「待たせたな。こっちだ」
「はい」
響木の後をついて、立ち止まればそこはグラウンドだった。
「風丸、これを」
ゴール近くに転がっていたボールを風丸に手渡す。
「よく戻って来たな、風丸」
「はい」
響木の言葉に、自然と風丸の背筋がぴんと伸びた。
「円堂から聞いた。お前はサッカー部に入る前、陸上部員だったそうじゃないか」
「はい。陸上部の頃から、円堂の練習には付き合っていて……まさかこうなるなんて夢にも思いませんでした」
「夢にも、か。ここで、雷門と対峙した時もそうだったろう。手術も、十時間もかかったそうじゃないか」
「はい」
「……戻ってきて、良かったのか」
しん、と空気が静まり返る。笑うような風丸の呼吸が、沈黙を破った。
「円堂に、似たような事を言われました。俺は自分の選択を自分が認めてやりたいから、ここに戻って来ました」
「戻って来て、どうだった」
「俺には仲間がいて、ライバルがいる。足が、疼くんですよ。走りたい、勝負したいって」
片足を上げ、土を踏む。
「俺は……サッカーが好きなんだと思います。辛い事やどうにもならない事、痛い目にもたくさん遭った。きっかけは円堂だったのに、俺はそれでもサッカーが忘れられなかった。この気持ちは、好きだけに収まらない……けれども、結局は好きという気持ちに戻って来るんです」
「サッカーが、好きか」
「はい」
「好きか」
「はい!」
風丸の返事がグラウンドに響いた。
響木はゴール前に立ち、両手を前に出す。
「撃ってこい、風丸。本気でな」
「わかりました。行きます」
風丸はボールを置き、響木めがけて思い切り蹴り込んだ。
ドン!張り詰める空気が、シュートと共にはじけた。ボールは綺麗に響木の両手の中へ納まる。
「……風丸。俺はGKだ。お前の声を聞いて、お前の球を受ければわかる。真っ直ぐな、いいシュートだった……」
響木は歩み寄り、風丸の肩に手を置く。
「お前は立派な雷門の選手だ。これからも頼むぞ」
はじかれたように顔を上げる風丸。ぱくぱくと口を開閉させるものの、声が出ない。
響木は薄く微笑み、去っていく。彼の背中に、風丸は深く頭を下げた。
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