■あらすじ
十年遅く生まれた円堂たちが、フィフスセクターの管理サッカーに立ち向かう。
少年たちのサッカー世界大会FFIに日本代表イナズマジャパンが優勝し、日本のサッカー人気は社会現象を起こすまでに爆発した。ブームだけでは留まらず、長く愛されるスポーツとなった。
あまりにも大きな愛情は歪みを持ち、ゆっくりと年月を経てて狂わせていく。それから十年、サッカーは社会的地位を揺るがすまでに価値が膨れ上がってしまい、歪みを正す機関・フィフスセクターが生まれる。フィフスセクターは管理サッカーで少年たちの勝負に干渉するようになった。決して穏やかではないやり方に、少年たちの夢は崩されようとしている。
イナズマジャパンの選手を多く輩出したサッカーの名門・雷門中に憧れて入学した円堂は、フィフスの侵食を薄々感じながら二年生に進級する。そこから始まった勝敗指示、裏切りの重さも知らずにサッカー部は普段通りの試合を行ってしまう。試合の結末は学校自体を狂わせてサッカー部の外までも巻き込んだ。
フィフスセクターがサッカー部に与えた制裁から、円堂と彼の友人・風丸の運命は大きく変化する。
管理に従うか、管理より抜け出すか、長く険しい戦いが始まるのだった。
※フィフス設立時等、GO本編の時系列や設定が異なる部分があります。
■主な登場人物
【円堂】
サッカーを愛する熱血GK。祖父の遺したノートに『本当のサッカー』を夢見ている。
フィフスセクターの制裁により負傷した三年生の意志を継いでキャプテンとなった。三年生はこれ以上の犠牲者を増やさない為にフィフスの指示に従う事を望んでいるが……。
【風丸】
サッカー至上主義の中で細々と陸上部に精を出していた少年。
ところが、あるサッカーの試合を境に風丸の運命は大きく変化した。円堂とは古い付き合いで、サッカーにも好意的であったが重い葛藤を迫られる。
【染岡、半田】
一年時より円堂とのチームメイト。円堂と共に三年生よりサッカー部を引き継ぎ、支えてくれている。
【木野】
円堂たちと同時期に入部したマネージャー。円堂と共に三年生よりサッカー部を引き継ぎ、支えてくれている。シードの土門とは昔馴染みらしい。
【土門】
フィフスセクターのシードとして派遣された部員。フィフスの思想に賛同し、指示通りの行動をする。
【壁山、栗松、宍戸、少林寺】
フィフスセクターの制裁を前にしても逃げなかった一年生。先輩たちを慕っている。
【影野、松野、目金】
フィフスセクターの存在を知らず、新たに入部した部員。
chapter2「夢、潰える」より。
サッカー部拡大に陸上部を潰され、葛藤の末にサッカー部へ転部した風丸。しかし八百長試合を目の当たりにして失望し、円堂たちの前から去ってしまう。追いかけた円堂が向かった先は鉄塔広場であった。
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夕焼けに染まる鉄塔広場。タイヤの吊るされた木の側で風丸は稲妻町を見下ろしていた。
「やっぱり……ここに、いたか」
息を切らしながら円堂が追いつき、風丸に声をかける。風丸は小さく頷き、呟くように言う。
「なぁ、覚えているか。去年だったか……ここで円堂と半田と染岡と木野が、イナズマイレブンみたいになりたいって話していたのを。俺は大会出場が決まって、張り切っていてさ」
「覚えているよ」
「あの頃はさ、どんなに俺より速い奴がいても頑張れたよ。頑張ればどうにかなるって信じてた。けど、さ。デカいサッカー棟建てるからって部活ごと潰されたら、どうにもならないよな。努力とか、才能とか、全部パーになっちまう。運が悪かったのか……時代が悪かったのか。つい、こないださ。一瞬で俺のフィールドはなくなってしまった」
風丸の手は拳を作り、やり場のない怒りに震える。
「フィールドを潰されたら今度はサッカー部に戦力増員で行けだって、都合良すぎだぜ。こんな気持ちじゃ、サッカーを恨んでしまいそうだ」
「風……」
「だけど、な。俺は見たんだ。ここで。お前たちが特訓をしているのを。必死で、がむしゃらでさ。だから、さ。また走ってみようって思えて入部したんだ……なのに、なのにさ」
振り返って円堂を捉え、喚くように声を荒げだした。
「なんなんだよあれは!ここでやっていたような技はどうしたんだよ!俺たち他の運動部はあんな試合の為に潰されたのかよ!!わざと負けたようなもんだろっ!?」
「風丸……」
円堂は一息間を置いて放つ。
「そうだな、風丸の言うようにあれはわざとなんだ」
「おいっ……!!」
風丸が大股で詰め寄り、円堂の胸ぐらを掴む。
