高い位置にある窓から差し込む、夕日の赤が目に染みる。
 ああ、なんでこんな事に。
 木戸川清修の監督・二階堂修吾は心の内でそっと後悔をした。


 事の始まりは雷門中の監督・響木の誘いであった。
 現雷門のエースストライカーの豪炎寺は元木戸川の生徒。以前、練習試合をした後に豪炎寺の話をした際、彼から言われたのだ。
 稲妻町の雷雷軒でラーメン屋を営んでいる。暇な時にでも食べに来て欲しい、と――。
 ラーメンは好きだし興味が湧いたので、二階堂は時間の空いたある日に稲妻町の雷雷軒を訪ねた。中に入れば店主の響木、知り合いらしい老人たちが数人おり、サッカーの話で盛り上がる。しかも話によれば、響木や店に来ていた老人たちは元イナズマイレブンのメンバーだったという。彼らは雷門中がフットボールフロンティアを制し、新たなイナズマイレブンとなった事を心から喜んでいた。彼らが胸躍る気持ちは、いつしか二階堂にも伝わり熱くなった。
 そんな中、響木が言い出したのだ。


 俺たちも負けてられんな。


 賛同する老人たち。二階堂も現役時代を思い出し、響木の言葉に共感を覚えた。
 ここからなにをどうしてか、大人たちで一度合同練習をしてみようなんて内容になったのだ。店の中では確かに強い気持ちはあった。だがしかし、いざ来るべき日が訪れて、二階堂は来るんじゃなかったと激しい後悔をしたのだ。


 某日夕方。稲妻町商店街倉庫。ここにかつてのイナズマイレブン・雷門OBが集結し、響木が代表として演説をしていた。かれこれかなりの時間が経っている。しかもOBの老人たちは響木の落ち着いた中に熱さを見せるメッセージに異様な士気を高めていた。熱すぎて怖い。やや離れた場所で二階堂は遠い目を送っていた。
「話、長いですね……」
 ぽつり。潜められた囁きが二階堂の隣からする。集ったのはOBや二階堂だけではなく、他の大人も数呼ばれていた。その中の一人、肌の白いサッカーとは無縁そうな銀髪の男が話しかけてきたのだ。
「そう、ですね」
 相槌を打つ二階堂。相手の事はなにも知らないのに、どこか寒気がして嫌な予感がする。
「ああ、申し遅れました。私は尾刈斗中の監督、地木流と申します」
「監督さんだったんですか。いや失礼、私は木戸川清修の監督を務めています二階堂です」
 自己紹介し合う二人。銀髪の男・地木流も二階堂と同じ監督であった。
「お二人とも監督さんなんですか。凄いですね」
 もう一人、喋らなければうっかり忘れてしまいそうな男が口を開く。
「私は冬海と申します。元……雷門の監督でした……はは」
 苦笑を浮かべる冬海。彼はかつて影山と手を組んでいた事がバレて居場所がなくなり、稲妻町を彷徨っていたがようやく表を歩ける身になったようだ。ちなみに秋葉名戸の監督も呼ばれていたが、上手い事逃げ出している。
「冬海さん、私は存じていますよ」
 口の端を上げる地木流。冷たい空気が二人の間に吹いたような気がした。
 三人がぼそぼそと会話をする内に響木の話が終わったらしく、OBは整列を崩して二人一組になる。
「はて。なにが始まるんでしょう」
 途中からほとんど話を聞いてなかった。
 彼らの様子に気付いたのか、備流田が歩み寄ってくる。
「聞こえなかったか?準備運動を始めるぞ。まずはストレッチだ」
 なるほど。だから二人一組なのか。二階堂、地木流、冬海は理解した。





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