[太陽が呼んでる]
[You and Me]
[aiの本体-crime-]
[aiの本体-punishment-]
[Sink]
[My Sweet Honey]






[太陽が呼んでる]
内容:過去から現在、二階堂と豪炎寺の想いの行く末。性的描写有。


 白を基調とした病室のベッドで豪炎寺の妹である夕香は眠っていた。去年のフットボールフロンティア決勝戦の日から、彼女はずっと眠り続けている。周りが変わりゆく中で、彼女だけは変わらず眠る。
 ベッド横の椅子に腰掛け、豪炎寺は夕香の寝顔を見下ろす。出来る事なら、豪炎寺も眠り夕香と同じ時の流れを共有したい。しかし叶わぬ願い。豪炎寺自身も変化をしていた。
「夕香」
 小さな手をそっと包み込む。
 生きている温度を感じながら、豪炎寺は思う。
 夕香が事故に遭って意識を失い、サッカーをやめ、木戸川の地を去った。新しく訪れた雷門の地でサッカーを再び始め、かけがえのない仲間たちに出会えた。
 捨てたものを拾い上げ、新しいものを手に入れた。そうしてさらに、諦めたはずの想いがくすぶっている。
「夕香」
 一人、訴え続けた。
「言ってくれよ。好きな事して、友達が出来て……俺ばっかりずるいって……」
 俯き、歯を食いしばる。隙間から悲痛に呻く。
「眠ってばかりじゃつまらないよな。外に出たいよな。遊びたいよな。やりたい事いっぱいあるよな」
 包む手に力が入りそうになり、緩めた。もう一方の手が膝の上で拳を作る。
「だいたい俺は勝手なんだ。自分から近付いておいて自分から離れて……迷惑ばかりかけて……。こんな俺が……こんな俺でも……」
 顔を上げ、夕香を見詰めて泣き笑いのように微笑む。
「我侭だって思うか?我侭はお前の専売特許じゃないか……夕香。俺に教えくれよ」
 夕香の手を静かに置き、立ち上がる豪炎寺。前髪を優しく撫で上げ、自分の額をあててから病室を出た。一階へ下り、病院を出ようとしたが角を曲がって洗面所へ向かう。
 一方その頃、木戸川清修に戻った二階堂と武方三兄弟。部室に入るなり、二階堂は部員数名に言い寄られた。
「監督!」
「二階堂監督!」
「どうしたんだ、お前たち」
 面を食らう二階堂。
「どうもこうもありませんよ。あれ、また調子悪いです」
「そうか……」
 手を額にあてた。部員の言う『あれ』とはシャワーの事である。水が出難くなる故障が多々起こり、その度に部員が訴えに来るのだ。修理も頼んでいるのだが、一向に来る気配はない。
「様子を見てみるよ」
「お願いします」
 部員たちは一礼をして帰って行った。
「やれやれ」
 二階堂は武方三兄弟にも早く帰るように促し、部室裏にあるシャワー室へ向かう。シャワー室は個室になっており、右から順に調子を確かめる。
「ここか……」
 三番目の蛇口を弄る。シャワー口から水の出る、止まるタイミングがおかしい。特にここは不評の噂がたっていた。調子が悪くなり、部員が口にし出したのは約一年前から。こんなにも故障が頻繁なら、使用禁止の張り紙を出しておくべきかもしれない。
「…………………………」
 シャワー口から滴る水を二階堂は凝視する。水は静寂の中で音を立てていた。
 使えなくするなどいつでも出来たのだが、心のどこかで躊躇し、時間ばかりを流していた。このシャワー室でも豪炎寺との思い出がある。美しいものではない、双方にとって汚点にもなるような、忘れられるなら忘れたい記憶だ。なのに、なかった事にして蓋をする気にはなれなかった。
 水は滴り続ける。止めようときつく蛇口を捻る。


 金属と金属の擦れ合う音が、遠い地で重なった――――。


 病院一階の洗面所で豪炎寺は顔を上げる。鏡に映る顔は水で流して濡れていた。試合に備えて気持ちを切り替えようと洗顔を行ったのだが、気分は戻らない。
 拭わずに鏡の中の自分と対面する。言い出したいのに、言い出せず困惑した表情。滴が鼻の横を伝い、唇で止まる。
 ふと、まったく別の状況で似たような顔をした事を思い出し、つい笑ってしまう。その思い出にも二階堂が絡んでおり、余計に切なくなった。








