なあ、ケット・シー。お前、楽しいか。
リーブは心の中で、操っている人形へ語りかけた。
操り人形
都市開発部門統括リーブは、インスパイアと呼ばれる無機物を自在に操る能力を使ってケット・シーを操り、セフィロスを追うクラウド一行にスパイとして潜入していた。ゴールドソーサーを出て、仲間内にスパイがいるのではないかと囁かれたが、疑われずに旅を続けている。
意識を集中させれば、頭の中に映像が映る。今、バギーに乗って移動をしていた。このまま進めばコスモキャニオンへ着くだろう。デブモーグリから落ちないよう、しっかり掴まって仲間と言う名のスパイ対象と戯れた。
青い空、白い雲、青い海、緑の大地、色とりどりの花々。
ミッドガルでは見ることの出来ない自然。操る事は出来ても、感じる事は出来ない。吹く風も太陽の光も毛並みが揺れる、眩しいとしかわからない。
暖かさも、寒さも、痛みさえもわからない。
仲間たちにはそれぞれの悲しみがあった。だがケット・シーを通せば、それは映画のような実感の無いものであり、他人事だという意識も強くなり、割り切ることが出来た。
仲間たちの前で、ケット・シーは陽気なムードメイカーであった。それは欺きを誤魔化す為の演技でもある。本当は、違う。本当は、こんなんじゃない。本当は。
「…………………………」
リーブは咥えたタバコの短さに気付き、我に返った。灰はすっかり落ちて、テーブルを汚していた。本体は、リーブ自身は会議を終えて休憩室でタバコを吸っている最中であった。椅子に座ってテーブルに肩肘を突き、1人で思いに耽る、貴重な時間である。
今日もハイデッカーとスカーレットの笑い声と嫌味に耐え、同僚の愚痴、部下の悩みを聞き、自分の言葉を飲み込んだ。
拾える灰と吸殻は灰皿へ入れ、後はティッシュを取り出して拭き取る。
公共施設は綺麗に使う、おりこうさん。文句を言わない便利な人。とっても良い人。会社にとって都合の良い人。
自嘲気味に、口の端が上がった。
本来の自分というのはどんなだったのかと、ふと彼は思う。
人を楽しませるのが好きだった。どちらかといえば明るい。あと、国の言葉を話すのだ。
それはケット・シーのようであった。では、ここにいるのは、何なのだろうか。神羅の操り人形ではないか。
無意識に向こう側の映像が頭に浮かんだ。ふと、だんまりになってしまい、ティファが心配して声をかけてきた。
「いえ、なんでもありまへん」
大げさに首を横に振ってみせる。何か話題を変えなければと視線を泳がせ、目に入ったのは赤に染まっていく空であった。
「ところでティファさん、空が夕日に染まってきましたよ」
「あら、本当」
ティファの隣に座るエアリスが身を乗り出し、バレットにそんなに前に出るなと止められる。見回せば、レッドXIIIはどこか落ち着かない様子で、ユフィは眠っているのか背もたれに寄りかかって動かない。バギーを運転するクラウドは地図を確認しながら、正確に道を進めていく。
「空、綺麗ね」
ティファの呟きに、視線を戻して空を見上げた。
「ほんまですわ」
「吸い込まれそう」
ケット・シーの相槌に、エアリスが続いて言う。
高く高く、済んだ空であった。底のない、どこまでも続いているような。赤が、目に染みた。
色々な事を思い出させてくれそうだった。何かを見つけられそうだった。そうして見つけたものは、何を与えてくれるのかは、まだ見えそうにない。
「…………………………」
リーブはまた意識を神羅の方へ移し、立ち上がる。休憩はそろそろ終わらせなければならない。人工で作られた蛍光灯の明かりに照らされ、廊下を歩いて職場へ戻っていく。
ケット・シーの旅はまだ始まったばかりであった。リーブにもやらねばならない事がある。ミッドガルの闇に染まった空も、彼の空であった。
DCのリーブが、本編リーブの真面目さとケットのお茶目さを持った感じがしたので、旅を通して合わさったのかなぁと。
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