フットボールフロンティアインターナショナル・通称FFIの日本代表選手を決める選考試合にて、二階堂が監督を務める木戸川清修からは武方勝、元教え子で雷門中の豪炎寺修也が選ばれる。残念ながら勝は選ばれなかったが豪炎寺は選ばれた。試合を観戦していた二階堂は、勝にどのような言葉をかけるかを考えながら、彼の元へと向かう。
「二階堂監督っ」
 勝を見つけるより早く、豪炎寺が二階堂に気付いて駆け寄ってきた。普段落ち着いた性格ではあるが、代表選手に選ばれた喜びが滲み出て、明るい雰囲気が漂う。
「やあ豪炎寺。いい試合だったぞ」
 豪炎寺の髪をくしゃくしゃさせて褒める二階堂。セットした髪を崩されて豪炎寺は少し嫌な顔をするが、満更でもない様子だ。
「頑張れよ、世界まで勝ち抜くんだぞ」
「……はい。それで、大会に向けて合宿をするんです」
「出されたものは好き嫌いせずに食べろよ」
「しばらく、監督に会えなくなりますね」
 俯き、目を半眼に伏せる豪炎寺。木戸川との因縁が解けてから、二階堂と豪炎寺は都合の合う時にちょくちょく出会う仲となっていた。日本を騒がせたエイリア事件が過ぎてからは、その機会もぐっと増えている。
「そんな顔をするな。もっと胸を張れよ。また会えるし、お前の試合を見守っているから」
 両肩に手を置き、顔を上げさせる。けれども豪炎寺の憂いは晴れていないようで、表情がぎこちない。
「豪炎寺?」
「あの、監督…………いえ、なんでもありません。ええと……ああ、そうだ。武方なら、あっちにいましたよ」
「丁度、探していたんだ。豪炎寺、なにかあったら俺に……先生に話すんだぞ」
「はい」
 はにかむように豪炎寺は頷く。豪炎寺と別れ、彼が示してくれた方向へ勝を探した。
 グラウンドのベンチ近くで、勝がいるのが見える。しかし、彼は一人ではなかった。傍にいる相手は選手ではなく、日本代表の監督を務める久遠道也だった。
「勝」
「あ、二階堂監督っ」
 二階堂が呼べば、勝が振り返る。その反応からして、選考落ちのショックは重くはないと内心安堵した。
「監督……?」
 久遠が訝しげに眉を潜め、二階堂は自己紹介する。
「私は武方の、木戸川清修の監督を務めています二階堂です」
「日本代表、イナズマジャパンの監督を務める事になりました、久遠です」
 二人の監督は握手を交わした。
「少し、今回の試合で彼と話をしていましてね」
「正論過ぎて、ぐうの音も出ないじゃん」
 お手上げのポーズを取る勝。
「勝。反省は受け止めただけ次に生かせるんだ。木戸川に帰ったら走りこみで基礎体力作りでもするか」
「今日は勘弁して欲しいです」
 武方は逃げるように荷物をまとめて帰ってしまう。
「冗談なのに」
 二階堂の呟きに、久遠が軽く咳払いをした。
「ああ、すみません。その、有り難うございました。勝は今後、さらに伸びる選手になるでしょう」
「それを生かすも殺すも、監督の腕次第です」
「そうですね」
 二階堂が話を振ろうとするが、久遠を呼ぶ声がする。
「お父さん」
 艶やかな髪をした少女が、久遠に歩み寄ってきた。制服は雷門のものではなく、他校生だと察する。
「娘さんですか」
「はい。それでは失礼します」
「頑張ってくださいね」
 二階堂の励ましに久遠は静かに頷き、娘と共に去っていく。一人残ってしまった二階堂も帰ろうとすると、雷門の監督・響木が呼び止めてきた。
「二階堂監督。来ていたのか」
「お久しぶりです」
 軽く会釈をする二階堂。
「実は話したい事があるんだ。時間をお借りしたい」
「ええ構いませんよ」
「せっかくなら、ウチの店は如何でしょうか」
「是非。丁度お腹も空いていましたから」
 響木は商店街で運営するラーメン屋『雷雷軒』へ二階堂を案内し、ラーメンをご馳走する。
 二階堂が食事をする間、響木は久遠の事を語りだした。彼がなぜ、日本代表の監督に就任をしたのかを。そして、本題はここからだった。
「久遠監督はずっと孤独にサッカーの研究を重ねてきてな、俺の目からは肩の張りすぎに見える。気を解してやりたいのはやまやまなんだがな、どうも生真面目な性格で乗ってこない。年の違いもあるんだろう。そこで、二階堂監督にお願いしたい。飲みにでも誘ってやって欲しい。年が近く、さらに監督で日本代表も務めた貴方なら、久遠監督も打ち解けやすいだろう」
「メンタルケア、という事ですか」
「そうなるな」





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