[You and Me]
内容:ゲーム1ED延長世界での二階堂と豪炎寺。性的描写有。宇宙人は襲撃しません。


「ここがウチの部室です」
 雷門の選手が話した通り、確かに古く脆そうな建物であった。建て付けの悪そうなドアを開き、二階堂を招き入れて二人は入った。
「なかなか趣があるじゃないか」
「俺もそう思いました。こういうのは悪くない……」
 豪炎寺は椅子を持ってきて靴を脱ぎ、ロッカーの前に置いて上のダンボールを取ろうと乗りかかった。椅子の造りが危うい気がして、二階堂は代わろうとする。
「豪炎寺。先生が取ろうか」
「取れますって」
「じゃあ、椅子押さえているよ」
 気遣いが子ども扱いされているように感じる豪炎寺。上手に取ってやろうと、ダンボールを持ち上げれば予想外の箱の軽さに均衡を崩す。
「ほら、危ない」
 二階堂が背後から抱き抱え、豪炎寺を安全に椅子から下ろした。
「すみません……」
 詫びる豪炎寺。格好付けようとしてヘマをして子供そのものだと気落ちする。ダンボールを床に置き、背を伸ばして振り向けば、二階堂がすぐそこにいて顔が熱くなる。ここへ来る時もそうだ。二階堂の一つ一つの行動、存在に豪炎寺は身体を熱くした。
 木戸川在学中より憧れて秘めた想いを寄せて、離れる運命に忘れようとまでして、再会して想いを蘇らせる――――。まるで温めた食材を一度冷やせば吸収力が良くなるというような、以前より愛の感受性が強まった気がした。本人を目の前にして、好きな気持ちに胸が爆発しそうになる。
「二階堂監督」
 腕をぴんと伸ばし、硬い動きで前に出て額を二階堂の胸にあてた。とん、とぶつかる頭に。どん、と魂が揺さぶられる。豪炎寺の想いが二階堂の秘めた感情を引きずり出す。どくん、どくん――高鳴る心音を空気で察していた。
「……………………」
 二階堂の両手が豪炎寺の肩を捉えて顔を上げさせる。互いに、じっと無表情で唇をつぐんでいた。そんな表情に、我慢が出来ない衝動を発していた。二階堂は背を屈め、豪炎寺は踵を浮かせて、二人は唇を寄せる。柔らかい肌の甘い感触に一度離すが、足りなくてもう一度寄せる。それでもまだ足りない。二階堂が豪炎寺の後ろ頭を支え、唇ごと奪うような大人の口付けを施す。
「……ふ……!」
 ぐらり。豪炎寺の脳が揺さぶられ、とろけそうな快楽の小波がくすぐってくる。身体の端から痺れてきて、体感した事のない感覚の侵入に本能が逃れようとした。
「う」
 抵抗しようと二階堂の腕を掴むが力が入らず、重さを増した腕がもっと欲しいと引きつけたような形になってしまう。顔を引こうとするが、顎を簡単に捉えられ角度の違う口付けをされた。
 くらくらして、眩暈がして、身体が燃えるように熱くて、豪炎寺はとうとう力が抜けてその場に座り込んだ。
「は……はぁ……は……」
 ぐったりと頭を垂れ、細く息衝く。二階堂は彼には刺激が強すぎたと察し、反省した。
「悪かった、やりすぎたな」
 彼も座り込み、視線の高さを合わせて語りかける。
「豪炎寺はその……モテそうだから、キスくらい……」
「キスは昔……ファンだって娘に無理矢理……押し付けられた事……ありました……」
 口ごもりながら豪炎寺は続ける。
「……こんなのは……初めて……です……」
 二階堂はそっと豪炎寺の頬に触れて、顔を上げさせた。火照らせて、瞳はとろんと半眼だ。薄く開かれた唇からの息も細く乱れて淫ら。媚薬でも飲ませたような、色に呑まれた表情をしている。この場合、媚薬は二階堂の口付けだった。豪炎寺の初めて見る表情に目が離せない。








