へ視線を戻した。いつの間にかミッドガルは過ぎてしまい、遠くの方に明るいものが見える程度であった。だが、それくらいの距離でもあの光はミッドガルだとわかる。絶対的な存在を示していた。
「ほなまたな、ミッドガル」
 別れの言葉を呟く。まるで、自分が自分に別れを告げるような、奇妙とも言える、しばしの別れであった。全てが終わればあそこへ戻る。彼の家であった。
 その時は、リーブの姿でバレットと酒を交わせれば良いと、淡い期待を馳せた。きっと、わかりあえると信じている。その大層な自信は、この機械仕掛けの身体から沸いてくるのだった。







バレットとリーブが同じ年って素晴らしい設定ですよ!
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