クラウド一行の食事当番は交代制だ。この日はティファが担当で、飛空挺ハイウインドの厨房で食事の用意をしていた。仲間の中で、料理が一番得意なのは彼女であり、どんな料理が出てくるのか楽しみにしている者は多い。
 ティファは手際良く動き、温めたフライパンに油を引いて肉を入れると、香ばしい匂いが漂う。焼き終わった後に隣で煮込んでいる鍋を確認すれば、休憩を取る事が出来そうだった。


「ティファさん。ご苦労さんです」
 扉の方から声が聞こえ、振り返ると誰もいない。
「もっと下です、下」
 声の通りに下を見ると、ケット・シーが立っていた。デブモーグリには乗っておらず、猫のロボットだけで来たようだ。
「良い音、聞こえてましたわ。今日も美味しいんやろなー」
 てくてくと厨房の中へ入り、適当な椅子へ腰をかけた。そんなケット・シーを見て、ティファはくすくす笑う。
「あ、ティファさん。ボクが食べれへんから、どうしてわかるんだって顔してますね」
「!」
 慌てて口元に手で抑えて笑うのを止める。
「食べなくたってわかります。皆さんの美味しそうに食べる姿を見てますもん」
「ごめんね、ケット・シー」
 素直に謝るのがティファらしい。
「ホンマ言うと、ボクも食べてみたいんですわ。ほっぺた落っこちそうなんやろなー。ティファさんはべっぴんさんやし、お料理も上手で、良い嫁さんになれますよって」
 足をぶらつかせて、ケット・シーは言う。
「もう、何を言ってるのよ」
 丁度、手に掴んだばかりのお玉を振った。


 ティファは照れ隠しか、話題を逸らそうとケット・シーに問う。
「ケット・シー………いえ、あなたの操縦者さんは結婚しているの?」
 まだ仲間たちはケット・シーが神羅の人間が操縦しているという事しか知らず、正体が都市開発部門統括のリーブだとはわからなかった。
「本体ですか?独身なんですわー。なんならティファさん、来てくれはりますか?」
 名前は明かせないが、答えられる範囲ならと、正直に返す。
「どんな人かもわからない所には行かないわよ」
「あちゃー。痛いトコ、突きますなー」
 未知の部分が多い分、一度質問を始めるとティファに好奇心が生まれだす。
「恋人、いるの?」
 “恋人”という言葉を口に出して、なぜだか胸がドキリと脈打った。
「恋人も……おりません。なんや、ボク寂しくなってきたわ。で、で、でも、これでもですねぇ」
「ふぅん…」
 ティファは片足の爪先をトントンと、床へ突いた。
「ティファさん、疑ってますやろっ。食事へ行ったり、話をしたり、上手い所までは行くんですわ。でも」
「でも?」
「なんや、一歩前って言うんかな。それ以上が上手く行かんのや……。自分が上手く、出せんのや……」
 ケット・シーの声が小さくなっていく。前で手を組み、落ち着かないのか、指をいじっていた。向こう側にある操縦者の世界も、彼なりに難しいらしい。この猫のロボットが普段余裕を持っているように見えていたので、意外な面にティファは内心驚くが、嫌いではなかった。寧ろ、共感に混じった好感を覚えていた。
「少し、わかる気がする」
「ホンマですか?」
「うん」
 ティファは頷く。1人と1匹はしばし見詰め合い、口を閉ざす。鍋の中が煮えていく音が、静かに部屋を包む。


「そうだ。好きな人はいるの?」
「嫌いな女はいるんやけど」
「「っ」」
 同じタイミングで噴出して、声を上げて笑った。
「思い出しました。忘れていた訳では無いんやけど、デートの約束はした事はあるんですよ」
「あら、どんな人?」
「明るくて、こっちまで気分を明るくさせてくれる娘さんです。ティファさんとはまた違った、べっぴんさんですわ」
「やるじゃない」
 後ろで手を組み、ティファは微笑んだ。
「ボクも、なかなかのモンでしょ」
 片手を頭の後ろへ回し、ケット・シーも満更ではない様子であった。


 デート一回やね!


 占う代わりに交わした約束。
 身体を替えても鮮明に残る、彼女との約束。
 そう、決して忘れてなどいない。
 まだ懐かしく思うには、なすべき事が残っていた。







ウータイのコルネオイベントでのケットのセリフを見ると、落とす!と決めた相手にはとことんアピールしそうなイメージがあったりもします。
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