[aiの本体-crime-]
内容:ゲーム2。二階堂×豪炎寺+西垣。宇宙人3人組による豪炎寺陵辱有。性的描写有。


 再び目覚めた時には夜が更けて真っ暗だった。カーテンから差し込む月の光を明かりに、ベッドの中で二階堂と豪炎寺は語り合う。まず、二階堂から木戸川に起きた出来事を話した。
「あいつらはいきなり現れてな、学校は壊されて子供たちは怪我をして入院して……。授業はなんとかグラウンドに建物を用意して始めてさ」
「入院……武方たちがですか。大丈夫、ですか?」
「三兄弟は退院したよ。他の生徒も退院していっている」
「そう、ですか。良かった……。うちも入院してしまった仲間がいるので」
「そうか……」
「仇を、討ってやりたかったです」
 悔しそうに豪炎寺は顔を歪める。その顔を二階堂は顎を捉えて頬を揉んでやった。
「か、監督?」
「抱え込んだ顔してる。それがお前らしさだとしても」
 豪炎寺を見据えて額を合わせ、目を瞑る。
「しかし監督。貴方に迷惑が」
 言いかけた唇を親指でなぞって止めさせた。豪炎寺は息を吐くように細く呟く。
「…………狙われているんです」
 伏せがちの半眼の瞳が二階堂を見詰め、口よりも雄弁に語ってきた。
 ――――貴方の傍にいられない、と。
 けれども二階堂は喉で笑ってきた。いかにも予想外の反応だったようで、豪炎寺は素早く瞬かせる。
「だったら尚更、ここにいたらどうだ。木戸川は一度破壊されたから、二度被害を受けた知らせもまだない。かえって安全じゃないか」
 それに。豪炎寺の鼻を指で突いて続けた。
「あっちへふらふら、こっちへふらふら彷徨って、お金はどうするんだ。ここへ来たのも、地理に詳しいからじゃないのか。節約もしやすいし、な」
「……………………………」
 豪炎寺は複雑そうに表情を曇らせる。二階堂の言い分は理解できるが、躊躇いが拭えないのだろう。
「なら率直に言おう。俺に豪炎寺を守らせて欲しい。監督としてじゃない、俺個人として大切なお前の傍にいたい。わかって、くれるか?」
 照れ臭そうに微笑む二階堂に、豪炎寺は言葉が出ない。どんな顔をすればいいのかもわからない。
「豪炎寺、頼むよ」
 耳元で囁いて、額に愛をこめた口付けを施す。ゆったりと穏やかで、深くて温かい。額の次は頬、鼻の頭、顔中に落としていく。
「監督」
 豪炎寺が唇を押しつけてくる。触れれば微かな震えが伝わってきた。布を擦らせて、二階堂が豪炎寺の背を撫でる。身体は熱を持ち、相手を想う気持ちに情欲が湧いてくる。愛撫は次第に口付けだけでは物足りなくなってきた。
「豪炎寺。好きだよ」
 愛を告げてから、豪炎寺の衣服へ手を滑り込ませて素肌に触れてくる。背に手を添えて仰向けに寝かせ、上着を捲し上げていく。胸の突起が露になるまで上げて、心臓のある位置に手を置いた。
「二階堂……監督……」
 熱い息を吐き、熱い瞳で二階堂を見上げる豪炎寺。触れられる心臓は早鐘のように鳴っていた。俺も好きですと、愛が切ないくらい溢れ出てくる。けれども唇を寄せてくる二階堂をやんわりと止めさせた。
「豪炎寺?」
 問いかける二階堂に、豪炎寺は首を横に振る。
「すまん。嫌だったか」
「違います。監督が、嫌だと思いまして」
「俺、が?」
 上げられた衣服を戻し、豪炎寺は背を向けた。
「……豪炎寺、意味がわからないよ」
 肩を揺らすが応えず、拒絶するように身を丸める。
 ――――俺、汚いんです。
 二階堂の耳に、確かにそう流れてきた。
「豪炎寺…………」
 二階堂の掠れた呼び声が悲しそうに聞こえて、豪炎寺の肩が反応するが振り返らなかった。








