「お前の言い分など、どうでも良いのさ」
 息がかかりそうな近距離で、再び視線が交差する。逸らす事は許されない気がして、ダウドの瞳は不安げに揺れた。顎を捉えられた手が、触れられたままゆっくりと後ろへ回っていく。また首を掴まれる。神経がダークの手に集中されるのを感じた。手は顎の線と首の後ろを何度か撫でた後、首をやんわりと捉える。触れられているだけなのに、絞められるような息苦しさが襲う。
 ごくりとダウドが息を呑むのを、ダークは手で感じた。
「そう、怖がらなくて良いのに」
 自ら恐怖を与えているのに、何を言うのだろう。けれども指摘は出来ずに目元が痙攣した。
「ダウド」
 目を細めるダーク。その瞳は――
 ダウドは何かを思い出しそうになった。こんな時に何を考えているのだろうと我に返ろうとするが、不意に視界が変わる。岩の天井が映り、ダークが上から覗き込むのが見えた。後頭部、背中の後ろへ通じる硬い感触。地へ倒されたのだと知った。首は捉えられたままで、押し付けられているようであった。それだけなのに、身体が動かない。ときどきひくりと、震えるだけだ。
 ダークへの恐怖心だけで身体が固められていた。死の先の見えぬ虚無を映されたような。ただ震えるしか出来ないのだ。彼は一体、なんなのだろう。それを想像すると、未だ知らない闇に入り込み引き摺られてしまいそうで、考えてはならない気がした。
 助けて。心の内は助けを求めている。助けて、ジャミル。自分を探しているであろう相棒を求めていた。そうして、結局は彼頼りな自分に嫌気が差す。前にダークに言われた言葉の通りであった。





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