「無理もないよな……全くふざけてる……。わかっている。恨まれるのはしょうがない。けど、風丸に恨まれる時は本当の事を知ってからがいい……。話すよ、本当の事を」
「ほんとうの、こと?」
胸ぐらを掴んだ手が緩み、円堂の首元が解放される。
円堂は風丸の瞳を真っ直ぐに見据え、静かに頷く。真実を語りだした。
サッカーが社会的地位を及ぼすほど大きくなってしまった事、管理する機関フィフスセクターが学校へ勝敗指示を出している事、指示を破れば制裁を与えられる事、三年生たちは自ら身代わりとなって制裁を受けて負傷した上に除籍されてしまった事――。
真実を知っていく風丸はサッカー部が潰されていないとはいえ、酷な状況に立たされているのを悟った。
「先輩たちは俺たちにフィフスの恐ろしさを、身をもって教えてくれた。俺を新しいキャプテンにしてくれて、サッカー部を守って欲しいと頼まれたんだ」
「守るって、そのフィフスセクターに従うって意味か?」
「そういう……事になるな。誰も傷つかないように、勝敗指示に従うんだ」
「それって、八百長…………って、言うよな」
戸惑いをチラつかせながら風丸が指摘する。
「ああ……わかってる。最低だよな」
苦みを含みながらも円堂は笑みで返した。
「円堂たちの立場もわかったが、どうする気なんだ?このまま八百長だけをするつもりか?あまり詳しくないけれど、もうすぐホーリーロードが始まるんだろ?」
ホーリーロードとはフットボールフロンティアより替わった新しい中学生サッカーの全国大会である。
「ああ……雷門は去年準優勝したけれど、あそこがフィフスの拠点っていう噂も出ている。だけどな、いつまでもフィフスに操られるつもりはない。俺たちは反撃の隙を狙っている」
「反撃?制裁が来るぞ、どうする?」
円堂が拳を風丸の胸の中央へ向け、告げた。
「勝つ!先輩たちの仇を討つ!たとえサッカーに管理が必要でも、フィフスは間違っている。制裁を受けた学校はさらにサッカー至上主義に凝り固まって、先輩たちは辞めさせらるし風丸たちの部もなくなった」
「討つにしても相手は主力選手を圧倒したんだろう?俺も観ていたぞ、あんな奴らに勝てるのか?」
「勝つ為に特訓してる!」
――あっ。
風丸はハッとして微かな音を零した。
失意の風丸が鉄塔広場で目撃したサッカー部の特訓。彼らに感じた執念の意味がわかった。
「ただの特訓だけで、勝利なんて掴めるのか」
「爺ちゃんのノートがある。あの中には俺の信じる本当のサッカーがあるんだ。絶対、きっと、勝ち取れるって信じているんだ」
「………………………………」
風丸が腰に手をあて、薄く微笑む。円堂は腕を下ろし、彼の言葉を待った。
「……あのなあ、円堂。お前の目指す勝利も理想も、難儀だぜ。茨道って奴だ。遠くて険しい道……なかなか根気がいるぞ。それでもフィフスと戦うのか」
「戦う!」
「そっか……。ああ、そうだなぁ。円堂はそういう男だった」
風丸が円堂へ手を差し出す。
「もう競技は陸上じゃない。新しいゴール、とてつもない長距離走、円堂たちとだったら俺もやってみようって思える。共に戦わせて欲しい」
「かぜ、……まる。ほ、本当か!」
「もちろんだ。俺の気を変わらせるなよ?」
円堂が勢いよく風丸の手を握りしめる。パン、と手の平同士があたり、握れば染みて、じんわりと人の熱を感じる。二人が笑顔を交差させれば、遠くから聞き慣れた声が聞こえてきた。
「えんどー」
「円堂くーん」
「風丸いたかって……いた!」
半田、木野、染岡が駆けつけ、遅れて影野、松野、目金がやって来る。
「皆……。今、風丸に本当の事を話して、一緒に戦ってもらえるようになった」
「そうか。俺たちも、こいつらに本当の事を話したんだ。まったく、しつこくってな」
影野、松野、目金を見やる染岡。
「あの試合はおかしいって思ったけど、まず理由が知りたくて」
「そ、同意!かなりショックだけど、フィフスにも腹立ったからチャラだね、うん」
「染岡くんたちが話すのを躊躇うのはわかりました。皆が皆、僕のように冷静で理性的な人間ばかりではありませんしね。他の部員の方にはゆっくり明かしていくのが得策だと、僕は提案します」
己の考えを述べる三人。打倒フィフスに立ち上がる仲間が、風丸も含めて四人増えた。
離れてしまった仲間もいるが、新たに加わる仲間もいた。円堂と仲間たちは己の胸の内にある勝利のビジョンが濃くなっていくのを感じている。
「皆!フィフスに勝って、思いっきりサッカーやろうぜ!」
円堂の掛け声に、仲間たちは胸の前で拳を握って合図をしてみせた。
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