[aiの本体-punishment-]
内容:[aiの本体-crime-]の続き。ゲーム2。二階堂×豪炎寺+西垣。アメリカ組多め。性的描写有。


一方、二階堂のマンションへ戻るなり、豪炎寺が呟きを零す。
「監督、ごめんなさい」
「なにがだ?」
 二階堂は扉を閉め、靴を脱ぎながら問う。
「西垣に無理をさせました。彼にはどうしても立ち上がってもらいたかった。俺が戦おうと決めたように」
 豪炎寺は靴を脱ぎ、後ろから二階堂の腰へ腕を回す。
「そう話してくれたな……。豪炎寺、お前は相変わらず行動だけで示す奴だなぁ」
「ごめんなさい。西垣は、監督の大事な生徒なのに」
「俺にとって教え子は皆大事だ。皆……皆……宝なんだ。お前とこんな関係になっては偽善かもしれない。けどこの気持ちは理屈じゃない。俺の願いだ」
 やんわりと豪炎寺の腕を解き、向き合って抱き締めた。引き合うように二人口付けをして、この日もまた甘い夜に溶け合っていく。豪炎寺は次の日旅立ちだから控えようと自重に心がけても、血潮はおさまらずに激しい肉欲の海に溺れていった。
 翌日の朝。豪炎寺はキャラバンに戻り、新生雷門は木戸川を発つ。そしてまた、いつもの時間に二階堂が西垣を見舞いに来る日常が始まる――――はずだった。あくまで二階堂は思い込んで、ボールを抱えて病室の扉を開く。
「よお、西垣。少し遅くなってすまん」
「いえ……」
 窓から差し込む夕日が西垣を照らし、振り向く顔を影で隠す。
「じゃ、行こうか」
 しかし、西垣は立ち上がる気配を見せない。二階堂がベッドの傍へ歩み寄り、ボールを前に持って背を屈めた。
「西垣?」
 二階堂の肩が揺れる。突然、西垣が腕を掴んできたのだ。
「リハビリはちゃんとします……。ですから、監督」
 引き寄せて、耳元で囁いた。
 ――――今日、二階堂監督の家に泊めてください。
「どうしたんだ、西垣」
 二階堂は困惑する。いつもと同じようだと思い込んでいた西垣は、随分と弱っていた。理由を頭で探りながら、優しく問う。
「キャラバンが行って、寂しくなったのか」
「違います」
「相談事でもあるのか?」
「違います」
 なら、一体――――薄く開いた二階堂の唇に、生暖かいなにかが触れる。遅れて、西垣の口付けだと悟った。目を丸くさせて驚く二階堂と西垣の距離は近い。二人だけにしか聞こえない音で、西垣は言う。
「キスしてもいいと思いました」
「……………え?」
「俺は二階堂監督の教え子です。豪炎寺は元教え子ですよね。俺も同じ事、してもいいですよね」
 二階堂の本能が危機を察して西垣から離れようとするが手首は捕らわれたままだ。持っていたボールが落ち、軽い音を立てて跳ねる。
「豪炎寺を泊めましたよね。俺も泊めてください。平等に扱ってください」
「西垣、お前……」
 西垣に豪炎寺との関係を知られたと察する二階堂。すぐに部室での無用心な口付けが過ぎった。だが日常が壊れゆく戦慄よりも先に西垣は放つ。
「安心してください。誰にも言いません。だって話したら、監督は監督ではなくなる。俺は二階堂監督が必要なんです」
 西垣の指が食い込んでくる。腕にぴりぴりと短い痛みがはじけた。
「俺は、俺には監督しかいないんです」
 もう片方の手で己の胸を衣服越しに掴み、訴えてくる。彼の表情は不安に揺らめき、すがりつこうとしていた。こんなにも近くで、こんなにも悲痛を押し込めていた生徒がいたのだと、二階堂は胸が押し潰されそうになる。
「西垣。なあ、西垣。落ち着いてくれ。キスしたり、泊めたら、お前の気は済むのか?お前は本当にそうしたいのか?全く同じ扱いにしたら平等になるのか?」
「監督は言い訳をしているだけだっ」
 西垣の手を離させ、包み返す二階堂。
「西垣がどう思おうと、先生は……西垣の味方だ。それに西垣、お前は一人じゃない……」
「う」
 交差する視線。西垣は低く呻いた。真っ直ぐに見据えてくる二階堂の瞳の先には希望そのもののような、眩しい自分が映っているかのよう。だが、実際に本当の自分は、こんなにも醜く弱い心を曝け出してしまった。
「……わかりませんっ!」
 二階堂の手を払い除け、西垣は病室を飛び出す。必死で力の限り、二階堂から逃げようと上を目指した。息を乱しながら辿り着いたのは屋上。よろけながら手をつき、四つんばいになった。これだけの距離で疲労して、情けなくなる。
「く、くそ」
 ざらりとした冷たい床の感触に、意味もなく目の奥が染みた。
 二階堂と目を合わせるのが辛くなった。逃げたくなった。情けなくなった。全てが上手くいかない。全てが嫌な方向へ流れて行く。心底嫌になってくる――消えたく――なってくる。
「西垣!」
「!」
 背後からした二階堂の呼ぶ声は、西垣の下に突如広がった影の出現への衝撃で掻き消された。
「…………………………」
 恐る恐る顔を上げれば、三人のコートを纏った宇宙人が西垣を囲っている。見えない力に引き寄せられるかのように、西垣はやおら立ち上がった。
「西垣!」
 血相を変えて駆けつけようとする二階堂は、扉横に影を落としていた研崎によって足をかけられる。
「そこまで」
 転んだ二階堂を温度のない瞳で見下ろして、西垣の元へ歩いていく。
「西垣守、木戸川清修一年、ポジションはDF。病院は窮屈だったろう」
 西垣の肩に手を置く研崎。









[Sink]
内容:エイリア事件後の平和な世界で愛し合いまくる二階堂と豪炎寺。性的描写有。※道具などを使ったマニアックなプレイとなります。


「二階堂監督」
「え……っ?」
 呼ばれて振り向いた二階堂が固まる。豪炎寺が首輪をはめて薄く口元を綻ばせていた。
「これ、箱の外から出ていましたよ」
 首輪に繋がれた鎖が、微かながらもよく通る金属音を立てる。胸元を開けた制服の上着だけを纏い、鎖つきの首輪を着ける豪炎寺の姿は、なんとも卑猥でむせ返るほどのフェロモンが漂う。黒い学生服が肌の色を浮き立たせ、すらりと伸びる素足は健康的なのに縛りつける鎖が垂れている。ぎくしゃくとしたギャップが、どきっとした衝撃を二階堂の胸に叩きつけてきた。
「二階堂監督、俺に使いたかったんじゃないですか?」
 情事により愛される自信がついているのか、挑戦的な態度でじりじりと寄ってくる。
「ええと……」
 言い訳はいくらでも浮かぶのに、声にならない。豪炎寺にすっかりと惑わされていた。
「二階堂監督」
 漆黒の瞳が真っ直ぐに射抜く。チャリ、と音を鳴らして、豪炎寺は二階堂に鎖を握らせる。
「俺を傍に置かせてください。ペットにしても、いいですよ」
「今度は飼い犬ごっこか?子供だなぁ」
「監督だって楽しいくせに」
「言うようになったな……」
 鎖を手の中で絡めて短くし、二階堂は背を屈めて豪炎寺の額に口付けた。
 物理的に拘束させているせいだろうか。逃げ出さない安堵感が胸へ染みていき、どこかほっとする。


 それから豪炎寺は制服からTシャツとハーフパンツというラフな格好に着替え、二階堂と共に夕食を作った。出来上がった料理をテーブルに並べ、二階堂が席に座ると豪炎寺はその隣に腰掛ける。いつも向かい合わせで座るので、目を白黒させる二階堂に豪炎寺は黙って首輪の鎖を持って見せた。
「ペットのご飯は主人が用意しないとな」
 二階堂は皿を手に取り、豪炎寺の分を盛り付けて渡す。
「飲み物はミルクがいいのかな」
 豪炎寺の頬に手を添え、顎へ滑らせて指先でくすぐる。こそばゆさに瞼を震わせて頷く豪炎寺に、牛乳を注がれたコップが置かれた。
「さあ、召し上がれ」
「いただきます」
 食べ始めながら、二階堂は首輪が苦しくないかを度々問い、豪炎寺は微笑みながら首を振るう。多少の圧迫感はあるが支障はない。二人並んで鎖で繋がれて食事を取るという光景は異様なのに、落ち着いた気持ちに心が満たされている。心では結ばれていても、お互いに木戸川と雷門という別々の世界の人間になってしまった。こうして都合がつく時に出会い、愛を深めてもやはり寂しさが付き纏う。身体を重ねたのも寂しかったのではと最近になって二人は理由を思い返す。だが今、言葉よりも身体よりも安らがせているのは無骨で強引な首輪と鎖――――お互いにもっと強引な手段が必要なのではないかと可能性を抱かせている。
「豪炎寺。これ、お皿に入れていなかったな」
 おかずを一つ箸で取り、豪炎寺に向ける二階堂。
「あーん、してごらん」
「あー……」
 言われるままに口を開ける豪炎寺。役割を与えられているせいなのか、自然と出来てしまった。口の中に入れ、もぐもぐと噛む彼の頭を二階堂が優しく撫でる。
「おりこうさん。よく出来ました。はは、他のもあげようなあ」
「俺も監督からあげます」
 ただでさえ近い椅子をさらに近付け、二人は食事を与え合う。幼い子供ではない、しかも男同士、しかし主人とペットという役割が羞恥を薄めていた。








[My Sweet Honey]
内容:二階堂×高校生豪炎寺(♀)が結婚しちゃった話。生徒は全員女体化。ほぼ性的描写。


 日は暮れて、二階堂は仕事を終えて自宅に帰る。途中、買い物をしたので手には袋が提げられていた。扉の前に立ち、鍵穴に鍵を通す。豪炎寺がいないと開けた先には暗くて音のない部屋に出るのだろう。二人でいられる幸福を手に入れれば、一人の寂しさが増す。
「あれ」
 開けて見て、思わず声を上げた。部屋に明かりが点けられているのだ。消し忘れて出たのか、などと思いながら玄関に上がる。すると先の方から足音が聞こえた。
「二階堂監督。おかえりなさい」
 豪炎寺が顔を出して歩み寄る。二階堂の頬の筋肉が上がり、笑みになった。
「今日は来られないんじゃなかったのか」
「そのはずだったのですが、監督といたくて」
 はにかむ豪炎寺。彼女はエプロンを被っており、濡れた手を拭っていた。恐らく調理中だったのだろう。その姿はまさしく『奥さん』であった。
「あ、そうだ、言い忘れた。ただいま」
「お持ちします」
 差し出す豪炎寺の手に鞄と買い物袋を渡す。奥へ戻ろうとする彼女の背を眺めて、二階堂もそっとはにかんだ。
 二階堂が寝室で部屋着に着替え、洗面所で顔を軽く流してから居間に入ると、台所から刻みのいい包丁の音がしてくる。様子を覗けば、また豪炎寺の背中が見えた。玄関では意識していなかったが、彼女は制服の上からエプロンをしているようだ。学生服という若さとエプロンの貞淑さのギャップに眩暈がしそうな程の色香を覚える。
 色が控え目なスカートの描く尻の輪郭、黒いスパッツの下からスラリと伸びる素足は柔らかく気持ちが良さそうで目の毒だった。なのに目は離せず、釘付けになって悪戯心さえ囁きだす。
 音を立てずに近付いて、腰に腕を回し、後ろから密着した。
「監督っ」
 刻む音が止み、豪炎寺が驚く。
「危ないじゃないですか」
「うん」
 窘めに素直に返事をするも、腰を捉えた手はいやらしい動きで上がっていく。エプロンの中に入り込み、制服の胸元のボタンを外して侵入する。豪炎寺の喉がひくりと震えた。
「豪炎寺。今日の夕飯は」
「煮物です」
「美味そうだな」
 二階堂の指が下着の隙間に入り込み、乳房の柔らかい肉に届く。
「つまみ食いしたくなる」
 やんわりと包み込んだ。
「出来るまで駄目です」
「硬い事言うなよ」
 もう一方の手が制服のボタンをさらに数個外し、両手で乳房を揉みしだく。出会った頃は控え目だった豪炎寺のそれも、成長に従って膨らみ張りを増していた。胸だけではない、全体的な肉付きが少女から女性へと変貌しようとしている。青さと成熟の間の、丁度かじりたくなるような『食べ頃』なのだ。







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